【答え】:4
【解説】
1.地方公共団体が、将来にわたって継続すべき一定内容の施策を決定した場合、その後社会情勢が変動したとしても、当該施策を変更することは住民や関係者の信頼保護の観点から許されないから、当該施策の変更は、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、それにより損害を被る者との関係においては、違法となる。
1・・・妥当ではない
判例(最判昭56.1.27:宜野座工場誘致事件)によると
『地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則は地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則であり、また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたつて継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴つて変更されることがあることはもとより当然であつて、地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない。』
としています。
つまり、問題文の「施策を変更することは住民や関係者の信頼保護の観点から許されない」が妥当ではありません。
【詳細解説】
<事案(最判昭56.1.27:宜野座工場誘致事件)>
沖縄県の宜野座(ぎのざ)村Yは工場建設を計画し、村長Aは、株式会社Xに対して、「工場建設の誘致に全面的に協力すること」を断言した。
これを受けて、X社は、お金をかけて、工場の敷地内の整備工事を完了させた。
ところが、工場誘致の賛否を争点とする村長選挙があり、「誘致反対派のB」が村長に選出された結果、Bは、工場建設の計画を変更した。
これにより、Xは、工場誘致を断念することとなったため、当該Yの行いは、Xとの間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、損害賠償請求をした。
<判例>
『地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則は地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則であり、また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたつて継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴つて変更されることがあることはもとより当然であつて、地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない。(=地方公共団体が計画を変更することは許される)
しかし、・・・右施策が変更されることにより、前記の勧告等に動機づけられて前記のような活動に入つた者がその信頼に反して所期の活動を妨げられ、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめるものといわなければならない。(=損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく計画変更することは、原則として、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、違法となる)』
としています。
よって、前半部分「施策を変更することは住民や関係者の信頼保護の観点から許されない」が妥当ではありません。
後半部分は妥当です。
なので、問題文を正しくすると、下記のようになります。
地方公共団体が、将来にわたって継続すべき一定内容の施策を決定した場合、その後社会情勢が変動した場合、当該施策を変更することは住民や関係者の信頼保護の観点から許されるが、当該施策の変更は、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして、それにより損害を被る者との関係においては、違法となる。
2.租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、租税法規に適合する課税処分について、法の一般原則である信義則の法理の適用がなされることはなく、租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合であっても、課税処分が信義則の法理に反するものとして違法となることはない。
2・・・妥当ではない
判例(最判昭62.10.30)によると
『租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。』
よって、問題文の後半部分「租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合であっても、課税処分が信義則の法理に反するものとして違法となることはない。」が妥当ではありません。
正しくは「租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合、課税処分が信義則の法理に反するものとして違法となることがある。」です。
3.法の一般原則として権利濫用の禁止が行政上の法律関係において例外的に適用されることがあるとしても、その適用は慎重であるべきであるから、町からの申請に基づき知事がなした児童遊園設置認可処分が行政権の著しい濫用によるものであっても、それが、地域環境を守るという公益上の要請から生じたものである場合には、当該処分が違法とされることはない。
3・・・妥当ではない
「トルコぶろ」とは、いわゆる「ソープランド」です。
判例(最判昭和53.6.16)によると
『本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿つてなされるべきものであつて、前記のような、被告会社のトルコぶろ営業の規制を主たる動機、目的とするa町のb児童遊園設置の認可申請を容れた本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、被告会社のトルコぶろ営業に対しこれを規制しうる効力を有しないといわざるをえない』として児童遊園設置認可処分は違法とされました。
