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令和5年・2023|問34|民法・損益相殺

損益相殺ないし損益相殺的調整に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 幼児が死亡した場合には、親は将来の養育費の支出を免れるので、幼児の逸失利益の算定に際して親の養育費は親に対する損害賠償額から控除される。
  2. 被害者が死亡した場合に支払われる生命保険金は、同一の損害についての重複填補に当たるので、被害者の逸失利益の算定に当たって支払われる生命保険金は損害賠償額から控除される。
  3. 退職年金の受給者が死亡し遺族が遺族年金の受給権を得た場合には、遺族年金は遺族の生活水準の維持のために支給されるものなので、退職年金受給者の逸失利益の算定に際して、いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についても損害賠償額から控除されることはない。
  4. 著しく高利の貸付けという形をとっていわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で借主から高額の金員を違法に取得し多大な利益を得る、という反倫理的行為に該当する不法行為の手段として金員を交付した場合、この貸付けによって損害を被った借主が得た貸付金に相当する利益は、借主から貸主に対する不法行為に基づく損害賠償請求に際して損害賠償額から控除されない。
  5. 新築の建物が安全性に関する重大な瑕疵があるために、社会通念上、社会経済的な価値を有しないと評価される場合であっても、建て替えまで買主がその建物に居住していた居住利益は、買主からの建て替え費用相当額の損害賠償請求に際して損害賠償額から控除される。

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【答え】:4
【解説】

1.幼児が死亡した場合には、親は将来の養育費の支出を免れるので、幼児の逸失利益の算定に際して親の養育費は親に対する損害賠償額から控除される。

1・・・妥当でない

まず、損益相殺とは、収益と費用、又は損失と収益を相殺して、純損益を算出することを指します。「被害者が不法行為によって損害を被る(マイナス)」と同時に、「同一の原因によって利益を受けた(プラス)」場合には、賠償されるべき損害額が全額もらえるわけではなく、その利益分を控除する(差し引く)ことをいいます。

また、「幼児の逸失利益」とは、幼児が成長していく過程で得られるべきであった経済的利益や社会的利益のことを指します。具体的には、将来の収入、教育を受ける機会、職業の選択肢、人間関係の形成などが挙げられます。幼児が不法行為によって亡くなった場合、彼らが成長していく過程で得られるはずだったこれらの利益(プラス)を逸失した(失った)とされ、その逸失利益について損害賠償を求めることができます。
そして、不法行為により死亡した幼児の損害賠償債権(逸失利益)を相続した者が、幼児の養育費の支出を必要としなくなった場合、養育費の支出がなくなっているのでプラス(利益部分)です。しかし、養育費(プラス)は損益相殺の対象となりません最判昭53.10.20)。よって、幼児の逸失利益の算定に際して親の養育費は親に対する損害賠償額から控除されません。よって、妥当ではありません。
【具体例】 例えば、逸失利益が1億円、かかるはずだった養育費が2000万円だった場合、逸失利益について損害賠償額は。1億円ということです。

2.被害者が死亡した場合に支払われる生命保険金は、同一の損害についての重複填補に当たるので、被害者の逸失利益の算定に当たって支払われる生命保険金は損害賠償額から控除される。

2・・・妥当でない

不法行為により被保険者が死亡して相続人に保険金(プラス)の給付がされた場合であっても、損益相殺の対象となりません(最判昭39.9.25)。よって、被害者の逸失利益の算定に当たって支払われる生命保険金は損害賠償額から控除されません。

3.退職年金の受給者が死亡し遺族が遺族年金の受給権を得た場合には、遺族年金は遺族の生活水準の維持のために支給されるものなので、退職年金受給者の逸失利益の算定に際して、いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についても損害賠償額から控除されることはない。

3・・・妥当でない

「退職年金を受給していた者」が不法行為によって死亡した場合には、相続人は、加害者に対し、退職年金の受給者が生存していれば、その平均余命期間に受給することができた退職年金の現在額を同人の損害として、損害賠償請求できます。
この場合において、相続人のうちに、退職年金の受給者の死亡を原因として、遺族年金の受給権を取得した者があるときは、遺族年金の支給を受けるべき者につき、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、その者が加害者に対して賠償を求め得る損害額からこれを控除すべきものであるが、いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についてまで損害額から控除されないです(最大判平5.3.24)。

まず、退職年金の受給者が生存していれば、その平均余命期間に受給することができた退職年金の現在額を、その人の損害として損害賠償請求できます。つまり、被害者が生存していた場合に受給するはずだった退職年金の額を基準として、その損害額が算定されます。

また、被害者の相続人の中に、遺族年金の受給権を取得した者がいる場合、その者が加害者に対して賠償を求める損害額から、実際に受給されるべき遺族年金の額を控除することができます。ただし、遺族年金の支給が確定していない場合は、その額については控除しなくても構いません。つまり、支給が確定している遺族年金の額だけを損害額から差し引くことができます

【本肢】 「いまだ支給を受けることが確定していない遺族年金の額についても」となっています。「~についても」ということは、「①支給を受けることが確定した遺族年金」も「②支給を受けることが確定していない遺族年金」も両方とも、損害賠償額からは控除されない、という意味になります。これは妥当ではありません。①は控除されるので妥当ではありません。

4.著しく高利の貸付けという形をとっていわゆるヤミ金融業者が元利金等の名目で借主から高額の金員を違法に取得し多大な利益を得る、という反倫理的行為に該当する不法行為の手段として金員を交付した場合、この貸付けによって損害を被った借主が得た貸付金に相当する利益は、借主から貸主に対する不法行為に基づく損害賠償請求に際して損害賠償額から控除されない。

4・・・妥当

いわゆるヤミ金融業者が、元利金等の名目で違法に金員を取得する手段として著しく高利の貸付けの形をとって借主に金員を交付し、借主が貸付金に相当する利益を得た場合に、借主からの不法行為に基づく損害賠償請求において同利益を損益相殺等の対象として借主の損害額から控除することは、民法708条(不法原因給付)の趣旨に反するものとして許されません(最判平20.6.10)。言い換えると、ヤミ金融業者が高金利で貸し付けを行い、借主がその貸し付けによって利益を得た場合その利益を借主の損害額から控除して損害賠償を軽減することはできませんなぜなら、その利益自体がヤミ金融業者の違法行為によって生じたものであり、このような利益を損益相殺等の手段で補填することは、不法原因給付の趣旨に反するからです。

【不法原因給付とは?】 「不法原因給付」とは、不法な原因に基づいて行われた給付のことです。今回でいえば、ヤミ金融業者が、著しく高い金利でお金を貸す行為です。そして、不法な原因のために給付をした者(ヤミ金融業者)は、その給付したもの(貸したお金)の返還を請求することができません。

【具体例】 例えば、Aという個人がヤミ金融業者から著しく高金利で借り入れを行い、その結果、元利金等の名目で違法に金銭を取得されたとします。Aはその資金を利用して事業を展開し、その結果、1000万円の利益を得ました。

しかし、後にAはヤミ金融業者の違法性を知り、彼らから得た金銭が不法な手段であることを知ります。Aはヤミ金融業者による不法行為に基づき、損害賠償を求める訴訟を起こします。

