民法の過去問

平成28年・2016|問31|民法・根抵当権

改正民法に対応済

Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 元本確定前に、A・Bは協議により、被担保債権の範囲にA・B間の金銭消費貸借取引に係る債権を加えることで合意した。 A・Bがこの合意を後順位抵当権者であるCに対抗するためには、被担保債権の範囲の変更についてCの承諾が必要である。
  2. 元本確定前に、Bが、Aに対して有する継続的売買契約に係る売掛代金債権をDに対して譲渡した場合、Dは、その債権について甲土地に対する根抵当権を行使することはできない。
  3. 元本確定前においては、Bは、甲土地に対する根抵当権をAの承諾を得てEに譲り渡すことができる。
  4. 元本が確定し、被担保債権額が6,000万円となった場合、Aは、Bに対して甲土地に対する根抵当権の極度額1億円を、6,000万円と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金および債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求できる。
  5. 元本が確定し、被担保債権額が1億2,000万円となった場合、甲土地について地上権を取得したFは、Bに対して1億円を払い渡して根抵当権の消滅を請求することができる。

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改正民法に対応済

【答え】:1

【解説】

Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。

1.元本確定前に、A・Bは協議により、被担保債権の範囲にA・B間の金銭消費貸借取引に係る債権を加えることで合意した。 A・Bがこの合意を後順位抵当権者であるCに対抗するためには、被担保債権の範囲の変更についてCの承諾が必要である。

1・・・誤り

●元本の確定前に根抵当権の範囲を変更 → 後順位の抵当権者等の承諾は不要

元本の確定前においては、根抵当権の「担保すべき債権の範囲」の変更をすることができ、「債務者」についても変更できます(民法398条の4の1項)。

そして、上記変更をするために、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得る必要はないです(2項)。

【理由】 なぜ、後順位抵当権者などの承諾なく、根抵当権の「担保すべき債権の範囲」や「債務者」の変更ができるかというと、これらを変更したとしても、後順位抵当権者の優先弁済権に影響はないからです。

【具体例】 根抵当権者B(極度額1億円)の後順位に他の抵当権者C(被担保債権1000万円)がいたとします。もし、不動産が1億1000万円で売却されたら、後順位抵当権者Cは1000万円の配当を受けることができます。もし、根抵当権の「担保すべき債権の範囲」や「債務者」が変更したとしても、Cの配当額は変わらないので、承諾は不要です。

※ 上記理由から、「極度額」を変更する場合、利害関係を有する者の承諾を得る必要があります(398条の5)。

【関連ポイント】 上記変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなします(3項)。※ 元本確定後は、「担保すべき債権の範囲の変更」と「債務者の変更」はできません。

Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。

2.元本確定前に、Bが、Aに対して有する継続的売買契約に係る売掛代金債権をDに対して譲渡した場合、Dは、その債権について甲土地に対する根抵当権を行使することはできない。

2・・・正しい

●元本の確定前に「被担保債権」を譲渡 → 根抵当権は移転しない(元本確定前の根抵当権に随伴性はない)

元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者Dは、その債権について根抵当権を行使することができません(民法398条の7)。つまり、Dは、根抵当権の被担保債権を譲り受けても、根抵当権に基づいて、競売にかけることはできません。

【理由】 そもそも根抵当権は複数の債権を担保(保証)するためのものです

また、まだ発生していない債権も今後発生した時に担保されます。

つまり、特定の債権が譲渡されたかたといって、根抵当権がDに移ったら、根抵当権者Bが有するその他の債権、また今後担保されるはずの債権が担保されなくなり困るからです。

このように、被担保債権を譲渡に伴って、根抵当権が移転しないことを「随伴性(ずいはんせい)はない」と言います。

Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。

3.元本確定前においては、Bは、甲土地に対する根抵当権をAの承諾を得てEに譲り渡すことができる。

3・・・正しい

●元本の確定前に「根抵当権」を譲渡することができる → 根抵当権設定者の承諾が必要

元本の確定前においては、根抵当権者Bは、根抵当権設定者Aの承諾を得て、その根抵当権を譲り渡すことができます(民法398条の12)。

これは、Bからみると、Bの債権を担保してくれるものがなくなることを意味するのであって、債権自体はBに残ります。

つまり、BのAに対する売掛代金債権については、Bが有します。保証がなくなったイメージです。

【注意】 選択肢2のように「被担保債権(売掛代金債権)」を譲渡したわけではないので注意!

Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。

4.元本が確定し、被担保債権額が6,000万円となった場合、Aは、Bに対して甲土地に対する根抵当権の極度額1億円を、6,000万円と以後2年間に生ずべき利息その他の定期金および債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求できる。

4・・・正しい

●元本確定後、根抵当権設定者は、極度額の減額を請求できる
●減額できる額 : 現存する債務(元本)+以後2年間分の利息・遅延損害金

元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後2年間に生ずべき「利息等」及び「債務の不履行による損害賠償の額(遅延損害金)」とを加えた額に減額することを請求することができます(民法398条の21)。

【具体例】 極度額が1億円で、元本確定時の債務の額が6000万円だったとします。その後、2年間の利息や遅延損害金等が500万円だったとすれば、根抵当権設定者は、極度額を1億円から6500万円まで減額することができます。

【理由】 根抵当権者としては、極度額1億円あれば、まだまだ何年にもわたって利息を担保することができるのですが、一方で、根抵当権設定者としては、元本が確定しているにもかかわらず、1億円の根抵当権がついていたら、他からお金を借りようとしても借りづらくなります。そのため、元本確定をしたのであれば、その後の2年分の利息と遅延損害金までの保証にしてください!と請求できるようにして、根抵当権設定者Aと根抵当権者Bの利害の調整を図っています。

また、「元本確定した根抵当権」は「抵当権」とほぼものとなるので、そこからもイメージできると思います。

Aは債権者Bのため、A所有の甲土地に、被担保債権の範囲をA・B間の継続的売買に係る売掛代金債権とし、その極度額を1億円とする根抵当権を設定した。

5.元本が確定し、被担保債権額が1億2,000万円となった場合、甲土地について地上権を取得したFは、Bに対して1億円を払い渡して根抵当権の消滅を請求することができる。

5・・・正しい

●元本確定後に極度額に相当する金額を払えば、根抵当権消滅請求ができる

元本の確定後に、現存する債務の額が極度額を超えるときは、物上保証人、不動産の第三取得者、地上権者、永小作権者、対抗力を具備した賃借権者は、極度額に相当する金額を払い渡すか又は供託して根抵当権の消滅を請求することができます(民法398条の22)。

【具体例】 根抵当権の「極度額」が1億円で、「現存する債務の額」が1億2000万円だったとします。この場合、根抵当権者としては、根抵当権で保証される部分は最大で1億円です。そのため、この部分だけ、弁済してもらえれば、根抵当権者として不利益は生じないので、地上権者が1億円を払ってくれれば、根抵当権を消滅させることができます。

もちろん、残債2000万円は残ります。この部分については無担保となるだけで、債権自体は残るので、別途請求することは可能です。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問30|民法・不動産先取特権

改正民法に対応済

不動産先取特権に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 不動産の保存の先取特権は、保存行為を完了後、直ちに登記をしたときはその効力が保存され、同一不動産上に登記された既存の抵当権に優先する。
  2. 不動産工事の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。
  3. 不動産売買の先取特権は、売買契約と同時に、不動産の代価またはその利息の弁済がされていない旨を登記したときでも、同一不動産上に登記された既存の抵当権に優先しない。
  4. 債権者が不動産先取特権の登記をした後、債務者がその不動産を第三者に売却した場合、不動産先取特権者は、当該第三取得者に対して先取特権を行使することができる。
  5. 同一の不動産について不動産保存の先取特権と不動産工事の先取特権が互いに競合する場合、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。

