テキスト

最判平11.7.19:タクシー運賃変更の認可申請却下と裁量権

論点

  1. 道路運輸法が定める適正原価適正利潤条項の適合性判断について、運輸局長に裁量が認められるか?
  2. タクシー事業者の運賃変更の認可申請に対する運輸局長の却下の判断にその裁量権の逸脱・濫用はあるか?

事案

Xらは、大阪市およびその周辺地域おいてタクシー事業を営んでいた。Xらは、平成元年の消費税の施行の際に、消費税を転嫁するための運賃変更の認可申請をせず、また、平成3年3月に同業他社が運賃変更の認可申請をして、認可されていたにも関わらず、Xらは認可申請をしなかった。

その直後の3月29日に、Xらは、消費税転嫁のため3%の値上げを内容とする運賃変更の認可申請を近畿運輸局長に対して行った。

近畿運輸局長は、申請をただちに受理せず、約1か月行政指導を行った後、4月30日に申請を受理した。

そして、9月12日、Xらの申請には、道路運輸法9条の3第2項1号に定める基準に適合しているか否かを判断するための資料がないことを理由に(運賃変更の理由は消費税分と言うだけで、計算の根拠を明らかにしなかったので)、申請を却下の決定をした。

そこで、Xらは、申請をただちに受理し認可すべきであったにも関わらず、受理せず、4か月以上も決定を行わず、違法に却下したとして、国Yに対し、同年6月から8月までの3か月分の運賃の3%に相当する額の損害賠償を求めて、国家賠償請求訴訟を提起した。

道路運輸法第9条の3
一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者は、旅客の運賃及び料金を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様とする。
2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、次の基準によって、これをしなければならない。
一 能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること。

判決

道路運輸法が定める適正原価適正利潤条項の適合性判断について、運輸局長に裁量が認められるか?

→認められる

道路運輸法9条の3第2項1号の趣旨は、一般旅客自動車運送事業の有する公共性ないし公益性にかんがみ、安定した事業経営の確立を図るとともに、利用者に対するサービスの低下を防止することを目的としたものと解するのが相当である。

この趣旨からすると、運賃の値上げを内容とする運賃変更の認可申請がされた場合において、変更に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないときは、たとい右値上げにより一定の利潤を得ることができるとしても、同号の基準に適合しないものと解すべきである。

そして、道路運輸法9条の3第2項1号の基準は抽象的、概括的なものであり、右基準に適合するか否かは、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることを否定することはできない
(運輸局長に裁量が認められる)

タクシー事業者の運賃変更の認可申請に対する運輸局長の却下の判断にその裁量権の逸脱・濫用はあるか?

→ない

運輸局長は、本件申請に対する許否の判断に当たり、Xらの提出する原価計算書その他の書類に基づき、本件申請に係る運賃の変更が法9条の3第2項1号の基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に個別に審査しようとした。

そして、運賃原価算定基準に示された原価計算の方法は、同号の基準に適合するか否かの具体的判断基準として、合理性を有するものである、

したがって、同局長において本件申請に係る運賃の変更が同号の基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に準拠して個別に審査しようとしたことは、相当な措置であったというべきである。

そして、Xらは、運賃変更の理由は消費税の転嫁である旨の陳述をしたのみで、右原価計算の算定根拠等を明らかにしなかった。

そのため、同局長においてXらの提出した書類によっては被上告人らの採用した原価計算の合理性について審査判断することができなかった。

そうであるとすれば、本件申請について、同号の基準に適合するか否かを判断するに足りるだけの資料の提出がないとして、本件却下決定をした同局長の判断に、その裁量権を逸脱し、又はこれを濫用した違法はないというべきである。

最判平18.11.2:都市計画の決定における行政庁の裁量

論点

  1. 都市計画の決定における行政庁の裁量の範囲は?
  2. 行政庁の判断は、どのような場合に、裁量権の逸脱・濫用として無効となるか?

事案

建設大臣(現、国土交通大臣)は、平成6年、東京都に対して、「小田急小田原線のある区間を高架式により連続立体交差化する内容の都市計画事業の認可」と、「同区間に沿って付属街路を設置することを内容の都市計画事業の認可」をした。

同区間の沿線住民Xらは、事業の方式につき優れた代替案である地下式を理由もなく不採用とし、その結果、Xらに甚大な被害を与える高架式で同事業を実施しようとする点で、事業の前提となる都市計画決定の事業方式の選定には違法があるなどを主張して、建設大臣の事業承継者である関東地方整備局長Yに対し、上記2つの認可の取消しを求めた。

判決

都市計画の決定における行政庁の裁量の範囲は?

