改正民法に対応済
【答え】:4
【解説】
1.Aは、自己所有の土地(更地)に抵当権を設定した後に、その土地上に建物を建築したが、抵当権の被担保債権について弁済をすることができなかった。この場合において、抵当権者が抵当権を実行して土地を競売すると、この建物のために法定地上権は成立せず建物は収去されなければならなくなることから、抵当権者は、土地とその上の建物を一括して競売しなければならない。
1・・・妥当ではない
●更地に抵当権を設定した場合、法定地上権を満たさない
●一括競売をすることはできる(任意)

法定地上権の成立要件は、下表のとおりです。
法定地上権の成立要件
その中の①に「抵当権設定当時、土地上に建物が存在すること」があります。つまり、更地に抵当権を設定した場合、抵当権設定当時、建物が存在していないので、法定地上権の成立要件を満たしません。よって、「抵当権者が抵当権を実行して土地を競売すると、この建物のために法定地上権は成立せず建物は収去されなければならなくなる」という記述は正しいです。
この場合、更地の抵当権者は、土地だけでなく、「抵当権のついていない建物」も一緒に競売にかけることができます。これを「一括競売」と言います。この一括競売は、「必ずしなければならない(義務)」ではなく、任意です。よって、誤りです。
【一括競売できる理由(覚えなくてもよい)】
更地に抵当権を設定した後に建物が建てられた場合、一括競売制度がなければ、下記のような不都合が生じるからです。
建物については法定地上権が生じないため、土地所有者(土地の競落人)から建物収去請求される可能性があります。そうなると、「①建物を解体することになり、社会経済的損失が大きい」です。また、②建物収去請求するなどの紛争の問題が出てきて、解決が面倒となります。そのため、一括競売のルールがあります。
建物を売却される建物所有者としては、建物の代金は手に入るので、大きな不利益は被りません。
2.AがBから土地を借りてその土地上に建物を所有している場合において、Bは、その土地上に甲抵当権を設定したが、Aから建物を取得した後に、さらにその土地に乙抵当権を設定した。その後、Bは、甲抵当権の被担保債権について弁済したので甲抵当権は消滅したが、乙抵当権の被担保債権については弁済できなかったので、乙抵当権が実行され、その土地は買受人Cが取得した。この場合、この建物のために法定地上権は成立しない。
2・・・妥当ではない
●土地について「1番抵当権」と「2番抵当権」が設定された後、1抵当権が消滅し、その後、2番抵当権の実行により、土地と建物の所有者が異なることとなった場合、2抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一であれば、法定地上権は成立する
【問題文の状況】 問題文の状況は下図の通りです。

【判例】 判例によると『土地に「先順位の甲抵当権」と「後順位の乙抵当権」が設定された後、甲抵当権が消滅し、残された乙抵当権の実行により、土地と建物の所有者が異なることとなった場合、乙抵当権設定時に土地と建物の所有者が同一であれば、法定地上権は成立する』としています。
【理由】 「法定地上権が成立する」ということは、土地の抵当権者乙にとっては不利益です。なぜなら、土地の競落人は土地を使えないため、土地を買いたい人が減るからです。これを前提に考えます。
乙抵当権設定当時、土地と建物の所有者が同一なので、これによる法定地上権成立(デメリット)も予測できていたと考えます。そのため、法定地上権が成立することを認めても、乙抵当権者に不測の損害を与えるものとはいえないから法定地上権の成立を認めています。
3.AがBから土地を借りてその土地上に建物を所有している場合において、Aは、その建物上に甲抵当権を設定したが、Bから土地を取得した後に、さらにその建物に乙抵当権を設定した。その後、Aは、甲抵当権の被担保債権について弁済できなかったので、甲抵当権が実行され、その建物は買受人Cが取得した。この場合、この建物のために法定地上権は成立しない。
3・・・妥当ではない
●建物に1番抵当権が設定された当時、土地と建物の所有者は異なっていたが、2番抵当権が設定された当時土地と建物の所有者が同一であった。この状況で抵当権が実行された場合、法定地上権は成立する
【問題文の状況】 問題文の状況は下図の通りです。

