民法の過去問

令和2年・2020|問46|民法 40字問題

以下の[設例]および[判例の解説]を読んで記述せよ。

[設例]
A所有の甲不動産をBが買い受けたが登記未了であったところ、その事実を知ったCが日頃Bに対して抱いていた怨恨(えんこん)の情を晴らすため、AをそそのかしてもっぱらBを害する目的で甲不動産を二重にCに売却させ、Cは、登記を了した後、これをDに転売して移転登記を完了した。Bは、Dに対して甲不動産の取得を主張することができるか。

[判例の解説]
上記[設例]におけるCはいわゆる背信的悪意者に該当するが、判例はかかる背信的悪意者からの転得者Dについて、無権利者からの譲受人ではなくD自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、甲不動産の取得をもってBに対抗しうるとしている。

上記の[設例]について、上記の[判例の解説]の説明は、どのような理由に基づくものか。「背信的悪意者は」に続けて、背信的悪意者の意義をふまえつつ、Dへの譲渡人Cが無権利者でない理由を、40字程度で記述しなさい。

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【答え】:

(背信的悪意者は、)登記の欠缺を主張することが信義則に反して許されないが、AC間の売買自体は有効であるから。(44文字)


【解説】

[設例]
A所有の甲不動産をBが買い受けたが登記未了であったところ、その事実を知ったCが日頃Bに対して抱いていた怨恨(えんこん)の情を晴らすため、AをそそのかしてもっぱらBを害する目的で甲不動産を二重にCに売却させ、Cは、登記を了した後、これをDに転売して移転登記を完了した。Bは、Dに対して甲不動産の取得を主張することができるか。

[判例の解説]
上記[設例]におけるCはいわゆる背信的悪意者に該当するが、判例はかかる背信的悪意者からの転得者Dについて、無権利者からの譲受人ではなくD自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、甲不動産の取得をもってBに対抗しうるとしている。

上記の[設例]について、上記の[判例の解説]の説明は、どのような理由に基づくものか。「背信的悪意者は」に続けて、背信的悪意者の意義をふまえつつ、Dへの譲渡人Cが無権利者でない理由を、40字程度で記述しなさい。

【状況】

Aは、BとCの二者に譲渡した状況です。

A→B

A→C→D

Cは、Bを害する目的で買っているので、背信的悪意者です。

Dは、背信的悪意者からの譲受人です。

【質問内容】

Cは背信的悪意者に該当するが、背信的悪意者からの転得者Dについては、無権利者からの譲受人ではなくD自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、甲不動産の取得をもってBに対抗できる理由を質問しています。

「①背信的悪意者の意義」を踏まえつつ「DがBに対抗できる理由」を40字にまとめればよいです。

【①背信的悪意者の意義】について

判例(最判昭44.1.16)によると、

『実体上物権変動があった事実を知りながら当該不動産について利害関係を持つに至った者において、右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、民法177条にいう「第三者」にあたらないものと解すべき』

としています。

つまり、「背信的悪意者の意義」とは、「背信的悪意者とはどういった人か?」ということです。

「背信的悪意者」とは、「登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないもの」です。

判例(最判平8.10.29)によると、

『Cが背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者にあたらないとされる場合であっても、Bは、Cが登記を経由した権利をBに対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得をCに対抗することができるというにとどまり、AC間の売買自体の無効を来すものではなく、したがって、Dは無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならない。また、背信的悪意者が正当な利益を有する第三者にあたらないとして民法177条の「第三者」から排除されるゆえんは、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄であるからである』

としています。

A→B

A→C→D

上記の「AC間の売買自体の無効を来すものではなく」とは、AC間の売買契約自体、無効でない=有効ということです。

【40字にまとめると】

(背信的悪意者は、)登記の欠缺を主張することが信義則に反して許されないが、AC間の売買自体は有効であるから。(44文字)


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問45|民法 40字問題

Aは、Bとの間で、A所有の甲土地をBに売却する旨の契約(以下、「本件契約」という。)を締結したが、Aが本件契約を締結するに至ったのは、平素からAに恨みをもっているCが、Aに対し、甲土地の地中には戦時中に軍隊によって爆弾が埋められており、いつ爆発するかわからないといった嘘の事実を述べたことによる。Aは、その爆弾が埋められている事実をBに伝えた上で、甲土地を時価の2分の1程度でBに売却した。売買から1年後に、Cに騙されたことを知ったAは、本件契約に係る意思表示を取り消すことができるか。民法の規定に照らし、40字程度で記述しなさい。なお、記述にあたっては、「本件契約に係るAの意思表示」を「契約」と表記すること。

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【答え】:

Aは、BがCの詐欺を知り、又は知ることができたときに限り、契約を取り消すことができる。(43字)


【解説】

Aは、Bとの間で、A所有の甲土地をBに売却する旨の契約(以下、「本件契約」という。)を締結したが、Aが本件契約を締結するに至ったのは、平素からAに恨みをもっているCが、Aに対し、甲土地の地中には戦時中に軍隊によって爆弾が埋められており、いつ爆発するかわからないといった嘘の事実を述べたことによる。Aは、その爆弾が埋められている事実をBに伝えた上で、甲土地を時価の2分の1程度でBに売却した。売買から1年後に、Cに騙されたことを知ったAは、本件契約に係る意思表示を取り消すことができるか。民法の規定に照らし、40字程度で記述しなさい。なお、記述にあたっては、「本件契約に係るAの意思表示」を「契約」と表記すること。

Aは、Cに騙されているので、「詐欺」のルールが適用されることが分かります。

そして、売買契約はAB間で行われているので、Aは、第三者Cから詐欺を受けています。

【第三者詐欺】

相手方Bがその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができます(民法96条2項)。

このルールを40字程度でまとめればよいです。

Aは、BがCの詐欺を知り、又は知ることができたときに限り、契約を取り消すことができる。(43字)