→広範な裁量が認められる

都市計画法では、都市施設について、土地利用、交通等の現状及び将来の見通しを勘案して、適切な規模で必要な位置に配置することにより、円滑な都市活動を確保し、良好な都市環境を保持するように定めることとしている。

このような基準に従って都市施設の規模、配置等に関する事項を定めるに当たっては、当該都市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であるといわざるを得ない。

そうすると、このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきである。

行政庁の判断は、どのような場合に、裁量権の逸脱・濫用として無効となるか?

重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、または、社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となる

上記の通り、都市施設の設置に関する決定については、決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられており、

裁判所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たっては、当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として、

その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により①重要な事実の基礎を欠くこととなる場合、

又は、事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等により②その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、

裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。

最判平21.12.17:建築確認の取消訴訟における安全認定の違法主張

論点

  1. 建築確認の取消訴訟において、安全認定の違法を主張できるか?

事案

株式会社Aは、自ら建築主とする建築物の建築を計画した。

東京都の安全条例4条1項によると、「敷地面積が約2800㎡の敷地は、前面道路に8m以上設置していなければならない」という接道要件があった。

また、同条例4条3項では「安全認定を受ければ、この接道要件の規定は適用されない」こととなっていた(1項の例外)。

そして、Aは、上記3項の安全認定の申請を行い、新宿区長は、安全認定をした。

その後、Aは建築基準法に基づく建築確認申請を行い、新宿区Yは建築確認をした。

本件建築物の周辺住民Xらは、安全認定、建築確認を不服として建築審査会に対し審査請求をしたが、却下または棄却の裁決を受けた。

そこで、Xらは、新宿区Yを被告として、本件安全認定の取消しおよび本件建築確認の取消しを求めて訴えを提起した。

判決

建築確認の取消訴訟において、安全認定の違法を主張できるか?

→できる

安全条例4条3項に基づく安全認定は、同条1項所定の接道要件を満たしていない建築物の計画について、同項を適用しないこととし、建築主に対し、建築確認申請手続において同項所定の接道義務の違反がないものとして扱われるという地位を与えるものである。

また、「①建築確認における接道要件充足の有無の判断」と、「②安全認定における安全上の支障の有無の判断」は、異なる機関がそれぞれの権限に基づき行うこととされているが、もともとは一体的に行われていたものであり、避難又は通行の安全の確保という同一の目的を達成するために行われるものである。

そして、前記のとおり、安全認定は、建築主に対し建築確認申請手続における一定の地位を与えるものであり、建築確認と結合して初めてその効果を発揮するのである。

手続き上の観点からすると、安全認定があっても、これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず、建築確認があるまでは工事が行われることもないから、周辺住民等これを争おうとする者がその存在(安全認定の存在)を速やかに知ることができるとは限らない

そうすると、安全認定について、その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。

したがって、安全認定が行われた上で建築確認がされている場合、安全認定が取り消されていなくても、建築確認の取消訴訟において、安全認定に違反があると主張することは許される

最判平22.6.3:国家賠償請求訴訟と取消訴訟

論点

  1. 国家賠償請求訴訟は、取消訴訟の手続きを経ていなくても提起できるか?

事案

倉庫業等を営む法人Xは、倉庫を昭和54年に建築し、現在も所有している。

Y市長は、昭和55年度以降、本件倉庫を「一般用の倉庫」に該当するものと評価してその価格(登録価格、評価額)を決定し、

Y市長の権限の委任を受けていたY市のA区長は、昭和62年~平成13年まで、上記価格に基づいて、固定資産税等の賦課決定を行っていた。

また、Xは、その評価額をもとに、固定資産税を納付していた。

しかし、A区長は、平成18年にXに対し、本件倉庫は「冷凍倉庫等」に該当するとした上、平成14年~18年までの登録価格を修正した旨の通知をし、固定資産税等の減額更正をした。

Xは、平成19年に国家賠償法1条1項に基づき、未還付となっていた、昭和62年~平成13年分までの固定資産税等の過納金相当額の支払を求めて提訴した。

なお、Xは、本件倉庫の登録価格について、地方税法432条1項に基づく固定資産評価委員会に対する審査の申出を行ったことはない。

地方税法432条1項
固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格について不服がある場合においては、文書をもって、固定資産評価審査委員会に審査の申出をすることができる。

判決

国家賠償請求訴訟は、取消訴訟の手続きを経ていなくても提起できるか?

