2012年過去問

平成24年・2012|問34|不法行為

改正民法に対応済

不法行為に基づく損害賠償に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。

ア Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車と衝突して、Bの自動車の助手席に乗っていたBの妻Cを負傷させ損害を生じさせた。CがAに対して損害賠償請求をする場合には、原則としてBの過失も考慮される。

イ Aの運転する自動車と、Bの運転する自動車が、それぞれの運転ミスにより衝突し、歩行中のCを巻き込んで負傷させ損害を生じさせた。CがBに対して損害賠償債務の一部を免除しても、原則としてAの損害賠償債務に影響はない。

ウ A社の従業員Bが、A社所有の配達用トラックを運転中、運転操作を誤って歩行中のCをはねて負傷させ損害を生じさせた。A社がCに対して損害の全額を賠償した場合、A社は、Bに対し、事情のいかんにかかわらずCに賠償した全額を求償することができる。

エ Aの運転する自動車が、見通しが悪く遮断機のない踏切を通過中にB鉄道会社の運行する列車と接触し、Aが負傷して損害が生じた。この場合、線路は土地工作物にはあたらないから、AがB鉄道会社に対して土地工作物責任に基づく損害賠償を請求することはできない。

オ Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車に追突してBを負傷させ損害を生じさせた。BのAに対する損害賠償請求権は、Bの負傷の程度にかかわりなく、また、症状について現実に認識できなくても、事故により直ちに発生し、5年で消減時効にかかる。(改)

  1. ア・イ
  2. ア・エ
  3. イ・オ
  4. ウ・エ
  5. ウ・オ

>解答と解説はこちら

改正民法に対応済

【答え】:1

【解説】

ア Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車と衝突して、Bの自動車の助手席に乗っていたBの妻Cを負傷させ損害を生じさせた。CがAに対して損害賠償請求をする場合には、原則としてBの過失も考慮される。

ア・・・妥当

被害者の過失→被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失を含む

被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができます(民法722条2項)。

判例 判例では、「被害者の過失」について、被害者だけでなく、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失を含むとしています。

本問 「CがAに対して損害賠償請求をする場合」なので、被害者をCととらえて、被害者Cだけでなく、「Cの夫B」の過失も考慮して損害賠償額を定めます。

イ Aの運転する自動車と、Bの運転する自動車が、それぞれの運転ミスにより衝突し、歩行中のCを巻き込んで負傷させ損害を生じさせた。CがBに対して損害賠償債務の一部を免除しても、原則としてAの損害賠償債務に影響はない。

イ・・・妥当

●共同不法行為 → 連帯債務 → 免除は相対効

「弁済」「相殺」「混同」「更改」を除いて

連帯債務者の一人について生じた事由は、

他の連帯債務者に対してその効力を生じない(民法441条)。

そのため、CがBの債務の一部を免除した場合、Bの債務は一部免除されるが、Cの債務は免除されません。

言い換えると、原則としてAの損害賠償債務に影響はないので正しいです。

関連ポイント 免除を受けたとしても、これは、債権者Cとの関係であり、他の連帯債務者A社との関係では求償関係は残ります(民法445条)。つまり、A社が賠償すれば、被用者Bに求償することができます。

■連帯債務の絶対効の語呂合わせ

弁当の惣菜、今度は後悔」 (弁:弁済/惣菜:相殺/今度:混同/後悔:更改)

ウ A社の従業員Bが、A社所有の配達用トラックを運転中、運転操作を誤って歩行中のCをはねて負傷させ損害を生じさせた。A社がCに対して損害の全額を賠償した場合、A社は、Bに対し、事情のいかんにかかわらずCに賠償した全額を求償することができる。

ウ・・・妥当でない

●使用者が賠償した場合、損害の公平な分担という見地から信義則上「相当と認められる限度」で従業員に求償できる(加害者の故意または過失は関係ない

本問は、使用者A社が「使用者責任」を負うことを前提として、全額を被害者Cに賠償した場合の内容となっています。

使用者A社が被害者Cに損害賠償金を支払った場合(=Aが使用者としての損害賠償責任を負担した場合)、使用者Aは被用者B(加害者)に対して求償することができますが、使用者が被用者に無制限に求償することはできず、判例では、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」、使用者Aは被用者Bに対して求償することができるとしています。「事情のいかんにかかわらずCに賠償した全額を求償することができる」が誤りです。

被用者Bに故意または重大な過失があったときに限らず、賠償した使用者Aは、Bに求償できます。

※ 「相当と認められる限度」のイメージとしては、使用者Aの管理がしっかりしていないことで不法行為(例えば、過失による事故)が生じた場合は、従業員Bに対して求償できる金額は小さくなり、逆に従業員個人Bの責任が大きい場合は、従業員Bに対して求償できる額は大きくなるといった感じです。

【関連ポイント】

もし、被用者Bが賠償した場合、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」、被用者Bは、使用者Aに対して求償することができる(賠償した者が使用者Aであっても被用者Bであっても、考え方は同じということ)

エ Aの運転する自動車が、見通しが悪く遮断機のない踏切を通過中にB鉄道会社の運行する列車と接触し、Aが負傷して損害が生じた。この場合、線路は土地工作物にはあたらないから、AがB鉄道会社に対して土地工作物責任に基づく損害賠償を請求することはできない。
エ・・・妥当ではない
●線路 → 工作物に当たる → 設置・保存に瑕疵があれば、工作物責任が問われる土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、①初めに工作物の占有者が責任を問われ、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていないときは、占有者が損害賠償し、②占有者が必要な注意をしていたときは、所有者がその損害を賠償しなければなりません(民法717条)。

争点 線路は工作物に当たるか?

判例 判例では、「鉄道の軌道施設(線路や踏切)も工作物にあたり、線路や踏切の設置に瑕疵がある場合、工作物責任を問われる」としています。

本問 本問の場合、線路は土地工作物にはあたるため、被害者Aは、B鉄道会社に対して土地工作物責任に基づく損害賠償を請求することはできます。

オ Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車に追突してBを負傷させ損害を生じさせた。BのAに対する損害賠償請求権は、Bの負傷の程度にかかわりなく、また、症状について現実に認識できなくても、事故により直ちに発生し、5年で消減時効にかかる。(改)

オ・・・妥当でない

●事故当初予測できなかった後遺症が現れ、治療が必要となった場合 → 後日その治療を受けるようになるまでは、当該治療費(損害)については、時効は進行しない

不法行為による損害賠償の請求権は被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないとき、時効によって消滅します(民法724条1号)。

判例 加害者も分かっている状況で、被害者が不法行為に基づく損害の発生を知ったのであれば、原則、その時から時効は進行を開始する。しかし、判例では、「受傷時から相当期間経過後に後遺症が現われ、そのため受傷時においては医学的にも通常予想しえなかったような治療方法が必要とされ、右治療のため費用を支出することを余儀なくされるに至ったときは、後日その治療を受けるようになるまでは、右治療に要した費用すなわち損害については、時効は進行しないものと解する」としています。

具体例 事故が起きてから、1年後に、当初予測できなかった後遺症が現れ、治療が必要となった場合、その治療費(損害)については、治療を受けるようになるまでは時効は開始せず、治療を受けることになってから時効が進行するということです。つまり、この具体例でいえば、事故から約4年間、治療費請求権の時効期間があるということです。

不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(物損)

  1. 被害者又はその法定代理人が「損害」及び「加害者」を知った時から3年間行使しないとき
  2. 不法行為の時から20年間行使しないとき
1については、「損害」と「加害者」の双方を知った時から時効が進行し始める。どちらか一方しか知らないときは、1について時効は開始しません。

不法行為に基づく人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効(人損)

  1. 被害者又はその法定代理人が「損害」及び「加害者」を知った時から5年間行使しないとき
  2. 不法行為の時から20年間行使しないとき
1について、人の生命または身体を害する不法行為の場合、保護する必要性が高いため、5年間に延長される