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問35|民法

特別養子制度に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものの組合せはどれか。

ア.特別養子は、実父母と養父母の間の合意を家庭裁判所に届け出ることによって成立する。

イ.特別養子縁組において養親となる者は、配偶者のある者であって、夫婦いずれもが20歳以上であり、かつ、そのいずれかは25歳以上でなければならない。

ウ.すべての特別養子縁組の成立には、特別養子となる者の同意が要件であり、同意のない特別養子縁組は認められない。

エ.特別養子縁組が成立した場合、実父母及びその血族との親族関係は原則として終了し、特別養子は実父母の相続人となる資格を失う。

オ.特別養子縁組の解消は原則として認められないが、養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由がある場合、または、実父母が相当の監護をすることができる場合には、家庭裁判所が離縁の審判を下すことができる。

  1. ア・ウ
  2. ア・オ
  3. イ・ウ
  4. イ・エ
  5. ウ・オ

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【答え】:4

【解説】

ア.特別養子は、実父母と養父母の間の合意を家庭裁判所に届け出ることによって成立する。

ア・・・誤り

家庭裁判所は、一定要件を満たしたときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(特別養子縁組)を成立させることができます(民法817条の2第1項)。

上記を補足すると、「家庭裁判所が審判により」特別養子縁組を成立させます。

よって、実父母と養父母の間で合意したことを届け出ることでは、成立しません。

したがって、誤りです。

特別養子縁組はこちら>>

イ.特別養子縁組において養親となる者は、配偶者のある者であって、夫婦いずれもが20歳以上であり、かつ、そのいずれかは25歳以上でなければならない。

イ・・・正しい

特別養子縁組において養親となる夫婦の少なくともどちらか一方は、25歳以上で、もう一方が20歳以上であることが要件です(民法817条の4)。

よって、本肢は正しいです。

例えば、養父が25歳で、養母が20歳であれば、上記要件は満たします。

ウ.すべての特別養子縁組の成立には、特別養子となる者の同意が要件であり、同意のない特別養子縁組は認められない。

ウ・・・誤り

特別養子となる者が15歳に達している場合においては、特別養子縁組の成立には、特別養子となる者の同意が必要です(民法817条の5第2項)。

言い換えれば、特別養子になる人が15歳未満なら同意は不要なので、誤りです。

エ.特別養子縁組が成立した場合、実父母及びその血族との親族関係は原則として終了し、特別養子は実父母の相続人となる資格を失う。
エ・・・正しい

養子と実方の父母及びその血族との親族関係は、特別養子縁組によって終了します(民法817条の9本文)。

よって、本肢は正しいです。

オ.特別養子縁組の解消は原則として認められないが、養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由がある場合、または、実父母が相当の監護をすることができる場合には、家庭裁判所が離縁の審判を下すことができる。
オ・・・誤り

次の一号・二号のいずれにも該当する場合において、養子の利益のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所は、養子、実父母又は検察官の請求により、特別養子縁組の当事者を離縁させることができます(民法817条の10第1項)。

一 養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること。

二 実父母が相当の監護をすることができること。

上記を言い換えると、一号・二号のどちらか一方でも満たさない場合は、離縁(養子縁組を解消)することができません。

本肢は「または、」という記述が誤りです。

正しくは「かつ」です。


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問34|民法

医療契約に基づく医師の患者に対する義務に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 過失の認定における医師の注意義務の基準は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるとされるが、この臨床医学の実践における医療水準は、医療機関の特性等によって異なるべきではなく、全国一律に絶対的な基準として考えられる。
  2. 医療水準は、過失の認定における医師の注意義務の基準となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。
  3. 医師は、治療法について選択の機会を患者に与える必要があるとはいえ、医療水準として未確立の療法については、その実施状況や当該患者の状況にかかわらず、説明義務を負うものではない。
  4. 医師は、医療水準にかなう検査および治療措置を自ら実施できない場合において、予後(今後の病状についての医学的な見通し)が一般に重篤で、予後の良否が早期治療に左右される何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識できたときであっても、その病名を特定できない以上、患者を適切な医療機関に転送して適切な治療を受けさせるべき義務を負うものではない。
  5. 精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合において、その使用する薬の副作用については、その薬の最新の添付文書を確認しなくても、当該医師の置かれた状況の下で情報を収集すれば足りる。

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【答え】:2【解説】

1.過失の認定における医師の注意義務の基準は、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるとされるが、この臨床医学の実践における医療水準は、医療機関の特性等によって異なるべきではなく、全国一律に絶対的な基準として考えられる。

1・・・妥当ではない

まず、「臨床医学」とは、実際に患者さんに接して診断・治療を行う領域を指します。

そして、判例(最判平8.1.23)によると、

「人の生命及び健康を管理すべき医業に従事する者は、危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるとはいえ、診療に従事する個々の医師につき、その専門分野、医療環境の如何を問わず、常に世界最高水準の知見による診療を要求するのは実際的でなく、そのため診療行為に当たる医師の注意義務の基準となるべきものは、一般的には、診療当時の「いわゆる臨床医学の実践における医療水準」であるとされるのであり、更に右の医療水準も必ずしも全国一律の絶対的基準とされるものでなく、当該医師の専門分野、その所属する診療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等が考慮されるべきであるということとなろう」

としている。

つまり、臨床医学の実践における医療水準は、必ずしも全国一律の絶対的基準とされるものでないので、本肢は妥当ではありません。

臨床医学の実践における医療水準は、「当該医師の専門分野、その所属する診療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等」が考慮されるべき、としています。

2.医療水準は、過失の認定における医師の注意義務の基準となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。

2・・・妥当

「医療慣行」とは、医者の一般的な診断(判断)です。例えば、細菌感染しているから、抗生物質を処方する。熱が出ているから、ロキソニンを処方するといった慣習です。

そして、判例(最判平8.1.23)によると、

「医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行ってい
る医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない。」

と判示しています。

したがって、医療水準は、医療慣行と必ず一致するとは限らないので、医師が、医療慣行に従った医療行為を行っても、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない、ということです。

よって、本肢は妥当です。

3.医師は、治療法について選択の機会を患者に与える必要があるとはいえ、医療水準として未確立の療法については、その実施状況や当該患者の状況にかかわらず、説明義務を負うものではない。