裁判所はAの主張を支持し、ヤミ金融業者に対して1500万円の損害賠償を命じたとします。しかし、Aがその借り入れによって得た利益(1000万円)を損害額(1500万円)から控除して賠償金額を軽減することはできません。なぜなら、その利益自体がヤミ金融業者の違法行為によって生じたものであり、このような利益を損益相殺等の手段で補填することは、不法原因給付の趣旨に反するからです。

つまり、Aが得た利益も違法行為の結果であるため、その利益を損害額から控除して賠償金額を軽減することは許されないということです。つまり、ヤミ金融業者は、貸したお金を返還されないだけでなく、損害賠償金も支払う必要があることになります。

5.新築の建物が安全性に関する重大な瑕疵があるために、社会通念上、社会経済的な価値を有しないと評価される場合であっても、建て替えまで買主がその建物に居住していた居住利益は、買主からの建て替え費用相当額の損害賠償請求に際して損害賠償額から控除される。

5・・・妥当でない

売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において、当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには、上記建物の買主がこれに居住していたという利益については、当該買主からの工事施工者等に対する建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできません(最判平22.6.17)。

分かりやすくいうと、建物の瑕疵が構造耐力上の安全性に深刻な影響を与え、倒壊のおそれがあるほど深刻である場合、その建物は社会的・経済的な価値を有していないとみなされます。このような場合、建物の買主がその建物に居住していたという利益については、建て替え費用相当額の損害賠償請求から控除されることはできません

言い換えると建物の買主は建て替え費用を請求することができますが、その建物に居住していたことから得られる利益は、その費用から控除されませんなぜなら、建物が社会的・経済的な価値を有していない場合、その利益は補填すべきものではないとされるからです。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和5年・2023|問33|民法・解除

契約の解除等に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものの組合せはどれか。

ア.使用貸借契約においては、期間や使用収益の目的を定めているか否かにかかわらず、借主は、いつでも契約の解除をすることができる。

イ.賃貸借契約は、期間の定めがある場合であっても、賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなったときには、当該賃貸借契約は終了する。

ウ.請負契約においては、請負人が仕事を完成しているか否かにかかわらず、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

エ.委任契約は、委任者であると受任者であるとにかかわらず、いつでも契約の解除をすることができる。

オ.寄託契約においては、寄託物を受け取るべき時期を経過しても寄託者が受寄者に寄託物を引き渡さない場合には、書面による寄託でも無報酬の受寄者は、直ちに契約の解除をすることができる。

  1. ア・イ
  2. ア・エ
  3. イ・ウ
  4. ウ・オ
  5. エ・オ

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【答え】:4(ウ・オが妥当でない)

【解説】

ア.使用貸借契約においては、期間や使用収益の目的を定めているか否かにかかわらず、借主は、いつでも契約の解除をすることができる。

ア・・・妥当

使用貸借において、借主は、いつでも契約の解除をすることができます(民法598条3項)。期間や使用収益の目的を定めているか否かに関係なく、また、理由がなくても解除ができます。

貸主からの解除
  1. 借主がまだ目的物を受け取っていないとき、貸主は解除できる ただし、書面による使用貸借については、解除できない
  2. 期間の定めをしなかった場合でも、使用及び収益の目的を定めたときは、借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき、貸主は解除できる
  3. 当事者が「使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的」を定めなかったときは、貸主は、いつでも 契約の解除をすることができる。
借主からの解除 借主は、いつでも契約の解除をすることができる
イ.賃貸借契約は、期間の定めがある場合であっても、賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなったときには、当該賃貸借契約は終了する。

イ・・・妥当

賃貸借契約において、賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、賃借物の全部滅失等によって終了します(民法616条の2)。よって、妥当です。上記内容を言い換えると、賃借物が全て失われたり、何らかの理由で使用や収益が不可能になった場合、賃貸借契約は終了し、貸主と借主の間での法的な関係も終了することになります。これにより、借主は賃借物を返却する義務がなくなり貸主も賃料を請求する権利を失います

ウ.請負契約においては、請負人が仕事を完成しているか否かにかかわらず、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。

ウ・・・妥当でない

請負契約において、請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができます(民法641条)。本肢は「請負人が仕事を完成しているか否かにかかわらず」というのが誤りです。完成すると、民法641条に基づいて解除することはできません。よって、妥当ではありません。

【理由】 例えば、東京在住の会社員Aが、東京都内でマイホーム建築のために、建築業者(請負人)と建築請負契約を締結した。しかし、請負人が工事着工直後、Aの大阪転勤が決まり、今後も東京都内に戻ってくることがないことが確定した。そうなると、マイホームを建築しても意味がありません。そのような場合、Aは、すでに請負人が工事した部分の費用と、今後受け取るはずだった利益分などを賠償すれば、Aから契約解除が可能です。

ちなみに、請負人から、賠償して解除できるルールはありません

エ.委任契約は、委任者であると受任者であるとにかかわらず、いつでも契約の解除をすることができる。

エ・・・妥当

委任は、各当事者いつでも解除をすることができます(民法651条1項)。つまり、委任者から解除も可能ですし、受任者から解除することも可能です。よって、妥当です。民法では契約の自由が重視されており、契約を締結した当事者が自らの意思に基づいて契約を解除できることが重要です。委任契約もこの自由な契約の一つであり、当事者が必要に応じて契約を解除できることが保障されています。

オ.寄託契約においては、寄託物を受け取るべき時期を経過しても寄託者が受寄者に寄託物を引き渡さない場合には、書面による寄託でも無報酬の受寄者は、直ちに契約の解除をすることができる。

オ・・・妥当でない

寄託契約とは、物を預かってもらう契約です。そして、「預けた人を寄託者」「預かった人を受寄者(じゅきしゃ)」と言います。そして、受寄者(無報酬で寄託を受けた場合にあっては、書面による寄託の受寄者に限る。)は、寄託物(預かったもの)を受け取るべき時期を経過したにもかかわらず、寄託者が寄託物を引き渡さない場合において、相当の期間を定めてその引渡しの催告をし、その期間内に引渡しがないときは、契約の解除をすることができます(民法657条の2第3項)。つまり、有償寄託及び書面による無償寄託の場合において、寄託物が引き渡されないときは、受寄者は、相当期間を定めて引渡しの催告を行い、期間内に引渡しがなければ、契約を解除できます。本肢は「書面による寄託でも無報酬の受寄者は、直ちに契約の解除をすることができる。」が妥当ではありません。相当期間を定めて引き渡しの催告が必要です。

【民法657条の2第3項の具体例】 

例えば、Aさん(受寄者)は、友人Bさん(寄託者)から、夏休み中に家具を預かる契約をしました。夏休みが終わり、Bさんが家具を取りに来なかった場合、Aさんは一定の期間を設け、その期間内に家具が引き取りに来るよう催告をしたにも関わらず、Bさんが取りに来ない場合、契約を解除することができます。

「民法657条の2第3項」は、無償で物を預かった受寄者が、預かった物(寄託物)を返そうとしても寄託者が引き取りに来ない場合、受寄者は一定の手続きを経て契約を解除することができます。これは、寄託物を無期限に放置される受寄者を保護するために設けられています。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和5年・2023|問32|民法・契約不適合責任

AとBとの間でA所有の美術品甲(以下「甲」という。)をBに売却する旨の本件売買契約が締結された。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、妥当なものはどれか。