→できる

地方税法では、「固定資産評価審査委員会に審査を申し出ることができる事項について、不服がある納税者は、同委員会に対する審査の申出およびその決定に対する取消しの訴えによってのい争うことができる」と規定している。

しかし、同規定は、固定資産課税台帳に登録された価格自体の修正を求める手続きに関するものであって、当該価格の決定が公務員の職務上の法的義務に違背してなされた場合における国家賠償責任を否定するものではない。

また、行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについて、あらかじめ当該行政処分について取消しまたは無効確認の判決を得る必要はない

したがって、地方税法上の手続き(審査の申出)を経なくとも、国家賠償請求訴訟を提起することはできる。

最判昭53.6.16:余目町個室付浴場事件

論点

  1. 行政権の濫用に相当する違法な行政処分に公定力があるか?

事案

有限会社Xは、個室付浴場業(ソープランドや風俗店)を営むために、山形県余目町(あまるめまち)に土地を購入し、個室付浴場業用の建物の建築確認の申請をし、建築確認を得た上で、建物の建築を完成させた。

また、個室付浴場業の営業許可についても、Xは受けていた。

ところが、当該個室付浴場業の建築に反対した地元住民から反対運動が起こったため、余目町と山形県Yは、個室付浴場業の開業を阻止するための方策を考えた。

その方策は、風俗営業等取締法(風営法)に「児童福祉施設から200m以内では、個室付浴場業の営業を禁止する」といる法律を利用することであった。

当該個室付浴場から200m以内にある無認可の児童遊園があり、この児童遊園について、認可を与えた。

これにより、上記風営法により、Xは、当該個室付浴場業を開業できなくなった。

それにも関わらず、Xは個室付浴場業の営業を開始した。

そのため、Xは風営法違反で起訴された。

判決

行政権の濫用に相当する違法な行政処分に公定力があるか?

→ない(公定力はない

まず、本件児童遊園設置の認可処分は、行政権の著しい濫用によるものとして違法である。

(この点は「最判昭53.5.26:余目町個室付浴場事件」参照)

Xの個室付浴場業の営業に先立つ児童遊園設置の認可処分が行政権の濫用に相当する違法性を帯びているときには、児童遊園の存在を理由に、Xの個室付浴場業の営業を規制する根拠にすることは許されない。

そして、本件当時余目町において、Xの個室付浴場業の営業の規制以外に、「児童遊園を無認可施設から認可施設に整備する必要性、緊急性があったこと」をうかがわせる事情は認められない。

したがって、「Xの個室付浴場業の営業の規制」を主たる動機、目的とする余目町の「児童遊園設置の認可処分」は、行政権の濫用に相当する違法性があり、Xの個室付浴場業の営業に対しこれを規制しうる効力を有しない
(Xのソープランド営業を規制する効力はない)

最判昭30.12.26:裁決庁が自らした裁決を取消した場合の取消処分の効力

論点

  1. 裁決庁がした裁決を自ら取り消す裁決をすることが違法な場合、取消裁決の効力は有効か、無効か?

事案

XとYとの間で農地の賃借権につき争いがあった。

Xの申請を受けた村農地委員会は農地調整法によりXの賃借権設定の裁決を言い渡した。

これを不満としてYが、村農地委員会の上級機関である県農地委員会に訴願(願い出ること)を提起したところ、県農地委員会は、一度、棄却した(①棄却裁決)。

ところが、Yの申出によって県農地委員会が裁決について再議し、今度はYの主張を認めて(②認容裁決)、村農地委員会の賃借権設定の処分を取り消した。

そこでXは、Yを被告として、本件農地の耕作権の確認および耕地の引渡を求めて出訴した。

判決

裁決庁がした裁決を自ら取り消す裁決をすることが違法な場合、取消裁決の効力は有効か、無効か?

