改正民法に対応済
不法行為に基づく損害賠償に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか。
ア Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車と衝突して、Bの自動車の助手席に乗っていたBの妻Cを負傷させ損害を生じさせた。CがAに対して損害賠償請求をする場合には、原則としてBの過失も考慮される。
イ Aの運転する自動車と、Bの運転する自動車が、それぞれの運転ミスにより衝突し、歩行中のCを巻き込んで負傷させ損害を生じさせた。CがBに対して損害賠償債務の一部を免除しても、原則としてAの損害賠償債務に影響はない。
ウ A社の従業員Bが、A社所有の配達用トラックを運転中、運転操作を誤って歩行中のCをはねて負傷させ損害を生じさせた。A社がCに対して損害の全額を賠償した場合、A社は、Bに対し、事情のいかんにかかわらずCに賠償した全額を求償することができる。
エ Aの運転する自動車が、見通しが悪く遮断機のない踏切を通過中にB鉄道会社の運行する列車と接触し、Aが負傷して損害が生じた。この場合、線路は土地工作物にはあたらないから、AがB鉄道会社に対して土地工作物責任に基づく損害賠償を請求することはできない。
オ Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車に追突してBを負傷させ損害を生じさせた。BのAに対する損害賠償請求権は、Bの負傷の程度にかかわりなく、また、症状について現実に認識できなくても、事故により直ちに発生し、5年で消減時効にかかる。(改)
- ア・イ
- ア・エ
- イ・オ
- ウ・エ
- ウ・オ
改正民法に対応済
【答え】:1
【解説】
ア Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車と衝突して、Bの自動車の助手席に乗っていたBの妻Cを負傷させ損害を生じさせた。CがAに対して損害賠償請求をする場合には、原則としてBの過失も考慮される。
ア・・・妥当
●被害者の過失→被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失を含む
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができます(民法722条2項)。
【判例】 判例では、「被害者の過失」について、被害者だけでなく、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失を含むとしています。
【本問】 「CがAに対して損害賠償請求をする場合」なので、被害者をCととらえて、被害者Cだけでなく、「Cの夫B」の過失も考慮して損害賠償額を定めます。
イ Aの運転する自動車と、Bの運転する自動車が、それぞれの運転ミスにより衝突し、歩行中のCを巻き込んで負傷させ損害を生じさせた。CがBに対して損害賠償債務の一部を免除しても、原則としてAの損害賠償債務に影響はない。
イ・・・妥当
●共同不法行為 → 連帯債務 → 免除は相対効

「弁済」「相殺」「混同」「更改」を除いて
連帯債務者の一人について生じた事由は、
他の連帯債務者に対してその効力を生じない(民法441条)。
そのため、CがBの債務の一部を免除した場合、Bの債務は一部免除されるが、Cの債務は免除されません。
言い換えると、原則としてAの損害賠償債務に影響はないので正しいです。
【関連ポイント】 免除を受けたとしても、これは、債権者Cとの関係であり、他の連帯債務者A社との関係では求償関係は残ります(民法445条)。つまり、A社が賠償すれば、被用者Bに求償することができます。
■連帯債務の絶対効の語呂合わせ
「弁当の惣菜、今度は後悔」 (弁:弁済/惣菜:相殺/今度:混同/後悔:更改)
ウ A社の従業員Bが、A社所有の配達用トラックを運転中、運転操作を誤って歩行中のCをはねて負傷させ損害を生じさせた。A社がCに対して損害の全額を賠償した場合、A社は、Bに対し、事情のいかんにかかわらずCに賠償した全額を求償することができる。
ウ・・・妥当でない
●使用者が賠償した場合、損害の公平な分担という見地から信義則上「相当と認められる限度」で従業員に求償できる(加害者の故意または過失は関係ない)

本問は、使用者A社が「使用者責任」を負うことを前提として、全額を被害者Cに賠償した場合の内容となっています。
使用者A社が被害者Cに損害賠償金を支払った場合(=Aが使用者としての損害賠償責任を負担した場合)、使用者Aは被用者B(加害者)に対して求償することができますが、使用者が被用者に無制限に求償することはできず、判例では、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」、使用者Aは被用者Bに対して求償することができるとしています。「事情のいかんにかかわらずCに賠償した全額を求償することができる」が誤りです。