  1. Aは、Bが予め甲の受領を明確に拒んでいる場合であっても、甲につき弁済期に現実の提供をしなければ、履行遅滞の責任を免れない。
  2. Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合であっても、相当期間を定めて支払の催告をしなければ、本件売買契約を解除することができない。
  3. Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した。このような場合であっても、Bは、Aに対して甲の修補を請求することができる。
  4. Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできない。
  5. Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、本件売買契約を解除することができる。

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【答え】:4

【解説】

1.Aは、Bが予め甲の受領を明確に拒んでいる場合であっても、甲につき弁済期に現実の提供をしなければ、履行遅滞の責任を免れない。

1・・・妥当でない

債務者は、弁済の提供の時から、債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れます(民法492条)。分かりやすくいうと、弁済の提供をすれば、債務不履行責任から免れるというこです。そして、「弁済の提供の方法」には、「現実の提供」と「口頭の提供」があります。原則、「現実の提供」が必要ですが、債権者が受領を明確に拒んでいる場合には、「現実の提供」だけでなく口頭の提供も不要と判示しています(最大判昭32.6.5)。よって、甲の引渡債権の債権者であるBが、予め甲の受領を明確に拒んでいる場合、Aは、現実の提供をしなくても履行遅滞の責任を免れます。よって、本肢は妥当ではありません。

【まとめると】

原則、「現実の提供(例えば、引き渡し)」が必要ですが、引渡債権者(買主)が、受領を「明確に」拒んでいる場合は、口頭で、「いつでも引き渡せますよ!受け取ってくれませんか?」と「口頭の提供」をしなくても売主は債務不履行責任を負わない、ということです。

2.Aは、Bが代金の支払を明確に拒んでいる場合であっても、相当期間を定めて支払の催告をしなければ、本件売買契約を解除することができない。

2・・・妥当でない

債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができます(民法542条1項2号)。よって、代金債権の債務者であるBが代金の支払いを明確に拒んでいる場合、債権者Aは支払いの催告をすることなく直ちに売買契約を解除できます。

(催告によらない解除)
民法542条 次に掲げる場合には、債権者は、催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

  1. 債務の全部の履行が不能であるとき。
  2. 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
  3. 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
  4. 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
  5. 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
3.Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した。このような場合であっても、Bは、Aに対して甲の修補を請求することができる。

3・・・妥当でない

売主が契約の内容に適合する目的物を使って、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合、その履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したその滅失又は損傷したとしても、買主は、契約不適合責任を追及できなくなります(民法567条2項)。よって、売主Aが契約の内容に適合する目的物(甲)を使って、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主Bが受領を拒み、隣人の過失によって生じた火災により甲が損傷した場合、Aに責任はないので、買主Bは、Aに対して甲の修補を請求することはできません。
※「契約不適合責任の追及」とは、①履行の追完請求、②代金減額請求、③損害賠償請求及び④契約解除の4つです。

4.Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、代金の支払を拒むことはできない。

4・・・妥当

選択肢3の「民法567条2項」のルールを使います。すると、売主Aが契約の内容に適合する目的物(甲)を使って、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主Bが受領を拒み、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した場合、買主Bは、代金の支払いを拒むことはできません。

5.Aが弁済期に甲を持参したところ、Bが甲を管理するための準備が整っていないことを理由に受領を拒んだため、Aは甲を持ち帰ったが、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した。このような場合であっても、Bは、本件売買契約を解除することができる。

5・・・妥当でない

選択肢3の「民法567条2項」のルールを使います。すると、売主Aが契約の内容に適合する目的物(甲)を使って、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主Bが受領を拒み、隣人の過失によって生じた火災により甲が滅失した場合、Bは、売買契約を解除することができません。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和5年・2023|問31|民法・相殺

相殺に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであれば、その第三債務者が、差押え後に他人の債権を取得したときでなければ、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。
  2. 時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺適状にあった場合には、その債権者は、当該債権を自働債権として相殺することができる。
  3. 相殺禁止特約のついた債権を譲り受けた者が当該特約について悪意又は重過失である場合には、当該譲渡債権の債務者は、当該特約を譲受人に対抗することができる。
  4. 債務者に対する貸金債権の回収が困難なため、債権者がその腹いせに悪意で債務者の物を破損した場合には、債権者は、当該行為による損害賠償債務を受働債権として自己が有する貸金債権と相殺することはできない。
  5. 過失によって人の生命又は身体に損害を与えた場合、その加害者は、その被害者に対して有する貸金債権を自働債権として、被害者に対する損害賠償債務と相殺することができる。

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【答え】:5

【解説】

1.差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであれば、その第三債務者が、差押え後に他人の債権を取得したときでなければ、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。

1・・・正しい

差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、原則、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができます(民法511条1項)。

【理解】 取得した時期が、差押え前か差押え後かで判断します。差押え前に反対債権(下記乙債権)を取得したのであれば、Bは、相殺を主張できる。一方、差し押さえ後に反対債権(下記乙債権)を取得したのであれば、Bは相殺を主張できず、差押権者Cが勝ちます。

【具体例】 AがBに対して甲債権を有し、他方BはAに対して乙債権を有している場合には、Bは、乙債権を自働債権として(甲債権を受働債権とし)、相殺することができます(民法505条1項)。
甲債権を「Aの債権者C」が差し押さえた場合、乙債権が甲債権の差押え後に取得したものである場合には、Bは乙債権を自働債権とする相殺を差押債権者Cに対抗することはできません。(下図参照)

一方、乙債権が甲債権の差押え前に取得したものであれば、相殺を差押債権者Cに対抗することができます(民法511条1項)。(下図参照)

2.時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺適状にあった場合には、その債権者は、当該債権を自働債権として相殺することができる。

2・・・正しい

時効によって消滅した債権が、その消滅以前に相殺適状になっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができます(民法508条)。よって、正しいです。

【具体例】 例えば、AがBに対して100万円の貸していたとします。しかし、このAの債権が20年間行使されずに時効によって消滅しました。一方、AはBから100万円の時計を購入していて、Bは100万円の債権をもていました。この2つの債権は、Aの債権の時効消滅前に相殺の要件を満たしていた場合、Aは、時効によって消滅した債権(Aの債権)を使って、相殺することができます。

3.相殺禁止特約のついた債権を譲り受けた者が当該特約について悪意又は重過失である場合には、当該譲渡債権の債務者は、当該特約を譲受人に対抗することができる。

3・・・正しい

当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り(悪意)、又は重大な過失によって知らなかったとき(重過失)に限り、その第三者に対抗することができます(民法505条2項)。よって、本肢は正しいです。

【具体例】
令和5年・2023年、行政書士試験、問31の選択肢3問題の状況を表した図

そもそも相殺は、互いに相手に対する債権と債務を打ち消し合うことです。しかし、債権者A や債務者Bが相殺をしたくない場合、当事者の合意により(特約により)相殺を禁止することができます。この合意があった場合において、相殺禁止の合意に反して、Aが、債権(債務者をBとする債権)を第三者Cに譲渡した場合、第三者C(譲受人)が、相殺禁止の合意を知っており(悪意)、かつ重大な過失なく知るべきだった(重過失)場合、第三者Cは、たとえ、債務者Bに対して債務を負っていたとしても、譲り受けた「債務者をBとする債権」を使って相殺を行うことができません。

