判例

最判平17.9.14:在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件

論点

  1. 在外日本人が、国政選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは適法か?
  2. 国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用を受けるか?

事案

平成10年の公職選挙法改正前は、「選挙人名簿に登録されていない者」は投票することができない、とされていた。

そして、選挙人名簿への登録は、3か月以上の当該市町村の住民基本台帳に記録されている者について行うとされていたため、在外日本人は選挙人名簿への登録がなされず、国政選挙において、一切投票することができなかった。

その後、平成10年に同法が改正され、在外日本人も在外選挙人名簿に登録されていれば投票が可能となる在外選挙制が創設された。

しかし、対象となる選挙は、当分の間、衆議院・参議院の「比例代表選出議員」の選挙に限られていた。

そこで、平成8年の衆議院議員の総選挙において投票することができなかったXらは、国Yを被告として、選挙権の行使の機会を保障しないことは、憲法14条1項(法の下の平等)に違反すると主張し、改正前の公職選挙法の違法確認を、予備的に、Xらが「衆議院小選挙区選出議員および参議院選挙区選出の選挙」において選挙権を行使する権利を有することとの確認を求めて提訴した。

判決

在外日本人が、国政選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を求める訴えは適法か?

→適法である

本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴えと解することができる。

そして、その内容をみると、公職選挙法の改正がされないと、在外国民であるXらが、今後直近に実施されることになる「衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙」において投票をすることができず、選挙権を行使する権利を侵害されることになるので、

そのような事態になることを防止するために、Xらが、改正前の公職選挙法の規定が違憲無効であるとして、当該各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求める訴えであると解することができる。

選挙権は、これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず、侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものである。

したがって、その権利の重要性にかんがみると、具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては、それが有効適切な手段であると認められる限り、確認の利益を肯定すべきものである。

そして、本件の予備的確認請求に係る訴えは、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、上記の内容に照らし、確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。

なお、この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない(当然である)。

そうすると、本件の予備的確認請求に係る訴えについては、引き続き在外国民であるXらが、次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる

国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用を受けるか?

→適用を受ける

国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。(国家賠償法1条1項の解説はこちら>>

したがって、国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきである。

仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない

しかしながら、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、例外的に、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。

上記内容から、国会議員の立法行為又は立法不作為は、国家賠償法1条1項の適用を受けることが分かる。

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最判平4.9.22:民事差止訴訟と無効確認訴訟(もんじゅ訴訟)

論点

  1. 周辺住民が原子炉設置者に対して、その建設・運転の差止めを求める民事訴訟を併合提起している間に、原子炉の設置許可処分の無効確認訴訟を提起することは適法か?

事案

動力炉・核燃料開発事業団Aは、福井県敦賀市(つるが)に高速増殖炉原子炉「もんじゅ」の建設・運転を計画し、内閣総理大臣Yは、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律(規制法)に基づき原子炉設置許可処分を行った。

このため、付近の住民XらがYを被告として、原子炉設置許可処分に際しての安全審査に重大かつ明白な瑕疵があるとして、原子炉設置許可処分の無効確認の訴えを提起するとともに、Aに対して、原子炉施設の建設・運転の民事差止め訴訟を併合提起した。

判決

周辺住民が原子炉設置者に対して、その建設・運転の差止めを求める民事訴訟を併合提起している間に、原子炉の設置許可処分の無効確認訴訟を提起することは適法か?

適法

行政事件訴訟法36条によれば、処分の無効確認の訴えは、当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができると定められている。

そして、処分の無効確認訴訟を提起し得るための要件の一つである、右の当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができない場合とは、当該処分に基づいて生ずる法律関係に関し、処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟によっては、その処分のため被っている不利益を排除することができない場合はもちろん、当該処分に起因する紛争を解決するための争訟形態として、当該処分の無効を前提とする当事者訴訟又は民事訴訟との比較において、当該処分の無効確認を求める訴えのほうがより直截的で適切な争訟形態であるとみるべき場合をも意味するものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるのに、Xらは本件原子炉施設の設置者である動力炉・核燃料開発事業団Aに対し、人格権等に基づき本件原子炉の建設ないし運転の差止めを求める民事訴訟を提起しているが、右民事訴訟は、行政事件訴訟法36条にいう当該処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えに該当するものとみることはできない