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

平成24年・2012|問33|賃貸借

改正民法に対応済

Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し(以下、この賃貸借を「本件賃貸借」という。)、その際、BがAに対して敷金(以下、「本件敷金」という。)を交付した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 本件賃貸借において、Bが甲建物のために必要費および有益費を支出した場合、特約がない限り、Bはこれらの費用につき、直ちにAに対して償還請求することができる。
  2. BがAの承諾を得て本件賃貸借に基づく賃借権をCに譲渡した場合、特段の事情がない限り、AはBに対して本件敷金を返還しなければならない。
  3. BがAの承諾を得て甲建物をDに転貸したが、その後、A・B間の合意により本件賃貸借が解除された場合、B・D間の転貸借が期間満了前であっても、AはDに対して甲建物の明渡しを求めることができる。
  4. BがAの承諾を得て甲建物をEに転貸したが、その後、Bの賃料不払いにより本件賃貸借が解除された場合、B・E間の転貸借が期間満了前であれば、AはEに対して甲建物の明渡しを求めることはできない。
  5. AがFに甲建物を特段の留保なく売却した場合、甲建物の所有権の移転とともに賃貸人の地位もFに移転するが、現実にFがAから本件敷金の引渡しを受けていないときは、B・F間の賃貸借の終了時にFはBに対して本件敷金の返還義務を負わない。

>解答と解説はこちら

改正民法に対応済

【答え】:2

【解説】

Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し、その際、BがAに対して敷金を交付した。

1.本件賃貸借において、Bが甲建物のために必要費および有益費を支出した場合、特約がない限り、Bはこれらの費用につき、直ちにAに対して償還請求することができる。

1・・・妥当ではない

●必要費 → 賃貸人負担 → 「直ちに」償還請求できる

●有益費 → 賃貸人負担 → 「賃貸借終了時に」償還請求できる

賃貸借における必要費 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、

直ちその償還を請求することができます(民法608条1項)。この点は正しいです。

対比:使用貸借における必要費 「借用物の通常の必要費」は借主が負担します(595条1項)。つまり、借主は貸主に償還請求できません。

賃貸借における有益費 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、償還をしなければなりません。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができます(2項)。本問は、「有益費」について「直ちに」償還できるとなっているので誤りです。

対比:使用貸借における有益費 賃貸借同様、貸主側が負担するのですが、償還期限については、規定されていません。

Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し、その際、BがAに対して敷金を交付した。

2.BがAの承諾を得て本件賃貸借に基づく賃借権をCに譲渡した場合、特段の事情がない限り、AはBに対して本件敷金を返還しなければならない。

2・・・妥当

●賃貸借契約期間中に賃借人が変更した賃借権譲渡した)場合、敷金返還請求権は、原則、新賃借人には「承継されない」

賃貸人Aの承諾を得て賃借権が譲渡された場合でも、敷金返還請求権は、新賃借人Cには、原則として承継されません。つまり、新たな賃借人Cは、原則、退去後に、敷金を返還してもらうことはできません。

(下表の一番下の行参照)

※賃貸借契約期間終了後に、賃借人B(契約期間が終了しているので元賃借人になります)がずっと住み続けて、明渡し前に、建物譲渡により賃貸人が変わった場合は、旧所有者Aと新所有者C(新賃貸人)で合意したとしても、敷金返還義務は新所有者Cに承継しません。つまり、敷金は、AがCに対して返還する必要があります。

そして、賃借人Bが適法に賃借権を譲渡したときは賃貸人Aは、賃借人Bに、未払い賃料などの債務の額を差し引いて(控除して)、敷金を返還しなければなりません(民法622条の2の1項2号)。

【考え方】もともと敷金を預け入れる理由は、自分(B)の債務不履行を保証するためです。新賃借人Cの債務不履行を保証する責任は元賃借人Bにはありません。そのため、敷金返還請求権はDに承継されず、元賃借人Bは賃貸人Aに敷金の返還を請求できます

Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し、その際、BがAに対して敷金を交付した。

3.BがAの承諾を得て甲建物をDに転貸したが、その後、A・B間の合意により本件賃貸借が解除された場合、B・D間の転貸借が期間満了前であっても、AはDに対して甲建物の明渡しを求めることができる。

3・・・妥当でない

●賃貸借契約が「合意解除」された場合、賃貸人Bは転借人Dに、賃貸借契約の終了を対抗できない

賃貸人と賃借人とが賃貸借契約を合意解除しても、特段の事情がない限り、賃貸人は転借人に対してこの合意解除の効果を主張できません(民法613条3項本文)。そのため、転貸借契約は当然(当たり前)には終了しません。どういうことかというと、賃貸借契約期間中にAB間の話合いによって、AB間の賃貸借契約を解除した場合、勝手にAB間で解除しているので、賃貸人Bは「賃貸借契約が終了したから、Dさん建物を返して!」と主張することはできないということです。つまり、転貸借契約は当然には終了しないです。(下表①参照)

Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し、その際、BがAに対して敷金を交付した。

4.BがAの承諾を得て甲建物をEに転貸したが、その後、Bの賃料不払いにより本件賃貸借が解除された場合、B・E間の転貸借が期間満了前であれば、AはEに対して甲建物の明渡しを求めることはできない。

4・・・妥当ではない

●賃貸借契約が「債務不履行で解除」された場合、賃貸人が転借人に目的物の返還を請求したとき、転貸借契約は終了

図は選択肢3と同じで、転借人がDからEに変更となります。解除の原因が「Bの債務不履行」となります。そして、AB間の賃貸借契約がBの債務不履行(例:Bの賃料不払い)で解除された場合、賃貸人Aが転借人Eに目的物の返還を請求したとき転貸借契約は終了します。つまり、AはEに対して甲建物の明渡しを求めることはできます。よって、誤りです。

転借人Eは、AE間の転貸借契約に基づく転借権を賃貸人Aに対抗することができません(民法613条3項ただし書き)。(上表③参照)

そして、判例では、賃貸借契約を解除する際に、転借人Eに対して支払の機会を与える必要はないとしている点も覚えましょう。

Aは自己所有の甲建物をBに賃貸し、その際、BがAに対して敷金を交付した。

5.AがFに甲建物を特段の留保なく売却した場合、甲建物の所有権の移転とともに賃貸人の地位もFに移転するが、現実にFがAから本件敷金の引渡しを受けていないときは、B・F間の賃貸借の終了時にFはBに対して本件敷金の返還義務を負わない。

5・・・妥当でない

●賃貸借契約期間中に賃貸人が変更した場合、敷金返還債務は新賃貸人に承継される

賃貸人Aが賃貸借契約期間中に建物をF(新賃貸人)に譲渡し、所有権移転登記を経た場合は、賃借人Bの同意がなくても、敷金返還債務は旧賃貸人Aから新賃貸人Fに承継されます。

つまり、B・F間の賃貸借の終了時に、新賃貸人FはBに対して敷金の返還義務を負います。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

平成24年・2012|問32|無償契約

改正民法に対応済

無償契約に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。すべて選べ。

  1. 定期の給付を目的とする贈与は、贈与者または受贈者の死亡によって、その効カを失う。
  2. 贈与契約においては対価性を維持する必要がないため、特別の定めがなければ、目的物に瑕疵があったとしても、贈与者は、目的物が特定した時の状態で引き渡し、又は移転すれば足りる。 (改)
  3. 使用貸借においては、借用物の通常の必要費については借主の負担となるのに対し、有益費については貸主の負担となり、その償還の時期は使用貸借の終了時であり、貸主の請求により裁判所は相当の期限を許与することはできない。
  4. 委任が無償で行われた場合、受任者は委任事務を処理するにあたり、自己の事務に対するのと同一の注意をもってこれを処理すればよい。
  5. 寄託が無償で行われた場合、受寄者は他人の物を管理するにあたり、善良なる管理者の注意をもって寄託物を保管しなければならない。

>解答と解説はこちら

改正民法に対応済

【答え】:1と2

【解説】

1.定期の給付を目的とする贈与は、贈与者または受贈者の死亡によって、その効カを失う。

1・・・妥当

●定期贈与 → 贈与者または受贈者の死亡により終了

定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失います(民法552条)。

具体例 定期贈与とは、一定期間において一定額の給付を目的とする贈与です。例えば、「年に一回100万円を贈与し、20年かけて2000万円をあげます」というような贈与契約で、贈与者または受贈者のどちらかが死亡した場合、効力を失い、その契約の効力は相続人には及びません。(=定期贈与契約は相続されない)

理由 定期贈与は、贈与者が「受贈者がこの人だから」一定期間、一定額を贈与しようと思って贈与している場合がほとんどです。つまり、この人(受贈者)だからこそ、定期贈与しているのであって、その相続人に贈与してあげようとは思っていません。 逆に、贈与者が死亡した場合、贈与者は好意で定期贈与していたわけで、一定期間という長い期間贈与しなければならない義務を相続人にまで押し付けるのは妥当ではないので、贈与者死亡によっても定期贈与は終了します。