【判例】 判例によると「建物に1番抵当権が設定された当時、土地と建物の所有者は異なっていたが、2番抵当権が設定された当時土地と建物の所有者が同一であった。この状況で抵当権が実行された場合、法定地上権は成立する」としています。
【理由】 1番抵当権設定当時、土地と建物の所有者は異なっています。そのため、1番抵当権者甲は、法定地上権は成立しないと予測しています。その後、2番抵当権設定当時に、土地と建物の所有者が同一なので、この時点を判断基準として、法定地上権を認めたとしても、1番抵当権者に不利益は生じることはなく、利益があります。なぜなら、建物競落人Cは、建物を収去しなくて済むため、競売に出しても落札されやすくなるから。つまり、建物抵当権者甲やその競落人Cに有利になる解釈をしています。
【上記事例は建物だが、土地の場合どうなるか?】
土地に1番抵当権が設定された当時、土地と建物の所有者は異なっていたが、2番抵当権が設定された当時土地と建物の所有者が同一であった。この状況で抵当権が実行された場合、法定地上権は成立しない

【理由】 1番抵当権者甲は法定地上権が成立しない(メリット・利益がある)
と予測して、抵当権を設定しています。法定地上権が成立しないということは競売後、建物を収去させることができ、土地買受人にとっては土地を使いやすいメリット・利益があります。そのため、1番抵当権者の利益を奪うことができないため、法定地上権は成立しないとしています。
4.Aが自己所有の土地と建物に共同抵当権を設定した後、建物が滅失したため、新たに建物を再築した場合において、Aが抵当権の被担保債権について弁済することができなかったので、土地についての抵当権が実行され、その土地は買受人Bが取得した。この場合、再築の時点での土地の抵当権が再築建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事由のない限り、再築建物のために法定地上権は成立しない。
4・・・妥当
●土地と建物に共同抵当権が設定 → 建物が滅失し、新しい建物を新築 → 特段の事情がなければ、新しい建物に法定地上権は成立しない
【問題文の状況】 問題文の状況は下図の通りです。

【判例】 判例によると「土地と建物に共同抵当権が設定後、建物が取り壊され、新しい建物を新築した場合、①新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、②新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない」としています。つまり、 土地と建物に共同抵当権が設定後、建物が取り壊され、新しい建物を新築した場合、①新築建物の所有者がAで、かつ、②新建物に、土地と同順位の共同抵当権を再度設定すれば、法定地上権は成立するが、そういった特段の事情がなければ、法定地上権は成立しません。
【理由】 新しい建物に抵当権を設定しなかったのは、抵当権者が、「法定地上権が成立しない更地」として担保価値を認めていたと予測できるので、法定地上権の成立を認めると、抵当権者に不測の損害を被る結果となるから。
5.AとBが建物を共同で所有し、Aがその建物の敷地を単独で所有している場合において、Aがその土地上に抵当権を設定したが、抵当権の被担保債権について弁済できなかったので、その抵当権が実行され、その土地は買受人Cが取得した。この場合、この建物のために法定地上権は成立しない。
5・・・妥当ではない
●建物共有・土地単独所有で、単独所有の土地に抵当権設定 → 法定地上権は成立する
【問題文の状況】 問題文の状況は下図の通りです。

【判例】 判例によると「建物の共有者の一人Aが、その建物の敷地たる土地を単独で所有する場合においては、Aは、自己のみならず他の建物共有者Bのためにも土地の利用を認めているものというべきであるから、Aが土地に抵当権を設定し、この抵当権の実行により、第三者Cが土地を競落したときは、抵当権設定当時にAが土地および建物を単独で所有していた場合と同様、右土地に法定地上権が成立する」としています。
【理由】 建物の共有者Bに不測の損害が生じないようにするためです。もし「法定地上権が成立しない」ならば、土地の競落人Cからの建物収去請求等により、Bは建物の取り壊しを余儀なくされます。それを防ぐために、法定地上権の成立を認めています。
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