また、右民事訴訟は、本件無効確認訴訟と比較して、本件設置許可処分に起因する本件紛争を解決するための争訟形態としてより直截的で適切なものであるともいえないから、Xらにおいて右民事訴訟の提起が可能であって現にこれを提起していることは、本件無効確認訴訟が同条所定の前記要件を欠くことの根拠とはなり得ない

したがって、原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の提起をすることは適法である。

【要点】

この判例では
処分の無効確認訴訟を提起することが適法であると判断され、
民事訴訟を提起している事実が無効確認訴訟の要件欠如の根拠にはならない
とされたことが要点です。

分かりやすく言えば、
民事訴訟を提起していも、無効確認訴訟を提起することができる
ということです。

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関連する判決

最判平4.9.22:原子炉設置許可処分と原告適格(原告適格を有する)

最判平11.11.19:公文書の非公開決定における理由の差替え

論点

  1. 処分理由の付記が要求されている処分について訴訟で争われた際に、行政庁が当初の処分理由以外の理由を追加して主張できるか?

事案

神奈川県逗子市の住民Xは、逗子市情報公開条例に基づき、逗子市監査委員Yに対して、住民監査請求に関する記録の公開を請求した。

これに対して、Yは、対象文書中に関係人の事情聴取記録に、非公開事由があるという理由を付記して、公開しない旨の決定をした。

そこで、Xは、本件処分の取消訴訟を提起した。

そして、Yは、訴訟の段階で、公開しない旨の理由について、別の理由を追加した。

判決

処分理由の付記が要求されている処分について訴訟で争われた際に、行政庁が当初の処分理由以外の理由を追加して主張できるか?

認められる

本件条例において、実施機関Yが公開請求に係る情報の閲覧、視聴取及びその写しの交付を拒むときは、非公開決定の通知に併せてその理由を通知しなければならないと規定している理由は、非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保してそのし意を抑制するとともに、非公開の理由を公開請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与えることを目的としていると解すべきである。

そして、そのような目的は非公開の理由を具体的に記載して通知させること自体をもってひとまず実現される。

そうだとすれば、本件条例の規定における理由通知の定めが、右の趣旨を超えて、一たび通知書に理由を付記した以上、実施機関Yが「当該理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟において主張することを許さないもの」とする趣旨をも含むと解すべき根拠はないとみるのが相当である。

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最判平4.1.24:「土地改良事業の施行認可処分」と「訴えの利益」

論点

  1. 土地改良事業の工事が完了して、原状回復が不可能となった場合、当該事業の施行認可の取消しを求める訴えの利益は消滅するか?

事案

A町は、町営の土地改良事業を計画し、事業計画を定め、B県知事に対して、本件土地改良事業の施行の認可申請をした。

その後、本件事業地内の土地所有者であるXは、本件認可の取消しを求めて出訴した。

そして、裁判の係属中に本件事業計画にかかる工事はすべて完了した。

判決

土地改良事業の工事が完了して、原状回復が不可能となった場合、当該事業の施行認可の取消しを求める訴えの利益は消滅するか?

訴えの利益は消滅しない

本件認可処分は、本件事業の施行者であるA町に対し、本件事業施行地域内の土地につき土地改良事業を施行することを認可するもの、すなわち、土地改良事業施行権を付与するものである。

そして、本件事業において、本件認可処分後に行われる換地処分等の一連の手続及び処分は、本件認可処分が有効に存在することを前提とするものであるから、本件訴訟において本件認可処分が取り消されるとすれば、これにより右換地処分等の法的効力が影響を受けることは明らかである。

そして、本件訴訟において、本件認可処分が取り消された場合に、本件事業施行地域を本件事業施行以前の原状に回復することが、本件訴訟係属中に本件事業計画に係る工事及び換地処分がすべて完了したため、社会的、経済的損失の観点からみて、社会通念上、不可能であるとしても、右のような事情は、行政事件訴訟法31条事情判決)の適用に関して考慮されるべき事柄であって、本件認可処分の取消しを求めるXの法律上の利益を消滅させるものではないと解するのが相当である。

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最判昭59.10.26:「建築確認」と「訴えの利益」

論点

  1. 建築物の工事が完了した場合であっても、近隣住民は、当該建物にかかる建築確認の取消訴訟の訴えの利益は存続するか?