3・・・妥当ではない

判例(最判平13.11.27)によると、

「少なくとも、当該療法(術式)が少なからぬ医療機関において実施されており、相当数の実施例があり、これを実施した医師の間で積極的な評価もされているものについては、患者が当該療法(術式)の適応である可能性があり、かつ、患者が当該療法(術式)の自己への適応の有無、実施可能性について強い関心を有していることを医師が知った場合などにおいては、たとえ医師自身が当該療法(術式)について消極的な評価をしており、自らはそれを実施する意思を有していないときであっても、なお、患者に対して、医師の知っている範囲で、当該療法(術式)の内容、適応可能性やそれを受けた場合の利害得失、当該療法(術式)を実施している医療機関の名称や所在などを説明すべき義務がある」

としています。

【判例解説】療法(術式)が少なからぬ医療機関において実施されており、相当数の実施例があり、これを実施した医師の間でも、よい評価もされている。

この術式について、
患者に合っている可能性があり、かつ、患者がこの術式について強い関心を有していることを医師が知った場合

たとえ医師自身が当該療法(術式)について、あまり適していないのでは?といった消極的な評価をしており、

医師自身、この術式を実施する意思がないときであっても、

なお、患者に対して、医師の知っている範囲で、「当該療法(術式)の内容、適応可能性やそれを受けた場合のメリット・デメリット、当該療法(術式)を実施している医療機関の名称や所在など」を説明すべき義務がある

よって、「医療水準として未確立の療法については、説明義務を負うものではない」というのは、妥当でないです。

4.医師は、医療水準にかなう検査および治療措置を自ら実施できない場合において、予後(今後の病状についての医学的な見通し)が一般に重篤で、予後の良否が早期治療に左右される何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識できたときであっても、その病名を特定できない以上、患者を適切な医療機関に転送して適切な治療を受けさせるべき義務を負うものではない。

4・・・妥当ではない

判例(最判平15.11.11)によると、

「この重大で緊急性のある病気のうちには、その予後が一般に重篤で極めて不良であって、予後の良否が早期治療に左右される急性脳症等が含まれること等にかんがみると、【要旨1】被上告人は、上記の事実関係の下においては、本件診療中、点滴を開始したものの、上告人のおう吐の症状が治まらず、上告人に軽度の意識障害等を疑わせる言動があり、これに不安を覚えた母親から診察を求められた時点で、直ちに上告人を診断した上で、上告人の上記一連の症状からうかがわれる急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処し得る、高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へ上告人を転送し、適切な治療を受けさせるべき義務があったものというべきである」

としています。

つまり、本肢は「その病名を特定できない以上、患者を適切な医療機関に転送して適切な治療を受けさせるべき義務を負うものではない」が妥当ではないです。

重大で緊急性のある病気のうちには、その予後が一般に重篤で極めて不良であって、予後の良否が早期治療に左右される急性脳症等が含まれること等を照らして合わせて考えると
病名が特定できなくても、それに対応できる医療機関へ患者を転送し、適切な治療を受けさせるべき義務があるということです。

5.精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合において、その使用する薬の副作用については、その薬の最新の添付文書を確認しなくても、当該医師の置かれた状況の下で情報を収集すれば足りる。

5・・・妥当ではない

「向精神薬」とは、「うつ状態」や「不安」を和らげる効果がある薬です。

判例(最判平14.11.8)によると、

「精神科医は、向精神薬を治療に用いる場合において、その使用する向精神薬の副作用については、常にこれを念頭において治療に当たるべきであり、向精神薬の副作用についての医療上の知見については、その最新の添付文書を確認し、必要に応じて文献を参照するなど、当該医師の置かれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集する義務があるというべきである。」

としています。

つまり、精神科医は、向精神薬の副作用については、最新の添付文書を確認して、必要に応じて文献を参照するなど、医師の置かれた状況の下で可能な限り最新情報を収集する義務がある、ということです。


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問33|民法

A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約(以下、「本件賃貸借契約」という。)が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. 本件賃貸借契約における賃貸人の地位は、別段の合意がない限り、AからCに移転する。
  2. 乙建物の所有権保存登記がBと同居する妻Dの名義であっても、Bは、Cに対して、甲土地の賃借権をもって対抗することができる。
  3. Cは、甲土地について所有権移転登記を備えなければ、Bに対して、本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を請求することができない。
  4. 本件賃貸借契約においてAからCに賃貸人の地位が移転した場合、Bが乙建物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、Bは、Cに対して、直ちにその償還を請求することができる。
  5. 本件賃貸借契約の締結にあたりBがAに対して敷金を交付していた場合において、本件賃貸借契約が期間満了によって終了したときは、Bは、甲土地を明け渡した後に、Cに対して、上記の敷金の返還を求めることができる。

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【答え】:2
【解説】

A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。

1.本件賃貸借契約における賃貸人の地位は、別段の合意がない限り、AからCに移転する。

1・・・妥当

賃貸借の対抗要件を備えた場合、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転します(民法605条の2)。

つまり、賃貸人たる地位は、Aから譲受人C(土地の新所有者)に移転します。

よって、本肢は妥当です。

例えば、アパートの賃貸借契約をしていて、賃借人が引渡しを受けていたとします(=賃借人は対抗要件を備えている)。ここで、アパートのオーナーがAからCに変われば、賃貸人もAからCに変わるということです。

これを、業界用語で「オーナーチェンジ」と言います。

A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。

2.乙建物の所有権保存登記がBと同居する妻Dの名義であっても、Bは、Cに対して、甲土地の賃借権をもって対抗することができる。

2・・・妥当ではない

甲土地の所有者A、甲土地の賃借人B、乙建物の所有者B(妻D名義で保存登記済)

という状況から、Aが甲土地をCに売却した。

判例(最判昭47.6.22)によると、

「土地の賃借人Bは、借地上に妻名義で保存登記を経由した建物を所有していても、その後その土地の所有権を取得した第三者Cに対し、建物保護に関する法律1条により、その土地の賃借権をもって対抗することができない」

としています。

つまり、「土地の賃借人がB」で、「借りた土地の上にある建物の登記の名義が妻D」の場合(=土地の借主と、借地上の建物の登記名義人が異なる場合)、新しい土地の買主Cに対して、土地の賃借権を主張できない、ということです。

よって、妥当ではないです。

【詳細解説】 建物の所有権が妻名義であることによって、第三者に対する対抗要件を備えていないからです。もし、建物の所有権をB名義で登記をしていれば第三者に対する対抗要件を備えているので、Cにも土地賃借権を対抗できました。

借地権の対抗権は「土地賃借権の登記」又は「建物の登記(自己名義)」です。

A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。

3.Cは、甲土地について所有権移転登記を備えなければ、Bに対して、本件賃貸借契約に基づく賃料の支払を請求することができない。

3・・・妥当

賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができません(民法605条の2第3項)。

つまり、土地の新所有者Cは、甲土地について所有権移転登記を備えなければ、Bに対して、賃貸人であることを主張できない(賃貸借契約に基づく賃料の支払を請求することができない)ので、本肢は妥当です。

簡単に言えば、
土地の新所有者Cが、賃借人Bに対して賃料の支払いを請求するには、登記が必要、ということです。

A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。

4.本件賃貸借契約においてAからCに賃貸人の地位が移転した場合、Bが乙建物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、Bは、Cに対して、直ちにその償還を請求することができる。

4・・・妥当

賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができます(民法608条)。

そして、本肢の場合

賃貸借契約においてAからCに賃貸人の地位が移転しているため、

賃借人Bが乙建物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、

Bは、新賃貸人Cに対して、直ちにその償還を請求することができます。

よって、妥当です。

【問題文の理解】

「乙建物について賃貸人の負担に属する必要費」とは、乙建物自体の必要費ではありません!
あくまでも、土地賃貸人Cが負担すべき必要費を指します。例えば、地震により乙建物の敷地が損壊した場合の、敷地の修繕費用です。

A所有の甲土地をBに対して建物所有の目的で賃貸する旨の賃貸借契約が締結され、Bが甲土地上に乙建物を建築して建物所有権保存登記をした後、AがCに甲土地を売却した。

5.本件賃貸借契約の締結にあたりBがAに対して敷金を交付していた場合において、本件賃貸借契約が期間満了によって終了したときは、Bは、甲土地を明け渡した後に、Cに対して、上記の敷金の返還を求めることができる。

5・・・妥当

賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、「費用の償還債務」及び「敷金の返還債務」は、譲受人又はその承継人が承継します(民法605条の2第4項)。

したがって、敷金の返還債務は、新賃貸人Cが引き継ぐので、賃借人Bは、新賃貸人Cに対して、敷金の返還を請求できます。


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問32|民法

同時履行の抗弁権に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 双務契約が一方当事者の詐欺を理由として取り消された場合においては、詐欺を行った当事者は、当事者双方の原状回復義務の履行につき、同時履行の抗弁権を行使することができない。
  2. 家屋の賃貸借が終了し、賃借人が造作買取請求権を有する場合においては、賃貸人が造作代金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる。
  3. 家屋の賃貸借が終了し、賃借人が敷金返還請求権を有する場合においては、賃貸人が敷金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる。
  4. 請負契約においては仕事完成義務と報酬支払義務とが同時履行の関係に立つため、物の引渡しを要する場合であっても、特約がない限り、仕事を完成させた請負人は、目的物の引渡しに先立って報酬の支払を求めることができ、注文者はこれを拒むことができない。
  5. 売買契約の買主は、売主から履行の提供があっても、その提供が継続されない限り、同時履行の抗弁権を失わない。

>解答と解説はこちら


【答え】:5【解説】

1.双務契約が一方当事者の詐欺を理由として取り消された場合においては、詐欺を行った当事者は、当事者双方の原状回復義務の履行につき、同時履行の抗弁権を行使することができない。

1・・・妥当ではない

双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができます(民法533条本文)。

判例(最判昭47.9.7)によると、

「売買契約が詐欺を理由として取り消された場合における当事者双方の原状回復義務は、同時履行の関係にあると解するのが相当である。」

としています。

したがって、双務契約(例えば、売買契約)が、詐欺を理由に取り消された場合、当事者の両方にある原状回復義務(モノを返す義務・代金を返す義務)は、同時履行の関係にあります。

よって、本肢は「詐欺を行った当事者は、当事者双方の原状回復義務の履行につき、同時履行の抗弁権を行使することができない」というのは、妥当ではありません。

【双務契約とは?】

双務契約とは、契約の当事者の双方が、互いに債務を負担する、法律的な対価関係にある契約のことをいいます。

例えば、売買契約が双務契約です。
「売主は物を引き渡す義務」を負い、「買主は代金支払義務」を負います。

その他、賃貸借、請負、有償の委任、有償の寄託、雇用(雇傭)などは双務契約です。

2.家屋の賃貸借が終了し、賃借人が造作買取請求権を有する場合においては、賃貸人が造作代金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる。

2・・・妥当ではない

判例(最判昭29.7.22)によると、

「借家法5条により造作(例えば、エアコン)の買収を請求した家屋の賃借人は、その代金の不払を理由として右家屋を留置し、または右代金の提供がないことを理由として同時履行の抗弁により右家屋の明渡を拒むことはできない」

としております。

つまり、「オーナー(賃貸人)の造作代金の支払い義務」と「賃借人の明渡義務」は同時履行の関係にない、ということです。

賃借人は「オーナーが造作代金を支払わない」ことを理由に、賃借人は明渡を拒むことができません。

3.家屋の賃貸借が終了し、賃借人が敷金返還請求権を有する場合においては、賃貸人が敷金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる。

3・・・妥当ではない

判例(最判昭49.9.2)によると、

「賃貸人は、特別の約定のないかぎり、賃借人から家屋明渡を受けた後に前記の敷金残額を返還すれば足りるものと解すべく、したがって、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係にたつものではない」

としています。

また、民法622条の2の1号1号でも、「貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」賃貸人は敷金を返還しなければならない、となっています。

つまり、家屋明渡債務と敷金返還債務とは同時履行の関係ではなく、「家屋の明渡し」が先で、その後に「敷金の返還」をすればよいです。

したがって、本肢の「賃貸人が敷金を提供するまで、賃借人は、家屋の明渡しを拒むことができる」というのは、妥当でないです。

4.請負契約においては仕事完成義務と報酬支払義務とが同時履行の関係に立つため、物の引渡しを要する場合であっても、特約がない限り、仕事を完成させた請負人は、目的物の引渡しに先立って報酬の支払を求めることができ、注文者はこれを拒むことができない。