4.債務者に対する貸金債権の回収が困難なため、債権者がその腹いせに悪意で債務者の物を破損した場合には、債権者は、当該行為による損害賠償債務を受働債権として自己が有する貸金債権と相殺することはできない。

4・・・正しい

悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務者は、相殺をもって債権者(被害者)に対抗することができません(民法509条1号)。

【具体例】 例えば、貸金債権の債権者Aが、その腹いせに悪意で債務者Bの物を破損した場合、当該債権者Aは、悪意による不法行為に基づく損害賠償債務を負います。この場合、貸金債権の債権者Aは、「Bが有する不法行為に基づく損害賠償債権」を受動債権として、貸金債権(自働債権)とを相殺することはできません。

【理解】 わざと損害を与える意思をもって不法行為を行った者(悪意の不法行為者)から、相殺できるルールがあると社会秩序が乱れるから、そのようなルールはありません。例えば、上記具体例のように、Aが腹いせに物を壊しても、相殺できるルールにしたら、お金が返ってこないなら、物を壊しても、貸したお金と帳消しにできる(相殺できる)ので、物を壊す人が多くなります。

(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
民法509条 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)

5.過失によって人の生命又は身体に損害を与えた場合、その加害者は、その被害者に対して有する貸金債権を自働債権として、被害者に対する損害賠償債務と相殺することができる。

5・・・誤り

人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができません(民法509条2号)。そして、過失であったとしても、人の生命又は身体に損害を与えてしまったのであれば、加害者(人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務者)は、被害者に対して、「加害者の有する貸金債権」を自働債権として、損害賠償債務と相殺することはできません。よって、誤りです。

【具体例】 AがBに対して100万円を貸していた。(AはBに対する100万円の貸金債権を持つ)。その後、Aが車を運転中にBを引いてしまい、100万円の賠償債務を負った。この場合、BはAに対して損害賠償債権を持つ。この状況で、加害者AからBに対して相殺を主張することはできません。なぜなら、人の生命又は身体の侵害による損害賠償金は治療費などで使うため、きちんと現金で払ってあげるべきだからです。もちろん、AがBに100万円を払えば、Bの100万円の債務は残りますが、これはあとで返していけばよいです。

逆に、Bから、お金はいらないから相殺させて!と主張するのはOKです。被害者Bに不利益は出ないからです。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和5年・2023|問30|民法・連帯債務

連帯債務者の一人について生じた次のア~オの事由のうち、民法の規定に照らし、他の連帯債務者に対して効力が生じないものの組合せとして、正しいものはどれか。

ア.連帯債務者の一人と債権者との間の混同

イ.連帯債務者の一人がした代物弁済

ウ.連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者がした相殺の援用

エ.債権者がした連帯債務者の一人に対する履行の請求

オ.債権者がした連帯債務者の一人に対する債務の免除

  1. ア・イ
  2. ア・ウ
  3. イ・エ
  4. ウ・オ
  5. エ・オ

>解答と解説はこちら


【答え】:5(エ・オが相対効)

【解説】

ア.連帯債務者の一人と債権者との間の混同

ア・・・他の連帯債務者に対して効力が生じる

連帯債務において、連帯債務者の一人に生じた事由が、他の連帯債務者に対して効力が生じるもの絶対効という)は次の4つです。

  1. 弁済(弁済、代物弁済、供託等)
  2. 相殺
  3. 混同
  4. 更改

上記以外の事由は、他の連帯債務者に対して効力が生じません相対効という)。

>>連帯債務の絶対効と相対効の具体例はこちら

本肢は、「3.混同」に当たるので、絶対効です。つまり、他の連帯債務者に対して効力が生じます。

イ.連帯債務者の一人がした代物弁済

イ・・・他の連帯債務者に対して効力が生じる

選択肢1の解説を見ると、「代物弁済」は、絶対効の「1」に当たるので、他の連帯債務者に対して効力が生じます。

ウ.連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者がした相殺の援用

ウ・・・他の連帯債務者に対して効力が生じる

選択肢1の解説を見ると、「相殺」は、絶対効の「2」に当たるので、他の連帯債務者に対して効力が生じます。

エ.債権者がした連帯債務者の一人に対する履行の請求

エ・・・他の連帯債務者に対して効力が生じない

選択肢1の解説を見ると、「履行の請求」は、絶対効の4つのいずれにも該当しません。そのため、相対効です。よって、他の連帯債務者に対して効力が生じません。

オ.債権者がした連帯債務者の一人に対する債務の免除

オ・・・他の連帯債務者に対して効力が生じない

選択肢1の解説を見ると、「債務の免除」は、絶対効の4つのいずれにも該当しません。そのため、相対効です。よって、他の連帯債務者に対して効力が生じません。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和5年・2023|問29|民法・譲渡担保

Aが家電製品の販売業者のBに対して有する貸金債権の担保として、Bが営業用動産として所有し、甲倉庫内において保管する在庫商品の一切につき、Aのために集合(流動)動産譲渡担保権(以下「本件譲渡担保権」という。)を設定した。この場合に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. 構成部分が変動する集合動産についても、その種類、場所および量的範囲が指定され、目的物の範囲が特定されている場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができ、当該集合物につき、AはBから占有改定の引渡しを受けることによって対抗要件が具備される。
  2. 本件譲渡担保権の設定後に、Bが新たな家電製品乙(以下「乙」という。)を営業用に仕入れて甲倉庫内に搬入した場合であっても、集合物としての同一性が損なわれていない限り、本件譲渡担保権の効力は乙に及ぶ。
  3. 本件譲渡担保権の設定後であっても、通常の営業の範囲に属する場合であれば、Bは甲倉庫内の在庫商品を処分する権限を有する。
  4. 甲倉庫内の在庫商品の中に、CがBに対して売却した家電製品丙(以下「丙」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丙の売買代金を支払わない場合、丙についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Cは丙について動産先取特権を行使することができない。
  5. 甲倉庫内の在庫商品の中に、DがBに対して所有権留保特約付きの売買契約によって売却した家電製品丁(以下「丁」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丁の売買代金をDに支払わないときにはDに所有権が留保される旨が定められていた場合でも、丁についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Aは、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することができる。

>解答と解説はこちら


【答え】:5
【解説】

1.構成部分が変動する集合動産についても、その種類、場所および量的範囲が指定され、目的物の範囲が特定されている場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができ、当該集合物につき、AはBから占有改定の引渡しを受けることによって対抗要件が具備される。

1・・・妥当

構成部分が変動する集合動産でも、種類、所在場所、量の範囲を指定するなどの方法により、目的物の範囲が特定される場合には、ひとつの集合物として、譲渡担保の目的にできます最判昭54.2.15)また、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の設定者がその構成部分である動産の占有改定により取得した場合、譲渡担保権者は、譲渡担保権の対抗要件を備え、その効力は、新たにその構成部分となった動産を含む集合物に及びます最判昭62.11.10)。つまり、構成部分が変動する集合動産についても、その種類、場所および量的範囲が指定され、目的物の範囲が特定されている場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができ、当該集合物につき、AはBから占有改定の引渡しを受けることによって対抗要件が具備されます。