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改正民法に対応済

【答え】:5

【解説】

1.不動産の保存の先取特権は、保存行為を完了後、直ちに登記をしたときはその効力が保存され、同一不動産上に登記された既存の抵当権に優先する。

1・・・正しい

●不動産保存の先取特権 → 保存行為が完了した後直ちに登記をすることで対抗力を持つ
●「不動産保存の先取特権」は登記することで先順位の抵当権にも優先する

不動産の保存の先取特権の効力を保存(対抗)するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければなりません(民法337条)。つまり、保存行為完了後、直ちに不動産保存の先取特権を登記することで、対抗要件を備えます。

そして、「不動産保存の先取特権」については、 「抵当権」が先に登記されていても、後に登記した「不動産保存の先取特権」が勝ちますよって、本肢は正しいです。

【関連ポイント】 不動産工事の先取特権も同様、 「抵当権」が先に登記されていても、後に登記した「不動産工事先取特権」が勝ちます

2.不動産工事の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在する。

2・・・正しい

●不動産工事の先取特権 → 工事によって生じた現存する増価額分についてのみ存在する

不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在します(民法327条1項)。

そして、不動産工事の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増価額についてのみ存在します(2項)。よって、本肢は正しいです。

【具体例】 価格が1000万円の山林があり、造成工事を行うことにより、価格が1800万円となった場合、増価額は800万円となります。

【関連ポイント】 不動産工事の先取特権の効力を保存(対抗)するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければなりません。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しません(338条)。つまり、登記をした予算額が先取特権の上限となり、また、327条2項から工事によって増価額も上限となります。
言い換えると、 「予算額」と「増加額分」の小さい方が、先取特権の範囲となります
例えば、上記具体例において、予算額を700万円で登記をしていたら、700万円までが先取特権の範囲となり、予算額を900万円と登記していれば、800万円が先取特権の範囲となります。

3.不動産売買の先取特権は、売買契約と同時に、不動産の代価またはその利息の弁済がされていない旨を登記したときでも、同一不動産上に登記された既存の抵当権に優先しない。

3・・・正しい

●不動産売買の先取特権 → 売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記することで対抗力を持つ
●「不動産売買の先取特権」と「抵当権」の優劣 → 登記の先後によって決まる

不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければなりません(民法340条)。

また、「不動産売買の先取特権」と「抵当権」の優劣は、登記の先後によって決まるので、先に登記をした方が勝ちます。

よって、「不動産売買の先取特権は、既存の抵当権に優先しない」という記述は正しいです。

4.債権者が不動産先取特権の登記をした後、債務者がその不動産を第三者に売却した場合、不動産先取特権者は、当該第三取得者に対して先取特権を行使することができる。
4・・・正しい
●「不動産先取特権者」と「第三取得者」の優劣 → 登記の先後によって決まる「不動産先取特権者」と「第三取得者」の優劣については、民法に特別な規定はありません。よって、不動産に関する物権の得喪及び変更は先に登記した方が対抗力を持つというルールに従います(民法177条)。
5.同一の不動産について不動産保存の先取特権と不動産工事の先取特権が互いに競合する場合、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受ける。

5・・・誤り

●「不動産保存の先取特権」「不動産工事の先取特権」「不動産売買の先取特権」の優劣
●→  ①不動産保存 ②不動産工事 ③不動産売買となる(不動産保存が一番強い)

同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、①不動産保存→②不動産工事→③不動産売買の順序に従います(民法331条)。よって、本肢は誤りです。「不動産保存の先取特権」が優先します。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問29|民法・物権

改正民法に対応済
A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。この場合に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、正しいものの組合せはどれか。

ア DがA、BおよびCに無断で甲土地上に乙建物を建てて甲土地を占有使用している場合、Aは、Dに対し、単独で建物の収去および土地の明渡しならびに土地の占拠により生じた損害全額の賠償を求めることができる。

イ Eが、A、BおよびCが共有する乙建物をAの承諾のもとに賃借して居住し、甲土地を占有使用する場合、BおよびCは、Eに対し当然には乙建物の明渡しを請求することはできない。

ウ Fが賃借権に基づいて甲土地上に乙建物を建てた場合において、A、BおよびCが甲土地の分割協議を行うとするときは、Fに対して分割協議を行う旨を通知しなければならず、通知をしないときは、A、BおよびCの間でなされた分割の合意は、Fに対抗することができない。

エ Aが乙建物を所有し居住している場合において、Aが、BおよびCに対して甲土地の分割請求をしたときは、甲土地をAに単独所有させ、Aが、BおよびCに対して持分に相当する価格の賠償を支払う、いわゆる全面的価額賠償の方法によって分割しなければならない。

オ A、BおよびCが乙建物を共有する場合において、Aが死亡して相続人が存在しないときは、Aの甲土地および乙建物の持分は、BおよびCに帰属する。

  1. ア・イ
  2. ア・ウ
  3. イ・オ
  4. ウ・エ
  5. エ・オ

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改正民法に対応済
【答え】:3

【解説】

A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。

ア DがA、BおよびCに無断で甲土地上に乙建物を建てて甲土地を占有使用している場合、Aは、Dに対し、単独で建物の収去および土地の明渡しならびに土地の占拠により生じた損害全額の賠償を求めることができる。

ア・・・誤り

●保存行為(不法占有者に対する明渡請求・建物収去請求) → 共有者は単独で行える

●損害賠償請求 → 共有者、自己の共有持分の割合に応じて請求できる(他の共有者の分までは請求できない)■「建物の収去」及び「土地の明渡し」請求について保存行為は、各共有者が単独ですることができます(民法252条)。保存行為とは、共有物の現状を維持する行為を指し、共有の土地に不法占拠者が建物を

無断で建築していた場合、「建物の収去」及び「土地の明渡し」の請求は保存行為に当たります。

よって、「Aは、Dに対し、単独で建物の収去および土地の明渡しを求めることができる」

ので、前半部分は正しいです。

■損害賠償請求はどうか?

判例では、共有物が不法に占有されたことを理由として、不法占有者に対して損害賠償を求める場合、共有者は、それぞれその共有持分の割合に応じて請求をすべきものであり、その割合を超えて請求をすることは許されないとしています。

つまり、損害賠償請求については、自己の共有持分の割合しか請求できず、他の共有者の分も併せて請求することはできません。

具体例

ABCの持分が各1/3で、損害額が全体として90万円であった場合、Aは30万円までしか損害賠償請求できないということです。

A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。

イ Eが、A、BおよびCが共有する乙建物をAの承諾のもとに賃借して居住し、甲土地を占有使用する場合、BおよびCは、Eに対し当然には乙建物の明渡しを請求することはできない。

イ・・・正しい

●共有者の一人の承諾を得て共有物を占有使用 → 共有者の持分に基づいて共有物を使用する権利がある → 他の共有者は明渡請求できない

1つのモノ(共有物)を複数の者が共有した場合、各共有者は共有物の全部について、その持分の割合に応じて使用することができます。少し分かりにくいのですが、例えば、ある事務所の1室を、ABCが共有していて、Aの持分が2分の1、 B・Cの持分がそれぞれ4分の1だったと仮定します。この場合、Aは建物全てを使用できます。ただし、持分の割合が2分の1なので、1ヶ月のうち2週間だけ使用できるというイメージです。では、共有者の一人Aが他の共有者の同意なくEに建物の使用を認めた場合、ただちに、他の共有者BCは、Eに対して明渡請求ができるか?が本問の質問内容です。

