2016年過去問

平成28年・2016|問26|行政事件訴訟法

いわゆる朝日訴訟最高裁判所大法廷判決(最大判昭和42年5月24日民集21巻5号1043頁)の事案は、次のようなものであった。この判決の結論のうち、正しいものはどれか。

原告Xは、以前からA県にある国立B療養所に単身の肺結核患者として入所し、厚生大臣(当時)の設定した生活扶助基準で定められた最高金額である月600円の日用品費の生活扶助と現物による全部給付の給食付医療扶助とを受けていた。ところが、Xが実兄Cから扶養料として毎月1,500円の送金を受けるようになったために、所轄のA県のD市社会福祉事務所長は、月額600円の生活扶助を打ち切り、Cからの上記送金額から日用品費を控除した残額900円を医療費の一部としてXに負担させる旨の保護変更決定(以下「本件保護変更決定」という。)をした。これに対してXは、A県知事、ついで厚生大臣に対して不服の申立てを行ったが、いずれにおいても違法はないとして本件保護変更決定が是認されたので、上記600円の基準金額は生活保護法の規定する健康で文化的な最低限度の生活水準を維持するにたりない違法なものであると主張して、取消訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起した。しかしその後、Xは本件訴訟係属中に死亡した。

(参照条文)
生活保護法第59条(当時)
被保護者は、保護を受ける権利を譲り渡すことができない。

  1. 保護受給権はX個人に与えられた一身専属の権利であり、他の者にこれを譲渡することはできず、相続の対象にもなりえないが、裁判所は、本件保護変更決定の前提となる生活扶助基準の適法性について判断する必要があるので、本件訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。
  2. 生活保護法の規定に基づきXが国から生活保護を受けるのは、これを保護受給権と称されることがあるとしても、その法的性格は国の社会政策の実施に伴う反射的利益というべきであり、Xの死亡後においてそれが相続の対象となることもないから、本件訴訟は、Xの死亡と同時に終了する。
  3. Xの生存中の扶助ですでに遅滞しているものの給付を求める権利は、医療扶助についてはもちろん、金銭給付を内容とする生活扶助も、もっぱらXの最低限度の生活の需要を満たすことを目的とするものであるから、相続の対象となりえず、本件訴訟は、Xの死亡と同時に終了する。
  4. 本件保護変更決定によってXは医療費の一部自己負担をせざるをえなくなるが、本件保護変更決定が違法であるとすれば、かかる負担についてXは国に対して不当利得返還請求権を有することになるから、当該請求権は相続の対象となり、本件訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。
  5. 生活保護法の規定に基づき被保護者が国から生活保護を受けるのは法的権利であり、同法が、被保護者は、保護を受ける権利を譲り渡すことができないと規定するのは、被保護者の生存中についての定めであるから、Xの保護請求権は相続の対象となり、本件訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。

>解答と解説はこちら


【答え】:3

【解説】

1.保護受給権はX個人に与えられた一身専属の権利であり、他の者にこれを譲渡することはできず、相続の対象にもなりえないが、裁判所は、本件保護変更決定の前提となる生活扶助基準の適法性について判断する必要があるので、本件訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。
1・・・誤り
判例では
「生活保護法に基づく保護受給権は、法的権利である。しかし、この権利は、被保護者個人に与えられた一身専属の権利である。したがって、本件訴訟は、Xの死亡と同時に終了し、相続人が保護受給権を承継する余地はない。」
と判示しています。
したがって、「訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。」という記述は誤りです。
訴訟は、Xの死亡と同時に終了します。

2.生活保護法の規定に基づきXが国から生活保護を受けるのは、これを保護受給権と称されることがあるとしても、その法的性格は国の社会政策の実施に伴う反射的利益というべきであり、Xの死亡後においてそれが相続の対象となることもないから、本件訴訟は、Xの死亡と同時に終了する。
2・・・誤り
本肢は「反射的利益というべき」という点が誤りです。
判例では、
「生活保護法の規定に基づき要保護者または被保護者が国から生活保護を受けるのは、単なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益ではなく、法的権利であって、保護受給権とも称すべきものと解すべきである。」
と判示しています。

3.Xの生存中の扶助ですでに遅滞しているものの給付を求める権利は、医療扶助についてはもちろん、金銭給付を内容とする生活扶助も、もっぱらXの最低限度の生活の需要を満たすことを目的とするものであるから、相続の対象となりえず、本件訴訟は、Xの死亡と同時に終了する。
3・・・正しい
判例では
被保護者の生存中の扶助ですでに遅滞にあるものの給付を求める権利についても、医療扶助の場合はもちろんのこと、金銭給付を内容とする生活扶助の場合でも、それは当該被保護者の最低限度の生活の需要を満たすことを目的とするものであって、法の予定する目的以外に流用することを許さないものであるから、当該被保護者の死亡によつて当然消滅し、相続の対象となり得ない。」
と判示しています。
したがって、本肢は正しいです。

4.本件保護変更決定によってXは医療費の一部自己負担をせざるをえなくなるが、本件保護変更決定が違法であるとすれば、かかる負担についてXは国に対して不当利得返還請求権を有することになるから、当該請求権は相続の対象となり、本件訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。
4・・・誤り
判例では
不当利得返還請求権は、保護受給権を前提としてはじめて成立するものであり、
その保護受給権が右に述べたように一身専属の権利である以上、相続の対象となり得ない
と判示しています。
したがって、「不当利得返還請求権を有することになるから、当該請求権は相続の対象となり」という記述は誤りです。

5.生活保護法の規定に基づき被保護者が国から生活保護を受けるのは法的権利であり、同法が、被保護者は、保護を受ける権利を譲り渡すことができないと規定するのは、被保護者の生存中についての定めであるから、Xの保護請求権は相続の対象となり、本件訴訟は、Xの死亡と同時にその相続人に承継される。
5・・・誤り
判例では
「生活保護法の規定に基づき要保護者または被保護者が国から生活保護を受けるのは、
単なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益ではなく、
法的権利であって、保護受給権とも称すべきものと解すべきである。しかし、この権利は、被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられ一身専属の権利であって、他にこれを譲渡し得ないし、相続の対象ともなり得ない
と判示しています。したがって、「Xの保護請求権は相続の対象となり」という記述は誤りです。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問25|行政法