譲渡担保(じょうとたんぽ)とは

譲渡担保とは、債権者が、「債権担保の目的で所有権をはじめとする財産権」を、債務者等から譲り受け、被担保債権の弁済をもってその権利を返還するというものです。

【譲渡担保の具体例 債権者Aが債務者Bにお金を貸した。その担保(保証)としてB所有の不動産の所有権を「債権者A」に移転(移転登記)させ、債務の弁済が完了した時点で不動産の所有権を債務者Bに戻すというものです。

もし、債務者Bが債務を弁済できないときは、暫定的に債権者に移っていた所有権は、確定的に債権者Aに帰属することになるというものです。抵当権設定では、「競売」にかけて競売代金から弁済を受けるのですが、競売にかけたりする手続きが面倒です。それを避けるために、お金返さなかったら、不動産をそのままもらいますよ!ということです。

そして、譲渡担保は、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合には、自由に処分(売却)できる機能も有します。

【本肢の内容】

「構成部分の変動する集合動産」とは、「倉庫にあるモノ」です。例えば、倉庫内にある家電製品たち(集合動産)について譲渡担保を設定した場合です。

占有改定とは ある目的物の占有者がそれを手元に置いたまま占有を他者に移す場合をいいます。上記事例では、譲渡担保を設定してもらった譲渡担保権者Aが、家電製品たちを占有します。しかし、Aが家電製品たちを保管するのが困難等の理由により、譲渡担保権設定者Bのもとに(倉庫に)置いたまま、占有はAに移すということです。

判例 判例では、「構成部分(家電製品の一部)が変動して、新しく構成部分となった動産(追加された家電製品)も、占有改定により、譲渡担保権者A(債権者)は対抗力を取得する」としています。

2.本件譲渡担保権の設定後に、Bが新たな家電製品乙(以下「乙」という。)を営業用に仕入れて甲倉庫内に搬入した場合であっても、集合物としての同一性が損なわれていない限り、本件譲渡担保権の効力は乙に及ぶ。

2・・・妥当

債権者と債務者との間に、集合物を目的とする譲渡担保権設定契約が締結され、その際に債権者が占有改定の方法により現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備したことになり、譲渡担保権の効力は、その後、構成部分(倉庫にある在庫商品)が変動したとしても、集合物としての同一性が損なわれない限り新たにその構成部分となった動産を包含する集合物について、譲渡担保の効力が及びます最判昭62.11.10)。よって、本肢は妥当です。

【具体例】 構成部分(家電製品の一部)が変動して、新しく構成部分となった動産(追加された家電製品)も、譲渡担保権は及ぶので、譲渡担保権者A(債権者)は、新たに追加された家電についても競売にかけることができます。

3.本件譲渡担保権の設定後であっても、通常の営業の範囲に属する場合であれば、Bは甲倉庫内の在庫商品を処分する権限を有する。

3・・・妥当

構成部分の変動する集合動産を目的とする譲渡担保においては、集合物の内容が譲渡担保設定者の営業活動を通じて当然に変動することが予定されているのであるから、譲渡担保設定者には、その通常の営業の範囲内で、譲渡担保の目的を構成する動産を処分する権限が付与されており、この権限内でされた処分の相手方は、当該動産について、譲渡担保の拘束を受けることなく確定的に所有権を取得することができます(最判平18.7.20)。つまり、倉庫にある在庫商品について、動産譲渡担保契約を締結したとしても、譲渡担保設定者Bは、目的物の商品を通常の営業の範囲内で第三者に売却する権限をもっており、Bは、通常の営業の範囲内なら甲倉庫内の商品を処分(売却)することができます

4.甲倉庫内の在庫商品の中に、CがBに対して売却した家電製品丙(以下「丙」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丙の売買代金を支払わない場合、丙についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Cは丙について動産先取特権を行使することができない。

4・・・妥当

まず、先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができなくなります(民法333条)。
そして、動産売買の先取特権の存在する動産(先取特権が付いた動産)が、譲渡担保権の目的である集合物の構成部分となった場合(倉庫に入れられた場合)、債権者は、「先取特権の付いた動産」についても引渡を受けたものとして譲渡担保権を主張することができ、特段の事情のない限り、民法333条の第三取得者に該当します(最判昭62.11.10)。よって、先取特権者Cは、丙(先取特権が付いた動産)について動産先取特権を行使することができません。よって、本肢は妥当です。

【具体例】 構成部分(家電製品の一部)が変動して、新しく構成部分となった動産(追加された家電製品)がある。この追加動産に先取特権がついていました。

それでも、譲渡担保権の方が、先取特権より強いので、先取特権者は、先取特権を行使できません。

5.甲倉庫内の在庫商品の中に、DがBに対して所有権留保特約付きの売買契約によって売却した家電製品丁(以下「丁」という。)が含まれており、Bが履行期日までに丁の売買代金をDに支払わないときにはDに所有権が留保される旨が定められていた場合でも、丁についてAが既に占有改定による引渡しを受けていたときは、Aは、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することができる。

5・・・妥当でない

選択肢1の解説の通り、占有改定で占有権を取得した場合、譲渡担保権者は、譲渡担保権の対抗要件を備えます(最判昭62.11.10)。つまり、丁についてAが既に占有改定による引渡しを受ければ、Aは、第三者に対して譲渡担保権を主張することはできます。しかし、継続的な売買契約において目的物の所有権が売買代金の完済まで売主Dに留保される旨が定められた場合に、売主Dは買主Bに動産の転売を包括的に承諾していたが、これは売主が買主に契約の売買代金を支払うための資金を確保させる趣旨であり、売買代金が完済されていない動産については、Aは、売主Dに譲渡担保権を主張することができません(最判平30.12.7)。よって、本肢は、「丁についてAが既に占有改定による引渡しを受けていても、Aは、Dに対して本件譲渡担保権を当然に主張することはできない」ので妥当ではありません。

つまり、「所有権留保特約」の方が、譲渡担保より強いということです。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和5年・2023|問28|取得時効・物権変動

Aが所有する甲土地(以下「甲」という。)につき、Bの所有権の取得時効が完成し、その後、Bがこれを援用した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。

  1. Bの時効完成前に、CがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、Bは、Cに対して、登記なくして時効による所有権取得をもって対抗することができる。
  2. Bの時効完成後に、DがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、Bは、Dに対して、Dが背信的悪意者であったと認められる特段の事情があるときでも、登記なくして時効による所有権取得を対抗することはできない。
  3. Bの時効完成後に、EがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、その後さらにBが甲の占有を取得時効の成立に必要な期間継続したときは、Bは、Eに対し時効を援用すれば、時効による所有権取得をもって登記なくして対抗することができる。
  4. Bの時効完成後に、FがAから甲につき抵当権の設定を受けてその登記を了した場合、Bは、抵当権設定登記後引き続き甲の占有を取得時効の成立に必要な期間継続したときは、BがFに対し時効を援用すれば、Bが抵当権の存在を容認していたなどの抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、甲を時効取得し、その結果、Fの抵当権は消滅する。
  5. Bの時効完成後に、GがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、Bは、Gに対して、登記なくして時効による所有権取得をもって対抗することはできず、その際にBが甲の占有開始時点を任意に選択してその成立を主張することは許されない。

>解答と解説はこちら


【答え】:2

【解説】

1.Bの時効完成前に、CがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、Bは、Cに対して、登記なくして時効による所有権取得をもって対抗することができる。

