行政事件訴訟法の定める民衆訴訟と機関訴訟に関する次の記述のうち、法令または最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。
- A県知事に対してA県住民が県職員への条例上の根拠を欠く手当の支給の差止めを求める訴訟は、民衆訴訟である。
- A県県営空港の騒音被害について、被害を受けたと主張する周辺住民がA県に対して集団で損害の賠償を求める訴訟は、民衆訴訟である。
- A県が保管する国の文書について、A県知事が県情報公開条例に基づき公開の決定をした場合において、国が当該決定の取消しを求める訴訟は、機関訴訟である。
- A県議会議員の選挙において、その当選の効力に関し不服がある候補者がA県選挙管理委員会を被告として提起する訴訟は、機関訴訟である。
- A県がB市立中学校で発生した学校事故にかかわる賠償金の全額を被害者に対して支払った後、B市が負担すべき分についてA県がB市に求償する訴訟は、機関訴訟である。
【解説】
1・・・妥当
民衆訴訟とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいいます(行政事件訴訟法5条)
本問の内容は「住民が、地方自治体の執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求を行う」内容なので、地方自治法に基づく住民訴訟(地方自治法242条の2)にあたります。民衆訴訟については、下記2つの具体例を頭に入れておきましょう!
2・・・ 妥当でない
本問は「国家賠償法2条」の損害賠償請求訴訟(国家賠償請求訴訟:民事訴訟)です。道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責任があります(国家賠償法2条1項)。本問はこれに該当します。
■民衆訴訟は、客観訴訟であり、自己の法律上の利益にかかわらない資格(内容)で提起するものをいいます。本問のような損害賠償訴訟は、自己の法律上の利益が害されているので、客観訴訟には該当しません。そのため民衆訴訟として提起はできません。
3.A県が保管する国の文書について、A県知事が県情報公開条例に基づき公開の決定をした場合において、国が当該決定の取消しを求める訴訟は、機関訴訟である。
3・・・妥当でない
抗告訴訟とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいいます(行政事件訴訟法3条1項)。
一方、機関訴訟とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいいます(行政事件訴訟法6条)。
本肢は、沖縄県那覇市が、那覇市の情報公開条例に基づいて、「自衛隊対潜水艦戦作戦センター庁舎の建築計画書」を市民団体の請求に対して開示決定し、この決定に対して「国防上の支障が生じる」として国が当該開示決定の取消訴訟を提起したという事案です(最判平13.7.13)。
【理解】 本問は「国」が「A県知事の行った情報公開の決定」について取り消すよう訴えています。国とA県との紛争ですが、「権限の存否(権限のあるなし)・権限の行使」に関する紛争ではありません。
「A県知事の情報公開の決定(公権力の行使)」に関して取り消すよう訴えているので「取消訴訟」です。
<機関訴訟における権限の存否とは?> 権限が誰にあるかについての争いを指し、
例えば、地方自治法において、
「地方自治体の長」と「議会」とが「議会の議決」について対立した場合、
どちらが権限を持つのかを解決するために
「地方自治体の長」または「議会」は裁判所に出訴することができます(地方自治法176条7項)。
4・・・妥当でない
選挙の効力に関する訴訟は「民衆訴訟」の典型例です。これはそのまま覚えておきましょう!したがって、本問は民衆訴訟なので妥当ではありません。民衆訴訟とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいいます(行政事件訴訟法5条)。
本問の内容は民衆訴訟の具体例として適切なので、この具体例も覚えましょう!
「A県議会議員の選挙において、その当選の効力に関し不服がある候補者がA県選挙管理委員会を被告として提起する訴訟」=「民衆訴訟」
機関訴訟は、「国又は公共団体の機関相互間」における「権限の存否又はその行使に関する紛争」についての訴訟をいいます(行政事件訴訟法6条)(選択肢3参照)。
【ちなみに、抗告訴訟でない理由】
抗告訴訟を提起できるのは、「法律上の利益を有する者」です。「法律上の利益を有する者」とは、「処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されるおそれのある者」です。
ここで、「処分=落選処分」を指します。
「当選する権利」は、そもそも「自己の権利」でもなければ「法律上保護された利益」でもありません。なぜなら、絶対に当選するわけではないからです。
↓
落選した人は、「法律上の利益を有する者」とは言えないので
抗告訴訟の対象者ではないです。
5・・・妥当でない
本問は、国家賠償法(国賠法)3条1項の「国家賠償訴訟」です。国賠法3条1項では、
①公務員による違法な公権力の行使により、他人に損害を与えた場合、「公務員の選任・監督者」と「給与負担者」が異なる場合、この二者は連帯債務を負います。そして、損害を賠償した者は、 「公務員の選任・監督者」と「給与負担者」との内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有します。
また、②営造物の設置・管理の瑕疵により他人に損害を与えた場合、「公の営造物の設置・管理者」と「設置・管理の費用負担者」が異なる場合、この二者は連帯債務を負います。そして、損害を賠償した者は、 「公務員の選任・監督者」と「給与負担者」との内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有します。
本問は、「B市立中学校で発生した学校事故にかかわる賠償金」についてと書いてありますが、①か②かは分からないです。いずれにしても、B市とA県の両者の連帯債務となり、今回A県が賠償しているので、A県はB市に対して、国賠法3条に基づく求償を行えます(国家賠償訴訟) 。
平成30年度(2018年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 著作権の関係上省略 | 問31 | 民法:債権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 法令用語 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 判決文の理解 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | 学問の自由 | 問34 | 民法:親族 |
| 問5 | 生存権 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 参政権 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 天皇・内閣 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 行政代執行法 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 公法と私法 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 無効と取消し | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政事件訴訟 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法・40字 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・社会 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・その他 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・社会 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・社会 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・その他 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・社会 |
| 問25 | 行政法の判例 | 問55 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問26 | 行政法の判例 | 問56 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・個人情報保護 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |










