処分性に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、誤っているものはどれか。
- 保育所の廃止のみを内容とする条例は、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童およびその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。
- 建築基準法42条2項に基づく特定行政庁の告示により、同条1項の道路とみなされる道路(2項道路)の指定は、それが一括指定の方法でされた場合であっても、個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができる。
- (旧)医療法の規定に基づく病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められており、これに従わない場合でも、病院の開設後に、保険医療機関の指定を受けることができなくなる可能性が生じるにすぎないから、この勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たらない。
- 市町村の施行に係る土地区画整理事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。
- 都市計画区域内において工業地域を指定する決定が告示されて生じる効果は、当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的な権利制限にすぎず、このような効果を生じるということだけから直ちに当該地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟の提起を認めることはできない。
【解説】
●保育所廃止によって、「その児童と保護者」という特定の者に対して、保育を受けることに対する期待という法的地位を奪う → 処分性がある → 抗告訴訟の対象
いくつかの保育所を廃止する条例制定に対する判例(最判平21.11.26)では、
「改正条例は、本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位(利益)を奪う結果を生じさせるものである。そのため、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視することができる(=処分性を有する)。」
と判示しています。
よって、本問は正しいです。実際の事案では、条例制定に対する取消訴訟(抗告訴訟の一種)が提起されています。
●2項道路の一括指定 → 個別の土地に対する具体的な制限 → 処分性がある → 抗告訴訟の対象
判例(最判平14.1.17)では、「特定行政庁による2項道路の指定は、それが一括指定の方法でされた場合であっても、個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができる。」と判示しています。よって、本問は正しいです。また、判例の内容から、2項道路の一括指定も処分性を有するので、抗告訴訟の対象となります。そのため、実際の事案では、2項道路の指定の不存在確認を求める無効等確認の訴え(抗告訴訟の一種)が提起されています。
●病院開設中止の勧告 → 行政指導なので従わなくてもよい → しかし、従わないと保険医療機関の指定を受けられない → 健康保険が使えないため、患者は10割負担 → そのような病院は誰も利用しない → 事実上、病院解説を断念せざるを得ない → よって、病院開設中止の勧告は行政指導ではあるが、処分性を有する
判例(最判平17.7.15)では、『病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められている。しかし、当該勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。
(※ 保健医療機関の指定を受けられないと、患者さんは健康保険を利用すること10割負担となる。そのような病院は誰も利用しません。つまり、結果として、実際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる)
「病院開設中止の勧告の保険医療機関の指定に及ぼす効果」及び「病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義(上の※の内容)」を併せ考えると、この勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たる」と解するのが相当である。』と判示しています。よって、本問の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たらない、は誤りです。つまり、病院開設中止の勧告は行政指導ではあるが、処分・公権力の行使にあたるとし、処分性を有します。
●土地区画整理事業の事業計画の決定 → 土地の区画整理が行なわれる → 使用する土地が換わる(換地) → 法的地位に変動をもたらす → 上記事業の決定は処分性を有する → 抗告訴訟の対象
判例(最大判平20.9.10)によると、『市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。
したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たる」と解するのが相当である。』と判示しています。よって、本問は正しいです。
>>土地区画整理事業とは?
●用途地域の指定 → 不特定多数に対する一般的抽象的な制限である → 個別具体的な制限ではないため、処分性を有しない
■工業地域とは、用途地域の一種です。用途地域とは、住居、商業、工業など市街地の大枠として、各地域をどのような地域にしていくのかを定めるものです。その中の一つに「工業地域」があります。工業地域に指定されると、病院や大学などの建設ができなくなるという一定の建築制限が発生します。
【事案】
ある地域について、「工業地域」が指定された。この工業地域の指定が、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?(=処分性を有するか?)
【判例】
判例(最判昭57.4.22)によると、「都市計画区域内において工業地域を指定する決定が告示されて生じる効果は、
あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず、
このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。」
と判示しています。したがって、本問は正しいです。
【ポイント】 個別具体的な権利侵害の場合に「処分性を有する」とし、一般的抽象的な(たくさんの人に対する)権利侵害の場合は「処分性はない」としています。
平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説
| 問1 | 基礎法学 | 問31 | 民法:物権 |
|---|---|---|---|
| 問2 | 基礎法学 | 問32 | 民法:債権 |
| 問3 | 国民審査 | 問33 | 民法:債権 |
| 問4 | プライバシー権 | 問34 | 民法:債権 |
| 問5 | 国会 | 問35 | 民法:親族 |
| 問6 | 信教の自由 | 問36 | 商法 |
| 問7 | 法の下の平等 | 問37 | 会社法 |
| 問8 | 取消しと撤回 | 問38 | 会社法 |
| 問9 | 行政裁量 | 問39 | 会社法 |
| 問10 | 行政事件訴訟法 | 問40 | 会社法 |
| 問11 | 行政手続法 | 問41 | 憲法 |
| 問12 | 行政手続法 | 問42 | 行政法 |
| 問13 | 行政手続法 | 問43 | 行政法 |
| 問14 | 行政不服審査法 | 問44 | 行政法・40字 |
| 問15 | 行政不服審査法 | 問45 | 民法改正により削除 |
| 問16 | 行政不服審査法 | 問46 | 民法・40字 |
| 問17 | 行政事件訴訟法 | 問47 | 一般知識・政治 |
| 問18 | 行政事件訴訟法 | 問48 | 一般知識・政治 |
| 問19 | 行政事件訴訟法 | 問49 | 一般知識・政治 |
| 問20 | 国家賠償法 | 問50 | 一般知識・経済 |
| 問21 | 国家賠償法 | 問51 | 一般知識・経済 |
| 問22 | 地方自治法 | 問52 | 一般知識・社会 |
| 問23 | 地方自治法 | 問53 | 一般知識・社会 |
| 問24 | 地方自治法 | 問54 | 一般知識・情報通信 |
| 問25 | 行政法 | 問55 | 一般知識・情報通信 |
| 問26 | 行政事件訴訟法 | 問56 | 一般知識・情報通信 |
| 問27 | 民法:総則 | 問57 | 一般知識・公文書管理法 |
| 問28 | 民法:総則 | 問58 | 著作権の関係上省略 |
| 問29 | 民法:物権 | 問59 | 著作権の関係上省略 |
| 問30 | 民法:物権 | 問60 | 著作権の関係上省略 |