4・・・妥当ではない

報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければなりません(民法633条)。

これは、「請負の目的物(物)の引渡し」と「報酬の支払い」が同時履行であることを意味します。

したがって、仕事を完成させたからと言って、報酬を求めることはできないので、「仕事を完成させた請負人は、目的物の引渡しに先立って報酬の支払を求めることができ、注文者はこれを拒むことができない」は誤りです。

【請負の流れ】

①請負契約締結→②仕事の完成(仕事が終わる)→③引渡しがある場合、引渡し

③と報酬の支払いが、同時に行うのであって、

物の引渡しがある場合、②の時点で報酬の支払い請求はできない、ということです。

【注意】

仕事の「完成」と「報酬の支払い」は同時履行ではありません。例えば、建物建築の請負契約で、請負人から「建物が完成したから、報酬を払ってください!」と言われても、引き渡してくれないのであれば、報酬(代金)の支払いを拒むことができます。

【関連ポイント】

ただし、物の引渡しを要しないときは、仕事が終わった後であれば、報酬を請求することができます(633条ただし書き)。例えば、ホームページの一部修正の請負契約の場合、ホームページの一部を書き換えるだけなので、引き渡しはありません。そういった場合、修正した時点で仕事が終わるので、それ以降であれば、注文者に報酬を請求できます。

5.売買契約の買主は、売主から履行の提供があっても、その提供が継続されない限り、同時履行の抗弁権を失わない。

5・・・妥当

判例(最判昭34.5.14)によると

「双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があっても、その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失うものでない」

としています。

例えば、自転車の売買契約を締結し、売主が自転車を買主の自宅に持っていき、買主が不在だったので売主は持ち帰りました。

この場合でも依然として、「自転車の引渡し」と「代金の支払い」は同時履行の関係にある、ということです。

なので、後日、売主が自転車を持たずに買主の自宅に行った場合、買主は同時履行の抗弁権を使って
代金の支払いを拒むことができる、ということです。


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問31|民法

Aは、Bに対して金銭債務(以下、「甲債務」という。)を負っていたが、甲債務をCが引き受ける場合(以下、「本件債務引受」という。)に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 本件債務引受について、BとCとの契約によって併存的債務引受とすることができる。
  2. 本件債務引受について、AとCとの契約によって併存的債務引受とすることができ、この場合においては、BがCに対して承諾をした時に、その効力が生ずる。
  3. 本件債務引受について、BとCとの契約によって免責的債務引受とすることができ、この場合においては、BがAに対してその契約をした旨を通知した時に、その効力が生ずる。
  4. 本件債務引受について、AとCが契約をし、BがCに対して承諾することによって、免責的債務引受とすることができる。
  5. 本件債務引受については、それが免責的債務引受である場合には、Cは、Aに対して当然に求償権を取得する。

>解答と解説はこちら


【答え】:5【解説】債務引受はこちら>>

1.本件債務引受について、BとCとの契約によって併存的債務引受とすることができる。

1・・・正しい

併存的債務引受は、下記3パターンの契約の仕方で行えます(民法470条)。

  1. 債権者Bと債務者Aと引受人Cよる三者契約
  2. 債権者Bと引受人Cによる場合
  3. 債務者Aと引受人Cによる場合

したがって、本肢は、2(債権者Bと引受人Cによる契約)に当たるので正しいです。

2.本件債務引受について、AとCとの契約によって併存的債務引受とすることができ、この場合においては、BがCに対して承諾をした時に、その効力が生ずる。

2・・・正しい

選択肢1の「3(債務者と引受人となる者で契約)」をするときは、債権者Bが引受人Cとなる者に対して承諾をすることが必要です(民法470条3項)。

したがって、本肢の内容の通り、

債務者Aと引受人Cとの契約によって併存的債務引受とすることができ、この場合においては、債権者Bが引受人Cに対して承諾をした時に、その効力が生じます。

3.本件債務引受について、BとCとの契約によって免責的債務引受とすることができ、この場合においては、BがAに対してその契約をした旨を通知した時に、その効力が生ずる。

3・・・正しい

免責的債務引受は、下記3パターンの契約の仕方で行えます(民法472条)。

  1. 債権者Bと債務者Aと引受人Cよる三者契約
  2. 債権者Bと引受人Cによる場合
  3. 債務者Aと引受人Cによる場合

そして、免責的債務引受は、債権者Bと引受人となる者Cとの契約によって行うときには、債権者Bが債務者Aに対してその契約をした旨を通知した時に、債務引受の効力を生じます(民法472条2項)。

本肢は「パターン2」の内容です。

よって、正しいです。

4.本件債務引受について、AとCが契約をし、BがCに対して承諾することによって、免責的債務引受とすることができる。

4・・・正しい

免責的債務引受は、債務者Aと引受人となる者Cが契約をし、債権者Bが引受人Cとなる者に対して承諾をすることによってもすることができます(民法472条3項)。

これは、選択肢3の「パターン3」の内容です。

AC間の契約+債権者Bが引受人Cによって、債務引受の効力を生じます。

債務者と引受人となる者が契約をした場合には、債権者が、引受人となる者に対して承諾をすることを要件としている。 したがって、③債務者Aと引受人となる者Cとの契約であるので、債権者Bが引受人となる者Cに対して承諾をしたときに、その効力が生ずるため、正しい。

5.本件債務引受については、それが免責的債務引受である場合には、Cは、Aに対して当然に求償権を取得する。

5・・・誤り

免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しません(民法472条の3)。

【理由】免責的債務引受の場合、債務が、債務者から引受人に完全に移転し、債務者はこの契約関係から、独立した存在になるから(完全離脱するから)です。

よって、本肢は誤りです。

債務引受とは?