2・・・妥当

●贈与者の引渡義務 → 贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転をすればよい

贈与者の引渡義務 → 贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転をすればよい

贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定します(民法551条)。つまり、贈与する物を特定した時に既に瑕疵があったとしても、原則、その瑕疵について責任は負わず、その物を受贈者に引渡せばよいです。

ただし、「瑕疵がないものを引渡す」などの特約があった場合は、契約不適合責任を追及される余地はあります。

3.使用貸借においては、借用物の通常の必要費については借主の負担となるのに対し、有益費については貸主の負担となり、その償還の時期は使用貸借の終了時であり、貸主の請求により裁判所は相当の期限を許与することはできない。

3・・・妥当でない

●使用貸借における必要費 → 借主負担

●使用貸借における有益費 → 貸主負担 → 貸主は償還期限を延ばすよう裁判所に請求できる

使用貸借の場合、「借用物の通常の必要費」は借主が負担します(595条1項)。

「通常の必要費」とは、現状維持のために必要な修繕費等です。

「通常の必要費」以外の費用(例えば有益費)については、貸主が負担するため、借主が支出した場合、貸主に償還請求することができます。そして、有益費については、裁判所は、貸主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができます(2項) 。つまり、貸主が、すぐに有益費を支払えない場合、裁判所に償還期限を少し待ってもらうよう請求することができます。

4.委任が無償で行われた場合、受任者は委任事務を処理するにあたり、自己の事務に対するのと同一の注意をもってこれを処理すればよい。

4・・・妥当ではない

委任契約 → 有償・無償関係なく、受任者は善管注意義務を負う

受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負います(民法644条)。有償・無償は関係ありません。つまり、無償で委任事務を任されたとしても、委任事務を任された人は、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理しなければなりません。

善管注意義務 / 自己のためにするのと同一の注意義務 / 自己の財産におけると同一の注意をなす義務

「善管注意義務」は、 「取引上、一般的・客観的に要求される程度の注意義務」を言い、イメージとしては、他人の物事と考えて、それなりの注意をしなさいということです。

一方、自己のためにすると同一の注意をなす義務 「自己の財産におけると同一の注意をなす義務」は、自分の物事と考えて、相当の注意をしなさいということで、善管注意義務よりも軽い注意義務です。

5.寄託が無償で行われた場合、受寄者は他人の物を管理するにあたり、善良なる管理者の注意をもって寄託物を保管しなければならない。

5・・・妥当でない

●寄託 → 有償 : 預かる側(受寄者)は、「善管注意義務」を負う

●寄託 → 無償 : 受寄者は、「自己の財産におけると同一の注意」を負う

寄託とは 物を預かって、保管してもらうこと(契約)を言います。例えば、「銀行にお金を預けること」「友人に荷物を預けること」です。「預ける側を、寄託者(きたくしゃ)」、「預かる側を、受寄者(じゅきしゃ)」と言います。 

受寄者の義務 お金を払って預かってもらう場合(有償)、預かる側(受寄者)は、「善管注意義務」を負います(民法400条)。 無報酬の場合、受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負います(659条)。本問は無償(無報酬)なので、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管しなければなりません。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

平成24年・2012|問31|債務不履行

民法改正に伴い、問題が使えなくなりましたので、解説は省略します。

Aは甲土地についてその売主Bとの間で売買契約を締結したが、甲土地には権利等に瑕疵があった。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 甲土地の全部の所有権がCに属していたことを知りながらBがこれをAに売却した場合において、BがCからその所有権を取得してAに移転することができないときは、甲土地の全部の所有権がCに属していたことについて善意のAは、その事実を知った時から1年以内に限り、Bに対して、契約を解除して、損害賠償を請求することができる。
  2. 甲土地の全部の所有権がCに属していたことを知らずにBがこれをAに売却した場合において、BがCからその所有権を取得してAに移転することができないときは、Bは、契約の時に甲土地の全部の所有権がCに属していたことについて善意のAに対して、単に甲土地の所有権を移転できない旨を通知して、契約の解除をすることができる。
  3. 甲土地の一部の所有権がCに属していた場合において、BがCからその所有権を取得してAに移転することができないときは、Aは、甲土地の一部の所有権がCに属していたことについて善意であるか悪意であるかにかかわりなく、契約の時から1年以内に限り、Bに対して、その不足する部分の割合に応じて代金の減額請求をすることができる。
  4. 契約の時に一定の面積を表示し、この数量を基礎として代金額を定めてBがAに甲土地を売却した場合において、甲土地の面積が契約時に表示された面積よりも実際には少なく、表示された面積が契約の目的を達成する上で特段の意味を有しているために実際の面積であればAがこれを買い受けなかったときは、その面積の不足について善意のAは、その事実を知った時から1年以内に限り、Bに対して、契約を解除して、損害賠償を請求することができる。
  5. 甲土地についてCの抵当権が設定されていた場合において、Aがこれを知らずに買い受けたときに限り、Aは、Bに対して、契約を直ちに解除することができ、また、抵当権の行使により損害を受けたときは、その賠償を請求することができる。

>解答と解説はこちら


【答え】:-

【解説】

民法改正に伴い、問題が使えなくなりましたので、解説は省略します。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

平成24年・2012|問30|譲渡担保

改正民法に対応済

譲渡担保に関する次の記述のうち、判例に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 不動産の譲渡担保において、債権者はその実行に際して清算義務を負うが、清算金が支払われる前に目的不動産が債権者から第三者に譲渡された場合、原則として、債務者はもはや残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできず、このことは譲受人が背信的悪意者にあたるときであっても異ならない。
  2. 集合動産の譲渡担保において、債権者が譲渡担保の設定に際して占有改定の方法により現に存する動産の占有を取得した場合、その対抗要件具備の効力は、その構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産についても及ぶ。
  3. 集合動産の譲渡担保において、設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をしたときは、当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。
  4. 集合債権の譲渡担保において、それが有効と認められるためには、契約締結時において、目的債権が特定されていなければならず、かつ、将来における目的債権の発生が確実でなければならない。
  5. 集合債権の譲渡担保において、当該譲渡につき譲渡人から債務者に対して確定日付のある証書によって通知が行われた場合、その対抗要件具備の効力は、将来において発生する債権についても及ぶ。

>解答と解説はこちら

改正民法に対応済

【答え】:4

【解説】

1.不動産の譲渡担保において、債権者はその実行に際して清算義務を負うが、清算金が支払われる前に目的不動産が債権者から第三者に譲渡された場合、原則として、債務者はもはや残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできず、このことは譲受人が背信的悪意者にあたるときであっても異ならない。

1・・・正しい

●譲渡担保 : 債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合、債権者は自由に処分(売却)できる機能も有する

●債務者は、清算金がある場合に債権者に対してその支払を求めることができるが、処分された目的物を受け戻すことはできない

譲渡担保(じょうとたんぽ)とは

譲渡担保とは、債権者が、「債権担保の目的で所有権をはじめとする財産権」を、債務者等から譲り受け、被担保債権の弁済をもってその権利を返還するというものです。

具体例 債権者Aが債務者Bにお金を貸した。その担保(保証)としてB所有の不動産の所有権を「債権者A」に移転(移転登記)させ、債務の弁済が完了した時点で不動産の所有権を債務者Bに戻すというものです。

もし、債務者Bが債務を弁済できないときは、暫定的に債権者に移っていた所有権は、確定的に債権者Aに帰属することになるというものです。抵当権設定では、「競売」にかけて競売代金から弁済を受けるのですが、競売にかけたりする手続きが面倒です。それを避けるために、お金返さなかったら、不動産をそのままもらいますよ!ということです。

そして、譲渡担保は、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、自由に処分(売却)できる機能も有します。

判例 判例では、「不動産を目的とする譲渡担保契約において、債務者Bが弁済期に債務の弁済をしない場合、債権者Aが、目的物を第三者Cに譲渡したときは、原則として、譲受人Cは目的物の所有権を確定的に取得し、債務者Bは、清算金がある場合に債権者Aに対してその支払を求めることができるにとどまり、残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできない」としています。つまり、本問は正しいです。譲受人Cが背信的悪意者であろうが関係ありません。

理由 債務者Bが弁済期に債務の弁済をしない場合、この時点で、確定的に不動産の所有権は債権者Aに移るので、その後に所有権を譲り受けるCは、背信的悪意者であろうがなかろうが関係ありません。

【清算金とは】 例えば、1000万円お金を貸して、担保にとった動産の合計額が1050万円だったとします。

その場合、50万円多く、債権者がもらうことになるので、「50万円を清算金」として債務者に渡します!

