憲法の過去問

平成30年・2018|問4|学問の自由

学問の自由に関する次の記述のうち、妥当でないものはどれか。

  1. 学問研究を使命とする人や施設による研究は、真理探究のためのものであるとの推定が働くと、学説上考えられてきた。
  2. 先端科学技術をめぐる研究は、その特性上一定の制約に服する場合もあるが、学問の自由の一環である点に留意して、日本では罰則によって特定の種類の研究活動を規制することまではしていない。
  3. 判例によれば、大学の学生が学問の自由を享有し、また大学当局の自治的管理による施設を利用できるのは、大学の本質に基づき、大学の教授その他の研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである。
  4. 判例によれば、学生の集会が、実社会の政治的社会的活動に当たる行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しない。
  5. 判例によれば、普通教育において児童生徒の教育に当たる教師にも教授の自由が一定の範囲で保障されるとしても、完全な教授の自由を認めることは、到底許されない。

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【答え】:2

【解説】

1.学問研究を使命とする人や施設による研究は、真理探究のためのものであるとの推定が働くと、学説上考えられてきた。
1・・・妥当
憲法23条(学問の自由は、これを保障する。)は、国家権力が、学問研究、研究発表、学説内容などの学問的活動とその成果について、それを弾圧し、あるいは禁止することは許されないことを意味します。とくに学問研究は,ことの性質上外部からの権力・権威によって干渉されるべき問題ではなく、自由な立場での研究が要請されます。
そのため、「学問研究を使命とする人や施設による研究は、真理探求のためのものであるとの推定が働く」と解すべきと学説上考えられています。

上記内容の理解

憲法23条の「学問の自由は、これを保障する」とは、学問の研究等の学問に関する「活動」と「成果(研究結果)」を、国が弾圧をかけたり、禁止したりしてはいけないということです。学問研究は、研究者が自由な立場で研究することが求められます。そのため、研究は真理探究のためのものであると推定される。

2.先端科学技術をめぐる研究は、その特性上一定の制約に服する場合もあるが、学問の自由の一環である点に留意して、日本では罰則によって特定の種類の研究活動を規制することまではしていない。
2・・・妥当ではない
近年における先端科学技術の研究がもたらす重大な脅威・危険(たとえば,遺伝子の組み換え実験などの遺伝子技術やクローン人間など、人間の尊厳を根底からゆるがす問題)があります。そのため、学問研究の自由とはいっても、核物質の研究やヒトの遺伝子操作の研究等、反倫理的な内容について一定の制限(公共の福祉の制約)があると考えられています。
そして、日本では、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」の第3条において、「何人も、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚又はヒト性集合胚を人又は動物の胎内に移植してはならない。」と規定し、さらに、第16条では、罰則として、「第3条の規定に違反した者は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」と規定しています。
したがって、「日本では罰則によって特定の種類の研究活動を規制することまではしていない。」という本問は妥当ではありません。日本では、罰則を科して、一定の研究活動を規制しています
3.判例によれば、大学の学生が学問の自由を享有し、また大学当局の自治的管理による施設を利用できるのは、大学の本質に基づき、大学の教授その他の研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである。
3・・・妥当
最大判昭38.5.22:東大ポポロ事件」の判例によると、
大学の学問の自由と自治は、大学が学術の中心として深く真理を探求し、専門の学芸を教授研究することを本質とすることに基づく。
そのため、大学の学問の自由と自治は、直接には、『「教授その他の研究者」の「研究、その結果の発表、研究結果の教授の自由」』と『これらを保障するための自治』を意味する。
大学の施設と学生は、これらの自由と自治の効果として、施設が大学当局によって自治的に管理され、学生も学問の自由と施設の利用を認められるのである。
そして、憲法23条の学問の自由は、学生も一般の国民と同じように享有する。
しかし、大学の学生として、一般国民以上に学問の自由を享有し、また大学当局の自冶的管理による施設を利用できるのは、大学の本質に基づき、大学の教授その他の研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果としてである
と判示しています。
したがって、本肢は妥当です。
4.判例によれば、学生の集会が、実社会の政治的社会的活動に当たる行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しない。
4・・・妥当
最大判昭38.5.22:東大ポポロ事件」の判例によると、
学生の集会が真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものでなく、実社会の政治的社会的活動に当る行為をする場合には、大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しない」と判示しています。

分かりやすくいえば、上記の場合は、「大学の有する特別の学問の自由」や「大学の自治」は主張できませんよ、ということです。

「大学の自治」とは、「国家権力等の外部から干渉を受けずに、教職員や学生により意思決定を行い、管理、運営すること」を言います。

5.判例によれば、普通教育において児童生徒の教育に当たる教師にも教授の自由が一定の範囲で保障されるとしても、完全な教授の自由を認めることは、到底許されない。
5・・・妥当
最大判昭51.5.21:旭川学力テスト事件」によると、下記のように判示しています。
『子どもの教育が、「教師」と「子ども」との間の直接の人格的接触を通じ、その個性に応じて行わなければならない、という本質的な要請に照らし、教授の具体的「内容」及び「方法」につき、普通教育における教師に対して、ある程度自由な裁量が認められなければならないという意味においては、一定の範囲における教授の自由が保障される
普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されないところといわなければならない。』

