改正民法に対応済
物上代位に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、誤っているものはどれか。
- 対抗要件を備えた抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた後であっても、第三債務者がその譲受人に対して弁済する前であれば、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
- 対抗要件を備えた抵当権者が、物上代位権の行使として目的債権を差し押さえた場合、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたとしても、それが抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、当該第三債務者は、その反対債権を自働債権とする目的債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。
- 動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、動産の買主が第三取得者に対して有する転売代金債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた場合であっても、当該動産の元来の売主は、第三取得者がその譲受人に転売代金を弁済していない限り、当該転売代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
- 動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、買主がその動産を用いて第三者のために請負工事を行った場合であっても、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部または一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
- 抵当権者は、抵当不動産につき債務者が有する賃料債権に対して物上代位権を行使することができるが、同不動産が転貸された場合は、原則として、賃借人が転借人に対して取得した転賃貸料債権を物上代位の目的とすることはできない。
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【解説】
1.対抗要件を備えた抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた後であっても、第三債務者がその譲受人に対して弁済する前であれば、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
1・・・正しい
●「抵当権者」と「債権の譲受人」との対抗関係 → 「抵当権の登記の時期」と「債権の譲受人の対抗要件を備えた時期」との先後で勝ち負けが決まる
●抵当権の設定登記の方が早ければ、抵当権者は「弁済前」であれば、その後、差押えをして物上代位できる
【具体例】 AがBからお金を借り、A所有の土地に抵当権者Bとして、①抵当権を設定し、登記も行った。その後、②Aが当該土地をCに賃貸した(Aは賃料債権を持つ)。③Aは、当該賃料債権をDに譲渡し、譲受人Dが対抗要件を備えた。
【質問内容】 第三債務者Cがその譲受人Dに対して弁済する前であれば、抵当権者Bは、自ら目的債権(賃料債権)を差し押さえて物上代位権を行使することができる、○か×か?

【判例】 判例では、対抗要件を備えた抵当権者Bは、物上代位の目的債権が譲渡され、譲受人Dが対抗要件を備えた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるとしています。
【理由】 抵当権者は①の時点で、対抗要件を備えています。この時点で、抵当不動産から生じた賃料債権も含めて、抵当権者が優先弁済を受けるべきだから、その後、③で譲受人Dが対抗要件を備えたとしても、DはBに対抗できません。
ただし、CがDに弁済をしてしまった場合は、それにより賃料債権は消滅してしまうので、その後、抵当権者Bは差押えをして物上代位することはできません。
2.対抗要件を備えた抵当権者が、物上代位権の行使として目的債権を差し押さえた場合、第三債務者が債務者に対して反対債権を有していたとしても、それが抵当権設定登記の後に取得したものであるときは、当該第三債務者は、その反対債権を自働債権とする目的債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することはできない。
2・・・正しい
●「抵当権者」と「相殺しようとする第三債務者」との対抗関係 → 「抵当権設定登記」と 「反対債権を取得した時期」の先後で、勝ち負けは決まる
【具体例】 AがBからお金を借り、A所有の土地に抵当権者Bとして、①抵当権を設定し、登記も行った。その後、②Aが当該土地をCに賃貸した(Aは賃料債権を持つ)。③Bは「賃料債権」を差し押さえたが、第三債務者Cが債務者Aに対して反対債権を有していた。そして、本問は「抵当権設定登記の後に取得したもの」なので、Cは、①よりも後に反対債権を取得しています。

【質問内容】 第三債務者Cは、その反対債権を自働債権とする目的債権との相殺をもって、抵当権者Bに対抗することはできない。○か×かです。
【判例】 判例では、抵当不動産の賃借人Cは、抵当権設定登記の後に賃貸人Aに対して取得した債権を使って、相殺して抵当権者Bに対抗することはできないとしています。
つまり、上記下線部の通り、Cが取得した反対債権は、抵当権設定登記後なので、Cは相殺することができず、抵当権者Bに対抗できません。よって○です。
【理由】 状況としては、「物上代位によって『AのCに対する賃料債権』を差押えたい抵当権者B」と「 『AのCに対する賃料債権』 を相殺によって消滅させたいC」が競合しています。この場合、「抵当権設定登記の時期」と 「反対債権を取得した時期」の先後で、優劣は決まります。これは、抵当権者は①の時点で、対抗要件を備えているため、この時点で、抵当不動産から生じた賃料債権も含めて、抵当権者が優先弁済を受けるべきだからです。
3.動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、動産の買主が第三取得者に対して有する転売代金債権が譲渡され、譲受人が第三者に対する対抗要件を備えた場合であっても、当該動産の元来の売主は、第三取得者がその譲受人に転売代金を弁済していない限り、当該転売代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
3・・・誤り
●動産売買の先取特権 → 物上代位の目的債権が譲渡され、対抗要件を備えられた後は、物上代位権を行使できない。
【具体例】 動産を「時計」として考えます。①BがAに時計を売った(Bは代金債権を持つ)。②買主Aが代金を支払う前に、この時計をCに転売した(Aは転売代金債権を持つ)。③Aが上記転売代金債権をDに債権譲渡して、譲受人Dは、対抗要件を備えた。