事案

Aは、宮城県仙台市建築主事Yに対し、建築基準法6条1項に基づく建築確認申請をなし、YはAに対して建築確認処分をした。

これに対し、建物の隣人Xは、本件建築確認は、建築基準法の要件を満たしていないにも関わらず、建築確認がなされたとして、仙台市建築審査会Bに対して、建築確認の審査請求をしたが、Bは、棄却裁決をした。

そこで、Xは、本件建築確認の取消訴訟を提起した。

なお、建築審査会Bが棄却裁決をする前に、当該建築物は完成し、検査済証も交付され、使用されていた。

判決

建築物の工事が完了した場合であっても、近隣住民は、当該建物にかかる建築確認の取消訴訟の訴えの利益は存続するか?

訴えの利益は失われる

築基準法によれば、建築主は、同法6条1項の建築物の建築等の工事をしようとする場合においては、右工事に着手する前に、その計画が建築関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認(建築確認)を受けなければならず、建築確認を受けない右建築物の建築等の工事は、することができないものとされている。

また、建築主は、右工事を完了した場合においては、その旨を建築主事に届け出なければならず(7条1項)、建築主事が右届出を受理した場合においては、建築主事等は、届出に係る建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを検査し(7条2項)、適合していることを認めたときは、建築主に対し検査済証を交付しなければならないものとされている(7条3項)。

これらの一連の規定に照らせば、建築確認は、建築基準法6条1項の建築物の建築等の工事が着手される前に、当該建築物の計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果が付与されており、建築関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目的としたものということができる。

しかしながら、右工事が完了した後における建築主事等の検査は、当該建築物及びその敷地が建築関係規定に適合しているかどうかを基準とし、同じく特定行政庁の違反是正命令は、当該建築物及びその敷地が建築基準法並びにこれに基づく命令及び条例の規定に適合しているかどうかを基準とし、いずれも当該建築物及びその敷地が建築確認に係る計画どおりのものであるかどうかを基準とするものでない。

その上、違反是正命令を発するかどうかは、特定行政庁の裁量にゆだねられている。

そのため、建築確認の存在は、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発する上において法的障害となるものではなく、また、たとえ建築確認が違法であるとして判決で取り消されたとしても、検査済証の交付を拒否し又は違反是正命令を発すべき法的拘束力が生ずるものではない。

したがって、建築確認は、それを受けなければ右工事をすることができないという法的効果を付与されているにすぎないものというべきであるから、当該工事が完了した場合においては、建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われるものといわざるを得ない。

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最判昭57.9.9:「保安林指定の解除処分」と「原告適格・訴えの利益」

論点

  1. 保安林の周辺住民について保安林指定解除処分の取消訴訟の原告適格を有するか?
  2. 保安林指定解除に伴う代替施設の設置によって、洪水、渇水の危険が解消された場合でも訴えの利益を有するか?

事案

農林水産大臣Yは、北海道夕張郡長沼町に所在する「保安林」の一部について、航空自衛隊の施設用地として使用するため、保安林指定の解除をした。

これに対して、基地建設に反対する同町の住民Xらは、森林法26条2項の定める指定解除事由である「公益上の理由」はなく、指定解除は違法として保安林指定解除処分の取消訴訟を提起した。

判決

保安林の周辺住民について保安林指定解除処分の取消訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有する

法律が、「不特定多数の個別的利益」を「専ら一般的公益」の中に吸収解消させるにとどめず、これと並んで、それらの利益の全部又は一部につきそれが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとすることももとより可能である。

特定の法律の規定が上記趣旨を含むものと解されるときは、右法律の規定に違反してされた行政庁の処分に対し、これらの利益を害されたとする個々人においてその処分の取消しを訴求する原告適格を有するものと解することに、なんら妨げはないというべきである。

そして、本件の森林法は、森林の存続によって不特定多数者の受ける生活利益のうち一定範囲のものを公益と並んで保護すべき個人の個別的利益としてとらえ、かかる利益の帰属者に対し保安林の指定につき「直接の利害関係を有する者」としてその利益主張をすることができる地位を法律上付与しているものと解するのが相当である。

そうすると、かかる「直接の利害関係を有する者」は、保安林の指定が違法に解除され、それによって自己の利益を害された場合には、右解除処分に対する取消しの訴えを提起する原告適格を有する者ということができるけれども、その反面、それ以外の者は、たといこれによってなんらかの事実上の利益を害されることがあっても、右のような取消訴訟の原告適格を有するものとすることはできないというべきである。

保安林指定解除に伴う代替施設の設置によって、洪水、渇水の危険が解消された場合でも訴えの利益を有するか?