 

2.集合動産の譲渡担保において、債権者が譲渡担保の設定に際して占有改定の方法により現に存する動産の占有を取得した場合、その対抗要件具備の効力は、その構成部分が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産についても及ぶ。

2・・・正しい

●構成部分が変動して新しく構成部分となった動産についても、占有改定により譲渡担保権者は対抗力を取得する

集合動産の譲渡担保の具体例 例えば、ビール販売店Aが、Bからお金を借りて、倉庫内にあるアサヒの瓶ビール100本(集合動産)について譲渡担保を設定した場合です。

占有改定とは ある目的物の占有者がそれを手元に置いたまま占有を他者に移す場合をいいます。上記事例では、譲渡担保を設定してもらった譲渡担保権者Bが、瓶ビール100本を占有します。しかし、Bが瓶ビール100本を保管するのが困難等の理由により、譲渡担保権設定者A(ビール販売店)のもとに(倉庫に)置いたまま、占有はBに移すということです。

構成部分の変動する集合動産とは、「倉庫内にあるアサヒの瓶ビール100本」であり、種類・所在場所及び量の範囲が指定されているので、この100本のビールが一つの集合物です。そして、瓶ビールを一本消費して、新たに同じ種類・量の瓶ビールを入れれば、新しい瓶ビールも集合動産となります。

判例 判例では、「構成部分(瓶ビール一部)が変動して、新しく構成部分となった動産(一本消費して新たに追加された瓶ビール)も、占有改定により、譲渡担保権者B(債権者)は対抗力を取得する」としています。

よって、「債権者Bが譲渡担保の設定に際して占有改定の方法により現に存する動産(瓶ビール100本)の占有を取得した場合、対抗要件具備の効力は、その構成部分(瓶ビールの一部)が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となった動産(瓶ビール)についても及ぶ」という記述は正しいです。

3.集合動産の譲渡担保において、設定者がその目的物である動産につき通常の営業の範囲を超える売却処分をしたときは、当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。

3・・・正しい

譲渡担保設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限がある

②通常の営業の範囲を超える売却処分する権限はもたず、もし、通常の営業の範囲を超える売却処分した場合、原則、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。例外として、「譲渡担保契約に定められた保管場所から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合」、処分の相手方に所有権が移転する

判例 構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては、集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されている。(つまり、問277の事例で、瓶ビール販売店Aが倉庫内の瓶ビールを販売して、仕入れをすることは予定されている) だから、通常の営業の範囲内でされた処分の相手方(瓶ビールの購入者)は、当該動産(瓶ビール)について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができる。

一方、対抗要件を備えた集合動産譲渡担保の設定者(ビール販売店A)が、通常の営業の範囲を超える売却処分をした場合、当該処分は上記権限に基づかないものである以上、譲渡担保契約に定められた保管場所(倉庫等)から搬出されるなどして当該譲渡担保の目的である集合物から離脱したと認められる場合でない限り、当該処分の相手方は目的物の所有権を承継取得することはできない。(つまり、瓶ビールが、倉庫から搬出され、集合物から離脱した場合、購入者は、瓶ビールの所有権を取得する。単に瓶ビールの売買契約をしただけで、瓶ビールが倉庫から搬出されていないのであれば、購入者は所有権を取得できない)

【具体例】家具メーカーの在庫を担保とした場合

ある家具メーカーA社は、銀行Bからの融資を受ける際、自社の在庫である大量の家具(椅子やテーブルなど)に譲渡担保を設定しました。つまり、A社の在庫家具は、銀行Bの融資を担保する目的で集合動産として設定され、原則として銀行Bがその集合動産に対する担保権を持つことになります。

<通常の営業の範囲での処分とは>
家具メーカーA社は通常、個々の家具を店舗やオンラインで一般消費者に販売しています。このような通常の営業行為で家具を販売する限り、A社は通常の範囲内で売却しているため、銀行Bの同意がなくても担保権が問題なく認められます。この場合、購入者は家具の所有権を取得できます。

<「通常の営業の範囲」を超える売却処分とは>
しかし、A社が財務的に苦しくなり、全在庫を一括で別の大口業者Cに売却しようとしたとします。この一括売却は通常の営業範囲を超えた特別な処分と見なされます。この場合、家具の一括売却を行うには銀行Bの同意が必要になりますが、それを得ずにA社が勝手に売却した場合、C社は売却された在庫家具の所有権を取得できない可能性があります。

このように、通常の営業範囲内であれば集合動産から離脱したものとして第三者が所有権を取得できますが、通常の営業の範囲を超えた場合、譲渡担保権の効力が優先されます。そのため、「通常の営業の範囲を超える売却処分」の場合には、集合物の離脱と認められず、担保設定者からの譲受人が所有権を取得できないことが生じます。

4.集合債権の譲渡担保において、それが有効と認められるためには、契約締結時において、目的債権が特定されていなければならず、かつ、将来における目的債権の発生が確実でなければならない。

4・・・誤り

●将来債権でも集合債権の譲渡担保設定を有効に行える
●将来債権の発生の確実性は関係ない

本問は、「目的債権が特定されていなければならず、かつ、将来における目的債権の発生が確実でなければならない」が誤りです。

集合債権の譲渡担保とは 債務者Aが有する第三債務者に対する複数の特定された個々の債権を、一個の集合した債権として捉え、これに譲渡担保を設定することです。

判例 判例では、『「担保設定する債権」については、契約締結時において、発生していない債権(将来債権)であっても可能で(将来債権も担保設定することができる) 、債権発生の可能性が低かったことは、譲渡担保設定契約の効力を当然に左右するものではない』としています。つまり、債権発生の確実性については、譲渡担保設定契約の効力に関係ないということです。

【具体例】 例えば、新規取引先との売掛金を含む集合債権譲渡担保を考えます。

中小企業A社は銀行Bから融資を受けようとしており、担保として自社の「売掛金債権(物を売って、あとでお金をもらう債権)」を集合債権譲渡担保に設定します。

A社は既存の取引先に加えて、新たに開拓を進めている新規取引先からの売掛金も、将来発生する予定の債権として担保に含める予定です。

A社は、現時点で発生している売掛金債権(既存取引先からの売掛金)に加え、今後、新規取引先との取引で発生が予想される売掛金債権も集合債権として担保に含めました。

銀行Bは、これら将来発生する可能性のある債権も担保として確保することになります。

この時点で、新規取引先との取引が始まるかどうか、また売掛金債権が確実に発生するかは分かりませんが、銀行Bはそれらも含めて担保設定しています。

そして仮に新規取引先からの売掛金債権が思ったように発生しなかったとしても、それによって譲渡担保契約そのものが無効になるわけではありません。担保設定契約は、発生可能性が不確実でも有効とされています。

5.集合債権の譲渡担保において、当該譲渡につき譲渡人から債務者に対して確定日付のある証書によって通知が行われた場合、その対抗要件具備の効力は、将来において発生する債権についても及ぶ。

5・・・正しい

●集合債権の譲渡担保において、「将来債権」についても、債権譲渡の対抗要件を備えることができる

判例 判例では、「集合債権の譲渡担保において、将来発生する債権についても、債権譲渡の対抗要件(民法467条2項)の方法により、対抗要件を備えることができる」としています。

よって、本肢は正しいです。

具体例 債権者Aと債務者Bとの間で、「BのCに対する代金債権(既に発生している債権および将来発生する債権)」について譲渡担保設定契約を締結した。この場合、代金債権は、譲渡担保権者Aに移転するので、債権譲渡を似ています。

そのため、「確定日付のある証書による第三者債務者Cの承諾」もしくは「確定日付のある証書による譲渡人Bから第三債務者Cへの通知」により、Aが第三者に対抗要件を備えます(民法467条2項)。

※ 問題文の「債務者」は上記事例の「第三債務者C」を指します。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