裁決が違法であっても、その違法が重大かつ明白な瑕疵がなければ、取消裁決の効力は有効

訴願裁決庁が一旦なした訴願裁決を自ら取り消すことは、原則として許されない不可変更力という)。

したがって、先になした裁決(①棄却裁決)を取り消して、さらに訴額の趣旨を容認する裁決(②認容裁決)をしたことは違法である。

しかし、行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白な瑕疵があり、処分が当然無効であると認める場合を除いては、適法に取り消されない限り、(②の認容裁決は)完全にその効力を有する。

(不可変更力に違反した「違法な認容裁決」も、行政行為として「公定力」があるので有効である)

最判昭和47.5.19:公衆浴場営業許可申請と先願主義

論点

  1. 公衆浴場の営業許可の申請が重複し、距離制限規定との関係で、競願関係が生じた場合、先願主義が妥当か?

※競願関係とは、ある事柄の許可をめぐり、複数の者が官公署などに願い出ること

※距離制限規定とは、公衆浴場を設置する場合、既存の公衆浴場と一定距離を離して設置しなければならないという規定。

事案

Xは昭和34年6月8日、広島県知事Yに対し、尾道市内のa地を浴場の設置場所とする公衆浴場営業の許可申請書を尾道保健所に提出した。

A漁業協同組合は、Xの申請より2日前の6月6日に、a地から10以内の距離にあるb地を浴場の設置場所とする公衆浴場営業の許可申請書を提出していたが、添付書類に不備があり、補正を求められていた。しかし、結局補正は不要であることが判明したことから、6月11日にAの申請は先に提出していた書類のままで受理された。

申請の日にちが近く、AとXのいずれに対しても許可処分を下す前とのことから、AとXは競願関係となった。

これに対して、Yは、先に申請をしていたAに対して許可処分をすることとし、Xに対して不許可処分がなされた。

そこでXは、Aに対する許可処分はXの先願権を無視したものであると主張して、Aに対する許可処分の無効確認および事故に対する不許可処分の取消しを求めて出訴した。

※先願権とは、先に申請をした人が、その後に申請した人を排除する権利。

判決

公衆浴場の営業許可の申請が重複し、距離制限規定との関係で、競願関係が生じた場合、先願主義が妥当か?

先願者の申請が許可の要件を満たすものである限り、先願主義が妥当

公衆浴場法2条2項において「都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、営業許可を与えないことができる。」と規定している。

上記規定の趣旨およびその文言からすれば、許可の申請が所定の許可基準に適合するかぎり、行政庁は、これに対して許可を与えなければならないものと解される。

本件のように、営業許可をめぐって競願関係が生じた場合に、各競願者の申請が、いずれも許可基準をみたすものであって、そのかぎりでは条件が同一であるときは、行政庁は、その申請の前後により、先願者に許可を与えなければならないものと解するのが相当である。

なぜなら、許可の要件を備えた許可申請が適法になされたときは、その時点において、申請者と行政庁との間に許可をなすべき法律関係が成立したと考えることができるか。

(つまり、本件事案では、後で申請を出したXは負け=棄却)

 

 

 

最判昭43.12.24:墓地・埋葬等に関する通達の処分性

論点

  1. 通達に処分性はあるか?
  2. 通達の取消しを求める訴訟を提起できるか?

事案

厚生省(現厚生労働省)の公衆衛生局・環境衛生部長Aは、各都道府県の衛生主管部局長あてに「墓地、埋葬等に関する法律第13条の解釈について」と題する通達を発した。

墓地埋葬法第13条
墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは『正当の理由』がなければこれを拒んではならない。

通達の趣旨は以下の通り

「宗教団体の経営する墓地の管理者は、埋葬等の請求する者が他の宗教団体の信者であることをのみを理由として、その請求を拒むことは、同条にいう『正当の理由』とは認められない」という趣旨であった。

Xは、390年間、Xの宗教の信徒のみを埋葬してきた。

そのため、Xは本件通達により、異教徒の埋葬の受忍が罰則をもって強化され、本件通達後すでに無承諾のまま埋葬を強要されたと主張し、厚生大臣Yを被告として、本件通達中の取消訴訟を提起した。

判決

通達に処分性はあるか?

通達に処分性はない

通達は、機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎない

したがって、一般の国民は、直接これに拘束されるものではない。

よって、通達に処分性はないといえる。

通達の取消しを求める訴訟を提起できるか?