債務引受(さいむひきうけ)とは、債務をその同一性を失わせないで債務引受人に移転することをいいます。

債務引受には、「免責的債務引受」と「併存的債務引受(重畳的債務引受)」の2種類があります。

併存的債務引受

「併存的債務引受」は「重畳的債務引受(ちょうじょうてき さいむひきうけ)」とも言います。

併存的債務引受の効果

併存的債務引受の場合、引受人が債務者と同一の債務を連帯して負担することとなります(民法470条1項)。また、債務者も従前どおり債務を履行する責任があります。

例えば、債権者A、債務者Bがおり、債務者の債務について、第三者C(引受人という)が併存的債務引受をすると、引受人CもBと同一の債務を負い、BとCが連帯債務を負うことになります。

併存的債務引受の要件

併存的債務引受の要件として、下記パターンがあり、いずれかに該当すれば成立します。

  1. 「債権者Aと引受人C」との間で契約 (もちろん、ABCの三者間で契約することもOK) ※債務者Bの意思は関係ない(=債務者Bの意思に反してもAC間で有効に契約できる=債務者Bの同意は不要) (民法470条2項・大判大15.3.25)
  2. ② 「債務者Bと引受人C」との間で契約 (債権者Aが引受人Cに対して承諾をしたときに効力が発生する)

免責的債務引受

免責的債務引受の効果

免責的債務引受とは、債権者に負っている債務を第三者が債務者の代わりに引き受けることです。免責的債務引受がなされると、債務は旧債務者(債務者)から新債務者(引受人)に完全に移転するため、旧債務者の債務は免責されます(民法472条1項)。

免責的債務引受の要件

免責的債務引受の要件として、下記パターンがあり、いずれかに該当すれば成立し、効力が生じます。

  1. 債権者Aと引受人Cとの間で契約  (もちろん、ABCの三者間で契約することもOK)(民法472条2項) ※ 債権者Aが債務者Bに対して、免責的債務引受契約をした旨の通知をしたときに効力が発生する(民法472条3項)
  2. 債務者Bと引受人Cとの間で契約 + 債権者Aが引受人Cに対して承諾(472条3項前段) (債権者Aが引受人Cに対して承諾をしたときに効力が発生する)

参考条文

(併存的債務引受の要件及び効果)

第470条 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。

2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。

3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。

4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。

(併存的債務引受における引受人の抗弁等)

第471条 引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。

2 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

(免責的債務引受の要件及び効果)

第472条 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。

2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。

3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

(免責的債務引受における引受人の抗弁等)

第472条の2 引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。

2 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

(免責的債務引受における引受人の求償権)

第472条の3 免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問30|民法

A・B間において、Aが、Bに対して、Aの所有する甲建物または乙建物のうちいずれかを売買する旨の契約が締結された。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものはどれか。

  1. 給付の目的を甲建物とするか乙建物とするかについての選択権は、A・B間に特約がない場合には、Bに帰属する。
  2. A・B間の特約によってAが選択権者となった場合に、Aは、給付の目的物として甲建物を選択する旨の意思表示をBに対してした後であっても、Bの承諾を得ることなく、その意思表示を撤回して、乙建物を選択することができる。
  3. A・B間の特約によってAが選択権者となった場合において、Aの過失によって甲建物が焼失したためにその給付が不能となったときは、給付の目的物は、乙建物になる。
  4. A・B間の特約によって第三者Cが選択権者となった場合において、Cの選択権の行使は、AおよびBの両者に対する意思表示によってしなければならない。
  5. A・B間の特約によって第三者Cが選択権者となった場合において、Cが選択をすることができないときは、選択権は、Bに移転する。

>解答と解説はこちら


【答え】:3【解説】

1.給付の目的を甲建物とするか乙建物とするかについての選択権は、A・B間に特約がない場合には、Bに帰属する。

1・・・誤り

    • 売主Aは「引渡し債務」を負うので「債務者」
    • 買主Bは「引渡し債権」を有するので「債権者」

債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属します(民法406条)。

どういうことかというと、甲建物と乙建物のどちらを渡すかの選択権は「債務者A」にあるということです。

つまり、選択権は、売主Aにあるので誤りです。

2.A・B間の特約によってAが選択権者となった場合に、Aは、給付の目的物として甲建物を選択する旨の意思表示をBに対してした後であっても、Bの承諾を得ることなく、その意思表示を撤回して、乙建物を選択することができる。

2・・・誤り

選択権を行使する場合、相手方に対する意思表示によって行使します(民法407条1項)。

例えば「甲建物を引渡してください!」と選択する旨の意思表示を行うことで、選択権を行使します。

そして、一度、意思表示をした場合、相手方の承諾を得なければ、その意思表示(選択したこと)は撤回することができません(民法407条2項)。

本問でいうと、売主Aが甲建物を渡すと意思表示をした後で、甲建物を渡すことを撤回して、乙建物を渡す場合は、相手方である買主Bの承諾が必要です。

3.A・B間の特約によってAが選択権者となった場合において、Aの過失によって甲建物が焼失したためにその給付が不能となったときは、給付の目的物は、乙建物になる。

3・・・正しい

債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において、その不能が選択権を有する者の過失によるものであるときは、債権は、その残存するものについて存在します(民法410条)。

つまり、売主Aの過失によって甲建物が焼失したために、甲建物の給付が不能となったときは、給付の目的物は、乙建物になる(引渡債権の目的物は乙建物となる)ということです。

当然と言ったら当然の話です。

4.A・B間の特約によって第三者Cが選択権者となった場合において、Cの選択権の行使は、AおよびBの両者に対する意思表示によってしなければならない。

4・・・誤り

第三者が選択をすべき場合には、その選択は、債権者「又は」債務者に対する意思表示によってします(民法409条1項)。

つまり、「AおよびBの両者」が誤りです。

正しくは「AまたはB(どちらか一方)」です。

本肢でいうと、
A・B間の特約によって第三者Cが選択権者となった場合、Cが甲建物と乙建物のどちらを選ぶのかを、AまたはBのどちらか一方に伝えればよいということです。