平成24年・2012|問29|囲繞地通行権等

改正民法に対応済

甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 甲土地が乙土地に囲まれて公道に通じていない場合、AがBに対して囲繞地通行権(※)を主張するためには、Aは甲土地の所有権の登記を具備していなければならない。
  2. 甲土地と乙土地は元々一筆の土地であったが、分筆によって他の土地に囲まれて公道に通じていない甲土地が生じ、これによりAが乙土地に対する無償の囲繞地通行権を有するに至った場合において、その後に乙土地がCに売却されたとしても、Aは当然にCに対してこの通行権を主張することができる。
  3. AがBとの間の賃貸借契約に基づいて乙土地を通行している場合において、その後に甲土地がCに売却されたときは、これによりCも当然に乙土地を通行することができる。
  4. Aは、少なくとも20年にわたって、自己のためにする意思をもって、平穏、かつ、公然と乙土地の一部を通行していれば、A自らが通路を開設していなくても、乙土地上に通行地役権を時効取得することができる。
  5. Aが地役権に基づいて乙土地の一部を継続的に通路として使用している場合において、その後にCが通路の存在を認識しながら、または認識可能であるにもかかわらず認識しないでBから乙土地を承継取得したときは、Cは背信的悪意者にあたるので、Aの地役権設定登記がなされていなくても、AはCに対して通行地役権を主張することができる。

(注)※ 囲繞地通行権とは、民法210条1項に規定されている「他の土地に囲まれて公道に通じていない土地」の通行権のことをいう。

>解答と解説はこちら


改正民法に対応済【答え】:2

【解説】

甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。

1.甲土地が乙土地に囲まれて公道に通じていない場合、AがBに対して囲繞地通行権(※)を主張するためには、Aは甲土地の所有権の登記を具備していなければならない。

1・・・妥当ではない

●囲繞地通行権 → 袋地の所有者は、所有権の登記不要

他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者(A)は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地(乙土地)を通行することができます(民法210条)。

この権利を「囲繞地通行権」と言います。

「囲繞地(いにょうち)」とは、袋地(甲土地)を囲んでいる土地を言います。

判例 そして、判例では、袋地の所有権を取得した者Aは

甲地の所有者は所有権取得の登記なくして囲繞地通行権を主張することができる

としています。

理由 そもそも囲繞地通行権は、袋地と囲繞地の利用の調整を目的とする規定であり、囲繞地の所有者に一定の範囲の通行受忍義務(通行されることを我慢してもらう義務)を課し、袋地を利用できるようにするルールです。これは、「不動産取引の安全保護をはかるための公示制度」とは関係がない内容なので、登記は不要としています。登記が必要となってくるのは、対抗関係が問題となる場合の話です。

甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。

2.甲土地と乙土地は元々一筆の土地であったが、分筆によって他の土地に囲まれて公道に通じていない甲土地が生じ、これによりAが乙土地に対する無償の囲繞地通行権を有するに至った場合において、その後に乙土地がCに売却されたとしても、Aは当然にCに対してこの通行権を主張することができる。

2・・・妥当

●共有分割によって袋地が生じた場合、囲繞地通行権は、分割後の土地のみ行使できる
●その後、囲繞地の所有者が変わっても同様に、袋地の所有者は囲繞地通行権を行使できる

分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地(分割後の残余地)のみを通行することができます。この場合においては、償金(通行料)を支払う必要はありません(民法213条)。

具体例 もともと、上の左の図のように「AとBの共有地」は、道路に接しているので、袋地ではありません。その後、下の右の図のように共有分割をすると、Aの甲土地が袋地になります。土地の分割によって新たに袋地が生じた場合は、当該袋地の所有者は、公道に出るため、もう一方の土地(分割後の残余地)についてのみ無償で通行でき、必要であれば通路を開設することができます。

甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。

3.AがBとの間の賃貸借契約に基づいて乙土地を通行している場合において、その後に甲土地がCに売却されたときは、これによりCも当然に乙土地を通行することができる。

3・・・妥当ではない

●賃借権の譲渡 → 賃貸人の承諾が必要

賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は、賃借物を転貸することができません(民法612条)。

そのため、賃借人Aが、賃貸人Bに無断で、甲土地をCに売却した場合、Cは、当然には乙土地を通行できないので、本問は誤りです。

甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。

4.Aは、少なくとも20年にわたって、自己のためにする意思をもって、平穏、かつ、公然と乙土地の一部を通行していれば、A自らが通路を開設していなくても、乙土地上に通行地役権を時効取得することができる。

4・・・妥当ではない

●地役権の時効取得 → 要役地所有者が、承役地に通路を開設すること要件の一つ

通行地役権は、通行の開始当時に通行地役権の存在について、
善意無過失の場合には10年間、悪意または有過失の場合には20年間、
「継続的」に、かつ、外形上認識することができる状態で通行する場合に限り、
時効取得できます(民法283条、162条、163条) 。

判例 そして、判例では、『「継続」とは、通路を開設していることを要求するものであり、また、この通路の開設は要役地の所有者によってなされることが必要である』としています。つまり、A自らが通路を開設しないと、通行地役権は時効取得できません。これはそのまま覚えましょう。

甲土地を所有するAは、甲土地に隣接するB所有の乙土地を通行している。
5.Aが地役権に基づいて乙土地の一部を継続的に通路として使用している場合において、その後にCが通路の存在を認識しながら、または認識可能であるにもかかわらず認識しないでBから乙土地を承継取得したときは、Cは背信的悪意者にあたるので、Aの地役権設定登記がなされていなくても、AはCに対して通行地役権を主張することができる。

5・・・妥当ではない

●地役権は物権なので、登記をしなければ第三者に対抗できない

●①通路として使用されている明らか、かつ②承役地の購入者Cが、通路使用について悪意or有過失の場合、第三者に当たらないため、要役地所有者Aは、Cに対抗できる

本問は、「背信的悪意者にあたる」が誤りです。

正しくは、「背信的悪意者にも第三者にもあたらない」です。

問題文の状況 地役権が設定された承役地をCがBから譲り受けた。

そして、Cは、 「通路の存在を認識していた(悪意)」または

「認識可能であるにもかかわらず認識しないで(有過失)」譲り受けた。

判例 判例では、「上記、登記されていない地役権について、

悪意または有過失のCは、背信的悪意者には当たらない」

また、「通行地役権の承役地(乙土地)が譲渡された場合において、

譲渡の時に、①承役地が要役地所有者Aによって継続的に通路として使用されていることが客観的に明らかであり、かつ、②譲受人がそのことを認識していたか(悪意)又は認識することが可能であった(有過失の)ときは、譲受人Cは、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺(登記がないこと)を主張するについて正当な利益を有する第三者にあたらない」としています。

分かりやすく言えば Cが、地役権自体、設定されていることを知らなくても、①客観的にみて乙土地の一部が通行されていることが明らかで、②通行されている事実について悪意または有過失の場合、「地役権設定登記がないことを主張できる正当な利益を有する第三者」には当たらず、Aは、地役権の登記がなくても、Cに地役権を主張できるということです。

※ もし、Cが第三者にあたるとすれば、Aは地役権の登記がなければ、Cに対抗できない。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

平成24年・2012|問28|代理・使者

改正民法に対応済

代理人と使者の違いに関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 代理人は本人のために法律行為を行う者であるから、代理人としての地位は、法律に基づくもののほかは必ず委任契約によらなければならないが、使者は本人の完了した意思決定を相手方に伝達する者であるから、使者の地位は、雇用契約、請負契約など多様な契約に基づく。
  2. 代理人は、本人のために法律行為を行う者であるから、代理権の授与のときに意思能力および行為能力を有することが必要であるのに対し、使者は、本人の完了した意思決定を相手方に伝達する者であるから、その選任のときに意思能力および行為能力を有することは必要ではない。
  3. 代理人は本人のために自ら法律行為を行うのであるから、代理行為の瑕疵は、代理人について決するが、使者は本人の行う法律行為を完成させるために本人の完了した意思決定を相手方に伝達するにすぎないから、当該意思表示の瑕疵は、本人について決する。
  4. 代理人は、与えられた権限の範囲で本人のために法律行為を行うのであるから、権限を逸脱して法律行為を行った場合には、それが有効となる余地はないのに対し、使者は、本人の完了した意思決定を相手方に伝達するのであるから、本人の真意と異なる意思を伝達した場合であってもその意思表示が無効となる余地はない。
  5. 代理人は、法律または本人の意思に基づいて本人のために法律行為を行う者であるから、本人に無断で復代理人を選任することは認められないのに対し、使者は、単に本人の完了した意思決定を相手方に伝達するにすぎないから、本人に無断で別の者を使者に選任することも認められる。

>解答と解説はこちら

改正民法に対応済

【答え】:3

【解説】

1.代理人は本人のために法律行為を行う者であるから、代理人としての地位は、法律に基づくもののほかは必ず委任契約によらなければならないが、使者は本人の完了した意思決定を相手方に伝達する者であるから、使者の地位は、雇用契約、請負契約など多様な契約に基づく。