参考ページ

学問の自由(憲法23条)の解説ページはこちら>>


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成30年・2018|問3|判決文の理解

次の文章は、最高裁判所の判例(百里基地訴訟)の一説である。空欄[ ]に当てはまる文章として、妥当なものはどれか。

憲法98条1項は、憲法が国の最高法規であること、すなわち、憲法が成文法の国法形式として最も強い形式的効力を有し、憲法に違反するその余の法形式の全部又は一部はその違反する限度において法規範としての本来の効力を有しないことを定めた規定であるから、同条項にいう「国務に関するその他の行為」とは、同条項に列挙された法律、命令、詔勅と同一の性質を有する国の行為、言い換えれば、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、したがって、行政処分、裁判などの国の行為は、個別的・具体的ながらも公権力を行使して法規範を定立する国の行為であるから、かかる法規範を定立する限りにおいて国務に関する行為に該当するものというべきであるが、国の行為であっても、私人と対等の立場で行う国の行為は、右のような法規範の定立を伴わないから憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しないものと解すべきである。・・・原審の適法に確定した事実関係のもとでは、本件売買契約は、[ ]
(最三小判平成元年6月20日民集43巻6号385頁)
  1. 国が行った行為であって、私人と対等の立場で行った単なる私法上の行為とはいえず、右のような法規範の定立を伴うことが明らかであるから、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当するというべきである。
  2. 私人と対等の立場で行った私法上の行為とはいえ、行政目的のために選択された行政手段の一つであり、国の行為と同視さるべき行為であるから、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当するというべきである。
  3. 私人と対等の立場で行った私法上の行為とはいえ、そこにおける法規範の定立が社会法的修正を受けていることを考慮すると、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当するというべきである。
  4. 国が行った法規範の定立ではあるが、一見極めて明白に違憲とは到底いえないため、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当しないものというべきである。
  5. 国が行った行為ではあるが、私人と対等の立場で行った私法上の行為であり、右のような法規範の定立を伴わないことが明らかであるから、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当しないものというべきである。

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【答え】:5

【解説】

憲法第98条1項
この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。

この判決文を分かりやすく言い換えます。

憲法98条1項は、憲法が国の最高法規である。
すなわち、憲法98条1項は、「憲法が、最も強い効力を有し、憲法に違反するものは、本来、効力を有しない」ことを定めた規定である。
そのため、憲法98条1項の文章中にある「国務に関するその他の行為」とは、法律や命令等と同一の性質を有する国の行為を言う。
言い換えれば、「公権力を行使して法規範を定める国の行為」を意味する。
そして、「行政処分、裁判などの国の行為」は、個別的・具体的ながらも公権力を行使して法規範を定立する国の行為である。
したがって、「行政処分、裁判などの国の行為」も、法規範を定める限りにおいて国務に関する行為に該当するものというべきである。
しかし、国の行為であっても、「私人と対等の立場で行う国の行為」は、上記のような「法規範の定めるわけではない」から憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しない。
したがって、原審の適法に確定した事実関係のもとでは、本件売買契約は、[ ]

これをもとに、[ ] に入る内容を見ていきます。

1.国が行った行為であって、私人と対等の立場で行った単なる私法上の行為とはいえず、右のような法規範の定立を伴うことが明らかであるから、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当するというべきである。
1・・・妥当ではない
売買契約は、私人と対等の立場で行った単なる私法上の行為です。
したがって、「国が行った行為であって、私人と対等の立場で行った単なる私法上の行為とはいえず」というのは妥当ではありません。
2.私人と対等の立場で行った私法上の行為とはいえ、行政目的のために選択された行政手段の一つであり、国の行為と同視さるべき行為であるから、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当するというべきである。
2・・・妥当ではない
『売買契約は、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当する。』という内容となるので妥当ではありません。
判例の通り、「私人と対等の立場で行う国の行為」は、上記のような「法規範の定めるわけではない」から、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しないです。
3.私人と対等の立場で行った私法上の行為とはいえ、そこにおける法規範の定立が社会法的修正を受けていることを考慮すると、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当するというべきである。
3・・・妥当ではない
これも選択肢2同様、『売買契約は、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当する。』という内容となるので妥当ではありません。
4.国が行った法規範の定立ではあるが、一見極めて明白に違憲とは到底いえないため、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当しないものというべきである。
4・・・妥当ではない
「売買契約は、国が行った法規範の定立ではある」となるので妥当ではありません。
判例によると、売買契約は、「私人と対等の立場で行う国の行為」は、上記のような「法規範の定めるわけではない」と判示しています(示しています)。
したがって、妥当ではありません。
5.国が行った行為ではあるが、私人と対等の立場で行った私法上の行為であり、右のような法規範の定立を伴わないことが明らかであるから、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当しないものというべきである。
5・・・妥当
売買契約は、国が行った行為ではあるが、私人と対等の立場で行った私法上の行為です。
そして、売買契約は、法規範の定立を伴わないことが明らかです。
したがって、憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」には該当しません。
これは、判例の内容と一致します。


平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 法令用語 問32 民法:債権
問3 判決文の理解 問33 民法:債権
問4 学問の自由 問34 民法:親族
問5 生存権 問35 民法:親族
問6 参政権 問36 商法
問7 天皇・内閣 問37 会社法
問8 行政代執行法 問38 会社法
問9 公法と私法 問39 会社法
問10 無効と取消し 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政事件訴訟
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・社会
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・その他
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・その他
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 行政法の判例 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法の判例 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略