被用者Bに故意または重大な過失があったときに限らず、賠償した使用者Aは、Bに求償できます。
※ 「相当と認められる限度」のイメージとしては、使用者Aの管理がしっかりしていないことで不法行為(例えば、過失による事故)が生じた場合は、従業員Bに対して求償できる金額は小さくなり、逆に従業員個人Bの責任が大きい場合は、従業員Bに対して求償できる額は大きくなるといった感じです。
【関連ポイント】
もし、被用者Bが賠償した場合、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」、被用者Bは、使用者Aに対して求償することができる(賠償した者が使用者Aであっても被用者Bであっても、考え方は同じということ)
エ Aの運転する自動車が、見通しが悪く遮断機のない踏切を通過中にB鉄道会社の運行する列車と接触し、Aが負傷して損害が生じた。この場合、線路は土地工作物にはあたらないから、AがB鉄道会社に対して土地工作物責任に基づく損害賠償を請求することはできない。
エ・・・妥当ではない
●線路 → 工作物に当たる → 設置・保存に瑕疵があれば、工作物責任が問われる土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、①初めに工作物の占有者が責任を問われ、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしていないときは、占有者が損害賠償し、②占有者が必要な注意をしていたときは、所有者がその損害を賠償しなければなりません(民法717条)。
【争点】 線路は工作物に当たるか?
【判例】 判例では、「鉄道の軌道施設(線路や踏切)も工作物にあたり、線路や踏切の設置に瑕疵がある場合、工作物責任を問われる」としています。
【本問】 本問の場合、線路は土地工作物にはあたるため、被害者Aは、B鉄道会社に対して土地工作物責任に基づく損害賠償を請求することはできます。
オ Aの運転する自動車がAの前方不注意によりBの運転する自動車に追突してBを負傷させ損害を生じさせた。BのAに対する損害賠償請求権は、Bの負傷の程度にかかわりなく、また、症状について現実に認識できなくても、事故により直ちに発生し、5年で消減時効にかかる。(改)
オ・・・妥当でない
●事故当初予測できなかった後遺症が現れ、治療が必要となった場合 → 後日その治療を受けるようになるまでは、当該治療費(損害)については、時効は進行しない
不法行為による損害賠償の請求権は被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないとき、時効によって消滅します(民法724条1号)。
【判例】 加害者も分かっている状況で、被害者が不法行為に基づく損害の発生を知ったのであれば、原則、その時から時効は進行を開始する。しかし、判例では、「受傷時から相当期間経過後に後遺症が現われ、そのため受傷時においては医学的にも通常予想しえなかったような治療方法が必要とされ、右治療のため費用を支出することを余儀なくされるに至ったときは、後日その治療を受けるようになるまでは、右治療に要した費用すなわち損害については、時効は進行しないものと解する」としています。
【具体例】 事故が起きてから、1年後に、当初予測できなかった後遺症が現れ、治療が必要となった場合、その治療費(損害)については、治療を受けるようになるまでは時効は開始せず、治療を受けることになってから時効が進行するということです。つまり、この具体例でいえば、事故から約4年間、治療費請求権の時効期間があるということです。
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(物損)
- 被害者又はその法定代理人が「損害」及び「加害者」を知った時から3年間行使しないとき
- 不法行為の時から20年間行使しないとき
1については、「損害」と「加害者」の双方を知った時から時効が進行し始める。どちらか一方しか知らないときは、1について時効は開始しません。
不法行為に基づく人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効(人損)
- 被害者又はその法定代理人が「損害」及び「加害者」を知った時から5年間行使しないとき
- 不法行為の時から20年間行使しないとき
1について、人の生命または身体を害する不法行為の場合、
保護する必要性が高いため、
5年間に延長される
平成24年度(2012年度)|行政書士試験の問題と解説