判例 では、他の共有者BCは、Eに対して明渡請求できないとしています。

理由 Eは共有者の一人Aの持分の範囲内であれば、建物を使用することはできるからです。したがって、他の共有者BCはAに対して、当然に明け渡し請求はできません。

A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。

ウ Fが賃借権に基づいて甲土地上に乙建物を建てた場合において、A、BおよびCが甲土地の分割協議を行うとするときは、Fに対して分割協議を行う旨を通知しなければならず、通知をしないときは、A、BおよびCの間でなされた分割の合意は、Fに対抗することができない。

ウ・・・誤り

●分割協議を行うとするときは、債権者に対して分割協議を行う旨を通知する義務はない

前提知識 共有物について権利を有する者及び各共有者の債権者は、自己の費用(交通費等)で、分割に参加することができます(民法260条1項)。上記参加の請求があったにもかかわらず、その請求をした者を参加させないで分割をしたときは、その分割は、その請求をした者に対抗することができません(2項)。そして、分割協議を行うとするときは、債権者に対して分割協議を行う旨を通知する必要はありません。

本問の内容 「Fが賃借権に基づいて甲土地上に乙建物を建てた場合」なので、Fは甲土地(共有物)を使用できる権利を持ちます。言い換えると、共有物の使用に関して、Fは債権者で、ABCは債務者です。したがって、Fは共有分割参加することはできます。しかし、ABCは、Fに対して分割協議を行う旨を通知する義務はないので、この点が誤りです。また、通知をしなかったとしても、Fが参加請求をしなければ、ABC間でなされた分割の合意は、Fに対抗することができるので、この点も誤りです。

A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。

エ Aが乙建物を所有し居住している場合において、Aが、BおよびCに対して甲土地の分割請求をしたときは、甲土地をAに単独所有させ、Aが、BおよびCに対して持分に相当する価格の賠償を支払う、いわゆる全面的価額賠償の方法によって分割しなければならない。

エ・・・誤り

●共有物の分割を請求がされた場合、「(全面的)価格賠償」を選択することもできる(任意)

分割の方法は下記3つありますが、事情に応じて裁判所の裁量で分割方法を選択します。また、当事者の話し合いで決める場合もどの分割方法を選択しても構いません。判例でも、裁判所は、共有者の実質的公平を害しない特段の事情があれば、共有者のうちの1人の単独所有として、他の共有者にその持分の価格を賠償させる方法で分割させることができるとしています。よって、「全面的価額賠償の方法によって分割しなければならない」と義務になっている点は誤りです。あくまでも「全面的価額賠償の方法によって分割することもできる」という任意です。

※ 全面的価額賠償とは、下表の「価額賠償」のことです。

※ 分割請求は、初めは当事者の話し合いで行いますが、それでも解決できない場合は、訴訟により解決します。

A、BおよびCが甲土地を共有し、甲土地上には乙建物が存在している。

オ A、BおよびCが乙建物を共有する場合において、Aが死亡して相続人が存在しないときは、Aの甲土地および乙建物の持分は、BおよびCに帰属する。

オ・・・正しい

●「共有者の一人が持分放棄」「共有者の一人が相続人なく死亡」 → 他の共有者に帰属

共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属します(民法255条)。 よって、本問は正しいです。

■もし相続人がいたらどうなるか?

死亡した共有者の持分は、相続人が相続する

■相続人がおらず、特別縁故者がいた場合どうなるか?

判例では、共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その持分は、民法958条の3に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされないときに、同法255条により他の共有者に帰属するとしています。つまり、相続人がおらず、特別縁故者がいた場合、特別縁故者に帰属する場合があります。

※ 民法958条の3 一定期間内に相続する権利を主張する者がいないとき、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者(特別縁故者という)の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問28|民法・代理

改正民法に対応済
Aが所有する甲土地につき、Aの長男BがAに無断で同人の代理人と称してCに売却した(以下「本件売買契約」という。)。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. Aが死亡してBが単独相続した場合、Bは本人の資格に基づいて本件売買契約につき追認を拒絶することができない。
  2. Bが死亡してAの妻DがAと共に共同相続した後、Aも死亡してDが相続するに至った場合、Dは本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はない。
  3. Aが本件売買契約につき追認を拒絶した後に死亡してBが単独相続した場合、Bは本件売買契約の追認を拒絶することができないため、本件売買契約は有効となる。
  4. Bが死亡してAが相続した場合、Aは本人の資格において本件売買契約の追認を拒絶することができるが、無権代理人の責任を免れることはできない。
  5. Aが死亡してBがAの妻Dと共に共同相続した場合、Dの追認がなければ本件売買契約は有効とならず、Bの相続分に相当する部分においても当然に有効となるものではない。

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改正民法に対応済
【答え】:3

【解説】

Aが所有する甲土地につき、Aの長男BがAに無断で同人の代理人と称してCに売却した。

1.Aが死亡してBが単独相続した場合、Bは本人の資格に基づいて本件売買契約につき追認を拒絶することができない。

1・・・正しい

●無権代理人が本人を単独相続 → 無権代理人は追認拒絶できない(下表の下段参照)

①無権代理人Bが、本人Aに無断でA所有の甲土地をCに売却します。②その後、本人Aが死亡し、③無権代理人Bが単独相続します。

無権代理人Bが本人Aを単独相続したとき、無権代理人が行った契約は有効となります。自分(無権代理人)でやったことは、自分で責任をとるのが当然です。そのため、「本人Aの権利(追認拒絶権)」を相続したことを理由に追認拒絶することは許されません。よって、本問は正しいです。

したがって、無権代理人Bは、相手方Cと契約したとおり、相手方Cに甲土地を引き渡さなければなりません。引き渡すことができなければ、債務不履行となり、損害賠償責任を負います。

Aが所有する甲土地につき、Aの長男BがAに無断で同人の代理人と称してCに売却した。

2.Bが死亡してAの妻DがAと共に共同相続した後、Aも死亡してDが相続するに至った場合、Dは本人の資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はない。

2・・・正しい

●無権代理人が死亡 → 「本人」と「他の相続人」が共同相続 → その後、本人死亡で、「他の相続人」が本人を相続 → 「他の相続人」は追認拒絶できない
状況

①無権代理人Bが、Cに甲土地を売却する(無権代理行為をする)。

②無権代理人Bが死亡し、③本人AとDが共同相続する。

④その後、本人Aが死亡し、⑤Dが相続する。

質問

Dは、本人Aの資格で無権代理行為の追認を拒絶する余地はない。

○か×か?

判例

無権代理人が死亡し、本人とともに相続した者(D)が、その後、本人を相続した場合、当該相続人Dは、本人の有する追認拒絶権を行使する余地はないとしています。

理由

③で、共同相続人Dは無権代理人Bの地位を承継しており、この時点で追認拒絶できないことが確定するため。

これは深く考えず、そのまま覚えてしまった方が良いでしょう。

Aが所有する甲土地につき、Aの長男BがAに無断で同人の代理人と称してCに売却した。
3.Aが本件売買契約につき追認を拒絶した後に死亡してBが単独相続した場合、Bは本件売買契約の追認を拒絶することができないため、本件売買契約は有効となる。

3・・・誤り

①本人が追認拒絶 → ②その後、無権代理人が本人を単独相続 → ①の時点で追認拒絶=契約の効力は及ばないことが確定

本問は、無権代理人Bが無権代理行為(Cへの無断売却)を行い、その後、①本人Aが追認拒絶をしています。

この時点で、無権代理行為の効果は本人Aに及ばないことが確定します。つまり、BC間の契約は有効ではなくなります。

その後、②本人Aが死亡し、無権代理人が本人Aを相続しているので、 上記のとおり、BC間の契約は有効ではありません。

Aが所有する甲土地につき、Aの長男BがAに無断で同人の代理人と称してCに売却した。

4.Bが死亡してAが相続した場合、Aは本人の資格において本件売買契約の追認を拒絶することができるが、無権代理人の責任を免れることはできない。

4・・・正しい

●無権代理人が死亡 → 本人が単独相続 → 本人は追認拒絶できるが、無権代理人の責任は承継する

状況

選択肢1とは逆で、無権代理行為が行われた後に、無権代理人Bが死亡し、本人が単独相続した場合です。

質問

本人Aは、無権代理人の責任を免れることはできない。○か×か?

判例

本人の有する追認拒絶権を行使することはできるが、無権代理人の債務も承継するため、無権代理人の責任を免れることはできない=損害賠償債務は負います。

【関連ポイント】

本人は、無権代理人の無権代理行為について追認拒絶しても信義則に反しないため、履行拒絶はできる。

Aが所有する甲土地につき、Aの長男BがAに無断で同人の代理人と称してCに売却した。

5.Aが死亡してBがAの妻Dと共に共同相続した場合、Dの追認がなければ本件売買契約は有効とならず、Bの相続分に相当する部分においても当然に有効となるものではない。

5・・・正しい

本人が死亡 → 「無権代理人」と「他の相続人」が共同相続 → 共同相続人全員が追認しない限り、無権代理行為は有効とはならない
状況

①無権代理人Bが、Cに甲土地を売却する(無権代理行為をする)。

②本人Aが死亡し、③無権代理人BとDが共同相続する。

質問

Dの追認がなければ本件売買契約は有効とならず、
Bの相続分に相当する部分においても当然に有効となるものではない。 ○か×か?

判例

「無権代理行為を追認する権利は、その性質上相続人全員に不可分的に帰属する」としています。分かりやすくいうと、共同相続人のうち一人でも追認しない者がいた場合、追認とはならず、一部だけ有効とはならないということです。追認する場合、全員が追認しなければなりません。そして、無権代理人Bは追認拒絶することは信義則上許されないが、他の共同相続人Dは、本人Aの地位を承継し、追認拒絶することが許されます。
つまり、 Dの追認がなければ本件売買契約は有効とならず、 Bの相続分においても当然に有効となるものではないので正しいです。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問27|民法・時効

改正民法に対応済

AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合における時効の援用権者に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものの組合せはどれか。

ア Aが甲債権の担保としてC所有の不動産に抵当権を有している場合、物上保証人Cは、Aに対して債務を負っていないが、甲債権が消滅すれば同不動産の処分を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。

イ 甲債権のために保証人となったDは、甲債権が消滅すればAに対して負っている債務を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。

ウ Bの詐害行為によってB所有の不動産を取得したEは、甲債権が消滅すればAによる詐害行為取消権の行使を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。

エ Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、Aの後順位抵当権者Fは、Aの抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当しないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。

オ Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、同不動産をBから取得したGは、甲債権が消滅すれば抵当権の負担を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。

  1. ア・イ
  2. ア・エ
  3. イ・オ
  4. ウ・エ
  5. ウ・オ

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改正民法に対応済
【答え】:5

【解説】

AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、

ア Aが甲債権の担保としてC所有の不動産に抵当権を有している場合、物上保証人Cは、Aに対して債務を負っていないが、甲債権が消滅すれば同不動産の処分を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。

ア・・・正しい

●物上保証人 : 消滅時効を援用できる

結論からいうと、物上保証人Cは、Aに対して債務を負っていないが、甲債権が消滅すれば同不動産の処分(競売)を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができます。 「物上保証人は消滅時効を援用できる」とそのまま覚えて大丈夫です。

【前提知識】

まず、物上保証人とは、他人の債務のために自分の財産の上に抵当権等を設定した者を言います。

【具体例】

債権者Aが債務者Bに対して1000万円を貸したとします。Bは保証のための不動産を持っていないので、Bの親であるCが所有する土地を担保としました(土地に抵当権を設定)。この場合、Cが物上保証人です。万一、Bが期限までに1000万円を返さない場合、Aは抵当権を実行して(競売にかけて)Cの土地の競売代金からお金を回収することができます。

【注意点】

物上保証人は、保証人と異なり自分で債務を負担しません。

言い換えると、物上保証人は「債務者ではない」です。

つまり、Bがお金を返さないからといって、物上保証人Cは、Aから請求される債務を負いません。

単に土地が競売にかけられて売られてしまうだけです。

もし、この土地が400万円にしかならなくても、物上保証人Cはそれ以上の責任を負うわけではありません。

時効を援用できる当事者とは、具体的には、「取得時効により権利を取得する者」「消滅時効により義務を免れる者」を指し、さらに、消滅時効では「債務者以外に以下の4者」も含みます。

AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、

イ 甲債権のために保証人となったDは、甲債権が消滅すればAに対して負っている債務を免れる地位にあるため、甲債権につき消滅時効を援用することができる。

イ・・・正しい

●保証人 : 消滅時効を援用できる

選択肢アの通り、保証人は消滅時効を援用できるので、正しいです。これもそのまま覚えてしまって大丈夫です。

【参考知識】

時効を援用できる者とは、「時効により直接に利益を受ける者」です。選択肢アの表の1~4は、被担保債権が消滅することで、直接、利益を受ける者です。

AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、

ウ Bの詐害行為によってB所有の不動産を取得したEは、甲債権が消滅すればAによる詐害行為取消権の行使を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。

ウ・・・誤り

●詐害行為取消請求における受益者 : 消滅時効を援用できる

結論からいうと、詐害行為取消権を行使する債権者Aの被保全債権が消滅すれば、債権者Aは詐害行為取消権を行使することができなくなり、受益者Eは利益喪失を免れることができる地位にあるといえます。つまり、受益者Eは被保全債権(本問の甲債権)の消滅によって直接利益を受ける者にあたり、この債権について消滅時効を援用することができます。 「詐害行為取消請求における受益者は消滅時効を援用できる」とそのまま覚えて大丈夫です。

【前提知識】

詐害行為取消請求について具体例を出して解説します。

①AはBに100万円を貸した(Aは貸金債権を有している)。その後、弁済期が到来したにも関わらず、BはAに100万円を弁済しなかった。Bは唯一の財産である2000万円の甲地を有していたが、そのまま所有し続けると、Aに差し押さえられてしまうので、②Bは甲地をCに売却した。

この状況で、Aを債権者、Bを債務者、Cを受益者と呼びます。

※受益者は、「その行為によって利益を受けた者」という言い方もします。

ここで、AがBに100万円を貸したのは、Bが甲地を所有しており、万一返せなくても、この土地を差し押さえて、返してもらおうと期待できたからでしょう。

それにも関わらず、Bが甲地を売却してしまったら、Aは甲地を差し押さえて、100万円を回収するという事ができなくなってしまいます。それではAの利益を害するし、またBは明らかにAを害するためにこのような行為をしているわけなので、Bを保護する必要性は低いです。

※Aは貸金債権を保全したい:回収できるようにしたい→貸金債権を「被保全債権」と呼ぶ

そこで、民法では、債務者BがAを害することを知ってした行為(Cへの売却)について、債権者Aは、取り消すことができるとしています。これが「詐害行為取消権」です。具体的には、③債権者Aが裁判所に、詐害行為取消請求の訴えをし、④訴えが認められれば、取消判決となり、BC間の売買契約は取り消されます。

