民法のテキスト

被保佐人

被保佐人とは?

「被保佐人」とは、精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者で、家庭裁判所による保佐開始の審判を受けた者です。

「事理を弁識する能力が著しく不十分」とは、不動産や現金等の一定の重要な財産に関する法律行為を自分一人で行う判断能力がないことを意味します。

被保佐人の行為能力

被保佐人は、原則単独で法律行為を行えます。

ただし、下記1~10の内容については保佐人の同意が必要で、もし被保佐人が保佐人の同意を得ずに行った場合、後で取り消しができます。

  1. 元本を領収し、又は利用すること。
  2. 借財又は保証をすること。
  3. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
  4. 訴訟行為をすること。
  5. 贈与、和解又は仲裁合意をすること。
  6. 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
  7. 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
  8. 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
  9. 山林について10年を超える賃貸借、宅地について5年を超える賃貸借、建物について3年を超える賃貸借をすること
  10. 上記行為を制限行為能力者の法定代理人としてすること
    【具体例】
    例えば、未成年者A(子)の法定代理人B(親)が被保佐人である場合、被保佐人である法定代理人Bが未成年者A(子)の土地を法定代理人として売却する場合、保佐人(弁護士等)の同意が必要。同意なく売却した場合を取り消すことができる

保佐人の権限

被保佐人の保護者を「保佐人」と言います。

そして、保佐人は「同意見」「取消権」「追認権」「代理権(代理権付与の審判を受けた保佐人に限る)」を有します。

  • 同意権:被保佐人が単独で行えない行為に対して同意を与える権利
  • 取消権:保佐人の同意が必要な法律行為であるにも関わらず、被保佐人が単独で法律行為を行った場合、後で取り消しができる権利
  • 追認権:保佐人の同意が必要な法律行為であるにも関わらず、被保佐人が単独で法律行為を行った場合、後で契約を確定的に有効にさせる権利
  • 代理権:被保佐人を代理して法律行為を行う権利(これは代理権付与の審判を受けた保佐人のみ有する権利)

保護者(保佐人)のもつ権利

 
※ 代理権については、家庭裁判所による代理権付与の審判があった場合に保佐人は代理権を有します。 被保佐人本人以外の者が代理権付与の請求をする場合、本人の同意が必要です。
 
※ 被保佐人が、「重要な財産上の行為」をする場合には、保佐人の同意が必要ですが、被保佐人の不利益とならないにも関わらず、保佐人が同意をしないときは、被保佐人の請求により、家庭裁判所は、保佐人の同意に代わる許可を与えることができます。

>>保護者が有する権利のまとめ表はこちら

保佐人の義務

保佐人は、保佐の事務を行うに当たっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません(民法876条の5第1項:身上配慮義務)。

参考条文

(保佐開始の審判)
第11条 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。

(被保佐人及び保佐人)
第12条 保佐開始の審判を受けた者は、被保佐人とし、これに保佐人を付する。

(保佐人の同意を要する行為等)
第13条 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
2 家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

(保佐開始の審判等の取消し)
第14条 第11条本文に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判を取り消さなければならない。
2 家庭裁判所は、前項に規定する者の請求により、前条第二項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。

(保佐の事務及び保佐人の任務の終了等)
第876条の5 保佐人は、保佐の事務を行うに当たっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

成年被後見人

成年被後見人とは?

「成年被後見人」とは、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者で、家庭裁判所の後見開始の審判を受けた者を言います(民法7条)。

「事理を弁識する能力」とは、自己の財産を管理する能力です。

「常況にある」とは、いつもそのような状態であるということです。

簡単にいえば、認知症などが原因で、ほとんど物事の判断ができない方で、後見開始の審判を受けた者です。

成年被後見人の行為能力

成年被後見人の法律行為は、原則、取り消すことができます(民法9条本文)。

ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、成年被後見人であることを理由に取消しすることはできません(民法9条ただし書)。

「日用品の購入その他日常生活に関する行為」とは、食料品や洗剤などの日用品の購入や、ガス料金・水道料金・電話料金の支払いを指します。

成年後見人(法定代理人)の権限

成年被後見人の保護者を「成年後見人」と言います。

そして、成年被後見人の法定代理人(成年後見人)は「代理権」「取消権」「追認権」を有します。

  • 代理権:成年被後見人を代理して法律行為を行う権利
  • 取消権:成年被後見人が、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」以外の法律行為を行った場合、後で取り消しができる権利
  • 追認権:成年被後見人が、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」以外の法律行為を行った場合、後で契約を確定的に有効にさせる権利
  • 成年被後見人への郵便物等の管理権:①成年被後見人に宛てた郵便物又は信書便物(郵便物等)を成年後見人に配達すべき旨を、配送事業者に嘱託する(頼む)ことができる権利、②成年被後見人に宛てた郵便物等を開いて見ることができる権利。

成年後見人(法定代理人)の義務

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません(民法858条)。この成年後見人の義務を「身上配慮義務」と言います。