5.A・B間の特約によって第三者Cが選択権者となった場合において、Cが選択をすることができないときは、選択権は、Bに移転する。

5・・・誤り

第三者が選択をすべき場合において、第三者が選択をすることができず、又は選択をする意思を有しないときは、選択権は、債務者に移転します(民法409条2項)。

A・B間の特約によって第三者Cが選択権者となった場合において、Cが選択をすることができないときは、選択権は、「引渡債務の債務者」である「売主A」に移転します。


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問29|民法

根抵当権に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものはどれか。

  1. 被担保債権の範囲は、確定した元本および元本確定後の利息その他の定期金の2年分である。
  2. 元本確定前においては、被担保債権の範囲を変更することができるが、後順位抵当権者その他の第三者の承諾を得た上で、その旨の登記をしなければ、変更がなかったものとみなされる。
  3. 元本確定期日は、当事者の合意のみで変更後の期日を5年以内の期日とする限りで変更することができるが、変更前の期日より前に変更の登記をしなければ、変更前の期日に元本が確定する。
  4. 元本確定前に根抵当権者から被担保債権を譲り受けた者は、その債権について根抵当権を行使することができないが、元本確定前に被担保債務の免責的債務引受があった場合には、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使することができる。
  5. 根抵当権設定者は、元本確定後においては、根抵当権の極度額の一切の減額を請求することはできない。

>解答と解説はこちら


【答え】:3【解説】

1.被担保債権の範囲は、確定した元本および元本確定後の利息その他の定期金の2年分である。

1・・・誤り

根抵当権の被担保債権の範囲について、
根抵当権者は、「確定した元本」並びに「利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償」の「全部」について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができます(民法398条の3)。

つまり、2年分に限らず、「全部」です。

また、「債務不履行によって生じた損害の賠償」も根抵当権の被担保債権となります。

■被担保債権とは、抵当権や根抵当権のもととなった債権です。例えば、AがBに100万円を貸したとします。すぐに返済されたら問題ないですが、返済されない可能性もあります。そのために、抵当権や根抵当権を設定します。

ここで、抵当権や根抵当権のもととなった債権は、Aの有する「100万円の貸金債権」です。

つまり、Aの有する「100万円の貸金債権」が「被担保債権」となります。

抵当権や根抵当権で「保証してもらう債権」ともいえます。

2.元本確定前においては、被担保債権の範囲を変更することができるが、後順位抵当権者その他の第三者の承諾を得た上で、その旨の登記をしなければ、変更がなかったものとみなされる。

2・・・誤り

元本の確定前においては、「根抵当権の担保すべき債権の範囲」および「債務者の変更」を変更することができます(民法398条の4第1項)。

そして、この変更をするには、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得る必要はありません(民法398条の4第2項)。

また、1項の変更について元本の確定前に「登記」をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなします(民法398条の4第3項)。

【「根抵当権の担保すべき債権の範囲」および「債務者の変更」を変更するにあたって、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾が不要な理由】

極度額については、登記されており、「後順位の抵当権者その他の第三者」は、極度額を知ることができます。

極度額が変わらない(上がらない)のであれば、たとえ、債権の範囲を変更したり、債務者を変更したとしても、「後順位の抵当権者その他の第三者」に不利益はないからです。

3.元本確定期日は、当事者の合意のみで変更後の期日を5年以内の期日とする限りで変更することができるが、変更前の期日より前に変更の登記をしなければ、変更前の期日に元本が確定する。

3・・・正しい

【根抵当権の元本確定期日の定め】

根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を「定め」又は「変更する」ことができます(民法398条の6第1項)。

そして、上記期日は、これを定め又は変更した日から5年以内でなければなりません(民法398条の6第3項)。

1項の期日の変更について、その変更前の期日より前に登記をしなかったときは、担保すべき元本は、その変更前の期日に確定します(民法398条の6第4項)。

よって、本肢は正しいです。

【詳細解説】

1項について、確定期日を「定めるか否か」また「変更するか否か」は、当事者の自由です。

そして、確定期日を「定めたり」「変更したり」するときは、その時から5年以内の期間で定めなければなりません。

例えば、2021年5月1日に元本確定日を定める場合、「元本を確定する期日を2026年4月30日とする」という風に定めます。(2026年4月30日より前の日であればいつで定めてもよいです)

また、元本確定日を変更する場合、変更登記をすることで効力が発生するので、2021年10月10日に元本確定する事となっていて、この日を過ぎてしまったら、2021年10月10日に元本が確定してしまいます。

4.元本確定前に根抵当権者から被担保債権を譲り受けた者は、その債権について根抵当権を行使することができないが、元本確定前に被担保債務の免責的債務引受があった場合には、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使することができる。

4・・・誤り

元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使することができません(民法398条の7第1項)。

そして、元本の確定前に債務の引受け(免責的債務引受を含む)があったときは、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使することができません(民法398条の7第2項)。

よって、後半部分が誤りです。

【理由】 抵当権の場合、「抵当権と被担保債権はセット」なので、被担保債権が譲渡される(移転する)と、抵当権も移転します。
一方、根抵当権の場合、「根抵当権と被担保債権は別々」です。今回免責的債務引受により、債務者が変更します。例えば、債務者A、根抵当権者Bとして、Bは被担保債権甲を持っていて、その担保としてA所有の土地に根抵当権を設定していたととします。
ここで、被担保債権甲の債務者がCに変更となった場合、根抵当権者Bは、債権甲についてCに対して取立ができるのですが、被担保債権甲と根抵当権は別々なので、債務引受により、被担保債権甲は、根抵当権による保証(担保)からはずれます。したがって、根抵当権者Bは、根抵当権を行使できません。

免責的債務引受とは>>

5.根抵当権設定者は、元本確定後においては、根抵当権の極度額の一切の減額を請求することはできない。

5・・・誤り

元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、「現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額」に減額することを請求することができます(民法398条の21第1項:根抵当権の極度額の減額請求)。

よって、誤りです。

■「根抵当権の極度額の一切の減額を請求することはできない」とは、「元本が確定したら、極度額を1円も減額することができない」ということです。

しかし、これは違います。

元本確定した時の「債務+2年間の利息+債務不履行に伴う損害賠償額(遅延損害金)等」まで減額することは可能です。

【民法398条の21の具体例】 極度額が1億円で、元本確定時の債務の額が6000万円だったとします。その後、2年間の利息や遅延損害金等が500万円だったとすれば、根抵当権設定者は、極度額を1億円から6500万円まで減額することができます。