1・・・妥当ではない

●代理人としての地位 → 「法律に基づく場合」「契約に基づく場合」がある

●使者としての地位 → 「契約に基づく場合」しかない

結論からいうと、「代理人は、必ず委任契約によらなければならない」が誤りです。雇用契約や請負契約等でも、仕事を任された者は、代理人として仕事をします。

■法律に基づく代理

【具体例】 成年後見人は、成年被後見人から代理権を授与されなくても、法律に基づいて代理権が与えられています。

■契約に基づく代理

【具体例】 委任契約、雇用契約、請負契約などを締結することで、代理権が与えられます。雇用契約をすれば、従業員は会社の仕事を会社の代理人として行い、請負契約をすれば、請負人は、注文者の代理人として仕事を行います。
また、建物建築の場合、使者として、建築確認の申請を行ったりします。

■代理と使者の違い

本人AがBに代わりにしてもらうように仕事を頼むという場合、代理と使者の2つがあります。

どちらも、仕事を行った法的責任は本人Aがとります(効果は本人Aに帰属する)。

違いは、意思決定をする人です。

  • 「代理」の場合、代理人Bがどのように仕事をするかの意思決定をして、仕事を行います。
  • 「使者」の場合、使者Bは、仕事の進め方について意思決定をしません。意思決定は本人Aが行い、使者は、それに従って動くだけです。上記建築確認の具体例でいうと、建築確認申請書の作成者は本人Aで、それを、請負人B(使者)が役所に提出しにいくだけといったイメージです。
2.代理人は、本人のために法律行為を行う者であるから、代理権の授与のときに意思能力および行為能力を有することが必要であるのに対し、使者は、本人の完了した意思決定を相手方に伝達する者であるから、その選任のときに意思能力および行為能力を有することは必要ではない。

2・・・妥当ではない

●代理人 → 行為能力は不要=制限行為能力者でも代理人になれる / 意思能力は必要

●使者 →  行為能力も意思能力も不要

本問は「代理人は、行為能力を有することが必要」となっているので誤りです。代理人は行為能力がなくてもなれます(民法102条)。

具体例 本人Aが、制限行為能力者B(行為能力が制限されている者)に、A所有の土地を売却する旨の代理権を与えた。この場合、Bは、買主Cと売買契約を締結することが可能です。そして、この契約は、Bが制限行為能力者であることを理由に取消しすることができません。

制限行為能力者を理由に取消しできない理由 本人Aが、あえて制限行為能力者であるBを選んで代理権を与えたのだから、その責任は本人Aが取るべきだからです。

■行為能力について

本人AがBに代わりにしてもらうように仕事を頼むという場合、代理と使者の2つがあります。どちらも、仕事を行った法的責任は本人Aがとります(効果は本人Aに帰属する)。何か仕事でミスがあっても、法的責任は本人Aがとるので、代理人も使者も

行為能力は不要としています。

■意思能力について

本人AがBに代わりにしてもらうように仕事を頼むという場合、

  • 「代理」の場合、代理人Bがどのように仕事をするかの意思決定をして、仕事を行います。つまり、代理人は意思能力が必要です。
  • 「使者」の場合、使者Bは、仕事の進め方について意思決定をしません。意思決定は本人Aが行い、使者は、それに従って動くだけです。つまり、「使者」は意思決定をしないため、意思能力は不要です。

3.代理人は本人のために自ら法律行為を行うのであるから、代理行為の瑕疵は、代理人について決するが、使者は本人の行う法律行為を完成させるために本人の完了した意思決定を相手方に伝達するにすぎないから、当該意思表示の瑕疵は、本人について決する。

3・・・妥当

●「代理」の場合、意思決定は「代理人」が行う → 意思表示の瑕疵は、「代理人」について決する

●「使者」の場合、意思決定は「本人」が行う → 意思表示の瑕疵は「本人」について決する

本人AがBに代わりにしてもらうように仕事を頼むという場合、代理と使者の2つがあります。

どちらも、仕事を行った法的責任は本人Aがとります(効果は本人Aに帰属する)。

違いは、意思決定をする人です。

代理人の場合

代理人Bがどのように仕事をするかの意思決定をして、仕事を行います。つまり、意思決定をして、その後、意思表示をして契約をするのですが、意思表示に瑕疵(間違い・欠陥)があった場合、その意思決定をした「代理人」を基準に瑕疵があったかどうかを判断します。

具体例

本人Aが、Bに、A所有の「甲土地」を売却する旨の代理権を与えた。代理人Bが勘違いをして、「乙土地」を売却してしまった。この場合、原則、代理人Bが錯誤の要件を満たすかどうかを考えて、錯誤取消しができるかどうかを決めます。

使者の場合

使者Bは、仕事の進め方について意思決定をしません。意思決定は本人Aが行い、使者は、それに従って動くだけです。上記建築確認の具体例でいうと、建築確認申請書の作成者は本人Aで、それを、請負人B(使者)が役所に提出しにいくだけといったイメージです。つまり、使者は、「本人Aの意思決定」を、相手方に伝えるだけです。つまり、意思表示に瑕疵は、本人Aを基準にして、瑕疵があったかどうかを考えます。

具体例

本人Aが、A所有の「乙土地」を売却する旨の書面にサインをして、Bが使者として、当該書面を、買主Cに渡した。そして、本人Aは、本当は「甲土地」を売却するつもりだったが、勘違いをして、「乙土地」と記載してしまった書面を交付した。この場合、本人Aが錯誤の要件を満たすかどうかを考えて、錯誤取消しができるかどうかを決めます。

4.代理人は、与えられた権限の範囲で本人のために法律行為を行うのであるから、権限を逸脱して法律行為を行った場合には、それが有効となる余地はないのに対し、使者は、本人の完了した意思決定を相手方に伝達するのであるから、本人の真意と異なる意思を伝達した場合であってもその意思表示が無効となる余地はない。

4・・・妥当ではない

●「代理人」が、権限外の行為を行った → 表見代理がすれば、権限外の代理行為も有効となる

●「使者」が、権限外の行為を行った → 「本人」を基準に「錯誤」が成立すれば、錯誤に基づいて取消しができる

代理人が権限外の行為を行った場合、無権代理として扱います。無権代理行為の効果は、原則、本人には帰属しません。しかし、それでは、相手方が困ります。そのため、表見代理というルールがあります。表見代理が成立すると、たとえ無権代理人の行った行為であったとしても、相手方を保護して、無権代理行為が有効になる(あとで本人は取消しできない)というルールです。

表見代理の1つとして、「権限外の行為の表見代理(民法110条)」があります。「無権代理人が権限外の行為」をし、かつ、相手方が善意無過失の場合、表見代理が成立して、無権代理人の行った行為が、確定的に有効となり、本人はあとで取消しすることができなくなります。よって、前半部分が誤りです。

具体例 本人Aは、代理人Bに、「A所有の甲土地に抵当権を設定する代理権」を与えた。それにもかかわらず、代理人Bは、「甲土地を相手方Cに売り渡す売買契約」をCと締結した。この場合、代理人Bが行った行為は、「権限外の行為」なので、この契約において、Bは無権代理行為を行っています。そして、相手方Cが、権限外の行為について善意無過失であれば、AC間の本件売買契約は有効となります。よって、前半部分は誤りです。

使者について

使者は、本人の完了した意思決定を相手方に伝達するだけです。そのため、 。もし、使者が「本人の真意と異なる意思を伝達した場合」、本人の基準に、錯誤取消しができるかどうかを判断します。錯誤の要件を満たす場合(錯誤が成立する場合)、錯誤により取消しが可能です。よって、後半部分も誤りです。

5.代理人は、法律または本人の意思に基づいて本人のために法律行為を行う者であるから、本人に無断で復代理人を選任することは認められないのに対し、使者は、単に本人の完了した意思決定を相手方に伝達するにすぎないから、本人に無断で別の者を使者に選任することも認められる。

5・・・妥当ではない

●代理人には、「法定代理人」と「任意代理人」が2つの種類がある法定代理人 → 本人に無断で復代理人を選任できる
任意代理人 → 「本人の許諾があるとき」または「やむを得ない事由があるとき