この「債務者BがAを害することを知ってした行為」を「詐害行為」と言います。

ただし、例外として、詐害行為について受益者Cが知らなかった場合(善意)、債権者Aは詐害行為取消権を行使できません。

そして、詐害行為(BC間の売買契約)が取消された場合、受益者Cは、反対給付(Bに支払った代金)の返還を請求することができます。

【判例】

上の事例で考えると、判例では「詐害行為取消権を行使する債権者Aの被保全債権(貸金債権)が消滅すれば、受益者Cは利益喪失を免れることができる地位にあるから、受益者は被保全債権の消滅によって直接利益を受ける者にあたり、この債権について消滅時効を援用することができる」としています。

AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、

エ Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、Aの後順位抵当権者Fは、Aの抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当しないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。

エ・・・正しい

●後順位抵当権者 : 消滅時効を援用できない

結論からいうと、後順位抵当権者は、抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当しない(反射的利益にすぎない)ため、甲債権につき消滅時効を援用することができません。「後順位抵当権者は消滅時効を援用できない」とそのまま覚えて大丈夫です。

【前提知識】

後順位抵当権者とは、一番抵当権者を基準とした場合の、二番抵当権者です。簡単に言えば、あとから抵当権を設定した者です。

①AはBに1000万円を貸し、B所有の土地に抵当権を設定した。・・・Aが1番抵当権者となる

②その後、FがBに400万円を貸し、同じ土地に抵当権を設定した。・・・Bが2番抵当権者となる

この状況で、競売にかかり、土地が1000万円で競落(落札)された場合、1番抵当権者Aが1000万円の配当を受け、2番抵当権者Fは1円も配当を受けることができません。

もし、1番抵当権者Aの①被担保債権が消滅時効にかかって、①の被担保債権が消滅したと仮定すると、1番抵当権者がいなくなり、Fが1番抵当権者となります。その結果、Fは400万円の配当を受けることができます。

【判例】 しかし、判例では、先順位抵当権者Aの被担保債権(上図の①:甲債権)が時効によって消滅し、その結果として、後順位抵当権者の順位が上がり(Fが2番抵当権者から1番抵当権者に上がり)、配当額が増加するという利益はあるが、この利益は、直接的な利益ではなく、抵当権の順位上昇によってもたらされる反射的(間接的)な利益にすぎないとして、後順位抵当権者は消滅時効を援用できないとしています。

AのBに対する甲債権につき消滅時効が完成した場合について、

オ Aが甲債権の担保としてB所有の不動産に抵当権を有している場合、同不動産をBから取得したGは、甲債権が消滅すれば抵当権の負担を免れる地位にあるが、このような利益は反射的なものにすぎないため、甲債権につき消滅時効を援用することができない。

オ・・・誤り

●抵当不動産の第三取得者 → 消滅時効を援用できる

結論から言えば、「抵当権が設定された不動産」を取得した者Gは、抵当権の被担保債権(甲債権)が消滅することで、抵当権も消滅し、競売にかけられることがなくなるという、直接的な利益を受けるため、消滅時効を援用できます。

【具体例】

AがBに対して、お金を貸し、①B所有の土地に、抵当権者をAとして抵当権を設定した、その後、②抵当権が付着した土地を、GがBから購入した。

もし、Aの被担保債権が消滅時効により消滅したら結果として、抵当権が消滅し、Gは、競売にかけられることがなくなるという直接的な利益を受けるため、Gは、消滅時効を援用できます。

※「被担保債権」とは、抵当権等によって保証されている債権を言います。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成29年・2017|問45|民法・記述

改正民法に対応済

AはBに対して100万円の売買代金債権を有していたが、同債権については、A・B間で譲渡禁止特約が付されていた。しかし、Aは、特約に違反して、上記100万円の売買代金債権をその弁済期経過後にCに対して譲渡し、その後、Aが、Bに対し、Cに譲渡した旨の通知をした。Bは、その通知があった後直ちに、Aに対し、上記特約違反について抗議しようとしていたところ、Cが上記100万円の売買代金の支払を請求してきた。この場合に、Bは、Cの請求に応じなければならないかについて、民法の規定および判例に照らし、40字程度で記述しなさい。

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改正民法に対応済 

【答え】:Bは、Cが譲渡禁止特約について悪意または重過失の場合、Cの請求に応じる必要はない。(41文字)
Bは、Cが譲渡禁止特約について善意かつ無重過失の場合、Cの請求に応じなければならない。(43字)

【解説】

質問内容は
「Bは、Cの請求に応じなければならないか」どうかです。

この点に着目して、問題を整理していきます。

譲渡人A、譲受人B、第三債務者C

  1. AはBに対して100万円の売買代金債権を有していた
  2. 同債権については、A・B間で譲渡禁止特約が付されていた。
  3. しかし、Aは、特約に違反して、上記債権をその弁済期経過後にCに対して譲渡した
  4. その後、Aが、Bに対し、Cに譲渡した旨の通知をした。
  5. Cが、Bに対して上記債権の弁済を請求してきた。

という流れです。

これは、判例を知っているかどうかを問う問題です。
民法466条3項では
譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
としています。

つまり、
Bは、Cが譲渡禁止特約について悪意または重過失の場合、Cの請求に応じる必要はない。(41文字)
となります。

逆に、下記でもよいです。

Bは、Cが譲渡禁止特約について善意かつ無重過失の場合、Cの請求に応じなければならない。(43字)


平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 人権 問33 民法:債権
問4 経済的自由 問34 民法:債権
問5 内閣 問35 民法:親族
問6 財政 問36 商法
問7 憲法の概念 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 無効な行政行為 問39 会社法
問10 執行罰 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法の判例 問55 一般知識・その他
問26 行政不服審査法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:総則 問60 著作権の関係上省略

平成29年・2017|問35|民法・相続

改正民法に対応済
遺言に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定に照らし、正しいものの組合せはどれか。

ア.15歳に達した者は、遺言をすることができるが、遺言の証人または立会人となることはできない。

イ.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書してこれに押印しなければならず、遺言を変更する場合には、変更の場所を指示し、変更内容を付記して署名するか、または変更の場所に押印しなければ効力を生じない。

ウ.公正証書によって遺言をするには、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授しなければならないが、遺言者が障害等により口頭で述べることができない場合には、公証人の質問に対してうなずくこと、または首を左右に振ること等の動作で口授があったものとみなす。

エ.秘密証書によって遺言をするには、遺言者が、証書に署名、押印した上、その証書を証書に用いた印章により封印し、公証人一人および証人二人以上の面前で、当該封書が自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述する必要があるが、証書は自書によらず、ワープロ等の機械により作成されたものであってもよい。

オ.成年被後見人は、事理弁識能力を欠いている場合には遺言をすることができないが、一時的に事理弁識能力を回復した場合には遺言をすることができ、その場合、法定代理人または3親等内の親族二人の立会いのもとで遺言書を作成しなければならない。

  1. ア・ウ
  2. ア・エ
  3. イ・ウ
  4. イ・オ
  5. エ・オ

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改正民法に対応済
【答え】:2

【解説】

ア.15歳に達した者は、遺言をすることができるが、遺言の証人または立会人となることはできない。
ア・・・正しい
15歳に達した者は、遺言をすることができます民法961条)。
これは、単独で有効な遺言を書くことができることを意味します。
また、未成年者は、遺言の証人又は立会人となることができません(民法974条1号)。つまり、15歳に達した者であっても未成年者の場合は、遺言の証人または立会人となることはできません。