1・・・妥当

時効取得者は、登記がなくても、時効完成前の第三者に対し、権利を主張することができます(大判大正7.3.2)。よって、時効取得者Bは、登記がなくても、時効完成前の第三者であるCに対して時効による所有権取得を対抗することができるので、本肢は妥当です。

質問内容 時効取得者Bは、取得時効完成前のCに対して、登記なく時効取得をもって対抗することができる。○か×か。

判例 判例では、上記具体例について「時効取得者Bは時効完成前の第三者に対して、登記がなくても、時効取得を主張できとしています。

理由 始めに、A所有の甲地をBが占有し、その後、①AがCに甲地を売却し、(まだBが占有中)、その後、②Bの時効が完成したという流れです。時系列を図にすると下のようになります。(左から右に時間が流れている)

まず、Cが存在しない場合を考えてみましょう!基本的な取得時効の問題です。

Aは所有権を持っているにも関わらず、占有しているBに対して裁判上の請求等の時効の更新行為を行わず、一定期間が過ぎるとBの時効が完成します。そのことにより、は登記を備えていなくても」、時効取得者Bは、Aに時効取得を主張できます。

次に、Cが出現した場合を考えます。

CはAから甲地を譲り受けた時点から、Bに対して時効の更新行為を行える立場にあります。

つまり、CもAと同様の立場にあると考えることができます。したがって、CもAと同様に時効の更新を行うことができます。

しかし、それを怠って、時効の更新を行わなかった結果、Bの時効が完成したら、Bは「Aに対して主張できていた時効取得」をCに対しても主張できます。つまり、時効完成前に所有者が変わっても、占有者に何ら影響を与えないということです。AもCも同じ立場として、ひとくくりとみなすわけです。

まとめると、Bは時効完成前の第三者に対して登記がなくても時効取得を主張できます。

2.Bの時効完成後に、DがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、Bは、Dに対して、Dが背信的悪意者であったと認められる特段の事情があるときでも、登記なくして時効による所有権取得を対抗することはできない。

2・・・妥当でない

時効取得者と時効完成後の第三者は、二重譲渡の対抗関係となり、時効取得者は、登記を備えなければ「時効完成後の第三者D」に対して、時効取得を対抗することができません(大連判大正14.7.8)。しかし、「時効完成後の第三者D」が背信的悪意者の場合は、例外的に、時効取得者は登記がなくても時効取得を対抗することができます(最判昭和43.8.2)。よって、時効完成後の第三者Dが背信的悪意者であったと認められる特段の事情がある場合、時効取得者Bは、登記がなくても、時効による所有権取得を対抗することができるので、本肢は「登記なくして時効による所有権取得を対抗することはできない」が妥当ではありません。

時効完成に第三者が現れた場合、「時効取得者A」と「第三者D」は二重譲渡の対抗関係とみなされるので、登記を備えた方が対抗力を持つ

しかし、第三者Dが背信的悪意者の場合は、Dは保護されないので、時効取得者Bは、登記がなくても、Bが勝ちます。

3.Bの時効完成後に、EがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、その後さらにBが甲の占有を取得時効の成立に必要な期間継続したときは、Bは、Eに対し時効を援用すれば、時効による所有権取得をもって登記なくして対抗することができる。

3・・・妥当

時効取得者と時効完成後の第三者は、二重譲渡の対抗関係となり、時効取得者は、登記を備えなければ「時効完成後の第三者E」に対して、時効取得を対抗することができません(大連判大正14.7.8)。ここまでは選択肢2と同じです。しかし、時効取得者が、時効完成後の第三者の登記後に、再度、取得時効の要件を満たしたとき(再度、取得時効の成立に必要な期間継続したとき)は、その第三者Eに対し、登記がなくても、権利を主張することができます(最判昭和36.7.20)。よって、時効取得者Bは、時効完成後の第三者であるEに対し時効を援用すれば、時効による所有権取得を登記なくして、対抗することができるので、妥当です。

【流れ】

  1. Bが時効完成
  2. 第三者EがAから甲を取得し、登記(この時点で、Eの勝ち、Bの負け)
  3. Bが再度、時効完成(Bの勝ち、Eの負け)これは、1と同じ考え方となります。
4.Bの時効完成後に、FがAから甲につき抵当権の設定を受けてその登記を了した場合、Bは、抵当権設定登記後引き続き甲の占有を取得時効の成立に必要な期間継続したときは、BがFに対し時効を援用すれば、Bが抵当権の存在を容認していたなどの抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、甲を時効取得し、その結果、Fの抵当権は消滅する。

4・・・妥当

Bの取得時効の完成後、所有権移転登記がされることのないまま、第三者Fが原所有者Aから抵当権の設定を受けて抵当権設定登記をした場合において、不動産の時効取得者である占有者Bが、その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは、占有者Bが抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り、占有者Bは、不動産を時効取得し、その結果、Fの抵当権は消滅します(最判平成24.3.16)。よって、Bが、再度、甲を時効取得すれば甲に設定されていたFの抵当権は消滅します。

【流れ】

  1. Bが時効完成
  2. 第三者FがAから抵当権を取得し、登記(この時点で、Fの勝ち、Bの負け)
  3. Bが再度、時効完成(Bの勝ち、Fの負け)

つまり、考え方は選択肢3と同じです。

5.Bの時効完成後に、GがAから甲を買い受けて所有権移転登記を了した場合、Bは、Gに対して、登記なくして時効による所有権取得をもって対抗することはできず、その際にBが甲の占有開始時点を任意に選択してその成立を主張することは許されない。

5・・・妥当

時効の起算点は占有開始時と決まっています。取得時効を援用する者は、その起算点を任意に(事由に)選択することはできません(最判昭和35.7.27)。よって、Bが甲の占有開始時点を任意に選択してその成立を主張することは許されません。起算点を選択すると、時効完成前の第三者になる可能性が出てきて、占有者Bに過度に有利なルールになります。

【具体例】 Bが2000年1月1から悪意で占有した場合、2020年1月1日に時効完成します。もし、2020年3月1日にGがAから甲を買い受けて所有権移転登記をした場合、Gは時効完成後の第三者であり、先に登記をしているので、Gの勝ちです。しかし、Aの占有開始時期を2000年3月2日とした場合、時効完成時期が2020年3月2日となり、Gは、時効完成前の第三者となり、選択肢1の解説のとおり、Bは登記なく、Gに対抗できます。これはだめですよ!というのが本肢の内容です。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和5年・2023|問27|民法・消滅時効

消滅時効に関する次の記述のうち、民法の規定に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないときは、その債権は、時効によって消滅する。
  2. 不法行為による損害賠償請求権以外の債権(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を除く)は、その権利について行使することができることを知らない場合でも、その権利を行使できる時から10年間行使しないときには、時効によって消滅する。
  3. 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権は、その権利について行使することができることを知らない場合でも、その債権を行使できる時から20年間行使しないときには、時効によって消滅する。
  4. 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。
  5. 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。

>解答と解説はこちら


【答え】:4

【解説】

1.債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないときは、その債権は、時効によって消滅する。

1・・・正しい

債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときは、その債権は、時効によって消滅します(民法166条1項1号)。