上水道の利用関係について、最高裁判所の判例に照らし、妥当な記述はどれか。

  1. 市町村は、給水契約の申込みに応じる義務があるが、現に給水が可能であっても、将来において水不足が生じることが確実に予見される場合には、給水契約を拒むことも許される。
  2. マンションを建設しようとする者に対して市町村がその指導要綱に基づいて教育施設負担金の納付を求めることは、それが任意のものであっても違法であり、それに従わない者の給水契約を拒否することは、違法である。
  3. 市町村は、利用者について不当な差別的取扱いをすることは許されないから、別荘の給水契約者とそれ以外の給水契約者の基本料金に格差をつける条例の規定は、無効であり、両者を同一に取り扱わなければならない。
  4. 水道料金を値上げする市町村条例の改正がなされると、給水契約者は、個別の処分を経ることなく、値上げ後の水道料金を支払う義務を負うこととなるから、給水契約者は、当該条例改正の無効確認を求める抗告訴訟を提起することが許される。
  5. 水道料金を納付しない利用者に対する給水の停止措置は、市町村の条例を根拠とする公権力の行使であるから、これを民事訴訟で差し止めることは許されず、水道の給水停止の禁止を求める民事訴訟は不適法である。

>解答と解説はこちら


【答え】:1

【解説】

1.市町村は、給水契約の申込みに応じる義務があるが、現に給水が可能であっても、将来において水不足が生じることが確実に予見される場合には、給水契約を拒むことも許される。
1・・・妥当
判例では
『水道法15条1項にいう「正当の理由」とは、水道事業者の正常な企業努力にもかかわらず給水契約の締結を拒まざるを得ない理由を指し、近い将来において需要量が給水量を上回り水不足が生ずることが確実に予見されるという地域にあっては、新たな給水申込みのうち、需要量が特に大きく、現に居住している住民の生活用水を得るためではなく住宅を供給する事業を営む者が住宅分譲目的でしたものについて、給水契約の締結を拒むことにより、急激な需要の増加を抑制することには、水道法15条1項にいう「正当の理由」があるということができるものと解されるとしている。』
と判示しています。
したがって、現に給水が可能であっても、将来において水不足が生じることが確実に予見される場合には、給水契約を拒むことも許されます。

水道法15条(給水義務)
水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。

2.マンションを建設しようとする者に対して市町村がその指導要綱に基づいて教育施設負担金の納付を求めることは、それが任意のものであっても違法であり、それに従わない者の給水契約を拒否することは、違法である。
2・・・妥当ではない
【事案】武蔵野市では、昭和40年代からマンション建設急増していた。それに伴い、同市は宅地開発等指導要綱を定めた。
そして、この要綱には、「寄付金(教育施設負担金)の納付を負担すること」という定めがあり、この定めに従わない場合、「市の上下水道などの利用について必要な協力を行なわない」旨の規定があった。
建設業者Aは、寄付金を負担せず、このことによる行政指導を無視してマンション建設を行ない、武蔵野市長に水道の供給の申込みをした。すると、水道の供給を拒否した。この拒否は、水道法15条の「正当な理由」にあたるか?

【判例: 最判平5.2.18)】

①「行政指導として教育施設の充実に充てるために事業主(A)に対して寄付金(教育施設負担金)の納付を求めること自体は、強制にわたるなど事業主の任意性を損うことがない限り、違法ということはできない。」 と判示しています。つまり、「寄付金を任意で求める分には適法」「強制となる場合、違法」ということです。
本問の内容について「任意のものであっても違法」という点は妥当ではありません。
②「行政指導に応じられないとの意思を明確に表明している場合には、その意思に反して、その受忍を強いること(行政指導を遵守するよう強制すること)は許されない」としています。

「正当な理由」とは、たとえば技術的な問題(供給能力の不足)や利用者が不適切な設備を用いる場合など、水道の運営や安全に具体的な支障を及ぼす場合を指します。

今回は、要綱に「寄付金(教育施設負担金)の納付を負担すること」という定めがあり、この定めに従わないから水道拒否を行っています。

これは正当な理由に当たらないので、違法となります。

3.市町村は、利用者について不当な差別的取扱いをすることは許されないから、別荘の給水契約者とそれ以外の給水契約者の基本料金に格差をつける条例の規定は、無効であり、両者を同一に取り扱わなければならない。
3・・・妥当ではない
判例では
「本件改正条例による別荘給水契約者の基本料金の改定について、不当な差別的取扱いをすることは許されないです。
しかし、合理的な理由があれば、別荘の給水契約者とそれ以外の給水契約者の基本料金に格差をつける条例の規定も無効とはなりません。」
としています。したがって、本肢は妥当ではありません。
4.水道料金を値上げする市町村条例の改正がなされると、給水契約者は、個別の処分を経ることなく、値上げ後の水道料金を支払う義務を負うこととなるから、給水契約者は、当該条例改正の無効確認を求める抗告訴訟を提起することが許される。
4・・・妥当ではない
判例によると
「改正条例は、市町村が営む簡易水道事業の水道料金を一般的に改定するものであって、そもそも限られた特定の者に対してのみ適用されるものではない(その地域の全員に適用されるものである=一般抽象的)。したがって、本件改正条例の制定行為をもって行政庁が法の執行として行う処分と実質的に同視することはできないから、本件改正条例の制定行為は、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないというべきである。」
と判示しています。
したがって、抗告訴訟を提起することは許されないので、妥当ではありません。

5.水道料金を納付しない利用者に対する給水の停止措置は、市町村の条例を根拠とする公権力の行使であるから、これを民事訴訟で差し止めることは許されず、水道の給水停止の禁止を求める民事訴訟は不適法である。
5・・・妥当ではない
まず、「水道の給水停止」は、公権力の行使ではなく、「行政契約に基づいて」、違反したから給水停止をするという内容です。
したがって、民事訴訟で争うことができます。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問24|地方自治法

地方財務に関する次の記述のうち、法令および最高裁判所の判例に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 普通地方公共団体は、予算の定めるところにより、地方債を起こすことができるが、起債前に財務大臣の許可を受けなければならない。
  2. 普通地方公共団体は、分担金、使用料、加入金および手数料を設ける場合、条例でこれを定めなければならない。
  3. 選挙権を有する普通地方公共団体の住民は、その属する普通地方公共団体の条例の制定または改廃を請求する権利を有するが、地方税の賦課徴収に関する条例については、その制定または改廃を請求することはできない。
  4. 市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても租税法律主義の趣旨が及ぶと解すべきである。
  5. 地方税法の法定普通税の規定に反する内容の定めを条例に設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することは、それが法定外普通税に関する条例であっても、地方税法の規定の趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものとして許されない。