参考条文

(後見開始の審判)
第7条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

(成年被後見人及び成年後見人)
第8条 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。

(成年被後見人の法律行為)
第9条 成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

(後見開始の審判の取消し)
第10条 第七条に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人をいう。以下同じ。)、後見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人をいう。以下同じ。)又は検察官の請求により、後見開始の審判を取り消さなければならない。

(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第858条 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

(成年後見人による郵便物等の管理)
第860条の2 家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律第二条第三項に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。
2 前項に規定する嘱託の期間は、六箇月を超えることができない。
3 家庭裁判所は、第一項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、成年被後見人、成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で、同項に規定する嘱託を取り消し、又は変更することができる。ただし、その変更の審判においては、同項の規定による審判において定められた期間を伸長することができない。
4 成年後見人の任務が終了したときは、家庭裁判所は、第一項に規定する嘱託を取り消さなければならない。

第860条の3 成年後見人は、成年被後見人に宛てた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができる。
2 成年後見人は、その受け取った前項の郵便物等で成年後見人の事務に関しないものは、速やかに成年被後見人に交付しなければならない。
3 成年被後見人は、成年後見人に対し、成年後見人が受け取った第一項の郵便物等(前項の規定により成年被後見人に交付されたものを除く。)の閲覧を求めることができる。

未成年者

未成年者とは?

未成年者は、制限行為能力者の1つです。

未成年者は、20歳未満の者を言います(民法4条)。(令和4年4月1日以降は、民法が改正され、18歳未満の者が未成年者となります。)

ただし、婚姻すると、20歳未満であっても成年者として扱います(民法753条:婚姻による成年擬制)。

また、婚姻後、離婚をしても未成年者に戻ることはありません。

未成年者の行為能力

未成年者は原則として、単独で法律行為を行うことができません。

そのため、原則、未成年者が法律行為を行う場合、法定代理人(親等)の同意が必要です(民法5条1項本文)。

ただし、例外として、下記内容については、法定代理人の同意なく、単独で法律行為を行えます。

未成年者が単独で有効に行える行為

  • 単に権利を得たり義務を免れる行為(民法5条1項ただし書)
    →例)贈与を受けたり、債務を免除してもらう
  • 処分を許された財産の処分(民法5条3項)
    →例)おこづかいでお菓子を買う
  • 営業を許された場合の営業行為(民法6条1項)
    →例)未成年者であるが、宅建の免許を取って土地の売買契約をする
  • 法律行為の取消し(民法120条1項)
    →例)親の同意なく、不動産を購入したあと、購入(売買契約)を取消す

未成年者の法定代理人

未成年者については、親権者が法定代理人となります。

もし親権者がいないとき、または親権者が管理権を有していないときは、未成年後見人が法定代理人となります。

未成年者の法定代理人の権限

未成年者の法定代理人は「代理権」「同意権」「取消権」「追認権」を有します。

  • 代理権:未成年者を代理して法律行為を行う権利
  • 同意権:未成年者が単独で行えない行為に対して同意を与える権利
  • 取消権:法定代理人の同意が必要な法律行為であるにも関わらず、未成年者が単独で法律行為を行った場合、後で取り消しができる権利
  • 追認権:法定代理人の同意が必要な法律行為であるにも関わらず、未成年者が単独で法律行為を行った場合、後で契約を確定的に有効にさせる権利

参考条文

(成年)
第4条 年齢20歳をもって、成年とする。

(未成年者の法律行為)
第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。

(未成年者の営業の許可)
第6条 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

権利能力・意思能力・行為能力

内容としては抽象的なので、分かりづらいので、初めて勉強される方はサラッと読み流して、あとで細かく理解していくのが良いでしょう!

権利能力

権利能力とは、権利を取得したり、義務を負ったりすることのできる地位・資格を言います。

そして、人は出生により権利能力を持ちます。(民法3条1項)

よって、お母さんのおなかの中にいる胎児は、原則、権利能力を持ちません。

ただし、例外的に下記3つについて、生まれてきたら、胎児であったときにさかのぼって、胎児にも権利能力が認められます。

胎児にも認められる権利能力

  1. 不法行為による損害賠償請求権(民法721条)
  2. 相続(民法886条)
  3. 遺贈(民法965条)

>>詳細解説はこちら

意思能力

意思能力とは、自らがした行為の結果を判断することができる精神的能力のことです。

一般にだいたい10歳になれば意思能力を備えるものと考えられています。

意思能力がないとされている者

  • 10歳未満の子供
  • 泥酔者
  • 重い精神病や認知症にある者等

行為能力

行為能力とは、単独で法律行為を行う能力のことです。

そして、「法律行為」とは、当事者がその意思に基づいて一定の効果の発生を求めて行う行為です。

例えば、売主Aが車を売っていて、買主Bが、売主Aに対して「車を買います!」と言った(意思表示をした)場合、買主Bは、売主Aに対して代金を支払う義務が発生し、逆に売主Aは、車を引渡す義務が発生します。この場合、買主Bの購入する意思表示が法律行為です。

また、売買契約も法律行為です。

制限行為能力者

文字通り、行為能力が制限されている者が「制限行為能力者」です。

例えば、未成年者成年被後見人被保佐人補助人が制限行為能力者です。