つまり、本問の「町からの申請に基づき知事がなした児童遊園設置認可処分が行政権の著しい濫用によるものであっても、それが、地域環境を守るという公益上の要請から生じたものである場合には、当該処分が違法とされることはない。」は妥当ではありません。
正しくは下記の通りです。
「町からの申請に基づき知事がなした児童遊園設置認可処分が行政権の著しい濫用によるものである場合、当該処分が違法とされる。」
4.地方自治法により、金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利につきその時効消滅については援用を要しないとされているのは、当該権利の性質上、法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが地方公共団体の事務処理上の便宜および住民の平等的取扱の理念に資するものであり、当該権利について時効援用の制度を適用する必要がないと判断されたことによるものと解されるから、普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は、極めて限定されるものというべきである。
4・・・妥当
簡単にいうと、地方公共団体に対して金銭債権を持っている者(例えば、給付金をもらえる権利がある者)は、時効期間が過ぎてしまうと、地方公共団体が時効援用しなくても、自動的に請求権が時効消滅してしまう、ということです。
しかし、例外的に、地方公共団体が信義則に反する場合は、地方公共団体は、消滅時効を主張して、給付金をもらえる人の債権の消滅を主張することは許されません。この点の具体例は考えなくても大丈夫です。
■「健康管理手当の支給認定を受けた被爆者」が、外国へ出国したことに伴いその支給を打ち切られたため未支給の健康管理手当の支払を求めた事案において、
判例では、「支給義務者が地方自治法236条所定の消滅時効(5年で時効消滅すること)を主張することが信義則に反し許されない」と判示しました。
判例(最判平19.2.6)によると
『権利の時効消滅につき当該普通地方公共団体による援用を要しないこととしたのは,上記権利については,その性質上,法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが,当該普通地方公共団体の事務処理上の便宜及び住民の平等的取扱いの理念(同法10条2項参照)に資することから,時効援用の制度(民法145条)を適用する必要がないと判断されたことによるものと解される。
このような趣旨にかんがみると,普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は,極めて限定されるものというべきである。』
よって、本肢は妥当です。
【事案】
Xは広島の原爆に被ばくしたことにより、健康管理手当の支給認定を受けた。その後Xは、ブラジルに移住した。その際、広島県知事は、厚生省(現厚労省)の通達に従って、健康管理手当の支給を打ち切った。そのため、Xは、広島県を相手に未支給の健康管理手当の支払を求めた。
※通達の内容は、「外国に移住した者は、健康管理手当の受給権は失権する」という内容
【判例】
被上告人ら(Xら)は、その申請により本件健康管理手当の受給権を具体的な権利として取得したところ、上告人(広島県)は、被上告人らがブラジルに出国したとの一事により、同受給権につき通達に基づく失権の取扱いをした。しかも、このような通達や取扱いには何ら法令上の根拠はなかったというのである。
通達は、行政上の取扱いの統一性を確保するために、上級行政機関が下級行政機関に対して発する法解釈の基準であって、国民に対し直接の法的効力を有するものではないとはいえ、通達に定められた事項は法令上相応の根拠を有するものであるとの推測を国民に与えるものであるから、前記のような通達の明確な定めに基づき健康管理手当の受給権について失権の取扱いをされた者に、なおその行使(手当を請求すること)を期待することは極めて困難であったといわざるを得ない。(失権扱いされているから、手当を請求しようと普通は考えない)
他方、国が具体的な権利として発生したこのような重要な権利について、失権の取扱いをする通達を発出する以上、相当程度慎重な検討ないし配慮がされてしかるべきものである。
しかも、通達の上記失権取扱いに関する定めは、我が国を出国した被爆者に対し、その出国時点から適用されるものであり、失権取扱い後の権利行使(手当を請求すること)が通常困難となる者を対象とするものであったということができる。
中略
そうすると、上告人(広島県)の消滅時効の主張は、「402号通達が発出されているにもかかわらず、当該被爆者については同通達に基づく失権の取扱いに対し訴訟を提起するなどして自己の権利を行使することが合理的に期待できる事情があったなどの特段の事情のない限り(このカッコ部分が例外部分)」、信義則に反し許されないものと解するのが相当である。(原則、広島県は、健康管理手当の受給権が時効消滅したことを主張できる)
本件は信義則に反することから、上告人は、消滅時効を主張して未支給の本件健康管理手当の支給義務を免れることはできないものと解される。(今回の事案では、例外に該当し、広島県は、未支給の本件健康管理手当の支給義務を免れることはできない)
5.国家公務員の雇傭関係は、私人間の関係とは異なる特別の法律関係において結ばれるものであり、国には、公務の管理にあたって公務員の生命および健康等を危険から保護するよう配慮する義務が認められるとしても、それは一般的かつ抽象的なものにとどまるものであって、国家公務員の公務上の死亡について、国は、法律に規定された補償等の支給を行うことで足り、それ以上に、上記の配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負うことはない。
5・・・妥当ではない
判例(最判昭50.2.25)によると
『国と国家公務員(以下「公務員」という。)との間における主要な義務として、法は、「公務員が職務に専念すべき義務」並びに「法令及び上司の命令に従うべき義務」を負い、
国がこれに対応して公務員に対し「給与支払義務」を負うことを定めているが、国の義務は右の給付義務にとどまらず、国は、公務員に対し、・・・「安全配慮義務」を負つているものと解すべきである。』
つまり、本問は後半部分が妥当ではなく、正しくは「国家公務員の公務上の死亡について、国は、法律に規定された補償等の支給を行うことで足りず、それ以上に、上記の配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負うこともある。」です。
令和3年(2021年)過去問