→訴訟提起できない

通達の内容が、法令の解釈や取り扱いに関するもので、国民の権利義務に重大な関わりを持つようなものである場合においても、処分性はない。

また、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。

また、裁判所が通達に拘束されることはなく、裁判所は、法令の解釈適用にあたっては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取り扱いが法の趣旨に反するときには独自にその違法を判定することもできる。

裁判所は「同法13条のいわゆる正当の理由の判断にあたっては、本件通達に示されている事情以外の事情をも考慮するべきものと解せられるから、本件通達が発せられたからといって直ちにXにおいて刑罰を科せられるおそれがあるともいえない。

現行法上行政訴訟において取消の訴えの対象となりうるものは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でなければならないから、

本件通達の取り消しを求める本件訴えは許されないものとして却下される。
通達の取消しを求める訴訟を提起できない

最判平3.7.9:監獄法事件

論点

  1. 被勾留者と幼年者との接見を原則禁止するとした旧監獄法施行規則は、旧監獄法の委任の範囲を超え、無効となるか?

事案

Xは、ある罪により東京拘置所に勾留されていたが、第一審・第二審において死刑判決を受け、最高裁に上告をしていた。

Xはその間に、死刑廃止運動に関係するAから裁判を通じて援助を受け、「Aの母親B」と養子縁組を結んだ。

そして、Xは「Aの娘C(10歳)」と文通をしており、XはCとの面会を求めたところ、東京拘置所長Y1は旧監獄法施行規則に基づき不許可処分とした。

旧監獄法50条には「接見の立ち合い、信書の検閲その他接見及び信書に関する制限は法務省令をもって定める」と規定し、それを受けて、旧監獄法施行規則120条で「14歳末満の者には在監者と接見することを許さない」と規定し、旧監獄法施行規則124条は「所長において処遇上その他必要があると認めるときは旧監獄法施行規則120条の制限を免除できる」と規定していた。

Xは、旧監獄法施行規則120条が、憲法31条(適正手続の保障)、13条(人権保障)、14条(法の下の平等)の保障する幼年者との面接権を侵害する違憲な規定であり、仮に違憲でないとしても面接不許可処分は裁量権を濫用したものであるとして、国Y2に対して国家賠償法1条1項に基づく損害賠償訴訟を提起した。

判決

被勾留者と幼年者との接見を原則禁止するとした旧監獄法施行規則は、旧監獄法の委任の範囲を超え、無効となるか?

委任の範囲を超え、無効である

旧監獄法50条は、「接見の立ち合い、信書の検閲その他接見及び信書に関する制限は法務省令をもって定める」と規定し、命令(法務省令)をもって、面会の立会、場所、時間、回数等、面会の態様についてのみ必要な制限をすることができる旨を定めている。

そして、命令によって接見許可の基準そのものを変更することは許されない。

ところが、規則120条は、「14歳末満の者には在監者と接見することを許さない」と規定し、旧監獄法施行規則124条は「所長において処遇上その他必要があると認めるときは旧監獄法施行規則120条の制限を免除できる」と規定している。

これによれば、規則120条が原則として被勾留者と幼年者との接見を許さないこととする一方で、規則124条がその例外として限られた場合に監獄の長の裁量によりこれを許すこととしていることが明らかである。

しかし、これらの規定は、たとえ事物を弁別する能力の未発達な幼年者の心情を害することがないようにという配慮の下に設けられたものであるとしても、それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法50条の委任の範囲を超えるものといわなければならない

最判昭51.12.24:公共用財産と取得時効

論点

  1. 公共用財産について取得時効は成立するか?

事案

公図上で水路とされている国有地(係争地)があった。この係争地は、古くから水田等に作り変えており、水路としての外観を全く失っていた。

そして、「Xの祖父」は、「①係争地(元水路の国有地)」および「②その他の水田」を、Aから借り受けて、小作していた(農業をしていた)。

Xは昭和22年に、係争地を含む水田について、自作農創設特別措置法により、国Yは、Aから②を買い取り、Xに売り渡した。

Xは、「①係争地」と「②その他の水田」いずれも売り渡されたものと信じて、平穏かつ公然と占有してきた。

このような事実関係のもと、売渡日から10年以上経過したため、Xは係争地の所有権の時効取得を主張し、所有権確認の訴えを提起した。

判例

公共用財産について取得時効は成立するか?

→成立する場合はある

公共用財産が、長年の間、事実上、公の目的に供用されることなく放置され、

公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、

その物の上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されることもなく、

もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合には、

上記公共用財産について、黙示的に公用が廃止されたもの(公用廃止の意思を示さななくても、公用が廃止された)として、取得時効の成立を妨げない(取得時効が成立する可能性はある)。

黙示的とは、暗黙のうちに意思や考えを示すこと。