●使者の場合、復任についての制限はない → 本人に無断で、別の者を使者に選任することができる

結論からいうと、「法律または本人の意思に基づいて本人のために法律行為を行う者であるから、本人に無断で復代理人を選任することは認められない」は誤りです。

代理の前提知識

代理人には、「法定代理人」と「任意代理人」が2つの種類があります。

  • 「法定代理人」とは、成年後見人や親権者など、法律で、成年被後見人や未成年者の代理人と決められた者を言います。本人の意思に関係なく、法律で、代理人を決められています。
  • 「任意代理人」とは、本人の意思に基づいて、選任された代理人です。例えば、あなたが、友人を代理人に選任した場合、あなたの意思で、友人を代理人と決めているのであって、法律で、「あなたの代理人は友人」と決められていません。

復代理人 復代理とは、代理人がさらに別の代理人を立てる(選任する)ことをいいます。そして、復代理人を選任しても、代理人がもともと有していた代理権は消滅しません。つまり、代理人も復代理人も代理権を持ちます。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

平成24年・2012|問27|民法総則

改正民法に対応済

権利能力、制限行為能力および意思能力に関する次の記述のうち、民法および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 胎児に対する不法行為に基づく当該胎児の損害賠償請求権については、胎児は既に生まれたものとみなされるので、胎児の母は、胎児の出生前に胎児を代理して不法行為の加害者に対し損害賠償請求をすることができる。
  2. 失踪の宣告を受けた者は、死亡したものとみなされ、権利能力を喪失するため、生存することの証明がなされ失踪の宣告が取り消された場合でも、失踪の宣告後その取消し前になされた行為はすべて効力を生じない。
  3. 成年後見人は、正当な事由があるときは、成年被後見人の許諾を得て、その任務を辞することができるが、正当な事由がないときでも、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
  4. 成年被後見人の法律行為について、成年後見人は、これを取り消し、または追認することができるが、成年被後見人は、事理弁識能力を欠く常況にあるため、後見開始の審判が取り消されない限り、これを取り消し、または追認することはできない。
  5. 後見開始の審判を受ける前の法律行為については、制限行為能力を理由として当該法律行為を取り消すことはできないが、その者が当該法律行為の時に意思能力を有しないときは、意思能力の不存在を立証して当該法律行為の無効を主張することができる。

>解答と解説はこちら

改正民法に対応済

【答え】:5

【解説】

1.胎児に対する不法行為に基づく当該胎児の損害賠償請求権については、胎児は既に生まれたものとみなされるので、胎児の母は、胎児の出生前に胎児を代理して不法行為の加害者に対し損害賠償請求をすることができる。

1・・・妥当ではない

●「胎児」も不法行為に基づく損害賠償請求権を持つ

●母は、生まれる前に、胎児の代理人として、損害賠償請求権を行使できない

「胎児」とは、おなかの中の子どものことです。権利能力は出生(生まれること)によって発生するため(民法3条1項)、出生前の胎児の段階では原則として権利能力はありません。しかし、不法行為に基づく損害賠償請求権については、例外的に、胎児も既に生まれたものとみなして、胎児も取得できるようにしています(721条)。そして、判例では、胎児が生まれることによって、不法行為等の時にさかのぼって「不法行為に基づく損害賠償請求権」を取得すると考え、胎児のときに、母が、胎児の代理人として、損害賠償請求権を行使することはできないとしています。

具体例 胎児を持つ母と父がおり、父が交通事故で亡くなった。母と胎児は加害者に対して損害賠償請求権を持つが、胎児の持つ損害賠償請求権は、胎児が生まれてくるまでは行使できないので、胎児が生まれる前に、母が、胎児の代理人として、損害賠償請求権を行使できません。

出生までは権利能力がないので、胎児に法定代理人は付けられません。よって、「胎児の母は、胎児の出生前に胎児を代理して・・・」が妥当ではありません。

2.失踪の宣告を受けた者は、死亡したものとみなされ、権利能力を喪失するため、生存することの証明がなされ失踪の宣告が取り消された場合でも、失踪の宣告後その取消し前になされた行為はすべて効力を生じない。

2・・・妥当ではない

●失踪の宣告を受けた者は、死亡したものとみなされるが、権利能力は有する

●失踪宣告が取り消されても、取消し前に当事者全員が善意で行われた行為については、取消しの影響を受けない

失踪の宣告後その取消し前になされた「失踪者の行為」についても原則有効です。よって、妥当ではありません。

失踪の宣告を受けた者Aは、死亡したものとみなします(民法31条)。しかし、その者Aは権利能力は喪失しません。つまり、もし、Aがどこかで生きていた場合、Aは、物の売買などの法律行為を行えます。よって、誤りです。そして、失踪者Aが生存することの証明があったときは、家庭裁判所は、本人A又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければなりません。この場合において、失踪の宣告後その取消し前に善意で(どこかで生きていることを知らずに)した行為は有効です(32条) 。よって、本問は「失踪の宣告を受けた者は、権利能力を喪失する」と「失踪の宣告後その取消し前になされた行為はすべて効力を生じない」は誤りです。

関連ポイント 判例では、失踪宣告取消し前に行為については、当事者全員が善意でなければならないとしています。

具体例 失踪宣告を受けたAの所有する不動産を、Aの妻Bが相続し、Bが第三者Cに売却した。その後、Aが生存していることが分かり、失踪宣告の取消しがなされた。この場合、BとCがともに善意(失踪宣告が真実でなかったことを知らなかった)であれば、BC間の売買契約には影響しないので、Cは所有権を主張できます。

3.成年後見人は、正当な事由があるときは、成年被後見人の許諾を得て、その任務を辞することができるが、正当な事由がないときでも、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

3・・・妥当ではない

●成年後見人 : 正当な事由が「ある」とき → 家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる

●成年後見人 : 正当な事由が「ない」とき → 任務を辞することができない

後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができます(民法844条)。よって、前半部分は「成年被後見人の許諾を得て」となっているので誤りです。

また、正当な事由がない場合、任務を辞することができません。この点も誤りです。

4.成年被後見人の法律行為について、成年後見人は、これを取り消し、または追認することができるが、成年被後見人は、事理弁識能力を欠く常況にあるため、後見開始の審判が取り消されない限り、これを取り消し、または追認することはできない。

4・・・妥当ではない

●取消し → 成年後見人・成年被後見人どちらも行える

●追認 → 成年後見人は追認できる / 成年被後見人は、行為能力者になった後であれば追認できる

成年被後見人が行った法律行為について、取消しをする場合、「成年被後見人(制限行為能力者)」も「成年後見人(保護者)」もどちらも行えます(民法120条)。

理由 取消しすることによって、成年被後見人に不利益は生じないから

成年被後見人が行った法律行為の追認について、「成年後見人(保護者)」は行えるが、「成年被後見人(制限行為能力者)」は行えません。成年被後見人が、行為能力者になった後でないと追認はできません(124条2項)。

理由 成年被後見人は、重度の認知症の方等です。取消しできる行為について、追認できるとしてしまったら、本人に不利益が生じる恐れがあるから、追認できないとしています。ただし、行為能力者になった後は、物事の判断能力があるので追認できます。

5.後見開始の審判を受ける前の法律行為については、制限行為能力を理由として当該法律行為を取り消すことはできないが、その者が当該法律行為の時に意思能力を有しないときは、意思能力の不存在を立証して当該法律行為の無効を主張することができる。

5・・・妥当

●意思無能力者の行為 → 無効

後見開始の審判を受ける前に、Aが法律行為を行った場合、Aは、制限行為能力者ではないので、制限行為能力を理由として当該法律行為を取り消すことはできません。しかし、別の理由を考えることができます。例えば、法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効となります(3条)。つまり、Aが当該法律行為の時に意思能力を有しないとき、無効を主張できます。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

平成24年・2012|問25|行政法

Xは、消費者庁長官に対して、同庁が実施したA社の製品の欠陥に関する調査の記録につき、行政機関情報公開法(※)に基づき、その開示を請求したが、消費者庁長官は、A社の競争上の地位を害するため同法所定の不開示事由に該当するとして、これを不開示とする決定をした。この場合についての次の記述のうち、妥当なものはどれか。

  1. Xは、不開示決定に対して、総務省におかれた情報公開・個人情報保護審査会に対して審査請求をすることができるが、これを経ることなく訴訟を提起することもできる。
  2. Xは、消費者庁長官を被告として、文書の開示を求める義務付け訴訟を提起することができる。
  3. Xは、仮の救済として、文書の開示を求める仮の義務付けを申立てることができるが、これには、不開示決定の執行停止の申立てを併合して申立てなければならない。
  4. Xが提起した訴訟について、A社は自己の利益を守るために訴訟参加を求めることができるが、裁判所が職権で参加させることもできる。
  5. Xは、不開示決定を争う訴訟の手続において、裁判所に対して、当該文書を消費者庁長官より提出させて裁判所が見分することを求めることができる。

