テキスト

最判昭53.5.26:余目町個室付浴場事件

論点

  1. 個室付き浴場の開業阻止のために、知事が行った児童園設置認可処分は国家賠償法上の違法となるか?

事案

有限会社Xは、個室付浴場業(ソープランドや風俗店)を営むために、山形県余目町(あまるめまち)に土地を購入し、個室付浴場業用の建物の建築確認の申請をし、建築確認を得た上で、建物の建築を完成させた。

また、個室付浴場業の営業許可についても、Xは受けていた。

ところが、当該個室付浴場業の建築に反対した地元住民から反対運動が起こったため、余目町と山形県Yは、個室付浴場業の開業を阻止するための方策を考えた。

その方策は、風俗営業等取締法(風営法)に「児童福祉施設から200m以内では、個室付浴場業の営業を禁止する」という法律を利用することであった。

当該個室付浴場から200m以内にある無認可の児童遊園があり、この児童遊園について、認可を与えた。

これにより、上記風営法により、Xは、当該個室付浴場業を開業できなくなった。

それにも関わらず、Xは個室付浴場業の営業を開始したため、Xは業務停止処分を受けた。

そこで、Xは、処分の取消訴訟を提起したが、訴訟係属中に、営業停止処分期間が経過したため、Yを被告として、国家賠償請求の訴えに変更した。

判決

個室付き浴場の開業阻止のために、知事が行った児童園設置認可処分は国家賠償法上の違法となるか?

→違法

本件児童遊園設置の認可処分は、行政権の著しい濫用によるものとして違法である。

関連する判例

最判昭53.6.16:余目町個室付浴場事件(行政権の濫用に相当する違法な行政処分に公定力はない)

最判平8.7.2:在留資格変更後の更新不許可処分

論点

  1. 本人の意思に反して在留資格が変更された場合、その後の更新の際に、その経緯を考慮することなく、現在の許可基準に基づいて更新不許可とすることは適法か?

事案

Xは中国籍の男性である。

日本国籍の女性Aと婚姻し、「日本人の配偶者又は子」という在留資格(在留期間1年)を取得して、入国を許可された。

しかし、入国後、XはAと不仲になりA方を出て別居するようになった。

XはAと別居後も「日本人の配偶者又は子」の在留資格によって数回更新許可を受けて滞在していた。

しかし、法務大臣Yは、長期の別居により婚姻の実体が失われたとして、Xの意に反してXの更新申請を「短期滞在の在留資格」として取り扱い、「短期滞在(在留期間90日)」への在留資格の変更許可を行った。

一方、Aは、在留資格変更許可処分後に、Xとの間の婚姻関係が有効であることが判決によって確定した。

その後、Xは更新申請したが、「短期滞在」目的は終了したとして、不許可処分を行った。

これに対して、Xは当該不許可処分の取消しを求めて提訴した。

判決

本人の意思に反して在留資格が変更された場合、その後の更新の際に、その経緯を考慮することなく、現在の許可基準に基づいて更新不許可とすることは適法か?

→違法

上告人は、通常であれば、当該外国人につき、「短期滞在」の申請に対しては、「短期滞在の」の在留資格に対応する基準で判断すれば足り、他の在留資格に対応する基準について考慮する必要のない。

しかし、Yは、Xの意に反して在留資格を「短期滞在」に変更する旨があったものと取り扱って、これを許可することで、Xが「日本人の配偶者等」の在留資格による在留期間の更新を申請する機会を失わせたものと判断できる。

しかも、当該不許可処分をしたときには、すでに、XとAとの婚姻関係が有効である旨の判決が確定していた。

少なくとも、被上告人の在留資格が「短期滞在」に変更されるに至った経緯を考えると、Yは、信義則上、「短期滞在」の在留資格による在留期間の更新を許可した上で、Xに対し、「日本人の配偶者等」への在留資格の変更申請をしてXが「日本人の配偶者等」の在留資格に属する基準によって、公権的判断を受ける機会を与えることを要したものというべきである。
(法務大臣Yは上記のように、Xに対して、「日本人の配偶者等」の在留資格に属する基準によって、公権的判断を受ける機会を与えるべきであった)

以上のことから、Yの不許可処分は、上記のような経緯を考慮していない点において、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと評価され、違法である。

最判昭62.10.30:青色申告課税処分事件

論点

  1. 租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用による違法を考えることができるのはどのような場合か?