訴えの利益は失われる

Xらの原告適格の基礎は、本件保安林指定解除処分に基づく立木竹の伐採に伴う理水機能の低下の影響を直接受ける点において右保安林の存在による洪水や渇水の防止上の利益を侵害されているところにあるのである。

したがって、本件におけるいわゆる代替施設の設置によって右の洪水や渇水の危険が解消され、その防止上からは本件保安林の存続の必要性がなくなったと認められるに至ったときは、もはやXらにおいて右指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われるに至ったものといわざるをえないのである。

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最判昭55.11.25:「運転免許停止処分」と「訴えの利益」

論点

  1. 運転免許停止処分後、無違反・無処分で1年を経過した場合、当該処分の取消訴訟において、訴えの利益は認められるか?

事案

自動車運転免許保持者Xは、Y県警本部長から、自動車運転免許の効力を30日停止する旨の処分(免許停止処分:本件原処分)を受けたが、講習受講により免許の効力停止期間を29日短縮した。

そして、Xは、本件原処分の日から1年間無違反・無処分で経過した。

Xは、本件原処分を不服として、Y県公安委員会に対し審査請求をしたが、Y県公安委員会は審査請求を棄却する裁決をしたため、Xは、審査手続きの瑕疵を主張して、本件裁決の取消訴訟を提起した。

判決

運転免許停止処分後、無違反・無処分で1年を経過した場合、当該処分の取消訴訟において、訴えの利益は認められるか?

訴えの利益は認められない

本件事実によると本件原処分の効果は右処分の日一日の期間の経過によりなくなったものである。(講習を受けたことにより29日短縮されたから)

また、本件原処分の日から一年を経過した日の翌日以降、Xが本件原処分を理由に道路交通法上不利益を受ける虞(おそれ)(理由)がなくなったことはもとより、他に本件原処分を理由にXを不利益に取り扱いうることを認めた法令の規定はない

したがって、行政事件訴訟法9条の規定の適用上、Xは、本件原処分及び本件裁決の取消によつて回復すべき法律上の利益を有しないというべきである。

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最判平21.2.27:「優良運転者である旨の記載の有無」と「訴えの利益」

論点

  1. 一般運転者として運転免許証の更新処分を受けた者が、優良運転者である旨の記載を求めて提訴した更新処分取消訴訟において、訴えの利益を有するか?

事案

Xは、運転免許証の更新の申請手続きをした際、過去に違反行為があったとして、優良運転者でなく、一般運転者に該当するものと扱われ、Y県公安委員会から優良運転者である旨の記載のない更新処分を受けた。

そこで、Xは違反行為を否認し、優良運転者にあたると主張し、本件更新処分の中の「Xが一般運転者とする部分」の取消訴訟、および、優良運転者である旨の記載がある運転免許の更新処分の義務付け訴訟を提起した。

なお、当該更新があった当時、優良運転者も一般運転者もどちらも免許証の有効期間は5年であった。

判決

一般運転者として運転免許証の更新処分を受けた者が、優良運転者である旨の記載を求めて提訴した更新処分取消訴訟において、訴えの利益を有するか?