【質問内容】 動産の元来の売主Bは、第三取得者Cがその譲受人Dに転売代金を弁済していない限り、当該転売代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。○か×か?
つまり、Bは先取特権を持つから、②転売代金債権を差し押さえて物上代位できるか?と質問しています。
【判例】 判例では、「動産売買の先取特権者Bは、物上代位の目的債権(②の転売代金債権)が譲渡され、譲受人Dが対抗要件を備えた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない」としています。
【理由】 抵当権の場合は、登記をすることで、公示できます(皆に知せることができる)。一方、動産の先取特権の場合、登記のような公示方法が存在しません。そのため、譲受人Dなどの第三者の利益を保護する必要があるため、譲受人Dが対抗要件を備えた後は、先取特権者Bは対抗できないというルール(判例)になっています。
【譲受人Dが対抗要件を備えたとは】
債権譲渡の対抗要件なので、「譲渡人Aから債務者Cへの通知(確定日付のある証書による)」または「債務者Cの承諾(確定日付のある証書による)」を行うことでDは対抗要件を備えたことになります。
債権譲渡の基本(対抗要件)はこちら>>
4.動産売買の先取特権に基づく物上代位につき、買主がその動産を用いて第三者のために請負工事を行った場合であっても、当該動産の請負代金全体に占める価格の割合や請負人(買主)の仕事内容に照らして、請負代金債権の全部または一部をもって転売代金債権と同視するに足りる特段の事情が認められるときは、動産の売主はその請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
4・・・正しい
●動産を売却し、買主が動産を使って、第三者のために請負工事を行った場合、売主は、特段の事情がない場合、買主(請負業者)の請負代金債権を差し押さえて、物上代位権を行使することはできない。
●「動産の転売代金」と「請負代金」を同視できる等特段の事情があれば請負代金債権を差し押さえて、物上代位権を行使することはできる
【具体例】 動産を「木材」として考えます。①BがAに木材を売った(Bは代金債権を持つ)。②買主Aが代金を支払う前に、この木材を使って、Cと請負契約を締結し建物を作った。(Aが請負人、Cが注文者)(Aは請負代金債権を持つ)。

【質問内容】 請負代金全体に占める価格の割合や請負人Aの仕事内容に照らして、②請負代金債権の全部または一部をもって、「木材の転売代金債権」と同視するに足りる特段の事情が認められるとき(「木材の転売代金」と「②の請負代金」が同等と認められる事情がある場合)は、動産の売主Bは、②請負代金債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。 ○か×か?
【判例】 判例では、「②請負代金債権の全部又は一部」を、「当該動産の転売代金債権」と同視するに足りる特段の事情がある場合には、当該部分の請負代金債権に対して物上代位権を行使することができるとしています。つまり○です。
【理由】 もし、Aが木材を転売していた場合、「Aの転売代金債権」は、「木材」に代わるものとして、動産売買の先取特権に基づく物上代位権の行使の対象となります。これに対し、Aがこれを用いて請負工事を行ったことによって取得する請負代金債権は、仕事の完成のために用いられた別の材料や労力等も含んだ金額となります。つまり、「転売代金」と「請負代金」とを比べたら通常、請負代金の方が、「別の材料や労力等」の分、高くなります。そのため、当然には「転売代金債権」と「②請負代金債権」とを同視はできません。
ただし、 「転売代金債権」と「②請負代金債権の一部」と同視できる特段の事情があれば、 「②請負代金債権の一部」を「転売代金債権」と考えて先取特権を行使できるということです。
5.抵当権者は、抵当不動産につき債務者が有する賃料債権に対して物上代位権を行使することができるが、同不動産が転貸された場合は、原則として、賃借人が転借人に対して取得した転賃貸料債権を物上代位の目的とすることはできない。
5・・・正しい
抵当権設定者Bが取得する「賃料」に対しては抵当権の効力を及ぼすことができるが、
賃借人Cが取得する「転貸賃料」についてまでは抵当権の効力を及ぼすことはできない
【具体例】 ①AがBにお金を貸し、Bが建物を建築し、当該建物に抵当権を設定した。その後、建物所有者B(抵当権設定者でもある)が、建物をCに賃貸し、③さらに、CがDに建物を転貸した(又貸しをした)。
ここで、建物所有者(賃貸人B)は「賃料債権(Cから賃料をもらう権利)」を持ち、賃借人Cは「転貸料債権(Dから転貸料をもらう権利)」を持ちます。

【質問内容】 ①抵当権者は、抵当不動産につき債務者が有する賃料債権に対して物上代位権を行使することができる、○か×か?
②同不動産が転貸された場合は、原則として、賃借人が転借人に対して取得した転賃貸料債権を物上代位の目的とすることはできない、○か×か?
【判例】
結論からいうと、賃料に対する物上代位について、抵当権設定者Bが取得する賃料に対しては抵当権の効力を及ぼすことができます。一方、賃借人Cが取得する転貸賃料についてまでは抵当権の効力を及ぼすことはできません(判例)。
Bがお金を返さないからBがCからもらえるべき賃料(賃料債権)を、Aが物上代位することはできるのは予想がつきます。
一方、CがDからもらえる転貸料についてAが物上代位できるとなると、Bの責任に全く関係ないCには酷になります。
したがって、Aは、CのDに対する転貸料債権に当然に物上代位することはできません。
よって、①②ともに正しいので、本問は○です。
平成26年度(2014年度)|行政書士試験の問題と解説