事案

酒類販売業を営むAがいた。Aの養子であるXがいた。

Xは、昭和25年からAの営業するB商店の営業に従事し、昭和29年ころからは、Xが事実上中心となってB商店の業務を運営した。

昭和47年、Aの死亡に伴い、XがAを相続した。(A:被相続人、X相続人)

Aはもともと青色申告を受けており、B商店の営業により事業所得については、昭和29年から昭和45年分までA名義により青色申告がされていた。
(青色申告は、通常の申告:白色申告よりも税金が安くなる制度。ただし、その分、一定の帳簿書類を備えることが承認要件となる)

しかし、昭和46年からXが青色申告の承認を受けることなく、自己名義で青色申告書による確定申告をしたところ、税務署長Yは、Xについて青色申告の承認があるかどうかの確認を怠って申告書を受理した。

これが、昭和46年から50年まで続き、その間、Xは青色申告にかかる所得税額を納税していた。また、この間、B商店の帳簿書類の整備などは変化はなく、きちんとそろっていた。

そして、昭和51年、税務署長Yから、青色申告の承認申請がなかったことを指摘されたので、直ちに、申請をし、同年分以降についてその承認を受けた。

しかし、Yは、昭和48年と49年分は、白色申告とみなして、更正処分を行った。

そこで、Xはこの処分は、信義則に反して違法だとして、取消訴訟を提起した。

判決

租税法規に適合する課税処分について信義則の法理の適用を考えることができるのはどのような場合か?

納税者間の平等公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免除して納税者の信頼を保護しなければ、正義に反するといえるような特別の事情がある場合、信義則の適用を考える

租税法規に適合する課税処分について、信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合はある。

そうだとしても、法律による行政の原理、特に租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならない

そのため、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて(免除して)納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきである。

そして、「特別の事情が存するかどうか」の判断に当たっては、

少なくとも、①税務官庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、

②納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、

③のちに右表示に反する課税処分が行われ、

④そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、

また、⑤納税者が税務官庁の右表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて

納税者の責めに帰すべき事由がないかどうか

という点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない。

(特別な事情があるかどうかについては、上記①~⑤を考慮しなければならない)

 

最判昭56.1.27:宜野座工場誘致事件

論点

  1. 地方公共団体の行政計画について、施行に着手した後、当該計画を変更することは許されるか?
  2. 行政計画の変更により、地方公共団体は、変更により損害を受けた者に対し、不法行為責任を負うか?

事案

沖縄県の宜野座(ぎのざ)村Yに工場建設を計画し、村長Aに対して、工場の誘致などを陳情していた株式会社Xに対して、Aは村有地の一部をXに譲渡するとの議会の議決を得た上で、誘致に全面的に協力することを断言した。

これを受けて、X社は、工場予定である村有地の耕作者らに土地明け渡しのための補償料を支払い、工場の機械設備の発注、工場の敷地内の整備工事を完了させた。

ところが、工場誘致の賛否を争点とする村長選挙があり、誘致反対派のBが村長に選出された結果、Bは、工場の建築確認申請を不同意とした。

これにより、Xは、工場誘致を断念することとなったため、当該Yの行いは、Xとの間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、損害賠償請求をした。

判決

地方公共団体の行政計画について、施行に着手した後、当該計画を変更することは許されるか?

→許される

「地方公共団体の施策(行政計画)を住民の意思に基づいて行うべきものとする」いわゆる「住民自治の原則」は、地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則である。

また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴って変更されることがあることは、当然である

したがって、地方公共団体は原則として一度行った決定に拘束されるものではない

(言い換えると、地方公共団体の行政計画も、諸事情に変更することは許される)

行政計画の変更により、地方公共団体は、変更により損害を受けた者に対し、不法行為責任を負うか?

施策が変更されることにより、①社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、②地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることがない場合、原則、不法行為責任を負う。
ただし、それがやむをえない客観的事情によるのであれば、責任を免れる

上記の通り、施策の変更は許されるが、

当初行った決定(旧村長Aのもとで行われたYの決定)が、単に一定内容の継続的な施策を定めるにとどまらず、①特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、②その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合には、

特定の者(X)は、右施策(旧村長AのもとYが決定した施策)が活動の基盤として維持されるものと信頼し、これを前提として活動ないしその準備活動に入るのが通常である。

このような状況のもとでは、たとえ右勧告ないし勧誘に基づいてその者と当該地方公共団体との間に右施策の維持を内容とする契約が締結されたものとは認められない場合であっても、右のように密接な交渉を持つに至った当事者間の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたってはかかる信頼に対して法的保護が与えられなければならない

すなわち、右施策が変更されることにより、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り

当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任が生じる。

最判昭35.3.18:営業許可を受けずにした契約の効力

論点

  1. 食品衛生法上の営業許可を受けずにした精肉の売買契約は、私法上無効か?

