改正民法に対応済
Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。
- 元本確定前に、A・Bは協議により、被担保債権の範囲にA・B間の金銭消費貸借取引に係る債権を加えることで合意した。 A・Bがこの合意を後順位抵当権者であるCに対抗するためには、被担保債権の範囲の変更についてCの承諾が必要である。
- 元本確定前に、Bが、Aに対して有する継続的売買契約に係る売掛代金債権をDに対して譲渡した場合、Dは、その債権について甲土地に対する根抵当権を行使することはできない。
- 元本確定前においては、Bは、甲土地に対する根抵当権をAの承諾を得てEに譲り渡すことができる。
- 元本が確定し、被担保債権額が6,000万円となった場合、Aは、Bに対して甲土地に対する根抵当権の極度額1億円を、6,000万円と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金および債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求できる。
- 元本が確定し、被担保債権額が1億2,000万円となった場合、甲土地について地上権を取得したFは、Bに対して1億円を払い渡して根抵当権の消滅を請求することができる。
【解説】
Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。
1.元本確定前に、A・Bは協議により、被担保債権の範囲にA・B間の金銭消費貸借取引に係る債権を加えることで合意した。 A・Bがこの合意を後順位抵当権者であるCに対抗するためには、被担保債権の範囲の変更についてCの承諾が必要である。
1・・・誤り
元本の確定前においては、根抵当権の「担保すべき債権の範囲」の変更をすることができ、「債務者」についても変更できます(民法398条の4の1項)。
そして、上記変更をするために、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得る必要はないです(2項)。
【理由】 なぜ、後順位抵当権者などの承諾なく、根抵当権の「担保すべき債権の範囲」や「債務者」の変更ができるかというと、これらを変更したとしても、後順位抵当権者の優先弁済権に影響はないからです。
【具体例】 根抵当権者B(極度額1億円)の後順位に他の抵当権者C(被担保債権1000万円)がいたとします。もし、不動産が1億1000万円で売却されたら、後順位抵当権者Cは1000万円の配当を受けることができます。もし、根抵当権の「担保すべき債権の範囲」や「債務者」が変更したとしても、Cの配当額は変わらないので、承諾は不要です。
※ 上記理由から、「極度額」を変更する場合、利害関係を有する者の承諾を得る必要があります(398条の5)。
【関連ポイント】 上記変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなします(3項)。※ 元本確定後は、「担保すべき債権の範囲の変更」と「債務者の変更」はできません。
Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。
2.元本確定前に、Bが、Aに対して有する継続的売買契約に係る売掛代金債権をDに対して譲渡した場合、Dは、その債権について甲土地に対する根抵当権を行使することはできない。
2・・・正しい
元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者Dは、その債権について根抵当権を行使することができません(民法398条の7)。つまり、Dは、根抵当権の被担保債権を譲り受けても、根抵当権に基づいて、競売にかけることはできません。
【理由】 そもそも根抵当権は複数の債権を担保(保証)するためのものです。
また、まだ発生していない債権も今後発生した時に担保されます。
つまり、特定の債権が譲渡されたかたといって、根抵当権がDに移ったら、根抵当権者Bが有するその他の債権、また今後担保されるはずの債権が担保されなくなり困るからです。
このように、被担保債権を譲渡に伴って、根抵当権が移転しないことを「随伴性(ずいはんせい)はない」と言います。
Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。
3.元本確定前においては、Bは、甲土地に対する根抵当権をAの承諾を得てEに譲り渡すことができる。
3・・・正しい
元本の確定前においては、根抵当権者Bは、根抵当権設定者Aの承諾を得て、その根抵当権を譲り渡すことができます(民法398条の12)。
これは、Bからみると、Bの債権を担保してくれるものがなくなることを意味するのであって、債権自体はBに残ります。
つまり、BのAに対する売掛代金債権については、Bが有します。保証がなくなったイメージです。
【注意】 選択肢2のように「被担保債権(売掛代金債権)」を譲渡したわけではないので注意!
Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。
4.元本が確定し、被担保債権額が6,000万円となった場合、Aは、Bに対して甲土地に対する根抵当権の極度額1億円を、6,000万円と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金および債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求できる。
4・・・正しい
元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき「利息等」及び「債務の不履行による損害賠償の額(遅延損害金)」とを加えた額に減額することを請求することができます(民法398条の21)。
【具体例】 極度額が1億円で、元本確定時の債務の額が6000万円だったとします。その後、2年間の利息や遅延損害金等が500万円だったとすれば、根抵当権設定者は、極度額を1億円から6500万円まで減額することができます。
【理由】 根抵当権者としては、極度額1億円あれば、まだまだ何年にもわたって利息を担保することができるのですが、一方で、根抵当権設定者としては、元本が確定しているにもかかわらず、1億円の根抵当権がついていたら、他からお金を借りようとしても借りづらくなります。そのため、元本確定をしたのであれば、その後の2年分の利息と遅延損害金までの保証にしてください!と請求できるようにして、根抵当権設定者Aと根抵当権者Bの利害の調整を図っています。
また、「元本確定した根抵当権」は「抵当権」とほぼものとなるので、そこからもイメージできると思います。
Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。
5.元本が確定し、被担保債権額が1億2,000万円となった場合、甲土地について地上権を取得したFは、Bに対して1億円を払い渡して根抵当権の消滅を請求することができる。
5・・・正しい
元本の確定後に、現存する債務の額が極度額を超えるときは、物上保証人、不動産の第三取得者、地上権者、永小作権者、対抗力を具備した賃借権者は、極度額に相当する金額を払い渡すか又は供託して根抵当権の消滅を請求することができます(民法398条の22)。
【具体例】 根抵当権の「極度額」が1億円で、「現存する債務の額」が1億2000万円だったとします。この場合、根抵当権者としては、根抵当権で保証される部分は最大で1億円です。そのため、この部分だけ、弁済してもらえれば、根抵当権者として不利益は生じないので、地上権者が1億円を払ってくれれば、根抵当権を消滅させることができます。
もちろん、残債2000万円は残ります。この部分については無担保となるだけで、債権自体は残るので、別途請求することは可能です。
平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:物権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 国民審査 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | プライバシー権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 国会 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 信教の自由 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 法の下の平等 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 取消しと撤回 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政裁量 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政事件訴訟法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法改正により削除 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・政治 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・経済 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・情報通信 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政事件訴訟法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・公文書管理法 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |




























