株式会社の設立に関する次のア~オの記述のうち、妥当でないものの組合せはどれか。
ア 発起人以外の設立時募集株式の引受人が金銭以外の財産を出資の目的とする場合には、その者の氏名または名称、目的となる財産およびその価額等を定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
イ 発起人が会社のために会社の成立を条件として特定の財産を譲り受ける契約をする場合には、目的となる財産、その価額および譲渡人の氏名または名称を定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
ウ 会社の成立により発起人が報酬その他の特別の利益を受ける場合には、報酬の額、特別の利益の内容および当該発起人の氏名または名称を定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
エ 会社の設立に要する費用を会社が負担する場合には、定款の認証手数料その他会社に損害を与えるおそれがないものを除いて、定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
オ 会社がその成立後2年以内に当該会社の成立前から存在する財産であって事業のために継続して使用するものを純資産の額の5分の1以上に当たる対価で取得する場合には、定款を変更して、目的となる財産、その価額および譲渡人の氏名または名称を定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
- ア・イ
- ア・オ
- イ・ウ
- ウ・エ
- エ・オ
【答え】:2【解説】
ア 発起人以外の設立時募集株式の引受人が金銭以外の財産を出資の目的とする場合には、その者の氏名または名称、目的となる財産およびその価額等を定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
ア・・・妥当ではない
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければなりません(
会社法34条1項)。
つまり、会社設立時において、現物出資を行うことができる者は、発起人のみで、「発起人以外の設立時募集株式の引受人」は現物出資できません。
よって、誤りです。

イ 発起人が会社のために会社の成立を条件として特定の財産を譲り受ける契約をする場合には、目的となる財産、その価額および譲渡人の氏名または名称を定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
イ・・・妥当
株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、
定款に記載等しなければ、その効力を生じません(
会社法28条:変態設立事項)。
- 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(現物出資)
- 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称(財産引受)
- 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称(発起人の報酬等)
- 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)(設立費用)
本肢の「会社の成立を条件として特定の財産を譲り受ける契約をする場合には、目的となる財産、その価額および譲渡人の氏名または名称」は「2の財産引受」にあたります。
つまり、この内容は定款に記載しないと効力は生じません。
よって、本肢は妥当です。
財産引受とは?
「財産引受」とは、株式会社設立前に、会社(発起人)が第三者から財産を譲り受けることです。
【具体例】
発起人A・B・Cが株式会社甲を設立しようと考えており、会社が設立したら、第三者Xから、X所有の建物を譲り受ける契約(発起人とXとの間の売買契約)をしたとします。これを財産引受と言います。
もし、X所有の建物が500万円の価値しかないにも関わらず、2000万円で株式会社甲が購入する契約をした場合、株式会社甲は、設立後、1500万円の損失を被り、開業直後に経営危機になることもあり得ます。
そのため、財産引受については、財産とその価格、譲渡人の氏名を定款に記載しなければ、無効となります。
ウ 会社の成立により発起人が報酬その他の特別の利益を受ける場合には、報酬の額、特別の利益の内容および当該発起人の氏名または名称を定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
ウ・・・妥当
選択肢イとポイントは同じです。株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、
定款に記載等しなければ、その効力を生じません(
会社法28条:変態設立事項)。
- 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(現物出資)
- 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称(財産引受)
- 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称(発起人の報酬等)
- 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)(設立費用)
本肢の「会社の成立により発起人が報酬その他の特別の利益を受ける報酬の額、特別の利益の内容および当該発起人の氏名または名称」は「3の発起人の報酬等」にあたります。
つまり、この内容は定款に記載しないと効力は生じません。
よって、本肢は妥当です。
エ 会社の設立に要する費用を会社が負担する場合には、定款の認証手数料その他会社に損害を与えるおそれがないものを除いて、定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
エ・・・妥当
選択肢イ、ウとポイントは同じです。株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、
定款に記載等しなければ、その効力を生じません(
会社法28条:変態設立事項)。
- 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(現物出資)
- 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称(財産引受)
- 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称(発起人の報酬等)
- 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)(設立費用)
本肢の「定款の認証手数料その他会社に損害を与えるおそれがないものを除いた、会社が負担する会社の設立に要する費用」は「4の設立費用」にあたります。
つまり、この内容は定款に記載しないと効力は生じません。
よって、本肢は妥当です。
オ 会社がその成立後2年以内に当該会社の成立前から存在する財産であって事業のために継続して使用するものを純資産の額の5分の1以上に当たる対価で取得する場合には、定款を変更して、目的となる財産、その価額および譲渡人の氏名または名称を定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。
オ・・・妥当ではない
株式会社は、下記行為をする場合には、当該行為の効力発生日の前日までに、
株主総会の決議(特別決議)によって、当該行為に係る契約の承認を受けなければなりません(
会社法467条1項)。
- 5号 当該株式会社の成立後2年以内におけるその成立前から存在する財産(純資産の額の5分の1を超えない場合を除く)であってその事業のために継続して使用するものの取得。(事後設立という)
したがって、
本肢「純資産の額の5分の1以上」は誤りで、
正しくは「純資産の額の5分の1超」
また、「定款に記載または記録しなければ、その効力を生じない。」は誤りで、
正しくは「株主総会の特別決議が必要」です。
【理由】 この内容は、財産引受とよく似ています。財産引受は、例えば、A社を設立にあたり、発起人Bが、A社のために、Cとの間で、「会社が成立することを条件に」Cから事務所用の建物を3000万円で譲り受ける契約を締結する場合、「財産引受」に関する事項として、価額とその譲渡人の氏名を定款に記載しなければ効力が生じません。つまり、一定の規制がかけられています。
一方、事後設立(対価が純資産の5分の1超)については、例えば、会社成立前からCが所有する工場用地をA社が使用していて、会社成立後2年以内に、Cから当該工場用地をA社が買い取る場合、株主総会の特別決議が必要です。なぜなら、会社成立直後に、会社のお金がCに支払われることで、会社に損害が発生する恐れがあるからです。そのため、特別決議という規制をかけています。つまり、財産引受のルールを免れるのを防ぐためのルールともいえます。
ただし、Cに支払われる対価が、会社の純資産の5分の1以下であれば、会社への影響も小さいので、特別決議は不要です。

平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説