事案

有限会社Xは、食品衛生法上の許可を受けて食肉の販売業を営んでいる株式会社Aと精肉の売買取引をしていた(売主X、買主A)。しかし、AがXに対する買掛金債務の弁済を怠っていることから、取引は一時中断していた。Aの代表取締役Yは、自衛隊に精肉を納入うするために取引再開をXに提案したが、Aの支払能力への危惧を理由に拒否された。

そこで、食品衛生法上の許可を受けていないY個人として、精肉を買い受けることを提案した。(つまり、会社Aで購入するのではなく、代表者個人Y名義で購入するということ。)

これに対して、Xは承諾し、売主X・買主Yとして売買契約が成立した。

もっとも、Yが内金を支払ったのみであったため、Xは、Yに対して残金および遅延損害金の支払いを求めて訴えを提起した。

判決

食品衛生法上の営業許可を受けずにした精肉の売買契約は、私法上無効か?

→有効

食品衛生法は単なる取締法規にすぎない。

したがって、Yが食肉販売業の許可を受けていないとしても、食品衛生法により本件取引の効力が否定される理由はない

それ故、食品衛生法上の営業許可の有無は、本件取引の私法上の効力に消長を及ぼさない(影響を及ぼさない)

したがって、当該売買契約は有効である。

※消長を及ぼす・消長を来す→影響を及ぼす
※消長を及ぼさない・消長を来さない→影響を及ぼさない

最判昭31.4.24:租税滞納処分による差押えと民法177条

論点

  1. 国税滞納処分による差押えに民法177条の適用があるか?
  2. 国は登記の欠缺を主張するにつき、正当の利益を有する第三者にあたるか?

事案

Xは株式会社Aから土地を買い受け、代金も支払った。しかし、Aの都合により所有権移転登記手続が未了であった(土地の登記はA名義のまま)。Xは税務署長Y1に対し、本件土地を自己の所有とする財産税の申告をし、納税した。

その後、租税滞納を理由にY1がA所有の工場内の機械器具を差し押さえた際、Aは、本件土地がA名義のままであることを知り、機械器具に代えて、本件土地を差し押さえるよう陳情し、Y1がこれを認めて、Y1は土地の差押をした。

その翌年、公売処分を執行(公売の実施)して、Y2が本件土地を競落し、登記手続きも完了した。

これに対して、Xは、①Y1に対して公売処分の無効確認を、②Y2に対して本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続きを求めて出訴した。

判決

国税滞納処分による差押えに民法177条の適用があるか?

→適用がある

税滞納処分においては、国は、その有する租税債権につき、自ら執行機関として、強制執行の方法により、その満足を得ようとするものであって、滞納者の財産を差し押えた国の地位は、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類する

そして、当該債権(租税債権)がたまたま公法上のものであるからといって国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由はない

それ故、滞納処分による差押の関係においても、民法177条の適用がある

民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

国は登記の欠缺を主張するにつき、正当の利益を有する第三者にあたるか?

原則、正当の利益を有する第三者にあたる

本件不動産の所有権の帰属を判定することは極めて困難な仕事であって、後に訴訟において争われる可能性のあることを思えば、直ちに財産税還付の手続をとることなく滞納処分の続行(公売の実施)を図ったとしても、これをもって背信的態度として非難することもできない。

また、滞納処分が続行され、公売が実施された以上、競落人の立場からいえば、まったく善意無過失であり、競落人の利益こそ、もっとも保護に値する。

そこで、本件において、国が登記の欠缺を主張するにつき「正当の利益を有する第三者」に当らないというためには、Xにおいて「本件土地が所轄税務署長からXの所有として取り扱わるべきことをさらに強く期待するがもっとも」だと思われるような特段の事情がなければならない。

そのような特段の事情がない場合は、国は、正当の利益を有する第三者にあたる

※登記の欠缺(けんけつ)とは、すべき登記がされていないことをいう。登記の欠缺があると、原則として、第三者に対して対抗することできない。

最大判昭37.5.30:大阪市売春取締条例事件

論点

  1. 条例で罰則を設けることもできるか?
  2. 条例で罰則を設ける場合、法律の委任の程度はどれくらい必要か?

事案

女性Xは、大阪市内において、売春目的で通行中の男性を誘ったところ、その行為が大阪市売春取締条例に違反するとして起訴された。

これに対しXは、条例による罰則制定を規定した地方自治法14条3項は、委任の範囲が抽象的であるため、罪刑法定主義を定める憲法31条に違反するので無効であり、この委任により制定された本条例も無効であると主張した。

地方自治法第14条3項
普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。

憲法第31条
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

判決

条例で罰則を設けることもできるか?

条例で罰則を設けることもできる

憲法31条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることもできると解すべき。

このことは憲法73条6号但書(この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。)によっても明らかである。

また、条例は、法律以下の法令といっても、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、むしろ国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものである。

条例で罰則を設ける場合、法律の委任の程度はどれくらい必要か?