(債権等の消滅時効)
民法166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

【理解】 一または二のどちらか一方でも過ぎたら、権利行使できません(時効消滅)。つまり、権利行使できることを、引き渡し(権利を行使することができる時)後9年目に知ったとします。(一)で考えると、あと5年間あるように思えますが、(二)で考えると、あと1年で10年間を経過するので、あと1年間しか、期限はないということです。

2.不法行為による損害賠償請求権以外の債権(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を除く)は、その権利について行使することができることを知らない場合でも、その権利を行使できる時から10年間行使しないときには、時効によって消滅する。

2・・・正しい

債権は、権利を行使することができる時から10年間行使しないとき時効によって消滅します(民法166条1項2号)。そのため、不法行為による損害賠償請求権以外の債権(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を除く)は、その権利について行使することができることを知らない場合でも、その権利を行使できる時から10年間行使しないときには、時効によって消滅します。

【具体例】 不法行為による損害賠償請求権以外の債権(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権を除く)とは、例えば、お金の貸し借りをして、期限に返済されなかった場合の損害賠償請求権です。

3.人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権は、その権利について行使することができることを知らない場合でも、その債権を行使できる時から20年間行使しないときには、時効によって消滅する。

3・・・正しい

人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権は、その権利について行使できることを知らない場合でも、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法166条1項2号、民法167条)。よって、妥当です。

(債権等の消滅時効)
民法166条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

(人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効)
民法167条 人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一項第二号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは、「20年間」とする。

4.人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。

4・・・誤り

本肢は、「3年間」が誤りで、「5年間」とすれば正しいです。人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法724条1号、民法724条の2)。

(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき
二 不法行為の時から20年間行使しないとき。

(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
民法724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

5.債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。

5・・・正しい

債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法166条2項)。

(債権等の消滅時効)
第百六十六条
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。

【具体例】  例えば、建物を建築するために地上権の設定契約をしたにも関わらず、20年間ずっと放置して、建物を建築しなかった場合、地上権は時効消滅します。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和5年・2023|問26|行政法

地方公共団体に対する法律の適用に関する次の説明のうち、妥当なものはどれか。
(注)*1 公文書等の管理に関する法律  *2 行政機関の保有する情報の公開に関する法律

  1. 行政手続法は、地方公共団体の機関がする処分に関して、その根拠が条例に置かれているものについても行政手続法が適用されると定めている。
  2. 行政不服審査法は、地方公共団体には、それぞれ常設の不服審査機関(行政不服審査会等)を置かなければならないと定めている。
  3. 公文書管理法 *1は、地方公共団体が保有する公文書の管理および公開等に関して、各地方公共団体は条例を定めなければならないとしている。
  4. 行政代執行法は、条例により直接に命ぜられた行為についての履行の確保に関しては、各地方公共団体が条例により定めなければならないとしている。
  5. 行政機関情報公開法 *2は、地方公共団体は、同法の趣旨にのっとり、その保有する情報の公開に関して必要な施策を策定し、これを実施するよう努めなければならないと定めている。

>解答と解説はこちら


【答え】:5

【解説】

1.行政手続法は、地方公共団体の機関がする処分に関して、その根拠が条例に置かれているものについても行政手続法が適用されると定めている。

1・・・妥当でない

行政手続法は、地方公共団体の機関がする処分に関して、その根拠が条例に置かれているものについては、行政手続法が適用されないと定めています(行政手続法3条3項)。よって、妥当ではありません。

行政手続法3条3項 地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定(行政手続法の規定)は、適用しない

2.行政不服審査法は、地方公共団体には、それぞれ常設の不服審査機関(行政不服審査会等)を置かなければならないと定めている。

2・・・妥当でない

地方公共団体は、当該地方公共団体における不服申立ての状況等に鑑み同項の機関を置くことが不適当又は困難であるときは、条例で定めるところにより、事件ごとに、執行機関の附属機関として、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理するための機関((不服審査機関)を置くこととすることができます(行政不服審査法81条2項)。地方公共団体は、常設の不服審査機関を置かず事件ごとに臨時の不服審査機関を置くようにできます。不服審査とは、例えば、〇〇市行政不服審査会と呼ばれるものです。

3.公文書管理法 *1は、地方公共団体が保有する公文書の管理および公開等に関して、各地方公共団体は条例を定めなければならないとしている。

3・・・妥当でない

地方公共団体は、公文書管理法の趣旨にのっとり、その保有する文書の適正な管理に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければなりません(公文書管理法34条)。また、地方公共団体は、情報公開法の趣旨にのっとり、その保有する情報の公開に関し必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければなりません(行政機関情報公開法25条)。つまり、地方公共団体が保有する公文書の管理も公開も、努力義務であり、条例で定める必要はありません。本肢は「条例を定めなければならない」となっているので妥当ではありません。

4.行政代執行法は、条例により直接に命ぜられた行為についての履行の確保に関しては、各地方公共団体が条例により定めなければならないとしている。

4・・・妥当でない

行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、行政代執行法の定めるところによります(行政代執行法1条)。よって、「条例により直接に命ぜられた行為についての履行の確保に関しては、各地方公共団体が条例により定めなければならない」とはしていません。条例により直接に命ぜられた行為についての履行の確保に関しても、別に法律で定めるか、もしくは、行政代執行法で定めます。

【理解】 〇〇法(別の法律)で、「義務履行の確保について条例で定めることができる」旨の規定があれば(=法律の委任があれば)、法律の委任に基づいて条例で行政上の義務の履行確保措置を定めることは可能です。

一方で、上記法律がない場合、勝手に条例で、行政上の義務の履行確保措置を定めることはできません。

次に、「条例により直接に命ぜられた行為」=条例に「~をしてはいけない」と規定されていて、~をした場合、代執行を行うと定めるとき(義務履行確保措置を定めるとき)、法律に基づく委任があって、条例で定めるのはOKですが、法律の委任なく単独で条例で定めることはできません。

5.行政機関情報公開法 *2は、地方公共団体は、同法の趣旨にのっとり、その保有する情報の公開に関して必要な施策を策定し、これを実施するよう努めなければならないと定めている。

5・・・妥当である

選択肢3でも解説した通り、地方公共団体は、情報公開法の趣旨にのっとり、その保有する情報の公開に関し必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めなければなりません(行政機関情報公開法25条)。よって、本肢は努力義務となっており、妥当です。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略

令和5年・2023|問25|行政事件訴訟法

空港や航空関連施設をめぐる裁判に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. いわゆる「新潟空港訴訟」(最二小判平成元年2月17日民集43巻2号56頁)では、定期航空運送事業免許の取消訴訟の原告適格が争点となったところ、飛行場周辺住民には、航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けるとしても、原告適格は認められないとされた。
  2. いわゆる「大阪空港訴訟」(最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁)では、空港の供用の差止めが争点となったところ、人格権または環境権に基づく民事上の請求として一定の時間帯につき航空機の離着陸のためにする国営空港の供用についての差止めを求める訴えは適法であるとされた。
  3. いわゆる「厚木基地航空機運航差止訴訟」(最一小判平成28年12月8日民集70巻8号1833頁)では、周辺住民が自衛隊機の夜間の運航等の差止めを求める訴訟を提起できるかが争点となったところ、当該訴訟は法定の抗告訴訟としての差止訴訟として適法であるとされた。
  4. いわゆる「成田新法訴訟」(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)では、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(当時)の合憲性が争点となったところ、憲法31条の法定手続の保障は刑事手続のみでなく行政手続にも及ぶことから、適正手続の保障を欠く同法の規定は憲法31条に違反するとされた。
  5. いわゆる「成田新幹線訴訟」(最二小判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁)では、成田空港と東京駅を結ぶ新幹線の建設について、運輸大臣の工事実施計画認可の取消訴訟の原告適格が争点となったところ、建設予定地付近に居住する住民に原告適格が認められるとされた。