よって、本肢は正しいです。

イ.自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付および氏名を自書してこれに押印しなければならず、遺言を変更する場合には、変更の場所を指示し、変更内容を付記して署名するか、または変更の場所に押印しなければ効力を生じない。
イ・・・誤り
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければなりません(民法968条1項本文)。
そして、自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じません(同条3項)。署名と押印は、どちらも行う必要があります。そのため、「署名または押印」となっているので誤りです。

ウ.公正証書によって遺言をするには、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授しなければならないが、遺言者が障害等により口頭で述べることができない場合には、公証人の質問に対してうなずくこと、または首を左右に振ること等の動作で口授があったものとみなす。
ウ・・・誤り
公正証書によって遺言をするには、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授して行う必要があります(民法969条2号)。
そして、口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、上記口授に代えなければなりません(民法969条の2の2項)。
つまり、「うなずくこと、または首を左右に振ること等の動作」だけで口授があったものとはみなされません。よって、誤りです。

エ.秘密証書によって遺言をするには、遺言者が、証書に署名、押印した上、その証書を証書に用いた印章により封印し、公証人一人および証人二人以上の面前で、当該封書が自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申述する必要があるが、証書は自書によらず、ワープロ等の機械により作成されたものであってもよい。
エ・・・正しい
秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式すべてを満たす必要があります(民法970条)。

  1. 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
  2. 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること
  3. 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること
  4. 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

証書を自書で行うことは要件となっていないので、ワープロ等の機械により作成されたものであってもよいです。

よって、本肢は正しいです。

オ.成年被後見人は、事理弁識能力を欠いている場合には遺言をすることができないが、一時的に事理弁識能力を回復した場合には遺言をすることができ、その場合、法定代理人または3親等内の親族二人の立会いのもとで遺言書を作成しなければならない。
オ・・・誤り
成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければなりません(民法973条1項)。
本肢は「法定代理人または3親等内の親族二人の立会いのもとで遺言書を作成しなければならない」となっているので誤りです。正しくは「医師二人以上立会い」が必要です


平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 人権 問33 民法:債権
問4 経済的自由 問34 民法:債権
問5 内閣 問35 民法:親族
問6 財政 問36 商法
問7 憲法の概念 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 無効な行政行為 問39 会社法
問10 執行罰 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法の判例 問55 一般知識・その他
問26 行政不服審査法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:総則 問60 著作権の関係上省略

平成29年・2017|問34|民法・不法行為

改正民法に対応済
不法行為に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 景観の良否についての判断は個々人によって異なる主観的かつ多様性のあるものであることから、個々人が良好な景観の恵沢を享受する利益は、法律上保護される利益ではなく、当該利益を侵害しても、不法行為は成立しない。
  2. 人がその品性、徳行、名声、信用などについて社会から受けるべき客観的な社会的評価が低下させられた場合だけではなく、人が自己自身に対して与えている主観的な名誉感情が侵害された場合にも、名誉毀損による不法行為が成立し、損害賠償の方法として原状回復も認められる。
  3. 宗教上の理由から輸血拒否の意思表示を明確にしている患者に対して、輸血以外に救命手段がない場合には輸血することがある旨を医療機関が説明しないで手術を行い輸血をしてしまったときでも、患者が宗教上の信念に基づいて当該手術を受けるか否かを意思決定する権利はそもそも人格権の一内容として法的に保護に値するものではないので、不法行為は成立しない。
  4. 医師の過失により医療水準に適(かな)った医療行為が行われず患者が死亡した場合において、医療行為と患者の死亡との間の因果関係が証明されなくても、医療水準に適った医療行為が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、不法行為が成立する。
  5. 交通事故の被害者が後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合には、その後遺症の程度が軽微であって被害者の現在または将来における収入の減少が認められないときでも、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害が認められる。

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改正民法に対応済
【答え】:4

【解説】

1.景観の良否についての判断は個々人によって異なる主観的かつ多様性のあるものであることから、個々人が良好な景観の恵沢を享受する利益は、法律上保護される利益ではなく、当該利益を侵害しても、不法行為は成立しない。
1・・・妥当ではない
判例によると「良好な景観に近接する地域内に居住する者が有するその景観の恵沢を享受する利益は、法律上保護に値するものと解するのが相当である」としています(最判平18.3.30)。
よって、本肢は「個々人が良好な景観の恵沢を享受する利益は、法律上保護される利益ではなく」が妥当ではありません。不法行為が成立する場合もあります。

2.人がその品性、徳行、名声、信用などについて社会から受けるべき客観的な社会的評価が低下させられた場合だけではなく、人が自己自身に対して与えている主観的な名誉感情が侵害された場合にも、名誉毀損による不法行為が成立し、損害賠償の方法として原状回復も認められる。
2・・・妥当ではない
他人の名誉を毀き損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができます(民法723条)。
そして、判例によると、
「民法723条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち「名誉感情は含まない」ものと解すべきである」としています(最判昭45.12.18)。したがって、「名誉感情が侵害された場合にも、名誉毀損による不法行為が成立し」は妥当ではありません。

3.宗教上の理由から輸血拒否の意思表示を明確にしている患者に対して、輸血以外に救命手段がない場合には輸血することがある旨を医療機関が説明しないで手術を行い輸血をしてしまったときでも、患者が宗教上の信念に基づいて当該手術を受けるか否かを意思決定する権利はそもそも人格権の一内容として法的に保護に値するものではないので、不法行為は成立しない。
3・・・妥当ではない
患者が宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有し、輸血を伴わないで肝臓の腫瘍を摘出する手術を受けることができるものと期待して入院した事案において、判例では、「このことを医師が知っており、右手術の際に輸血を必要とする事態が生ずる可能性があることを認識したにもかかわらず、ほかに救命手段がない事態に至った場合には輸血するとの方針を採っていることを説明しないで右手術を施行し、患者に輸血をしたなど

判示の事実関係の下においては、

医師は、患者が右手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪われたことによって被った精神的苦痛を慰謝すべく不法行為に基づく損害賠償責任を負う」としています(最判平12.2.29)。

よって、「患者が宗教上の信念に基づいて当該手術を受けるか否かを意思決定する権利はそもそも人格権の一内容として法的に保護に値するものではないので、不法行為は成立しない」は妥当ではありません。

4.医師の過失により医療水準に適(かな)った医療行為が行われず患者が死亡した場合において、医療行為と患者の死亡との間の因果関係が証明されなくても、医療水準に適った医療行為が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、不法行為が成立する。
4・・・妥当
判例によると、
「医師が過失により医療水準にかなった医療を行わなかったこと」と「患者の死亡」との間の因果関係の存在は証明されないけれども、右医療が行われていたならば患者がその死亡の時点において なお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は、患者が右可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う、としています(最判平12.9.22)。

つまり、本肢は妥当です。

5.交通事故の被害者が後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合には、その後遺症の程度が軽微であって被害者の現在または将来における収入の減少が認められないときでも、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害が認められる。
5・・・妥当ではない
判例によると
「交通事故による後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合においても、後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質からみて、現在又は将来における収入の減少も認められないときは、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害は認められない」としています(最判昭56.12.22)。

「後遺症の程度が軽微であって被害者の現在または将来における収入の減少が認められないとき」は「財産上の損害は認められない」ので、本肢は妥当ではありません。


平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 人権 問33 民法:債権
問4 経済的自由 問34 民法:債権
問5 内閣 問35 民法:親族
問6 財政 問36 商法
問7 憲法の概念 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 無効な行政行為 問39 会社法
問10 執行罰 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法の判例 問55 一般知識・その他
問26 行政不服審査法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:総則 問60 著作権の関係上省略

平成29年・2017|問33|民法・賃貸借

改正民法に対応済
Aは自己所有の甲機械(以下「甲」という。)をBに賃貸し(以下、これを「本件賃貸借契約」という。)、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。この事実を前提とする次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. Bは、本件賃貸借契約において、Aの負担に属するとされる甲の修理費用について直ちに償還請求することができる旨の特約がない限り、契約終了時でなければ、Aに対して償還を求めることはできない。
  2. CがBに対して甲を返還しようとしたところ、Bから修理代金の提供がなかったため、Cは甲を保管することとした。Cが甲を留置している間は留置権の行使が認められるため、修理代金債権に関する消滅時効は進行しない。
  3. CはBに対して甲を返還したが、Bが修理代金を支払わない場合、Cは、Bが占有する甲につき、動産保存の先取特権を行使することができる。
  4. CはBに対して甲を返還したが、Bは修理代金を支払わないまま無資力となり、本件賃貸借契約が解除されたことにより甲はAに返還された。本件賃貸借契約において、甲の修理費用をBの負担とする旨の特約が存するとともに、これに相応して賃料が減額されていた場合、CはAに対して、事務管理に基づいて修理費用相当額の支払を求めることができる。
  5. CはBに対して甲を返還したが、Bは修理代金を支払わないまま無資力となり、本件賃貸借契約が解除されたことにより甲はAに返還された。本件賃貸借契約において、甲の修理費用をBの負担とする旨の特約が存するとともに、これに相応して賃料が減額されていた場合、CはAに対して、不当利得に基づいて修理費用相当額の支払を求めることはできない。

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改正民法に対応済
【答え】:5

【解説】

Aは自己所有の甲機械(甲)をBに賃貸し、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。

1.Bは、本件賃貸借契約において、Aの負担に属するとされる甲の修理費用について直ちに償還請求することができる旨の特約がない限り、契約終了時でなければ、Aに対して償還を求めることはできない。

1・・・妥当ではない

●賃借物の必要費 → 貸主負担 / 直ちに償還請求できる

賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができます(民法608条)。したがって、Bが支出した甲機械の修理費用は、賃貸人Aに対して、直ちに「立て替えたお金を返してください!」と償還請求できます。

Aは自己所有の甲機械(甲)をBに賃貸し、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。

2.CがBに対して甲を返還しようとしたところ、Bから修理代金の提供がなかったため、Cは甲を保管することとした。Cが甲を留置している間は留置権の行使が認められるため、修理代金債権に関する消滅時効は進行しない。

2・・・妥当ではない

●留置しているだけでは、債権の消滅時効について、時効の完成猶予もなければ、時効の更新もしない

留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げません(民法300条)。つまり、Bが修理代金を払わないことを理由にCが甲機械を留置していたとしても、「Cの有する修理代金債権」の時効は進行し続けます。よって、誤りです。

時効の更新をするためには、裁判上の請求等が必要です。

Aは自己所有の甲機械(甲)をBに賃貸し、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。

3.CはBに対して甲を返還したが、Bが修理代金を支払わない場合、Cは、Bが占有する甲につき、動産保存の先取特権を行使することができる。

3・・・妥当ではない

●先取特権 → 債務者の財産から弁済を受ける権利
【先取特権とは】

先取特権とは、別の債権より優先して、先に弁済を受け取ることができる権利です。そして、先取特権は担保物権の中の一つで、その中でも法定担保物権の一つです(留置権も法定担保物権)。つまり、抵当権などとは異なり、当事者間で設定契約をしなくても、法律上一定の事由があれば当然に発生するものです。

【本問】

先取特権者は、債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有します(民法303条)。本問の場合、「債務者はB」です。そして、甲機械は、債務者Bの財産ではなく、「Aの財産」です。よって、甲機械につき、動産保存の先取特権を行使することができません。

【動産保存の先取特権とは】

動産の価値を維持するための行為をして債権を得た場合、その動産に付着するのが動産の先取特権です。本問のように、動産を修理した場合、動産の価値を維持するための行為をしています。そのため修理代金をもらっていない場合、その動産に、先取特権が付着します。ただし、要件としては、債務者所有の動産でなければいけません。

Aは自己所有の甲機械(甲)をBに賃貸し、その後、本件賃貸借契約の期間中にCがBから甲の修理を請け負い、Cによる修理が終了した。

4.CはBに対して甲を返還したが、Bは修理代金を支払わないまま無資力となり、本件賃貸借契約が解除されたことにより甲はAに返還された。本件賃貸借契約において、甲の修理費用をBの負担とする旨の特約が存するとともに、これに相応して賃料が減額されていた場合、CはAに対して、事務管理に基づいて修理費用相当額の支払を求めることができる。

4・・・妥当ではない

●事務管理の成立要件の一つ : 管理者に法律上の義務がないこと

本問を見ると、CはBから甲の修理を請け負っています。

つまり、請負契約を締結していることから、Cは甲機械を管理する義務を負います。よって、事務管理は成立しません。

したがって、事務管理に基づいて修理費用相当額の支払を求めることができません。よって、誤りです。

【前提知識】

事務管理とは、法律上の義務がない(契約がない)のに、他人のためにその事務を処理することを言います。

そして、事務管理にあたり、管理者が、本人のために、有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができます。

【具体例】

隣家の人Xが1ヶ月海外旅行に行っている間に台風が来て、隣家の屋根が飛ばされたとします。天気予報では大雨が長期間続くことから、あなたYはXから頼まれていないが、工務店に屋根の修理を頼みました。 この場合、あなたYを「(事務)管理者」で、Xを「本人」と呼びます。

5.CはBに対して甲を返還したが、Bは修理代金を支払わないまま無資力となり、本件賃貸借契約が解除されたことにより甲はAに返還された。本件賃貸借契約において、甲の修理費用をBの負担とする旨の特約が存するとともに、これに相応して賃料が減額されていた場合、CはAに対して、不当利得に基づいて修理費用相当額の支払を求めることはできない。

5・・・妥当

●不当利得の成立要件の一つ : 利益に法律上の原因がないこと
【前提知識】

不当利得とは、法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(受益者)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負います(民法703条)。

【判例】

本問の事例で、甲機械の所有者Aは、④法律上の原因がなく利益を受けたかが問題となります。今回の場合、「修理費用をBの負担(Aの利益)」とする代わりに、「賃料を減額(Aの損失)」していたのだから、Aは「対価関係なしに利益を受けた」とはいえないとしています。Aは損失を被って、それを「原因」として、利益を受けているので、「利益に法律上の原因があり」、単に利益だけを受けているわけではないので、不当利得は成立しないと判示しています。

よって、CはAに対して、不当利得に基づいて修理費用相当額の支払を求めることはできません。


平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 人権 問33 民法:債権
問4 経済的自由 問34 民法:債権
問5 内閣 問35 民法:親族
問6 財政 問36 商法
問7 憲法の概念 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 無効な行政行為 問39 会社法
問10 執行罰 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法の判例 問55 一般知識・その他
問26 行政不服審査法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:総則 問60 著作権の関係上省略