>解答と解説はこちら


【答え】:1

【解説】

1.普通地方公共団体は、予算の定めるところにより、地方債を起こすことができるが、起債前に財務大臣の許可を受けなければならない。
1・・・誤り
地方公共団体が地方債を発行するときは、原則として、
都道府県及び指定都市の場合は総務大臣と協議」し、
市町村の場合は都道府県知事と協議」しなければなりません(地方財政法5条の3)。ただし、財政状況が悪化している地方公共団体が地方債を起債するときは、総務大臣または都道府県知事の許可が必要とされており、総務大臣は同意または許可をしようとするときは、あらかじめ財務大臣と協議することが必要です(地方財政法5条の4)。

したがって、本肢の「財務大臣の許可を受けなければならない」が誤りです。
正しくは「総務大臣又は都道府県知事に協議しなければならない」です。

2.普通地方公共団体は、分担金、使用料、加入金および手数料を設ける場合、条例でこれを定めなければならない。
2・・・正しい
分担金、使用料、加入金及び手数料に関する事項については、条例でこれを定めなければなりません(地方自治法228条1項)。
したがって、本肢は正しいです。
3.選挙権を有する普通地方公共団体の住民は、その属する普通地方公共団体の条例の制定または改廃を請求する権利を有するが、地方税の賦課徴収に関する条例については、その制定または改廃を請求することはできない。
3・・・正しい
日本国民たる普通地方公共団体の住民は、この法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の条例(地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関するものを除く。)の制定又は改廃を請求する権利を有します。上記の通り、「条例制定の請求」「条例改廃の請求」について
「地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関する条例」は除かれています。
つまり、「地方税の賦課徴収並びに分担金、使用料及び手数料の徴収に関する条例」については条例制定請求、条例改廃請求はできません

4.市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収され、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても租税法律主義の趣旨が及ぶと解すべきである。
4・・・正しい
判例によると
市町村が行う国民健康保険は、保険料を徴収する方式のものであっても、強制加入とされ、保険料が強制徴収されている。
よって、賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから、これについても憲法第84条の趣旨が及ぶと解すべきであるとしている」
と判示しています。
したがって、本肢は正しいです。

5.地方税法の法定普通税の規定に反する内容の定めを条例に設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することは、それが法定外普通税に関する条例であっても、地方税法の規定の趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものとして許されない。
5・・・正しい
判例によると
「法定普通税に関する条例において、地方税法の定める法定普通税についての強行規定の内容を変更することは、同法に違反して許されない。そして、法定外普通税に関する条例において、同法の定める法定普通税についての強行規定に反する内容の定めを設けることによって当該規定の内容を実質的に変更することも、これと同様に、同法の規定の趣旨、目的に反し、その効果を阻害する内容のものとして許されない
と判示しています。

よって、本肢は正しいです。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問23|地方自治法

地方自治法が定める地方公共団体の事務に関する次のア~オの記述のうち、誤っているものの組合せはどれか。

ア 自治事務とは、自らの条例またはこれに基づく規則により都道府県、市町村または特別区が処理することとした事務であり、都道府県、市町村および特別区は、当該条例または規則に違反してその事務を処理してはならない。

イ 第一号法定受託事務とは、法律またはこれに基づく政令により都道府県、市町村または特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律またはこれに基づく政令に特に定めるものである。

ウ 各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該自治事務の処理について違反の是正または改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。

エ 各大臣は、その所管する法律またはこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正または改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。

オ 各大臣は、その所管する法律に係る都道府県知事の法定受託事務の執行が法令の規定に違反する場合、当該都道府県知事に対して、期限を定めて、当該違反を是正すべきことを勧告し、さらに、指示することができるが、当該都道府県知事が期限までに当該事項を行わないときは、地方裁判所に対し、訴えをもって、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。

  1. ア・イ
  2. ア・オ
  3. イ・エ
  4. ウ・エ
  5. ウ・オ

>解答と解説はこちら


【答え】:2

【解説】

ア 自治事務とは、自らの条例またはこれに基づく規則により都道府県、市町村または特別区が処理することとした事務であり、都道府県、市町村および特別区は、当該条例または規則に違反してその事務を処理してはならない。
ア・・・誤り
自治事務とは、地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のものをいいます(地方自治法2条8項)。
つまり、法定受託事務以外の事務はすべて自治事務になるわけです。
そして、自らの条例や規則を定めて、事務を処理することも可能です。

イ 第一号法定受託事務とは、法律またはこれに基づく政令により都道府県、市町村または特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律またはこれに基づく政令に特に定めるものである。
イ・・・正しい
この法律において「法定受託事務」とは、下記2つの事務をいいます(地方自治法2条9項)。

  1. 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(第1号法定受託事務
  2. 法律又はこれに基づく政令により市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、都道府県が本来果たすべき役割に係るものであって、都道府県においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(第2号法定受託事務

本肢は第1号法定受託事務の内容です。

ウ 各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該自治事務の処理について違反の是正または改善のため必要な措置を講ずべきことを求めることができる。
ウ・・・正しい
各大臣は、その担任する事務に関し、都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該自治事務の処理について違反の是正又は改善のため必要な措置を講ずべきことを求める(是正勧告)ことができます(地方自治法245条の5第1項:是正の要求)。
したがって、本肢は正しいです。

エ 各大臣は、その所管する法律またはこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、または著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正または改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができる。
エ・・・正しい
各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認めるときは、当該都道府県に対し、当該法定受託事務の処理について違反の是正又は改善のため講ずべき措置に関し、必要な指示をすることができます(地方自治法245条の7第1項:是正指示)。

オ 各大臣は、その所管する法律に係る都道府県知事の法定受託事務の執行が法令の規定に違反する場合、当該都道府県知事に対して、期限を定めて、当該違反を是正すべきことを勧告し、さらに、指示することができるが、当該都道府県知事が期限までに当該事項を行わないときは、地方裁判所に対し、訴えをもって、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができる。
オ・・・誤り
本肢は「地方裁判所」が誤りです。
正しくは「高等裁判所」です。
各大臣は、都道府県知事の法定受託事務の管理若しくは執行が、
①法令の規定若しくは当該各大臣の処分に違反するものがある場合又は
②当該法定受託事務の管理若しくは執行を怠るものがある場合において、
(1)その是正を図ることが困難であり、かつ、
(2)それを放置することにより著しく公益を害することが明らかであるときは、
文書により、当該都道府県知事に対して、その旨を指摘し、期限を定めて、当該違反を是正し、又は当該怠る法定受託事務の管理若しくは執行を改めるべきことを勧告することができます(地方自治法245条の8第1項)。
そして、勧告に従わない場合、各大臣は、都道府県知事に対し、期限を定めて当該事項を行うべきことを指示することができます(同条2項)。
さらに、指示にも従わない場合、各大臣は、高等裁判所に対し、訴えをもって、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができます(同条3項:代執行)。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問21|損失補償