訴えの利益を有する

道路交通法は、優良運転者の実績を賞揚し、優良な運転へと免許証保有者を誘導して交通事故の防止を図る目的で、優良運転者であることを免許証に記載して公に明らかにすることとするとともに、優良運転者に対し更新手続上の優遇措置を講じているのである。

このことに、優良運転者の制度の沿革等を併せて考慮すれば、同法は、客観的に優良運転者の要件を満たす者に対しては優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して更新処分を行うということを、単なる事実上の措置にとどめず、その者の法律上の地位として保障するとの立法政策を、交通事故の防止を図るという制度の目的を全うするため、特に採用したものと解するのが相当である。

確かに、免許証の更新処分において交付される免許証が優良運転者である旨の記載のある免許証であるかそれのないものであるかによって、当該免許証の有効期間等が左右されるものではない。

また、上記記載のある免許証を交付して更新処分を行うことは、免許証の更新の申請の内容を成す事項ではない。

しかしながら、上記のとおり、客観的に優良運転者の要件を満たす者であれば優良運転者である旨の記載のある免許証を交付して行う更新処分を受ける法律上の地位を有することが肯定される以上、一般運転者として扱われ上記記載のない免許証を交付されて免許証の更新処分を受けた者は、上記の法律上の地位を否定されたことを理由として、これを回復するため、同更新処分の取消しを求める訴えの利益を有するというべきものである。

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最判平21.10.15:場外車券発売施設設置許可処分

論点

  1. 場外車券発売施設の周辺において「①居住する者、②事業者、③医療施設の利用者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?
  2. 場外車券発売施設の周辺において、「医療施設を開設する者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?

事案

経済産業大臣は自転車競技法4条2項に基づき、株式会社Aに対し、場外車券販売施設(競輪の賭けができる施設)の設置の許可をした。

これに対して、本件施設から1000m以内において病院や診療所を開設する医師Xらが、本件許可は、場外車券発売施設の設置要件をみたさないと主張して、国Yを被告として、許可の取消訴訟を提起した。

(競輪場)
自転車競技法第4条
競輪の用に供する競走場を設置し又は移転しようとする者は、経済産業省令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
2 経済産業大臣は、前項の許可をしようとするときは、経済産業省令で定めるところにより、あらかじめ、関係都道府県知事の意見を聴かなければならない。
(許可の基準)
自転車競技法施行規則第15条
法第5条第2項の経済産業省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供する施設の基準を除く。)は、次のとおりとする。
一 位置は、文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがない場所であること

判決

場外車券発売施設の周辺において「①居住する者、②事業者、③医療施設の利用者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有さない

一般的に、場外施設が設置、運営された場合に周辺住民等が被る可能性のある被害は、交通、風紀、教育など広い意味での生活環境の悪化であって、その設置、運営により、直ちに周辺住民等の生命、身体の安全や健康が脅かされたり、その財産に著しい被害が生じたりすることまでは想定し難いところである。

そして、このような生活環境に関する利益は、基本的には公益に属する利益というべきであって、法令に手掛りとなることが明らかな規定がないにもかかわらず、当然に、法が周辺住民等において上記のような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解するのは困難といわざるを得ない。

位置基準は、場外施設が医療施設等から相当の距離を有し、当該場外施設において車券の発売等の営業が行われた場合に文教上又は保健衛生上著しい支障を来すおそれがないことを、その設置許可要件の一つとして定めるものである。

場外施設が設置、運営されることに伴う上記の支障は、基本的には、その周辺に所在する医療施設等を利用する児童、生徒、患者等の不特定多数者に生じ得るものであって、かつ、それらの支障を除去することは、心身共に健康な青少年の育成や公衆衛生の向上及び増進といった公益的な理念ないし要請と強くかかわるものである。

そして、当該場外施設の設置、運営に伴う上記の支障が著しいものといえるか否かは、単に個々の医療施設等に着目して判断されるべきものではなく、総合的に判断されるべき事柄である。

規則が、場外施設の設置許可申請書に、敷地の周辺から1000m以内の地域にある医療施設等の位置及び名称を記載した見取図のほか、場外施設を中心とする交通の状況図及び場外施設の配置図を添付することを義務付けたのも、このような公益的見地からする総合的判断を行う上での基礎資料を提出させることにより、上記の判断をより的確に行うことができるようにするところに重要な意義があるものと解される。

このように、法及び規則が位置基準によって保護しようとしているのは、第一次的には、上記のような不特定多数者の利益であるところ、それは、性質上、一般的公益に属する利益であって、原告適格を基礎付けるには足りないものであるといわざるを得ない。

したがって、場外施設の周辺において居住し又は事業(医療施設等に係る事業を除く。)を営むにすぎない者や、医療施設等の利用者は、位置基準を根拠として場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有しないものと解される。