【理由】 根抵当権者としては、極度額1億円あれば、まだまだ何年にもわたって利息を担保することができるのですが、一方で、根抵当権設定者としては、元本が確定しているにもかかわらず、1億円の根抵当権がついていたら、他からお金を借りようとしても借りづらくなります。そのため、元本確定をしたのであれば、その後の2年分の利息と遅延損害金までの保証にしてください!と請求できるようにして、根抵当権設定者Aと根抵当権者Bの利害の調整を図っています。
また、「元本確定した根抵当権」は「抵当権」とほぼ同じものとなるので、そこからもイメージできると思います。


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

令和2年・2020|問28|民法

占有改定等に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものの組合せはどれか。

ア.即時取得が成立するためには占有の取得が必要であるが、この占有の取得には、外観上従来の占有事実の状態に変更を来たさない、占有改定による占有の取得は含まれない。

イ.留置権が成立するためには他人の物を占有することが必要であるが、この占有には、債務者を占有代理人とした占有は含まれない。

ウ.先取特権の目的動産が売買契約に基づいて第三取得者に引き渡されると、その後は先取特権を当該動産に対して行使できないこととなるが、この引渡しには、現実の移転を伴わない占有改定による引渡しは含まれない。

エ.質権が成立するためには目的物の引渡しが必要であるが、この引渡しには、設定者を以後、質権者の代理人として占有させる、占有改定による引渡しは含まれない。

オ.動産の譲渡担保権を第三者に対抗するためには目的物の引渡しが必要であるが、この引渡しには、公示性の乏しい占有改定による引渡しは含まれない。

  1. ア・イ
  2. ア・ウ
  3. イ・エ
  4. ウ・オ
  5. エ・オ

>解答と解説はこちら


【答え】:4

【解説】

■占有改定でも要件を満たすもの

  • 動産の引渡(民法178条)
  • 先取特権:第三取得者への引渡し(民法333条:選択肢ウ参照)

■占有改定でも要件を満たさないもの

  • 即時取得(民法192条)
  • 質権(民法344条)
  • 留置権(民法295条)
ア.即時取得が成立するためには占有の取得が必要であるが、この占有の取得には、外観上従来の占有事実の状態に変更を来たさない、占有改定による占有の取得は含まれない。

ア・・・妥当

【占有改定とは?】

代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得します(民法183条)。これが「占有改定」です。

【即時取得とは?】

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得します(民法192条)。
これが「即時取得」です。

上記192条にある「占有」について、判例(最判昭35.2.11)では、

「無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法192条(即時取得)によりその所有権を取得しうるためには、一般外観上従来の占有状態に変更を生ずるがごとき占有を取得することを要し、かかる状態に一般外観上変更を来たさない いわゆる占有改定の方法による取得をもっては足らない」

と判示しています。

【判例理解】

無権利者から動産を譲り受けて、即時取得するためには、

外観から見て(客観的にみて)、占有の状態が変わっている(例えば、実際に持っている人がAからBに変わっている)必要があり、

占有改定の場合、占有の状態は変わっていません。

そのため、即時取得の要件を満たさないので、即時取得は成立しないということです。

イ.留置権が成立するためには他人の物を占有することが必要であるが、この占有には、債務者を占有代理人とした占有は含まれない。

イ・・・妥当

他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができます(民法295条1項本文)。

そして、この占有は、第三者による代理占有でもOKです。

しかし、債務者は第三者ではないため、債務者を占有代理人とした占有は含まれません。

【代理占有の具体例】

例えば、占有した物を、第三者に預かってもらっている場合、実際に自分Aが占有してなくても、第三者はAのために占有しているという意思があるので、代理占有となります。

対義語:自己占有・・・自分のために占有しているという意思を持って占有すること

ウ.先取特権の目的動産が売買契約に基づいて第三取得者に引き渡されると、その後は先取特権を当該動産に対して行使できないこととなるが、この引渡しには、現実の移転を伴わない占有改定による引渡しは含まれない。

ウ・・・妥当ではない

先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができません(民法333条)。

この「引渡し」について、判例(大判大6.7.26)によると

「現実の移転を伴わない占有改定による引渡しも含む」

と判示しています。

よって、本肢は妥当ではないです。

エ.質権が成立するためには目的物の引渡しが必要であるが、この引渡しには、設定者を以後、質権者の代理人として占有させる、占有改定による引渡しは含まれない。
エ・・・妥当

質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生じます(民法344条)。

そして、質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができません(民法345条)。
つまり、質権設定者による代理占有は禁止されています。

言い合えると、質権設定者を以後、質権者の代理人として占有させる「占有改定」による引渡しは含まれないので妥当です。

【関連ポイント】

民法344条の「引渡し」については、「現実の引渡し」「簡易引渡し」「指図による引渡し」が含まれるので、違いについては選択肢1の解説動画を参考にしてみてください!

オ.動産の譲渡担保権を第三者に対抗するためには目的物の引渡しが必要であるが、この引渡しには、公示性の乏しい占有改定による引渡しは含まれない。
オ・・・妥当ではない

動産に関する物権(例えば、動産の譲渡担保権)の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができません(民法178条)。

そして、判例(最判昭30.6.2)によると、

「債務者が動産を売渡担保に供し、引き続きこれを占有する場合においては、債権者は、契約の成立と同時に、占有改定によりその物の占有権を取得し、その所有権取得をもって第三者に対抗することができる」

と判示しています。

つまり、占有改定による引渡しがあれば、動産の譲渡担保権を第三者に対抗できる、ということであり、

動産の譲渡担保権を第三者に対抗するためには目的物の引渡しが必要であるが、この引渡しには、占有改定による引渡しは含まれます。

よって、本肢は妥当ではないです。


問1 著作権の関係上省略 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 基礎法学 問33 民法:債権
問4 憲法 問34 民法:債権
問5 憲法 問35 民法:親族
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・経済
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・経済
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・社会
問25 情報公開法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政法 問56 一般知識・個人情報保護
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:物権 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略