損失補償に関する次の記述のうち、法令および最高裁判所の判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 火災の際の消防活動において、消防長等は、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときは、消防対象物ないし延焼対象物以外の建築物等を破壊することができるが、当該行為は延焼を防ぐために必要な緊急の措置であるため、損害を受けた者は、消防法による損失補償を請求することができない。
  2. 都市計画法上の用途地域の指定について、土地の利用規制を受けることとなった者は、当該都市計画を定める地方公共団体に対して、通常生ずべき損害の補償を求めることができる旨が同法に規定されているため、利用規制を受けたことによって被った損失の補償を求めることができる。
  3. 都市計画事業のために土地が収用される場合、被収用地に都市計画決定による建築制限が課されていても、被収用者に対して土地収用法によって補償すべき相当な価格とは、被収用地が、建築制限を受けていないとすれば、裁決時において有するであろうと認められる価格をいう。
  4. 土地収用による損失補償の額を不服として、土地所有者または関係人が訴えを提起する場合には、補償額を決定した裁決を行った収用委員会の所属する都道府県を被告として、裁決の取消しの訴えを提起する必要がある。
  5. 道路管理者である地方公共団体が行った地下横断歩道の新たな設置によって自己の所有する地下埋設ガソリンタンクが消防法の規定違反となり、事業者が当該ガソリンタンクを移転した場合には、事業者は、移転に必要な費用につき道路法による損失補償を求めることができる。

>解答と解説はこちら


【答え】:3

【解説】

1.火災の際の消防活動において、消防長等は、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときは、消防対象物ないし延焼対象物以外の建築物等を破壊することができるが、当該行為は延焼を防ぐために必要な緊急の措置であるため、損害を受けた者は、消防法による損失補償を請求することができない。
1・・・妥当ではない
●火災の際の消防活動において、消防長等は、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときは、消防対象物ないし延焼対象物以外の建築物等を破壊することができるが、損失補償しないといけない判例(最判昭47.5.30)では、「消防対象物および土地以外の消防対象物および土地(近隣の土地建物)について、
消防長等が、消火もしくは延焼の防止または人命の救助のために緊急の必要があるときに、
これを使用し、処分し(破壊し)またはその使用を制限(建物から出て使用しないください!と命令)した場合には、
そのために損害を受けた者からその損失の補償の要求があれば、その損失を補償しなければならないことが明らかである。」
と判示しています。したがって、緊急措置であっても、損失補償を請求できるので、誤りです。

2.都市計画法上の用途地域の指定について、土地の利用規制を受けることとなった者は、当該都市計画を定める地方公共団体に対して、通常生ずべき損害の補償を求めることができる旨が同法に規定されているため、利用規制を受けたことによって被った損失の補償を求めることができる。
2・・・妥当ではない
●用途地域の指定 → 損失補償の請求はできない都市計画で、用途地域が指定されたことで土地の利用が規制された場合、
一定の建物が建てられなくなったとしてもそれによって損失補償を請求することはできません

理解 そもそも、行政行為によって財産上の損失が生じたからといってその全てを補償していたら、国の財政が圧迫されてしまいます。そのため、判例では、下記のように判示しています。

本問の場合、「用途地域が指定」されたのですが、これは、「不特定多数に対する一般的抽象的な制限」であり、個別具体的な制限ではありません。よって、受忍すべき限度を超えていないし、個別的負担もありません。よって、損失補償の対象ではありません。

3.都市計画事業のために土地が収用される場合、被収用地に都市計画決定による建築制限が課されていても、被収用者に対して土地収用法によって補償すべき相当な価格とは、被収用地が、建築制限を受けていないとすれば、裁決時において有するであろうと認められる価格をいう。
3・・・妥当
●土地収用において補償すべき相当な価格 → 裁決時において有するであろうと認められる価格判例(最判昭48.10.18 )によると
「都市計画事業決定がなされると、都市計画法等に定める建築制限が課せられる。そして、土地収用における損失補償の趣旨からすれば、

被収用者(土地を取られた者)に対し、補償すべき相当な価格とは、
被収用地(取られた土地)が、都市計画事業の決定による建築制限を受けていないとすれば、(権利取得の)裁決時において有するであろうと認められる価格をいうと解すべきである。」
と判示しています。したがって、本問の内容は妥当です。

■裁決時において有するであろうと認められる価格とは?
都市計画の事業決定があってから、実際に土地を買い取る(権利取得の裁決)までには時間がかかります。

その間に、土地の価格が変動することもあるので、損失補償をする場合の基準は、実際に土地を買い取る権利取得の裁決時の価格にしましょう!と判例では言っています。

4.土地収用による損失補償の額を不服として、土地所有者または関係人が訴えを提起する場合には、補償額を決定した裁決を行った収用委員会の所属する都道府県を被告として、裁決の取消しの訴えを提起する必要がある。
4・・・妥当ではない
●土地収用の損失補償額に関する訴訟 → 形式的当事者訴訟 / 起業者が原告または被告になる土地収用の損失補償額の増額を求める訴訟は、形式的当事者訴訟です。

収用委員会の裁決のうち損失の補償に関する訴えは、これを提起した者が起業者であるときは土地所有者又は関係人を、土地所有者又は関係人であるときは起業者を、それぞれ被告としなければなりません(土地収用法第133条第3項)。
したがって本問は、「都道府県を被告として」という記述が妥当ではありません。正しくは「起業者」です。

「起業者」とは、収用事業の中心的な施行者を言い
都道府県や市町村、大手の土木事業者等があります。

5.道路管理者である地方公共団体が行った地下横断歩道の新たな設置によって自己の所有する地下埋設ガソリンタンクが消防法の規定違反となり、事業者が当該ガソリンタンクを移転した場合には、事業者は、移転に必要な費用につき道路法による損失補償を求めることができる。
5・・・妥当ではない

●ガソリンタンクの移転費用 → 損失補償の対象にはならない

事案

株式会社Yは、国道の交差点付近で、ガソリンスタンドを経営しており、地下にガソリンタンクを設置していた。

その後、国Xが当該交差点に地下道を設置したため、当該ガソリンタンクの位置が消防法等に違反する状態となった。

これにより、Yは、消防局長Aから違反の警告を受けたため、ガソリンタンクの移設工事を行った。

この移設工事費用は損失補償の対象となるか?

判例

判例(最判昭58.2.18)によると、「補償の対象は、道路工事の施行による土地の形状の変更を直接の原因として生じた隣接地の用益又は管理上の障害を除去するためにやむを得ない必要があってした工作物の移転等に起因する損失に限られる」としています。

つまり、「①道路工事のために除去が必要→②工作物の移転工事」と言う風に道路工事のために直接的に除去が必要な場合は損失補償の対象ですが、

今回の事案では、「①道路工事→②法令違反となる→③移設工事をした」と言う風に、「道路工事のために必要な除去」ではなく、道路工事をした結果生じたことなので損失補償の対象外です。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問20|国家賠償法

A県内のB市立中学校に在籍する生徒Xは、A県が給与を負担する同校の教師Yによる監督が十分でなかったため、体育の授業中に負傷した。この事例につき、法令および最高裁判所の判例に照らし、妥当な記述はどれか。

  1. Yの給与をA県が負担していても、Xは、A県に国家賠償を求めることはできず、B市に求めるべきこととなる。
  2. Xが外国籍である場合には、その国が当該国の国民に対して国家賠償を認めている場合にのみ、Xは、B市に国家賠償を求めることができる。
  3. B市がXに対して国家賠償をした場合には、B市は、Yに故意が認められなければ、Yに求償することはできない。
  4. B市がYの選任および監督について相当の注意をしていたとしても、Yの不法行為が認められれば、B市はXへの国家賠償責任を免れない。
  5. Xは、Yに過失が認められれば、B市に国家賠償を求めるのと並んで、Yに対して民法上の損害賠償を求めることができる。

>解答と解説はこちら


【答え】:4

【解説】

1.A県内のB市立中学校に在籍する生徒Xは、A県が給与を負担する同校の教師Yによる監督が十分でなかったため、体育の授業中に負傷した。
Yの給与をA県が負担していても、Xは、A県に国家賠償を求めることはできず、B市に求めるべきこととなる。
1・・・妥当ではない
国又は公共団体が損害を賠償する責任がある場合において、「公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者」と「公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者」とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責任を負います(国家賠償法3条)。
したがって、Yの給与をA県が負担している場合、Xは、A県にも、B市にも国家賠償を求めることはできます。
よって、本肢は妥当ではありません。

2.A県内のB市立中学校に在籍する生徒Xは、A県が給与を負担する同校の教師Yによる監督が十分でなかったため、体育の授業中に負傷した。
Xが外国籍である場合には、その国が当該国の国民に対して国家賠償を認めている場合にのみ、Xは、B市に国家賠償を求めることができる。
2・・・妥当ではない
国家賠償法は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、当該国家賠償法を適用します(国家賠償法6条)。
相互保証とは、例えば、Xがアメリカ国籍だった場合、アメリカにおいて、日本国民がアメリカに対して賠償できる旨の規定があるとき、Xも日本に対して国家賠償を求めることができる、というものです。
本肢を見ると、「その国が当該国の国民に対して国家賠償を認めている場合」となっているので妥当ではありません。
正しくは「その国が『日本国民』に対して国家賠償を認めている場合」です。

3.A県内のB市立中学校に在籍する生徒Xは、A県が給与を負担する同校の教師Yによる監督が十分でなかったため、体育の授業中に負傷した。
B市がXに対して国家賠償をした場合には、B市は、Yに故意が認められなければ、Yに求償することはできない。
3・・・妥当ではない
国又は公共団体が国家賠償した場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有します(国家賠償法1条2項)。
したがって、Yに故意が認められなくても、重大な過失があった時は求償できるので、本肢は妥当ではありません。

4.A県内のB市立中学校に在籍する生徒Xは、A県が給与を負担する同校の教師Yによる監督が十分でなかったため、体育の授業中に負傷した。
B市がYの選任および監督について相当の注意をしていたとしても、Yの不法行為が認められれば、B市はXへの国家賠償責任を免れない。
4・・・妥当
民法(715条)では、「使用者が選任及び監督について相当の注意をしていた場合、責任を免れる」というルールがありますが、
国家賠償法では、上記ルールはありません。
したがって、国や公共団体が選任および監督について相当の注意をしていたとしても、国家賠償責任を免れることはできません
5.A県内のB市立中学校に在籍する生徒Xは、A県が給与を負担する同校の教師Yによる監督が十分でなかったため、体育の授業中に負傷した。
Xは、Yに過失が認められれば、B市に国家賠償を求めるのと並んで、Yに対して民法上の損害賠償を求めることができる。
5・・・妥当ではない
判例によると
「公務員に過失が認められる場合、国または公共団体が賠償責任を負うのであって、公務員個人は賠償責任を負わない。」
と判示しています。
したがって、本肢は妥当ではありません。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問19|行政事件訴訟法

処分性に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 保育所の廃止のみを内容とする条例は、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童およびその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。
  2. 建築基準法42条2項に基づく特定行政庁の告示により、同条1項の道路とみなされる道路(2項道路)の指定は、それが一括指定の方法でされた場合であっても、個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができる。
  3. (旧)医療法の規定に基づく病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められており、これに従わない場合でも、病院の開設後に、保険医療機関の指定を受けることができなくなる可能性が生じるにすぎないから、この勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たらない。
  4. 市町村の施行に係る土地区画整理事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。
  5. 都市計画区域内において工業地域を指定する決定が告示されて生じる効果は、当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的な権利制限にすぎず、このような効果を生じるということだけから直ちに当該地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟の提起を認めることはできない。

>解答と解説はこちら


【答え】:3

【解説】

1.保育所の廃止のみを内容とする条例は、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童およびその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視し得るものということができる。
1・・・正しい
●保育所廃止によって、「その児童と保護者」という特定の者に対して、保育を受けることに対する期待という法的地位を奪う → 処分性がある → 抗告訴訟の対象

いくつかの保育所を廃止する条例制定に対する判例(最判平21.11.26)では、
「改正条例は、本件各保育所の廃止のみを内容とするものであって、他に行政庁の処分を待つことなく、その施行により各保育所廃止の効果を発生させ、当該保育所に現に入所中の児童及びその保護者という限られた特定の者らに対して、直接、当該保育所において保育を受けることを期待し得る上記の法的地位(利益)を奪う結果を生じさせるものである。そのため、その制定行為は、行政庁の処分と実質的に同視することができる(=処分性を有する)。」
と判示しています。

よって、本問は正しいです。実際の事案では、条例制定に対する取消訴訟(抗告訴訟の一種)が提起されています。

2.建築基準法42条2項に基づく特定行政庁の告示により、同条1項の道路とみなされる道路(2項道路)の指定は、それが一括指定の方法でされた場合であっても、個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができる。
2・・・正しい
●2項道路の一括指定 → 個別の土地に対する具体的な制限 → 処分性がある → 抗告訴訟の対象

判例(最判平14.1.17)では、「特定行政庁による2項道路の指定は、それが一括指定の方法でされた場合であっても、個別の土地についてその本来的な効果として具体的な私権制限を発生させるものであり、個人の権利義務に対して直接影響を与えるものということができる。」と判示しています。よって、本問は正しいです。また、判例の内容から、2項道路の一括指定も処分性を有するので、抗告訴訟の対象となります。そのため、実際の事案では、2項道路の指定の不存在確認を求める無効等確認の訴え(抗告訴訟の一種)が提起されています。

>>二項道路とは?

3.(旧)医療法の規定に基づく病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められており、これに従わない場合でも、病院の開設後に、保険医療機関の指定を受けることができなくなる可能性が生じるにすぎないから、この勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たらない。
3・・・誤り
●病院開設中止の勧告 → 行政指導なので従わなくてもよい → しかし、従わないと保険医療機関の指定を受けられない → 健康保険が使えないため、患者は10割負担 → そのような病院は誰も利用しない → 事実上、病院解説を断念せざるを得ない → よって、病院開設中止の勧告は行政指導ではあるが、処分性を有する

判例(最判平17.7.15)では、『病院開設中止の勧告は、医療法上は当該勧告を受けた者が任意にこれに従うことを期待してされる行政指導として定められている。しかし、当該勧告を受けた者に対し、これに従わない場合には、相当程度の確実さをもって、病院を開設しても保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらすものということができる。

(※ 保健医療機関の指定を受けられないと、患者さんは健康保険を利用すること10割負担となる。そのような病院は誰も利用しません。つまり、結果として、際上病院の開設自体を断念せざるを得ないことになる

「病院開設中止の勧告の保険医療機関の指定に及ぼす効果」及び「病院経営における保険医療機関の指定の持つ意義(上の※の内容)」を併せ考えると、この勧告は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たる」と解するのが相当である。』と判示しています。よって、本問の「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たらない、は誤りです。つまり、病院開設中止の勧告は行政指導ではあるが、処分・公権力の行使にあたるとし、処分性を有します

4.市町村の施行に係る土地区画整理事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。
4・・・正しい
●土地区画整理事業の事業計画の決定 → 土地の区画整理が行なわれる → 使用する土地が換わる(換地) → 法的地位に変動をもたらす → 上記事業の決定は処分性を有する → 抗告訴訟の対象

判例(最大判平20.9.10)によると、『市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。

したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為に当たる」と解するのが相当である。』と判示しています。よって、本問は正しいです。
>>土地区画整理事業とは?

5.都市計画区域内において工業地域を指定する決定が告示されて生じる効果は、当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的な権利制限にすぎず、このような効果を生じるということだけから直ちに当該地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟の提起を認めることはできない。
5・・・正しい
●用途地域の指定 → 不特定多数に対する一般的抽象的な制限である → 個別具体的な制限ではないため、処分性を有しない

■工業地域とは、用途地域の一種です。用途地域とは、住居、商業、工業など市街地の大枠として、各地域をどのような地域にしていくのかを定めるものです。その中の一つに「工業地域」があります。工業地域に指定されると、病院や大学などの建設ができなくなるという一定の建築制限が発生します。

事案

ある地域について、「工業地域」が指定された。この工業地域の指定が、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるか?(=処分性を有するか?)

判例

判例(最判昭57.4.22)によると、「都市計画区域内において工業地域を指定する決定が告示されて生じる効果は、
あたかも新たに右のような制約を課する法令が制定された場合におけると同様の当該地域内の不特定多数の者に対する一般的抽象的なそれにすぎず
このような効果を生ずるということだけから直ちに右地域内の個人に対する具体的な権利侵害を伴う処分があったものとして、これに対する抗告訴訟を肯定することはできない。」
と判示しています。したがって、本問は正しいです。

ポイント 個別具体的な権利侵害の場合に「処分性を有する」とし、一般的抽象的な(たくさんの人に対する)権利侵害の場合は「処分性はない」としています。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問18|行政事件訴訟法

行政事件訴訟に関する次の記述のうち、最高裁判所の判例に照らし、正しいものはどれか。

  1. 地方税法に基づく固定資産税の賦課処分の取消訴訟を提起することなく、過納金相当額の国家賠償請求訴訟を提起することは、結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られることになるため、認められない。
  2. 供託法に基づく供託金の取戻請求権は、供託に伴い法律上当然に発生するものであり、一般の私法上の債権と同様、譲渡、質権設定、仮差押等の目的とされるものであるから、その請求が供託官により却下された場合には、民事訴訟により争うべきである。
  3. 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づく発電用原子炉の設置許可の無効を主張する者は、その運転差止めを求める民事訴訟を提起できるからといって、当該許可処分の無効確認訴訟を提起できないわけではない。
  4. 国民年金法に基づく裁定の請求に対して年金支給をしない旨の決定が行われた場合、当該年金の裁定の請求者は、公法上の当事者訴訟によって、給付されるべき年金の請求を行うことができるが、年金支給をしない旨の決定の取消訴訟を提起することは認められない。
  5. 登録免許税を過大に納付した者は、そのことによって当然に還付請求権を取得し、その還付がなされないときは、還付金請求訴訟を提起することができるから、還付の請求に対してなされた拒否通知について、取消訴訟を提起することは認められない。

>解答と解説はこちら


【答え】:3

【解説】

1.地方税法に基づく固定資産税の賦課処分の取消訴訟を提起することなく、過納金相当額の国家賠償請求訴訟を提起することは、結果的に当該行政処分を取り消した場合と同様の経済的効果が得られることになるため、認められない。
1・・・誤り
●「取消訴訟における処分の違法」と「国家賠償法上の違法」は別々に扱う

●国家賠償請求をする場合、事前に「取消訴訟」や「無効等確認訴訟」の勝訴判決を得る必要はない

判例では、「行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについて、あらかじめ当該行政処分について取消しまたは無効確認の判決を得る必要はない。」と判示しています。
したがって、「固定資産税の賦課処分の取消訴訟を提起することなく、国家賠償請求訴訟を提起することは認められています」
よって、本問は誤りです。

2.供託法に基づく供託金の取戻請求権は、供託に伴い法律上当然に発生するものであり、一般の私法上の債権と同様、譲渡、質権設定、仮差押等の目的とされるものであるから、その請求が供託官により却下された場合には、民事訴訟により争うべきである。
2・・・誤り
●供託物取戻請求に対する供託官の却下処分=行政処分 → 取消訴訟でも争える(また、民事訴訟でも争える)

判例では、
「供託官が供託物取戻請求を理由がないと認めて却下した行為は行政処分であり、却下した処分に対し、取消訴訟を提起したことは適法というべきである。」
として、民事訴訟ではなく、取消訴訟でも争えるとしています。
また、一方で、民事訴訟によっても争える旨の内容も示されています。

3.核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づく発電用原子炉の設置許可の無効を主張する者は、その運転差止めを求める民事訴訟を提起できるからといって、当該許可処分の無効確認訴訟を提起できないわけではない。
3・・・正しい
●「原子炉の運転差止めの民事訴訟」ができる場合でも、「原子炉設置処分の無効確認訴訟」を別途提起することはできる

判例では、「周辺住民が原子炉設置者に対して、その建設・運転の差止めを求める民事訴訟を併合提起している間に、原子炉の設置許可処分の無効確認訴訟を提起することは適法である」としています。
したがって、「運転差止めを求める民事訴訟を提起できるからといって、当該許可処分の無効確認訴訟を提起できないわけではない」ので本問は正しいです。

※ できないわけではない=できない、の反対なので、「できる」という意味

4.国民年金法に基づく裁定の請求に対して年金支給をしない旨の決定が行われた場合、当該年金の裁定の請求者は、公法上の当事者訴訟によって、給付されるべき年金の請求を行うことができるが、年金支給をしない旨の決定の取消訴訟を提起することは認められない。
4・・・誤り
●国民年金の裁定請求に対して、年金支給をしない旨の決定 → 取消訴訟ができる

国民年金の裁定請求(年金を受け取らせてください!と請求)をし、「年金を支給しない」という決定がされた場合は、その決定に対して取消訴訟を提起できます。したがって、本問は誤りです。

5.登録免許税を過大に納付した者は、そのことによって当然に還付請求権を取得し、その還付がなされないときは、還付金請求訴訟を提起することができるから、還付の請求に対してなされた拒否通知について、取消訴訟を提起することは認められない。

5・・・誤り
●「登録免許税を過大に納付した者」は、登記機関に対して、「税務署長に還付通知すべき」旨の通知をするよう請求でき、この請求に対する拒否処分に対して、取消訴訟を提起できる

 「登録免許税を過大に納付した者」は、そのことによって当然に還付請求権を取得し、その還付がなされないときは、還付金請求訴訟を提起することができます。そして、その還付がなされない場合、判例では、「登記等を受けた者(登録免許税の過大に納付した者)が、登記機関から税務署長に還付通知をすべき旨の請求に対し、登記機関のする拒否通知は、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。」と判示しています。したがって、当該拒否通知に対して、取消訴訟を提起することは可能なので、本問は誤りです。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問17|行政事件訴訟法

行政事件訴訟における法律上の利益に関する次のア~オの記述のうち、誤っているものの組合せはどれか。

ア 処分の取消訴訟において、原告は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として処分の取消しを求めることはできず、こうした理由のみを主張する請求は棄却される。

イ 処分の無効確認の訴えは、当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができる。

ウ 処分の取消訴訟は、処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においても、なお、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者であれば提起することができる。

エ 不作為の違法確認訴訟は、処分について申請をした者以外の者であっても、当該不作為の違法の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者であれば提起することができる。

オ 民衆訴訟とは、国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する訴訟であり、原告は、自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起することができる。

  1. ア・イ
  2. ア・オ
  3. イ・ウ
  4. ウ・エ
  5. エ・オ

>解答と解説はこちら


【答え】:5

【解説】

ア 処分の取消訴訟において、原告は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として処分の取消しを求めることはできず、こうした理由のみを主張する請求は棄却される。
ア・・・正しい
取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができず、請求は棄却されます(行政事件訴訟法10条1項)。したがって、本肢は正しいです。

取消訴訟をする人が、処分・裁決を求めるにつき法律上の利益を有する場合、原告適格は有します(行政事件訴訟法9条)。
例えば、定期空港運送事業免許(処分)により、飛行機の離発着により騒音被害を受ける周辺住民は、原告適格を有します。

しかし、処分取消し(免許取消し)を求める理由が、

免許の要件として挙げられていた
①事業計画が輸送の安全を確保するために適切なものであること
②事業の遂行上適切な計画を有するもの
という免許の要件を満たしていないから、「免許(処分)」は違法だ!と
周辺住民は主張しました。

これは
「自己の法律上の利益に関係のない違法」を理由としています(行政事件訴訟法10条)。
よって、門前払いの「却下」ではなく、審理はするけど「理由がダメなので、棄却」となります。

イ 処分の無効確認の訴えは、当該処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分の無効の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができる。
イ・・・正しい
無効等確認の訴えは、「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り、提起することができます(行政事件訴訟法36条)。
したがって、正しいです。具体例等は下記ページをご覧ください!

ウ 処分の取消訴訟は、処分の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においても、なお、処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者であれば提起することができる。
ウ・・・正しい
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(取消訴訟)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなった後においてもなお処分又は裁決の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができます(行政事件訴訟法9条)。
したがって、本肢は正しいです。

9条1項のカッコ書きの具体例

9条1項のカッコ書き 処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む

例えば、弁護士が、6か月間の業務停止上処分を受けたとします。 一方で、弁護士連合会会長選挙規程では3年間、会長に立候補することができないというルールがあります。

この場合、6か月間経過により、業務停止処分の効果がなくなった後であっても 会長に立候補できないため、 これを回復するために、この者は、処分の取消しの訴えを提起できる

ということです。

ただ、この具体例までは覚えなくても大丈夫です!

エ 不作為の違法確認訴訟は、処分について申請をした者以外の者であっても、当該不作為の違法の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者であれば提起することができる。
エ・・・誤り
不作為の違法確認の訴えは、処分又は裁決についての申請をした者に限り、提起することができます(行政事件訴訟法37条)。
申請者以外の者は、不作為の違法確認訴訟を提起できません。
よって、本肢は誤りです。

オ 民衆訴訟とは、国または公共団体の機関相互間における権限の存否またはその行使に関する訴訟であり、原告は、自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起することができる。
オ・・・誤り
民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいいます(行政事件訴訟法5条)。
一方、
機関訴訟」とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいいます(行政事件訴訟法6条)。
本肢は、民衆訴訟の内容ではなく、機関訴訟の内容なので誤りです。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略

平成28年・2016|問16|行政不服審査法

行政不服審査法の定める審査請求に対する裁決に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。

  1. 処分についての審査請求が不適法である場合や、審査請求に理由がない場合には、審査庁は、裁決で当該審査請求を却下するが、このような裁決には理由を記載しなければならない。
  2. 処分についての審査請求に対する認容裁決で、当該処分を変更することができるのは、審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁の場合に限られるが、審査庁が処分庁の場合は、審査請求人の不利益に当該処分を変更することもできる。
  3. 不作為についての審査請求が当該不作為に係る処分についての申請から相当の期間が経過しないでされたものである場合その他不適法である場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を却下する。
  4. 法令に基づく申請を却下し、または棄却する処分の全部または一部を取り消す場合において、審査庁が処分庁の上級行政庁である場合、当該審査庁は、当該申請に対して一定の処分をすべきものと認めるときは、自らその処分を行うことができる。
  5. 不作為についての審査請求が理由がある場合において、審査庁が不作為庁の上級行政庁である場合、審査庁は、裁決で当該不作為が違法または不当である旨を宣言するが、当該不作為庁に対し、一定の処分をすべき旨を命ずることはできない。

>解答と解説はこちら


【答え】:3

【解説】

1.処分についての審査請求が不適法である場合や、審査請求に理由がない場合には、審査庁は、裁決で当該審査請求を却下するが、このような裁決には理由を記載しなければならない。
1・・・誤り
処分についての審査請求が法定の期間経過後にされたものである場合その他不適法である場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を却下します。
一方、
処分についての審査請求が理由がない場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を棄却します(行政不服審査法45条)。

2.処分についての審査請求に対する認容裁決で、当該処分を変更することができるのは、審査庁が処分庁の上級行政庁または処分庁の場合に限られるが、審査庁が処分庁の場合は、審査請求人の不利益に当該処分を変更することもできる。
2・・・誤り
処分についての審査請求が理由がある場合には、審査庁は、裁決で、当該処分の全部若しくは一部を取り消し、又はこれを変更します。
ただし、審査庁が処分庁の上級行政庁又は処分庁のいずれでもない場合には、当該処分を変更することはできません(行政不服審査法46条1項)。
したがって、処分の変更をすることができるのは、審査庁が「処分庁の上級行政庁」又は「処分庁」の場合に限られます。しかし、変更できるにしても、審査請求人の不利益に処分を変更することはできません(行政不服審査法48条)。

3.不作為についての審査請求が当該不作為に係る処分についての申請から相当の期間が経過しないでされたものである場合その他不適法である場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を却下する。
3・・・正しい
不作為についての審査請求が当該不作為に係る処分についての申請から相当の期間が経過しないでされたものである場合その他不適法である場合には、審査庁は、裁決で、当該審査請求を却下します(行政不服審査法49条1項)。
よって、本肢は正しいです。

4.法令に基づく申請を却下し、または棄却する処分の全部または一部を取り消す場合において、審査庁が処分庁の上級行政庁である場合、当該審査庁は、当該申請に対して一定の処分をすべきものと認めるときは、自らその処分を行うことができる。
4・・・誤り
法令に基づく申請を却下し、又は棄却する処分の全部又は一部を取り消す場合において、次の各号に掲げる審査庁は、当該申請に対して一定の処分をすべきものと認めるときは、下記に定める措置をとる(行政不服審査法第46条2項)。

  1. 処分庁の上級行政庁である審査庁の場合、当該処分庁に対し、当該処分をすべき旨を命ずる
  2. 処分庁である審査庁の場合、当該処分をする。

本肢の場合、審査庁が上級行政庁なので、自ら処分を行うことはできません。
正しくは「処分庁に、処分を行うよう命じる」です。

5.不作為についての審査請求が理由がある場合において、審査庁が不作為庁の上級行政庁である場合、審査庁は、裁決で当該不作為が違法または不当である旨を宣言するが、当該不作為庁に対し、一定の処分をすべき旨を命ずることはできない。
5・・・誤り
不作為についての審査請求が理由がある場合には、審査庁は、裁決で、当該不作為が違法又は不当である旨を宣言します。
この場合において、下記審査庁は、当該申請に対して一定の処分をすべきものと認めるときは、当該各号に定める措置をとります(行政不服審査法49条3項)。

  1. 不作為庁の上級行政庁である審査庁の場合、当該不作為庁に対し、当該処分をすべき旨を命ずる
  2. 不作為庁である審査庁の場合:当該処分をする。

本肢は、審査庁が不作為庁の上級行政庁である場合なので、(1)にあたります。
したがって、不作為庁に対し、当該処分をすべき旨を命じます。

よって、本肢は誤りです。


平成28年度(2016年度)|行政書士試験の問題と解説

問1 基礎法学 問31 民法:物権
問2 基礎法学 問32 民法:債権
問3 国民審査 問33 民法:債権
問4 プライバシー権 問34 民法:債権
問5 国会 問35 民法:親族
問6 信教の自由 問36 商法
問7 法の下の平等 問37 会社法
問8 取消しと撤回 問38 会社法
問9 行政裁量 問39 会社法
問10 行政事件訴訟法 問40 会社法
問11 行政手続法 問41 憲法
問12 行政手続法 問42 行政法
問13 行政手続法 問43 行政法
問14 行政不服審査法 問44 行政法・40字
問15 行政不服審査法 問45 民法改正により削除
問16 行政不服審査法 問46 民法・40字
問17 行政事件訴訟法 問47 一般知識・政治
問18 行政事件訴訟法 問48 一般知識・政治
問19 行政事件訴訟法 問49 一般知識・政治
問20 国家賠償法 問50 一般知識・経済
問21 国家賠償法 問51 一般知識・経済
問22 地方自治法 問52 一般知識・社会
問23 地方自治法 問53 一般知識・社会
問24 地方自治法 問54 一般知識・情報通信
問25 行政法 問55 一般知識・情報通信
問26 行政事件訴訟法 問56 一般知識・情報通信
問27 民法:総則 問57 一般知識・公文書管理法
問28 民法:総則 問58 著作権の関係上省略
問29 民法:物権 問59 著作権の関係上省略
問30 民法:物権 問60 著作権の関係上省略