場外車券発売施設の周辺において、「医療施設を開設する者」は、設置許可の取消訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有する

場外施設は、多数の来場者が参集することによってその周辺に享楽的な雰囲気等といった環境をもたらすものであるから、位置基準は、そのような環境の変化によって周辺の医療施設等の開設者が被る文教又は保健衛生にかかわる業務上の支障について、特に国民の生活に及ぼす影響が大きいものとして、その支障が著しいものである場合に当該場外施設の設置を禁止し当該医療施設等の開設者の行う業務を保護する趣旨をも含む規定であると解することができる。

したがって、仮に当該場外施設が設置、運営されることに伴い、その周辺に所在する特定の医療施設等に上記のような著しい支障が生ずるおそれが具体的に認められる場合には、当該場外施設の設置許可が違法とされることもあることとなる。

このように、位置基準は、一般的公益を保護する趣旨に加えて、上記のような業務上の支障が具体的に生ずるおそれのある医療施設等の開設者において、健全で静穏な環境の下で円滑に業務を行うことのできる利益を、個々の開設者の個別的利益として保護する趣旨をも含む規定であるというべきである。

したがって、当該場外施設の設置、運営に伴い著しい業務上の支障が生ずるおそれがあると位置的に認められる区域に医療施設等を開設する者は、位置基準を根拠として当該場外施設の設置許可の取消しを求める原告適格を有するものと解される。

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最判平4.9.22:原子炉設置許可処分と原告適格

論点

  1. 原子炉の周辺に居住する住民は、原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の原告適格を有するか?

事案

動力炉・核燃料開発事業団は、福井県敦賀市(つるが)に高速増殖炉原子炉「もんじゅ」の建設・運転を計画し、内閣総理大臣Yは、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律(規制法)に基づき原子炉設置許可処分を行った。

このため、付近の住民XらがYを被告として、原子炉設置許可処分に際しての安全審査に重大かつ明白な瑕疵があるとして、原子炉設置許可処分の無効確認の訴えを提起した。

判決

原子炉の周辺に居住する住民は、原子炉設置許可処分の無効確認訴訟の原告適格を有するか?

原告適格を有する

行政事件訴訟法9条は、取消訴訟の原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。

そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。

そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。

そして、行政事件訴訟法36条は、無効等確認の訴えの原告適格について規定するが、同条にいう当該処分の無効等の確認を求めるにつき「法律上の利益を有する者」の意義についても、右の取消訴訟の原告適格の場合と同義に解するのが相当である。

そして、原子炉設置許可の基準の趣旨は、原子炉を設置しようとする者が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全性が確保されないときは、当該原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命、身体に重大な危害を及ぼし、周辺の環境を放射能によって汚染するなど、深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、右災害が万が一にも起こらないようにするため、原子炉設置許可の段階で、原子炉を設置しようとする者の右技術的能力の有無及び申請に係る原子炉施設の位置、構造及び設備の安全性につき十分な審査をし、右の者において所定の技術的能力があり、かつ、原子炉施設の位置、構造及び設備が右災害の防止上支障がないものであると認められる場合でない限り、主務大臣は原子炉設置許可処分をしてはならないとした点にある。

そして、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」に過誤、欠落があった場合には重大な原子炉事故が起こる可能性があり、事故が起こったときは、原子炉施設に近い住民ほど被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その被害の程度はより直接的かつ重大なものとなるのであって、特に、原子炉施設の近くに居住する者はその生命、身体等に直接的かつ重大な被害を受けるものと想定されるのである。

このような原子炉の事故等がもたらす災害による被害の性質を考慮した上で、右技術的能力及び安全性に関する基準を定めているものと解される。

原子炉設置許可の基準の趣旨、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」が考慮している被害の性質等にかんがみると、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である。

そして、本件原子炉から約29kmないし約58kmの範囲内の地域に居住している者は、「所定の技術的能力の有無」及び「所定の安全性に関する各審査」に過誤、欠落がある場合に起こり得る事故等による災害により直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域内に居住する者というべきであるから、本件設置許可処分の無効確認を求める本訴請求において、行政事件訴訟法36条所定の「法律上の利益を有する者」に該当するものと認めるのが相当である。(原告適格を有する

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