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【答え】:3

【解説】

1.いわゆる「新潟空港訴訟」(最二小判平成元年2月17日民集43巻2号56頁)では、定期航空運送事業免許の取消訴訟の原告適格が争点となったところ、飛行場周辺住民には、航空機の騒音によって社会通念上著しい障害を受けるとしても、原告適格は認められないとされた。

1・・・妥当でない

判例(最判平1.2.17新潟空港訴訟)によると「新たに付与された定期航空運送事業免許に係る路線の使用飛行場の周辺に居住していて、当該免許に係る事業が行われる結果、当該飛行場を使用する各種航空機の騒音の程度、当該飛行場の一日の離着陸回数、離着陸の時間帯等からして、当該免許に係る路線を航行する航空機騒音によって社会通念上着しい障害を受けることとなる者は、当該免許の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する」と判示しています。分かりやすく言えば、航空運送事業免許に関連する航空路線の使用飛行場周辺に住む人々は、航空機の騒音や離着陸の回数などによって受ける影響が大きい場合、その航空免許を取り消すことを求める訴訟を起こす権利がある(原告適格を有する)ということです。

2.いわゆる「大阪空港訴訟」(最大判昭和56年12月16日民集35巻10号1369頁)では、空港の供用の差止めが争点となったところ、人格権または環境権に基づく民事上の請求として一定の時間帯につき航空機の離着陸のためにする国営空港の供用についての差止めを求める訴えは適法であるとされた。

2・・・妥当でない

航空機の離着陸によって生じる騒音や環境への影響に対する争いについて、判例(最大判昭56.12.16:大阪空港訴訟)によると、「「空港管理権に基づく管理」と「航空行政権に基づく規制」とが、「空港管理権者としての運輸大臣」と「航空行政権の主管者としての運輸大臣」の両者が不即不離(継続して進め)、不可分一体的に行使実現されているものと解するのが相当なため、人格権または環境権に基づく民事上の請求として一定の時間帯につき航空機の離着陸のためにする国営空港の供用についての差止めを求める訴えは、不適法である」と判示しています。つまり、民事訴訟で訴えることはできないということです。

3.いわゆる「厚木基地航空機運航差止訴訟」(最一小判平成28年12月8日民集70巻8号1833頁)では、周辺住民が自衛隊機の夜間の運航等の差止めを求める訴訟を提起できるかが争点となったところ、当該訴訟は法定の抗告訴訟としての差止訴訟として適法であるとされた。

3・・・妥当

自衛隊が設置した「厚木基地(海上自衛隊とアメリカ海軍が使用する飛行場)」の周辺住民が、その飛行場の騒音被害を理由に、飛行機を飛ばすことの差止める訴えを提起した。これに対して判例(最判平28.12.8)では、『①住民は、当該飛行場に離着陸する航空機の発する騒音により、睡眠妨害、聴取妨害及び精神的作業の妨害や不快感等を始めとする精神的苦痛を反復継続的に受けており、その程度は軽視し難いこと②このような被害の発生に自衛隊の使用する航空機の運航が一定程度寄与していること③上記騒音は、当該飛行場において内外の情勢等に応じて配備され運航される航空機の離着陸が行われる度に発生するものであり、上記被害もそれに応じてその都度発生し、これを反復継続的に受けることにより蓄積していくおそれのあるものであることなど判示の事情の下においては、当該飛行場における自衛隊の使用する航空機の運航の内容、性質を勘案しても、行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる』と判示しています。

(差止めの訴えの要件)
行政事件訴訟法37条の4第1項 差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。

4.いわゆる「成田新法訴訟」(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)では、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(当時)の合憲性が争点となったところ、憲法31条の法定手続の保障は刑事手続のみでなく行政手続にも及ぶことから、適正手続の保障を欠く同法の規定は憲法31条に違反するとされた。

4・・・妥当でない

成田新法の条文が憲法31条の適正手続の保障に違反していないか争われた事件について、判例(最大判平4.7.1:成田新法訴訟)によると「憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。」と判示しており、憲法31条の法定手続の保障は、刑事手続のみでなく行政手続にも及ぶ可能性を認めています。しかし、「成田新法の条文は、憲法31条に違反しない」としました(最大判平成4.7.1)。

【詳細解説】 憲法31条の適正手続の保障は、主に刑事手続に関するものであり、行政手続にも及ぶ可能性がある。しかし、行政手続は、刑事手続とは異なり、様々な性質や目的があり、常に事前の告知、弁解、防御の機会を与える必要はない。成田新法の工作物使用禁止命令は、国家的、社会経済的、公益的な観点から緊急性が高く、相手方に事前の機会を与えなくても適正であると判断された。

5.いわゆる「成田新幹線訴訟」(最二小判昭和53年12月8日民集32巻9号1617頁)では、成田空港と東京駅を結ぶ新幹線の建設について、運輸大臣の工事実施計画認可の取消訴訟の原告適格が争点となったところ、建設予定地付近に居住する住民に原告適格が認められるとされた。

5・・・妥当でない

判例(最判昭53.12.8:成田新幹線訴訟)によると、『新幹線を作るために、日本鉄道建設公団が工事実施計画を作成し、この(新幹線)工事実施計画に対して行う国土交通大臣の認可は、いわば「日本鉄道建設公団の上級行政機関(国土交通大臣)」が、「下級行政機関(日本鉄道建設公団)」に対し、一定の審査をするという監督手段としての承認の性質を有するもので、行政機関相互の行為と同視すべきものであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、また、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない(処分性を有しない)』と判示しました。よって、「建設予定地付近に居住する住民に原告適格が認められるとした。」とはいえない。


令和5年(2023年)過去問

問1 基礎法学 問31 民法
問2 基礎法学 問32 民法
問3 憲法 問33 民法
問4 憲法 問34 民法
問5 憲法 問35 民法
問6 憲法 問36 商法
問7 憲法 問37 会社法
問8 行政法 問38 会社法
問9 行政法 問39 会社法
問10 行政法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法・多肢選択
問12 行政手続法 問42 行政法・多肢選択
問13 行政手続法 問43 行政法・多肢選択
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法・40字
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 基礎知識
問18 行政事件訴訟法 問48 基礎知識
問19 行政事件訴訟法 問49 基礎知識
問20 国家賠償法 問50 基礎知識
問21 国家賠償法 問51 基礎知識
問22 地方自治法 問52 基礎知識
問23 地方自治法 問53 基礎知識
問24 地方自治法 問54 基礎知識
問25 行政事件訴訟法 問55 基礎知識
問26 行政法 問56 基礎知識
問27 民法 問57 基礎知識
問28 民法 問58 著作権の関係上省略
問29 民法 問59 著作権の関係上省略
問30 民法 問60 著作権の関係上省略