平成29年・2017|問32|民法・連帯債務

改正民法に対応済

共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務(以下「本件貸金債務」という。)を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。この事実を前提とする次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. 本件貸金債務につき、融資を受けるに際してAが法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤に陥っており、錯誤に基づく取消しを主張してこれが認められた場合であっても、これによってBが債務を免れることはない。
  2. 本件貸金債務につき、A・C間の更改により、AがCに対して甲建物を給付する債務に変更した場合、Bは本件貸金債務を免れる。
  3. 本件貸金債務につき、弁済期到来後にAがCに対して弁済の猶予を求め、その後更に期間が経過して、弁済期の到来から起算して時効期間が満了した場合に、Bは、Cに対して消滅時効を援用することはできない。
  4. 本件貸金債務につき、Cから履行を求められたAが、あらかじめ共同の免責を得ることをBに通知することなくCに弁済した。その当時、BはCに対して500万円の金銭債権を有しており、既にその弁済期が到来していた場合、BはAから500万円を求償されたとしても対抗することができる。
  5. 本件貸金債務につき、AがCに弁済した後にBに対してその旨を通知しなかったため、Bは、これを知らずに、Aに対して事前に弁済する旨の通知をして、Cに弁済した。この場合に、Bは、Aの求償を拒み、自己がAに対して500万円を求償することができる。

>解答と解説はこちら


改正民法に対応済
【答え】:3

【解説】

1.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、融資を受けるに際してAが法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な錯誤に陥っており、錯誤に基づく取消しを主張してこれが認められた場合であっても、これによってBが債務を免れることはない。

1・・・妥当
●連帯債務 → 弁済・相殺・混同・更改の4つは絶対効で、それ以外は相対効

●錯誤による取消しは相対効 : 連帯債務者の一人が錯誤による取消しが認められると、その者は債務者から外れ、他の債務者が単独で債務負う

①AがCに対して、錯誤により取消しを主張し、それが認められた場合、②Aの債務はなかったことになります。この場合、Bの債務はどうなるかというと、「錯誤による取消し」は、相対効なので、「錯誤による取消しの効果(=債務がなかったことになる)」は、他の連帯債務者Bにはが生じません。つまり、Bの債務はなかったことにはならず、Bが単独で1000万円の債務を負います。

2.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、A・C間の更改により、AがCに対して甲建物を給付する債務に変更した場合、Bは本件貸金債務を免れる。

2・・・妥当
●連帯債務 → 弁済・相殺・混同・更改の4つは絶対効で、それ以外は相対効

●更改は絶対効 : 連帯債務者の一人との間で更改を行い、旧債務を消滅させると、他の債務者の債務も消滅する

「更改」とは、新しい契約によって、旧契約を消滅させる行為を言います。つまり、今回の事例でいうと、AC間で、新しい契約(AがCに対して甲建物を給付する契約)を締結することで、以前の契約(AがCに対して1000万円を返済する契約)を消滅させることを言います。そして、更改は絶対効です。そのため①更改をすることで、②Aの1000万円の貸金債務は消滅します。その結果、③Bの貸金債務も消滅します。

※ Aの新しい契約( AがCに対して甲建物を給付する契約)のみ残ります。Bの債務はありません。

3.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、弁済期到来後にAがCに対して弁済の猶予を求め、その後更に期間が経過して、弁済期の到来から起算して時効期間が満了した場合に、Bは、Cに対して消滅時効を援用することはできない。

3・・・妥当ではない
●連帯債務 → 弁済・相殺・混同・更改の4つは絶対効で、それ以外は相対効

●弁済の猶予の請求(=債務の承認)は相対効 : 連帯債務者の一人が債務の承認により、時効が更新しても、他の連帯債務者は、時効の更新の効果は生じない

「弁済の猶予を求める」とは、「弁済期限を延長してください!」と主張することで、これは自らの「債務を承認」していることになります。「債務の承認(原因)」をすることで、「時効が更新(効果)」します。そのため①AがCに対して弁済の猶予を求めることにより、②Aの債務の時効が更新します。「債務の承認」は相対効なので、③Bの時効は更新しません。したがって、Bの時効は弁済期の到来から起算して進行し続けるため、時効期間が満了によって、Bは、Cに対して消滅時効を援用することができます(時効期間満了による債務の消滅を主張できる)。

4.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、Cから履行を求められたAが、あらかじめ共同の免責を得ることをBに通知することなくCに弁済した。その当時、BはCに対して500万円の金銭債権を有しており、既にその弁済期が到来していた場合、BはAから500万円を求償されたとしても対抗することができる。

4・・・妥当
●共同の免責を得ることを他の連帯債務者Bに通知することなく、Aが弁済等をした → 他の連帯債務者は債権者に対抗することができる事由(相殺できる権利等)を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってAに対抗することができる

「共同の免責を得る」とは、他の債務者の債務を消滅・減少させたことを言います。具体的には、弁済・相殺・混同・更改をした場合です。この場合、絶対効なので、他の連帯債務者の債務は消滅したり減少したりします。

本問の「Cから履行を求められたAが、あらかじめ共同の免責を得ることをBに通知することなくCに弁済した」とは、AがCに弁済する前に、その旨をBに伝えていなかった場合です。Aは弁済することで、他の連帯債務者Bに対して求償権を持つが、もし、他の連帯債務者Bが反対債権を有していた場合、Bは負担部分(本問の場合500万円)を限度に、Aに対抗することができます。つまり、Bは500万円を限度にAからの求償を拒むことができます(民法443条)。

理解 連帯債務者が弁済等をする場合、他の連帯債務者に通知をするようにして、二重に弁済しないようにしています。

例えば、下図のようにBがCに対して500万円の反対債権を有しており、AがBに通知することなく1000万円を弁済したとします。この場合、AはBに対して500万円を求償できる権利を持ちますが、Bは、通知を受けていないため、求償を拒むことができます。その後、Bが500万円の反対債権で相殺をした場合、債権者Cの立場に立つと、Aから1000万円の弁済を受け、Bから500万円の弁済(相殺)を受けています。つまり、1000万円を貸して、1500万円の弁済を受けることになります。そのため、AはBに対して有していた求償権500万円をCに対して主張し、AはCから500万円を返してもらう流れになります。

5.共同事業を営むAとBは、Cから事業資金の融資を受けるに際して、共に弁済期を1年後としてCに対し連帯して1,000万円の貸金債務を負担した(負担部分は2分の1ずつとする。)。

本件貸金債務につき、AがCに弁済した後にBに対してその旨を通知しなかったため、Bは、これを知らずに、Aに対して事前に弁済する旨の通知をして、Cに弁済した。この場合に、Bは、Aの求償を拒み、自己がAに対して500万円を求償することができる。

5・・・妥当
●弁済をした連帯債務者Aが、他の連帯債務者Bがあることを知りながら他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が「善意」で弁済等をしたときは、当該他の連帯債務者Bは、弁済等の行為を有効とみなすことができる

具体例  AがCに1000万円を弁済する前に、Bにその旨を通知しなかったため、Bは、これを知らずに、Aに対して事前に弁済する旨の通知をして、Cに1000万円を弁済した。この場合に、何も知らずに二重に弁済してしまったBを保護する必要があります。そのため、Bは、Aからの求償を拒み、Bの1000万円の弁済が有効となるため、BがAに対して500万円を求償することができます。よって、本問は正しいです。

そして、この場合、その後どうなるのか?債権者Cの立場からすると、1000万円の債権に対して、2000万円の弁済を受けているので1000万円余分にもらっています。一方、Aは、1000万円弁済した上に、Bに対して500万円も支払っています。結果として負担部分500万円にも関わらず、1500万円を支払っていることになり、1000万円を余分に支払っています。

よって、CはAに1000万円を返還することになります。


平成29年度(2017年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 人権 問33 民法:債権
問4 経済的自由 問34 民法:債権
問5 内閣 問35 民法:親族
問6 財政 問36 商法
問7 憲法の概念 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 無効な行政行為 問39 会社法
問10 執行罰 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・社会
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法の判例 問55 一般知識・その他
問26 行政不服審査法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:総則 問60 著作権の関係上省略