法律の授権が相当程度に具体的であり、限定されていれば足りる

法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであってはならないことは、いうまでもない。

しかも、条例は、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、国会の議決を経て制定される法律に類するものである。

そのため、条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されていれば足りると解するのが正当である。

判決文はこちら>>

最判昭60.11.21:在宅投票制度廃止事件

論点

  1. 立法行為の不作為は、違憲審査の対象となるか?
  2. 在宅投票制度を廃止して、その後復活しなかった不作為は、国賠法上違法か?

事案

Xは、屋根の雪下ろし作業中に転落事故を起こし、脊髄を損傷した。そのことが原因で、寝たきり状態になり、昭和28年頃から投票所へ出向くことができなくなった。

ところが、昭和27年の公職選挙法の一部改正により、「投票所に行かずにその現在の場所において投票用紙に投票の記載をして投票することができる制度(在宅投票制度)」が廃止された。廃止された原因は、昭和26年の統一地方選挙により、在宅投票制度が悪用され、多くの選挙違反が続出したからである。そのため、その後も在宅投票制度を設けるための立法を行わなかった。

このため、合計8回の公職選挙の投票をすることができなかったXは、選挙権の行使に身体上の欠陥等の原因で差別を受け、精神的損害を被ったとして、在宅投票制度の復活を採らない国に対し、国家賠償法(国賠法)1条1項に基づく慰謝料80万円の賠償を求めて訴えを提起した。

国家賠償法第1条1項
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

判決

立法行為の不作為は、違憲審査の対象となるか?

→対象となる

立法行為(不作為も含む)の内容にわたるものは、これを議員各自の政治的判断に任せ、その当否は終局的に国民の自由な言論及び選挙による政治的評価にゆだねるのが相当である。

また、憲法51条が、「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない。」と規定し、国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも、国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとどめるという趣旨とである。

よって、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきである。

また、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。

■上記の通り、国会議員の立法行為(不作為も含む)について違法かどうかを審査しているので、立法行為の不作為は、違憲審査の対象といえる。

在宅投票制度を廃止して、その後復活しなかった不作為は、国賠法上違法か?

→違法ではない

憲法には在宅投票制度の設置を積極的に命ずる明文の規定は存在しない。

また、憲法47条は「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定しており、これは、投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を原則として立法府である国会の裁量的権限に任せる趣旨である。

そうすると、在宅投票制度を廃止しその後復活しなかった本件立法不作為は、上記の例外的場合に当たらず、違法ではない

最大判昭35.6.8:苫米地事件

論点

  1. 衆議院解散の効力について、司法審査が及ぶか?

事案

昭和27年、吉田内閣は、憲法7条に基づいて、衆議院の解散を強行した。この解散によって議員の資格を失った苫米地義三氏Xは、当該解散の無効を前提として、国Yを被告として、衆議院議員としての資格確認と任期満了までの歳費請求の訴えを提起した。

憲法第7条(天皇の国事行為)
天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
3号 衆議院を解散すること。

判決

衆議院解散の効力について、司法審査が及ぶか?

及ばない

日本国憲法は、立法、行政、司法の三権分立の制度を確立し、司法権はすべて裁判所の行うところとし(憲法76条1項)、

また裁判所法は、裁判所は一切の法律上の争訟を裁判するものと規定し(裁判所法3条1項)、

これによって、民事、刑事のみならず行政事件についても、事項を限定せず、いわゆる概括的に司法裁判所の管轄に属するものとし、さらに憲法は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを審査決定する権限(違憲審査権)を裁判所に与えた(憲法81条)

結果として、国の立法、行政の行為は、それが法律上の争訟となるかぎり、違憲審査を含めてすべて裁判所の裁判権に服することとなる。

しかし、あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。

国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為は、たとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にある。

そして、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為の判断は、主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられている

ここで、衆議院の解散は、国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為である。

したがって、裁判所の審査権の外にある(裁判所による司法審査は及ばない)。

最大判昭27.10.8:警察予備隊訴訟

論点

  1. 裁判所は、将来的に論争が起こり得る抽象的なことについて、判断する権限を有するか?

事案

昭和25年、自衛隊の前身である警察予備隊が設置された。これに対し、原告X(日本社会党の鈴木茂三郎氏)は、警察予備隊の設置並びに維持に関して国Yがなした一切の行為の無効を求めて、党を代表して、直接、最高裁判所に出訴した。

判決

裁判所は、将来的に論争が起こり得る抽象的なことについて、判断する権限を有するか?

→抽象的な事柄について判断する権限は有さない

裁判所は、司法権を行う権限を有しており、裁判所が司法権を発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする

具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下す権限を行うことはできない。

また、裁判所が、かような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない

上記内容を分かりやすく言うと

裁判所が違憲立法審査権を行使するには、実際に起こった具体的な争訟事件が必要ということです。

言い換えると、わが国は、「付随的違憲審査制」を採用している、と判旨しています。

結局のところ、今回の訴えについては、具体的な争訟に当たらないとして、却下されました。