(注)※ 行政機関の保有する情報の公開に関する法律

>解答と解説はこちら


【答え】:4
【解説】

1.Xは、不開示決定に対して、総務省におかれた情報公開・個人情報保護審査会に対して審査請求をすることができるが、これを経ることなく訴訟を提起することもできる。
1・・・妥当ではない
審査請求は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める行政庁に対してするものとします(行政不服審査法4条1項)。

  1. 「処分庁又は不作為庁に上級行政庁がない場合」又は「処分庁等が主任の大臣若しくは宮内庁長官若しくは庁の長である場合」→当該処分庁
  2. 宮内庁長官又はその他の庁の長が処分庁等の上級行政庁である場合→宮内庁長官又は当該庁の長
  3. 主任の大臣が処分庁等の上級行政庁である場(前2号に掲げる場合を除く)→当該主任の大臣

本問では、消費者庁長官が不開示の決定をしているので、審査請求先は、上記1号の通り、消費者庁長官となります。

よって、「情報公開・個人情報保護審査会に対して審査請求をすることができる」は誤りです。

また、情報公開法には、不服審査前置主義の規定はないので、「これを経ることなく訴訟を提起することもできる」という点は正しいです。

2.Xは、消費者庁長官を被告として、文書の開示を求める義務付け訴訟を提起することができる。
2・・・妥当ではない
処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、「国又は公共団体」を被告として提起しなければなりません(行政事件訴訟法11条1項)。
上記規定は、義務付け訴訟にも準用されています(同法38条1項)
よって、義務付け訴訟の被告は「国」です。
「消費者庁長官」は妥当ではありません。

選択肢1は、行政不服審査法(審査請求)で
選択肢2は、行政事件訴訟法(訴訟)です。審査請求については、行政機関のトップに行うのが原則ですが
訴訟の場合は、行政主体に対して行います。

3.Xは、仮の救済として、文書の開示を求める仮の義務付けを申立てることができるが、これには、不開示決定の執行停止の申立てを併合して申立てなければならない。
3・・・妥当ではない
仮の義務付けは、義務付け訴訟の判決の確定を待っていては遅い場合に、仮の救済制度としてあります。そのため、仮の義務付けは、事前に義務付け訴訟を提起していることが要件です。
ただ、問題文では、義務付け訴訟を提起しているかどうかの記載はありません。本肢でいうと、
「不開示決定の執行停止の申立てを併合して申立てなければならない」が誤りです。
執行停止の申立てを併合する旨の規定はありません
よって、妥当ではないです。

4.Xが提起した訴訟について、A社は自己の利益を守るために訴訟参加を求めることができるが、裁判所が職権で参加させることもできる。
4・・・妥当
裁判所は、訴訟の結果により権利を害される第三者があるときは、当事者若しくはその第三者の申立てにより又は職権で、決定をもって、その第三者を訴訟に参加させることができます(行政事件訴訟法22条1項)。
よって、本肢は妥当です。

5.Xは、不開示決定を争う訴訟の手続において、裁判所に対して、当該文書を消費者庁長官より提出させて裁判所が見分することを求めることができる。
5・・・妥当ではない
裁判所だけが文書等を直接見分する方法により行われる非公開の審理」を「インカメラ審理」と言います。
本肢は、Xは不開示決定を争う訴訟の手続において、インカメラ審理を求めることができるかを問われています。
判例によると、
「情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟において、インカメラ審理を求めることは許されない。」と判示しています。
よって、本肢は妥当ではありません。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略

平成24年・2012|問24|行政法

Xは、A川の河川敷においてゴルフ練習場を経営すべく、河川管理者であるY県知事に対して、河川法に基づく土地の占用許可を申請した。この占用許可についての次の記述のうち、妥当なものはどれか。

  1. この占用許可は、行政法学上の「許可」であるから、Xの申請に許可を与えるか否かについて、Y県知事には、裁量の余地は認められない。
  2. 申請が拒否された場合、Xは、不許可処分の取消訴訟と占用許可の義務付け訴訟を併合提起して争うべきであり、取消訴訟のみを単独で提起することは許されない。
  3. Y県知事は、占用を許可するに際して、行政手続法上、同時に理由を提示しなければならず、これが不十分な許可は、違法として取り消される。
  4. Xが所定の占用料を支払わない場合、Y県知事は、行政代執行法の定めによる代執行によって、その支払いを強制することができる。
  5. Y県知事は、河川改修工事などのやむをえない理由があれば、許可を撤回できるが、こうした場合でも、Xに損失が生ずれば、通常生ずべき損失を補償しなければならない。

>解答と解説はこちら


【答え】:5 

【解説】

1.この占用許可は、行政法学上の「許可」であるから、Xの申請に許可を与えるか否かについて、Y県知事には、裁量の余地は認められない。
1・・・妥当ではない
河川の使用許可・占有許可」は行政講学上、「形成的行為」の中の「特許」に当たります。よって、本肢は誤りです。
特許とは、特別な権利や能力を設定する行為です。
そして、特許については、裁量の余地は広いです。
この点も誤りです。一方、
命令的行為」の中の「許可」は、禁止されている行為を、特定の場合に解除して、適法に特定の行為を行わせる行為です。
例えば、自動車の運転免許です。運転は禁止されていますが、免許を受けた者だけが、自動車を運転することが認められます。そして、許可については、裁量の余地は狭いです。
つまり、決められた基準があり、その基準を満たせば、許可を受けることができ、基準を満たさない場合は許可を受けることができない、という風に機械的に判断します。「命令的行為・形成的行為」の詳細解説はこちら>>
2.申請が拒否された場合、Xは、不許可処分の取消訴訟と占用許可の義務付け訴訟を併合提起して争うべきであり、取消訴訟のみを単独で提起することは許されない。
2・・・妥当ではない
取消訴訟については、単独で提起できます。よって、誤りです。本肢、申請を拒否されたから、「申請を認めてください!」と占有許可の義務付け訴訟を行う場合(申請型義務付け訴訟)は、「申請拒否の取消訴訟」等を併合して提起する必要があります(行政事件訴訟法37条の3の3項2号)。

3.Y県知事は、占用を許可するに際して、行政手続法上、同時に理由を提示しなければならず、これが不十分な許可は、違法として取り消される。
3・・・妥当ではない
行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければなりません。
ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足ります(行政手続法8条)。上記ルールは、「拒否する処分をする場合」です。
本肢は、許可をする場合なので、その場合、理由の提示は不要です。
よって、理由を提示しなくても違法ではありません。
4.Xが所定の占用料を支払わない場合、Y県知事は、行政代執行法の定めによる代執行によって、その支払いを強制することができる。
4・・・妥当ではない
代執行とは、公法上の代替的作為義務が履行されない場合(その義務を、第三者が代わりに行うことができるけど、それを行わない場合)に、
行政庁が自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者にさせて、その費用を義務者から徴収することです。つまり、代執行とは、行政が、義務者の代わりに行うことを意味し、問題文の「Y県知事は、行政代執行法の定めによる代執行によって、その支払いを強制することができる」とは「Y県知事が義務者の代わりにお金を払う」という意味になります。Xが占有料を支払わないから、行政庁が代わりに支払うというのはおかしいです。
つまり、本肢は代執行ではありません。本肢の内容は「強制徴収」です。
国や地方公共団体が有する金銭債権について、その履行がされない場合に、それを強制的に回収するのが、強制徴収です。

5.Y県知事は、河川改修工事などのやむをえない理由があれば、許可を撤回できるが、こうした場合でも、Xに損失が生ずれば、通常生ずべき損失を補償しなければならない。
5・・・妥当
河川管理者は、許可の撤回などの処分をした場合において、当該処分により損失を受けた者があるときは、その者に対して通常生ずべき損失を補償しなければなりません(河川法76条1項)。
よって、本肢は正しいです。


平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:債権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 内閣 問33 民法・債権
問4 内閣 問34 民法:債権
問5 財政 問35 民法:親族
問6 法の下の平等 問36 商法
問7 社会権 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政事件訴訟法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 国家賠償法 問49 一般知識・社会
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 地方自治法 問51 一般知識・社会
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 行政法 問54 一般知識・個人情報保護
問25 行政法 問55 一般知識・個人情報保護
問26 行政法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・個人情報保護
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:債権 問60 著作権の関係上省略